フラットのアジトである孤児院へ戻ると、居間に少年を除いた全員が一堂に会していた。
 それぞれ表情こそ違うものの雰囲気は穏やかそのもの。
 そんな中、

「・・・・・・」

 1人、ガゼルだけは不機嫌ですと言わんばかりの顔つきで机の上に足を乗せつつイスに座っていた。
 彼の不機嫌っぷりに苦笑いをするのは少年を連れて行くと言い出したナツミとアヤ。
 そんな2人を見てため息を吐くのがその時2人してアレク川へ釣りに出かけていたハヤトとトウヤ。
 はイスには座らず、窓際の壁にもたれかかっていた。

「そんなわけで、オプテュスと関わっちゃったから。事情を説明しようと思ってココに連れてきたってワケよ」
「いつまでもあそこにいたら、何が起こるかわかりませんから」

 放っておくわけにもいかなかったんです、と。
 アヤはそう言ってごめんなさいと頭を下げた。

「まぁ、ワシが同じ立場ならそうするわな」

 エドスがそういうからには彼らだけがお人よし、というわけではないだろう。
 そんな彼の言葉を聞いてさらに機嫌を悪くするガゼルを諌めて、

「まぁ、事情を話したら帰ってもらう手筈になってるはずだから」
「はず、なんだな・・・」
「あの少年の性格からして」

 泊めてくれって頼んでくるのは間違いないだろうから。

 は苦笑いを浮かべながら、ガゼルとともにこれから自分たちを巻き込むだろう厄介事を予見し、ため息を吐いたのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第14話  超勘違い





「えへへ、悪いな。メシまでごちそうになっちゃってさ」
「代金、払えよな」

 腹いっぱいに食事をして満足そうな少年に向けて、ガゼルはそんな言葉を放った。
 彼の心配はコレである。
 ただでさえ多いフラットのメンバーが、また増えてしまうのではないかと。
 それだけをただ心配していたのだった。

「俺っちの名前はジンガ。武者修行の旅をして、東から来たんだ」

 ガゼルの言葉を見事にスルーし、ジンガと名乗った少年はよろしくな、と無邪気な笑みを浮かべる。
 フラットの面々も簡単に自己紹介を済ませると、ジンガはおずおずと、

「迷惑ついでっていったらなんだけどよ。ここに泊めてくれねえかな?」

 の予想通り、両手を合わせて懇願するかのように頼み込み始めた。
 本当のところ、旅の路銀はほぼ底をついているらしく宿を探しても泊まれるか微妙だったらしい。

「おいチビ。お前にゃ遠慮ってものがないのかよ」

 やはりここでかみつくのはガゼルだった。
 自分たちの生活だけでも手一杯なのに、食いぶちが増えようとしているのだ。
 見過ごすわけにはいかない。

「金がないのは、こっちだって同じなんだ。見りゃわかるだろ!?」

 だからこそ、すこし怒り口調で彼は声をあげていたのだった。
 隣でハヤトがツッコミを入れるが、彼はそれをさらりと無視すると、

「そういうことだから、さっさと出てけっ!!」

 そう言い放ったのだが。

「・・・ねえちゃん、ちょっとそこに座ってくれよ」
「え?」

 ちょいちょいとリプレを呼び、空いたイスへと座らせる。
 彼女の背後に立つと、片腕を肩にかざした。

「目を閉じて、息を楽にして・・・ハアァァァァ・・・!」
「「「「!?」」」」

 肩にかざした手が青白く光ったのだ。
 その光はリプレの肩を包み、消えていく。

「・・・あれ?あれっ、あれれっ!?」

 肩こりが、なおっちゃった・・・

 不思議そうに腕をぐるぐると回しながら、リプレは呟いた。

「ほう、【ストラ】か」
「すとら?」
「人間が本来持っている生命力のこと。特殊な呼吸法で体内の気を高めて、キズの治療や物を破壊する技術だよ」
「うわ、よく知ってましたね」
「あのな・・・前も言ったけど、勉強したの」

 の説明に口を挟んだのはアヤだった。

「へへへっ、うまいメシを食わせてくれたお礼さ」

 金の代わりにはならないかもしれないけど、勘弁してくれ、と。
 彼はそう言うと、出口へ向けて歩き出していた。



「ちょっと待った!」



 叫んだのはハヤトだった。
 彼はジンガの足を止めたところでおずおずとガゼルを見やる。

「いいじゃないか。一晩くらい泊めてあげたって」
「あたしたちだって人の子。知り合った人が宿無しなのを見捨てて置くほど非情じゃないわよ」
「泊めてあげようよ」

 トウヤ、ナツミに続き、リプレがガゼルを見る。
 その3対の視線にはさすがの彼も打ち勝つのは不可能だったらしく。

「ぐぎぎぎ・・・」

 見事に陥落したのだった。










「あれ、ジンガは?」

 尋ねたのはハヤトだった。
 3人の無言の重圧に耐え切れず彼をフラットに泊めるという結論に達したところで解散。
 あっという間に彼は建物内から姿を消してしまっていたのだ。

「あいつだったら、外に出てったぜ」

 も一緒だったぜ。

 彼の行方を知っていたのはガゼルだった。
 ジンガを追い出そうとしていたから、もしや本当に追い出したのではないかと疑いの視線を向けようとするが、も一緒だったという話を聞いて思いとどまっていた。

はなんだかイヤそうな顔してたけどな。宿代を作ってくるとか言ってたぜ」
「・・・・・・」

 仕事でも探しにいったんじゃねえのか?と検討をつけてガゼルは言うが、向かい合うハヤトとトウヤの隣でナツミとアヤは顔色を変えていた。

「おい、どうしたんだよ。ナツミ、アヤ」
「マズイわ・・・」
「「「は?」」」

 ケンカの一部始終を知らない3人をよそに、ナツミとアヤの2人はただ冷や汗を流す。

もいるから、大事になることはないと思いますが・・・」
「どういうことだい、樋口さん?」
「おーい。誰か、ジンガがどこに行ったか知ってる?」

 建物内全員に聞こえるように、ナツミは叫ぶ。

 早く2人のところへ行かないと。

 それだけが、彼女たちの思考を占めていた。

「おい、説明しろって」
「はい、実は・・・オプテュスと喧嘩してたのもあそこなんです!」
「・・・本当かい?」

 トウヤの問いにうなずく。
 一度負かせば、必ずその仕返しに本人を襲う。
 仲間思いかと思われがちだが、何人もが束になって仕返しに来るからタチが悪い。
 それがオプテュスというごろつきの集まりなのだ。

「あのハチマキ小僧なら、お兄ちゃんを引っ張って繁華街へ行ったわよ」

 叫んだナツミの背後で、フィズは自慢げにそう言った。
 『引っ張られて』連れて行かれたなのだが。
 それを聞いてアヤはさらに表情歪めると、

「ケンカしたの、繁華街なんですけど・・・」
「余計マズイんじゃないのか、それっ!?」
「あのガキ・・・面倒ばっかりかけさせやがってっ!!」

 ドンっ、とフラットの扉を勢いつけて開くと、アヤを残して走り出した。

「私は、レイドさんたちに知らせてから行きますからーっ!!」

 遠ざかっていく4つの背中に向けて、アヤはそう叫んだのだった。











「なかなか楽しい商売を考えたじゃねェか」
「考えたのは俺じゃないよ。彼に強引に連れてこられただけだ」
「うるせェよ。テメェが考えてこのガキにやらせてるんだろうが」

 すばらしい勘違いっぷりである。
 その上、の言うことなどまるできいちゃいない。
 深くため息を吐いて、頭を掻くと白い人 ―― もといオプテュス頭目バノッサを見つめる。

「少しは人の話も聞こうよ。小さい子供じゃあるまいし」
「そこに兄ちゃん、挑戦するかい?」

 ジンガに至っては今の状況をまったくといっていいほど理解していない。
 かかってきなよ、といわんばかりに唇の片端を吊り上げて、人差し指をちょいちょいと曲げ伸ばししていた。

 これによってから出るのはさらなる深いため息だった。


「で、どうしたいのさ?」
「決まってンだろうが。・・・ぶちのめすッ!!」

 バノッサを筆頭に十数人のオプテュスが武器を手に取る。
 彼自身も愛用している双剣を鞘から抜き放ち、眼前でクロスした。

「この間は油断しちまったが、今回はそうはいかねェぜ・・・?」

 イライラの元であるを切り刻める。
 ハヤトたち4人も一緒にぶちのめしてやりたかったが、今回はのみで大目に見てやる。

 それが彼の言い分だった。
 もはや戦う以外に選択の余地はない。

 しょうがないなと小さく呟いて、

「ほら、ジンガ。そんなとこで油売ってないで、手伝えよ」
「なんで俺っちがこんなトコで油なんか売らなきゃいけないんだよっ!?」

 油を売る、という比喩表現すらジンガは素直に解釈して声を荒げる。

 彼は純粋すぎる。
 戦闘でも、バカ正直に突っ込んでいくんだろうな。

 そんなの考えは正しかった。

「行くぜぇっ!!」

 敵の渦中へと飛び込んで、飛び交う刃を避わして気を纏わせた拳を叩き込む。
 背後から近づかれても無事なところが不思議だ。

「こっちも行くぜ、はぐれ野郎っ!!」

 バノッサはが初めて召喚されたときと同じように剣をクロスしたままを標的に駆けてくる。
 刀を抜き、峰を下にして右肩にかけると、

「・・・じゃあ、ちょっと稽古してあげようか」

 君じゃ俺には勝てないよ、と。
 そう聞こえたのか、バノッサは額に青筋を浮かばせて剣を振るおうと力を込めた。

「オラァぁぁっ!!」

 双剣が十字に軌跡を描くように振り下ろされた。
 しかし、斬ったという感覚が感じられず、周囲を警戒する。

「ほら、こっちだよ」
「てめぇっ!!」

 右手の剣を横に薙ぐ。
 それを刀で受け止めたことで、バノッサは笑みを深めた。

 刀に込めた力を抜けば、受け止めていた剣がを斬る。
 力を込めたままでいれば、左手の剣でを斬る。

 そんな図式が頭の中で構築されたのだろう。

「終わりだぜっ!」

 力を緩めないに向けて、左手の剣を振り下ろす。

「・・・残念」

 力を込めたまま刃の位置を下へと移動させ、地面に手がついてしまうほどに深く身体をを沈めた。
 右手の剣は遮るものがなくなり横に振り抜かれる。
 さらに地面へ這うように身体を沈めたため、左手の剣もあえなく空を斬っていた。
 振り向かれ無防備になっていたところへ刀の刃を頭上 ―― バノッサへ向けて突き出すと喉元で寸止める。

「確かに、君は普通の剣士から見れば強いかも知れない。けど、俺から見ればまだまだ経験不足だね」



 これで1回死亡だ。



 は、余裕とも言える笑みをバノッサへと向けたのだった。








第14話。
白い人、久々の登場です。
コレの後、スウォンイベントを入れる予定です。
セリフ起こし済んでますので。



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