「それで、話ってなんなんだい?」

 フラットのとある一室。
 8人の男女がこの部屋に集まっていた。

 ハヤト、トウヤ、ナツミ、アヤ。
 そしてキール、ソル、カシス、クラレット。

 召喚された4人と、召喚師の4人が一堂に会していたのだった。

 8人入るには狭すぎやしないかとお考えのことだろうが、この部屋、何気に広いのだ。
 元孤児院だっただけのことはあるというものだ。

「彼のことだ」
「え?」

 居合斬りという、シルターンのサムライ特有の剣技をいともたやすく使って見せた、1人の青年のことだった。

が、どうかしたのですか?」

 眉をひそめ、言葉を放ったソルへと、アヤは視線を向け尋ねる。
 元の世界で幼馴染の間柄であるためか、ハヤトたちを含む大事な友達であるからか。

「彼は、貴方がたとご友人だということでしたが・・・」

 あまり信用されないほうがいいのかもしれません。

 真っ向から否定されることを見越した上で、クラレットはそんな言葉を口にしていた。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第12話  予期せぬ再会





「どういうことよ、それは!?」
「クラレットの言葉どおりだよ、ナツミ」

 自ら『はぐれ召喚獣』だと言い、しかもそれを嫌悪していないことと、花見の際に見せた剣技。
 それらが、彼ら召喚師組を確信させた要因だった。

「彼は、強すぎる力を持ってる。今まで派閥に拘束されていないのが、不思議なくらいにな」

 召喚師はリィンバウムという世界の中でも強い存在だと言うことは常識。
 だが、彼は「例外だってあるんだ」とそう言って、大量に召喚されたサプレスの召喚獣たちを一人で無力化していたのだ。

 これで強くなければ、何を強いと言えばいいんだろうな?

 ソルはそう言うと、口をつぐむ。


「だから君たちには悪いけど、警戒しておいて損はないと思う」


 カシスが最後にそんな言葉を残し、浮かない表情の4人の部屋を後にしたのだった。

















「しかし、君がイムランの姉君のことを知っているとは、驚きだよ」
「おいレイド。あいつの姉って、誰なんだよ?」

 召喚師を毛嫌いしているガゼルだからこそ、そんな問いが出るのだ。
 なぜならイムランの姉は、ここサイジェントを牛耳る金の派閥の、議長なのだから。

「・・・ということは、その議長とやらが、金の派閥の頭目だと」
「ああ、簡単に言えばそうなる」

 はエドスの言葉に、同調するかのようにうなずく。
 もっとも、彼は時間を越えて喚ばれたりしちゃったもんだから、今はどうなのかは知らないがイムランという召喚師の物言いから、まだ現役だろうと解釈していたのだった。

「だが、今彼女はこの街にはいないよ」
「そうなんですか?」
「金の派閥の本拠は、港町ファナンにあるんだ」

 本拠地がファナンだからこそ、議長である彼女は街を動けない。
 代わりにイムラン、キムラン、カムランといういわゆる『マーン三兄弟』がサイジェントを執政しているのだとレイドは説明を施した。

「それで、彼女と君はどういう?」
「・・・戦友だよ」

 ただ一言。
 昔のな、と小さく付け加えた上で軽く笑い、出かけてくる、と声をかけたのだった。










「参ったな、まさかこんな街にファミィの親戚がいるとは・・・」

 報告されたらどうしよう?

 10年以上前の自分と変わらない今の自分を見せたら、何を言われるかわかったものではない。
 それどころか、親戚を傷つけたとおしおきされるかもしれない。




(ほほほvダメですよ。あんなのでもわたくしの身内なのですからvv)
(ま、ままま待って・・・アレは、不可抗力・・・ってか、知らなかっ・・・)
(問答、無用vv・・・かみなりドカーン!!)
(ギャーッ!?!?)




 ・・・激しくマズイ。
 は頭を抱え、その場で彼女のおしおきをどう切り抜けようかと思案していた、そのときだった。



「ぐふっ、げふっ・・・」
「(どうしようどうしようどうし)・・・ん?」

 耳に入ってきたのは誰かが咳き込む音だった。
 抱えていた頭を上げて、周囲を見回す。
 一点で、見回す首は動きを止めた。

「だっ、大丈夫ですか!?」

 1人の老人が、口元を抑えて咳き込んでいたのだ。
 は慌てて駆け寄ると、その老人を見て目を丸める。

「く、薬を・・・カバンの中・・・っ」
「・・・はっ、よしわかった!」

 慌ててカバンの中をあさり、薬らしき小瓶を取り出し、渡す。
 老人は震える手で中から一粒の錠剤を出し、口へと放り込んだのだった。

 そして、それから数分。
 薬が効いて、発作が止まった。

「ふう・・・っ、すまんかったのう・・・お主っ!?」

 顔を上げると、老人はを見て目を丸めた。
 表情には驚きすらも見え隠れしている。


「なぜ、ここにいる?」


 そう尋ねるのは当たり前のことだろう。
 最後に島で会ったときと変わらぬ風貌のまま、自分の前に立っているのだ。
 驚かないほうがおかしいだろう。

「やっぱり、あの時の・・・ウィゼルなんだな?」
「質問に答えんか」

 そう言った彼の眼光は鋭く、歳をとっても島でが彼と戦ったあのときとなんら変わっていない。
 そんな彼に安心しつつ、は説明を始めたのだった。






「なるほど。時間跳躍か・・・」
「あの事件から1年で、俺は島を出たんだけどな。そしたら召喚術の光に包まれて、サイジェントの郊外に落とされたんだ」

 時間を飛び越えるなど普通ならとてもできることではないが、ウィゼルは否定をしようとはしなかった。
 それどころか、難しい顔をしたままうつむいている。

「では、わしが以前出会ったという男は、今目の前にいるお主と同じなのだな?」
「ああ。でも、なんでこんなところにいるんだ。無色の客分やってたんじゃなかったのか?」
「あのあと、ワシはオルドレイクに言われるがままに剣を創った」
「!?」

 それは、今も封印の楔に使われているだろう2振りの剣。
 深遠なる緑と果てしなき蒼。
 このうち、蒼い剣を修復したのはほかならぬ彼だとは戦闘中に彼自身から聞いていた。

 理由は、ただ一つ。

『俺は・・・見たいだけだ。狂気に立ち向かおうとあがき続けるあやつの意志が、それに勝てるか否かを、な・・・』

 ただ、その剣で迫る狂気に立ち向かい、打ち勝つことができるか。
 それだけだった。

「あのとき剣を修復する過程で、その構造を理解することができたのじゃ」

 だからこそ、新たに創りだすことができたと。
 彼は剣を創れた理由として、の問いに対してそう言った。

「ということは、オルドレイクもアレに匹敵するだけの力を持ってると?」
「そういうことになる。じゃが、あやつはまだ剣を完璧に使いこなすまでに至っていない」

 あの剣は強力だ。
 味方にいたからこそ心強かったが、敵に回ればこれほど怖い相手はいないのだ。
 だから、まだ使いこなせないと聞いたところで、は安堵していた。

「わしは狂気を糧に剣を創った代償として、肺を患ってしまってな。もう不要だと切り捨てられてしまったわけじゃ」

 無色の派閥とはそういうところだ。
 病気を患ったウィゼルが切り捨てられるのも無理はないだろう。

「相変わらず、ひどいところみたいだな」
「この街は工場の煙が酷い。時々このように発作を起こすようになってしまってな」

 以前のように剣を振るうこともかなわんよ。

 彼は悲しげに、そう口にしていた。




「ところで」
「?」
「その刀、見せてもらってもよいか?」

 の腰にある刀に目を向けて、ウィゼルは言う。
 同様に目を向けると、なんの気なく刀を鞘ごと渡すと、抜いて刀身を眺める。
 柄の先から刃の先までじっくり見直すと、

「だいぶ、ガタがきておるな」
「え・・・」

 さすが魔剣鍛冶師。
 武器を見る眼差しは年老いても変わりはないようで。
 「ここを見るんじゃ」と鍔の付け根を指差すと、接合部がガタついていた。

「うわ。どうしよう・・・」
「わしにまかせておけ」

 放たれた言葉には目を見開く。

「わしは年老おうとも魔剣鍛冶師。武器を鍛えなおすくらい、わけはない」

 まかせてはみんか?

 そう尋ねたウィゼルの目は、一直線にへと向かう。
 なぜ、とは聞かない。
 その目がとても真摯なもののように見えたから。

「わしにも人を見る目くらいはあるつもりじゃ。この刀を使って、激戦を生き抜いてきたんじゃろう?」
「いいのか?」

 そう尋ねれば、返ってくるのは肯定の意思表示。

 彼女も信じたんだ。俺も信じてみよう。

「じゃあ、よろしく頼む」
「うむ、任された」

 ウィゼルは刀を鞘に納め、カバンを持ち上げる。

「代わりの武器を渡そう。一緒に来てはくれんかね?」

 はただ成すがまま、ウィゼルの後をついていったのだった。







第12話でした。
ウィゼルとの再会話を繰り広げてみました。
ウィゼルなんかいい人です。



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