「憎いっ、憎いっ!!貴様だけは許さんぞ!!」

 頭のてっぺんから湯気でも出てくるのではないかと言わんばかりに、イムランは顔を真っ赤にしていた。
 事の発端はガゼル、ハヤト、トウヤ、ナツミ、アヤのつまみ食い。
 つまみ食いだけならば彼が顔を真っ赤にするほど怒ってはいなかった。

、火に油を注ぐようなマネはやめてくれないか」
「す、すいません・・・」

 彼が怒り狂っている理由は、の言動にあったのだ。
 彼は金の派閥の議長、すなわちイムランの姉と面識が会ったせいか、彼女を基準としてしまったことで「老けている」と口にしてしまっていたのだ。

「私はまだ・・・20代だァーーーっ!!!」
「ウソォっ!?」
「・・・うがぁーーーーッ!!!」
、よさんか!」
「はっ、つい・・・」

 エドスの注意も間に合わず、再びは声をあげていた。
 とてもじゃないが、20代には見えないから。
 イムランの怒りは頂点を通り越し、奇声すら上げている。




「でも、確かに20代には見えないわよね・・・」
「ダメですよ、ナツミちゃん。あれだけ怒るということは、老けて見えるということをとても気にしているということにもつながりますから」
「俺、普通に30後半から40代だと思ってたぜ・・・」

 ナツミ、アヤ、ガゼルの順で彼に聞こえないほど小さな声で呟くように話す。
 内容は違うようでほとんど同じ。

「3人とも、今その話はマズいって。ただでさえアレだけ怒り狂ってるんだから」
「ハヤト、フォローになってないよ」

 ハヤトの言動にトウヤはため息をついてツッコミを入れたのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第11話  フラット最強の人





「とにかく、と金の派閥の議長との関係は今は置いておくとして、彼の怒りを鎮めないといけなくなってしまったな」
「うぐ・・・」

 呆れたようなレイドの声を聞き、は口篭もる。

「っていうか、あたしたち巻き添え!?」
「カシス」

 何気なく放たれたその言葉も、発端である5人とにはとにかくイタい言葉だった。
 迷惑をかけているのだから、自業自得と言えばそこまでなのだが。

 しかし、憤慨した状態なだけで兵士たちはすでに全員が戦えない状態で、彼は何をするのだろうか?


「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 策がないわけではないらしい。
 イムランは顔色を変えることなく唇を吊り上げ、狂ったように笑みを浮かべていた。





「みんなは、ここにいて」
「なに?」

 目を細め、呟いたのはだった。

「彼をあそこまで怒らせたのは俺だ。・・・責任はとるさ」

 はそれだけ言うと、今まで抜くことのなかった刀を鞘から抜き放った。
 ていうか、サイジェントで刀を抜いたのはこれが初めてではないだろうか?

 鋼の刀身でも目立ったのは、何かがはまっていたかのようにしか見えない5つの丸い穴。

 ヒュンヒュンと風を切って、右手に持った刀を振る。
 地面に向けていた視線をイムランへと向けたのだった。

「無茶です。相手は召喚師なんですよ!?」

 叫んだのはクラレットだった。
 常識として、召喚師はリィンバウム全体で強い存在と言われているのだから、無理もない。

 同じ意見だ、と言わんばかりにキール、ソル、カシスもクラレットと同様にを見る。
 は4人を視界に納め、笑みを見せた。

「確かに、普通なら召喚師には敵わないかもしれない。でもな・・・」

 視線をイムランに向けて、止める。
 笑みを消して、眉間にしわを寄せると、

「例外だって・・・あるんだッ!」

 イムランに向けて、走り出した。
















「ハハハハハハハハハ!!!」

 杖を掲げ、イムランは叫ぶ。

「来れ来れ来れ来れ来れェッ!!」

 手のサモナイト石は明滅し、とにかく無数のタケシーが召喚された。
 なぜ大量に召喚されたのかといえば、イムランが未誓約のサモナイト石で手当たり次第にタケシーとばかり契約していたからである。

 喚ばれたタケシーの軍団は、自らの責務を果たさんとばかりに大きな口の端を吊り上げる。
 彼らの身体は光を帯び始め、

「消し去ってしまえっ!!」

 イムランの号令と同時に雷撃を発生させた。

 バリバリバリバリ。

 間髪いれずに雷が発生するもんだから、とてもじゃないが近づくことはできそうにない。
 花見の会場だったこの場所は、すでに見る影もない。
 本来ならこのまま魔力切れを待つのがいいのだろうが。

「きゃーっ!!」
「うわぁっ!?」

 かなり遠くにいたはずのリプレや子供たちにまで被害が及び始めたのだから、そういうわけにもいかない。

「斬り断つ・・・っ!!」

 抜き放った刀を再び鞘へ納めて、右足、右肩を前に突き出す。

 一度刀を抜いたコトが意味なかったんじゃないか、というツッコミはなしの方向で。

 目の前の雷の大群をにらみつけて、

 一気に鞘から刀を抜き放ち、振り抜いた。

『ゲレレーンッ!?』

 居合斬り。

 が島での戦いで会得した剣術である。
 見えない刃は雷を押しのけて、タケシーたちへ直撃したのだ。
 浮いていた身体がその場に落ちていく。
 は雷のない隙に地を駆け、

「くっ・・・!」

 イムランへ刀を突きつけた。

「もういいだろ。その辺にしといてさ・・・」

 は会場の奥へ顔を向けた。



「大事な大事なお客様に弁解しないとな」



 イムランの顔色が、赤から一瞬にして青へ。
 再びとその背後を見やると、怒りに歯を立てた。

「かさねがさね私に恥をかかせおってからに・・・」
「なに言ってるか、自爆だろ?」
「うううううるさい!!」

 確かにの声に乗せられて・・・というかただの呟きに逆上してこの状態だ。
 自爆だ、と言われても文句も言えず、慌てたようにイムランは言葉を返した。

「イムラン殿。早く行かねば、お客様がお待ちですよ?」
「・・・レイド!?そうか、これは貴様のしくんだことか!!」

 確信をしたかのようにイムランは言い放ったが、レイドの顔色は変化どころか表情すら変えずに、

「否定したところで貴方は信じないでしょう?だったら無駄ですな」

 本当はなにもしていないはずなのに、彼の性格を熟知しているのか。
 さも当然のように言い放った。

「ぐぎぎぎぎ・・・き、貴様っ。覚えていろよ!私に大恥をかかせたことを、必ず後悔させてやる!」

 を指差して、イムランはそう言い放つと、客の待つ方へと走っていったのだった。

























「さて、お前たち。なにかいいわけはあるか?」

 フラットに戻って、居間にて落ち着いた途端にレイドはそう口にしていた。
 もちろん、発端である5人は弁解などするわけもなく首を横に振った。
 それを見て、ふう、とレイドは息を吐くと、

「それならいいんだ。次からは、あんな無茶はしないようにな。あと、は火に油を注ぐような言動は控えるように」
「ご、ごめんなさい・・・」

 レイドは付け加えるように言うと、は素直に頭を垂らしたのだった。

「っていうか!俺たちのこと、もう許してくれるんですか?」
「ああ、本人が反省しているのなら余計な説教は必要ないからな」

 反省しているのに説教したって、時間の無駄だろう?

 レイドはそう言うと、イスの背もたれに身を任せた。

「私からは、以上だ」

 その言葉で5人は肩の力を抜き、同じように背もたれに背中を預ける。

「が」

 強調するかのようにレイドが言葉を続けると、5人の身体がびくりと震えた。

「お前たちの行動に対して、私よりも腹を立てている人物がいる」
『え・・・』

 彼女は私みたいに甘くはないぞ?
 と言う彼の声は、心なしか笑っているようにも見える。
 レイドは当人のいる方へと視線を向けると、



「あーなーたーたーち?」
「「「「ひぃっ!?!?」」」」
「り、リプレ・・・」

 黒いオーラを背後に纏わせ、極上の笑顔を浮かべているリプレの姿。

 もしもこの場に子供たちがいたら、笑っているのになぜか怖い母親代わりの少女に恐怖を感じていたことだろう。
 それほどに、彼女はどす黒いソレを背中に背負っていたのだった。

「わざわざ貴族の宴会につまみ食いにお出かけになるなんて・・・そんなに私のお弁当、お気に召さなかったのかしら・・・?あ、でもはおいしいおいしいって嬉しそうに食べてくれたし・・・」
「ちっ、ちちち違うんだ!」
「そっ、そうそう!あたしたち、ガゼルに無理矢理・・・」
「あ、てめっ!?きたねえぞっ!!」

 恐怖感を身体で感じ取ったハヤトとナツミは、慌てて弁解の言葉を走らせるが、

「言い訳しないっ!!!!」
「「はっ、はいィぃっ!」」

 一言で黙らされてしまっていた。

「つまみ食いでお腹いっぱいになってるだろうから・・・今夜のご飯、いらないわよね?」

 尋ねられた後の無言の威圧。
 襲い掛かる重圧は恐ろしいもので。
 全員が全員、コクコクコクと有無を言わさず首を縦に振っていたのだった。




 フラットの中では、彼女が最強なのではないかと。
 彼女に逆らうと何が起きるかわからないな、と。





 夕飯抜きを宣告された5人を見て、心に刻んだのだった。








第11話でした。
イムラン切れすぎです。そして、やっとゲームの第3話が終了です。
まだまだ先は長いです。
セリフ起こさねば・・・



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