「・・・んっ」


 朝。は目の前の机に並ぶそれらを眺め、


「・・・んんっ!?」


 口へと運ぶ。口の中で数回それを噛み、


「ん〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


 飲み込んだ。そのとき・・・赤がかった黒い両の目からは涙が流れ落ちていた。そう、滝のように。

「ちょっ、どっ、どうしたの!?」
「おっ、おぉっ・・・」

 慌てたように尋ねるリプレに目もくれずに、は一心不乱に目の前のそれに手を伸ばす。

「んまっ、んまひおこへっ!(うまっ、うまいよこれっ!)」

 涙を流し、頬を赤らめながらそれを口に詰め込むを見て、フラットのメンバーは苦笑いを浮かべたのだった。




「こんなに素晴らしい(人間らしい)食事は久しぶりだーっ!!」




 実は、は召喚される寸前までの数日間、食べ物という食べ物をなにも口にしていなかったのだった。





    
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

    第06話  お出かけ 1





「びっくりしたよ、いきなり泣き出すから・・・」
「仕方ないさ。ここ数日の間、食べ物らしい食べ物、口にしてなかったんだから」

 の豪快な食べっぷり終始見物していたトウヤは呆れ顔でつぶやいた。
 フラットのメンバーは食事を終え、思い思いの場所へと姿を消していた。
 レイドは剣術道場の講師として南スラムにあるという道場へ。エドスは建物用の石の切り出すという仕事のためこの場にはいない。リプレは食事の後片付け。
 は彼女を手伝いを名乗り出たのだが、やんわりと断られていた。
 一緒にフラット入りをした4人の召喚師たちは、朝食の後すぐにあてがわれた部屋へと引きこもってしまっていた。

 よって、朝食の後片付けをしているリプレと机にどっかと足を乗せたガゼル。その隣に座り手持ち無沙汰に頭を掻くハヤトに机に頬杖をついたトウヤ。ナツミはその隣でなぜか挙動不審だし、アヤに至ってはそんな彼女を見て苦笑いを浮かべている。
 そしてイスに腰掛けて足をぶらつかせているフィズと、の計8人が今この場に居る全員だった。
 食後の談笑タイムといったところだろう。

「しっかし、ホントによく食ったよな。オマエ」
「召喚されるまで食べ物はおろか、自然すらほとんどない場所にいたんだ。いつも持ってた食材も底をついてたし・・・ゴメンな、リプレ」
「一体、はリィンバウムのどこから喚されてきたんですかねぇ・・・?」
「いいよ、別に。私の作ったご飯をあんなに嬉しそうに食べてくれたんだもの。こっちも作り甲斐があったってものよ」

 イスの後ろ足だけで座り、机に乗せた足でバランスを取りながらふてくされたようにガゼルはつぶやくと、は苦笑いを浮かべた。
 そんな中でさも当然のようにつぶやくアヤを尻目に、リプレは首だけを回して嬉しそうに笑った。




「ちょっと、ガゼル。机に足を乗せないでよっ、行儀悪いでしょっ!?」
「ったく・・・るせぇなぁ・・・っ!?」

 だんっ、と机を叩きながらフィズに怒鳴られ、ため息を吐いたところで、ガゼルは冷や汗を流しつつ足を床へと下ろした。

「どうしたんだ?」
「あぁ、あれね。いつものことだから、気にしないほうがいいよ。ガゼルってば、リプレに尻に敷かれちゃってるのよ」

 ぼそぼそとに話して聞かせたナツミは、その話が聞こえていたのだろうガゼルに軽く睨まれているのに気付いて空笑い。








「さて、と。それじゃ・・・」
「あ、。待ってください」

 おしゃべりも一段落。何を思ってか、は「よっこらしょ」と掛け声を出しながら立ち上がった。

「ん?」

 出かけてくるから、と言おうとして、止まる。
 声をかけたのはアヤだった。

「お出かけですよね?」
「え、あ、あぁ・・・そうだけど」
「それじゃあ、私たちでサイジェントを案内しましょうっ!!」

 私たち実はヒマなんですっ!!

 アヤが言い切ると残りの3人も立ち上がり、顔をへ向ける。

「そうだ、ガゼルも一緒に行ってくればいいよ。どうせヒマなんでしょ?」
「勝手に決めンじゃねえよ、ったく・・・別にいいけどな」
「なんだ、やっぱりヒマなんじゃない」
「うるせえぞ、ナツミ」

 ししし、と含み笑いを浮かべるナツミを、ガゼルは頬を赤らめつつ睨む。
 そんなやりとりを見つめながら、

「そうか?それじゃあ・・・よろしく頼むよ」

 は笑みを浮かべた。











 孤児院を出た6人は、足取りも軽く商店街にやってきた。
 もちろん護身のために、自らの愛刀を左腰に携えている。ガゼル曰く、

「オプテュスの連中とかとたまに出くわすからな。持って行って損はねえぞ」

とのこと。慎重であることこの上ない。
 もっとも、そのぐらいがちょうどいいのかもしれないが。


 商店街は人ごみと喧騒に溢れていた。様々な格好をした旅人たちや、派手なローブを着て召喚獣を従えている召喚師の姿も見て取れる。

「ここが、商店街だな。たいていのものは、ここにくれば手に入ると思うぜ」
「私たちの武器や日用品も、ここで買ったんですよ」

 は嬉しそうに話すアヤを見る。今まで気にも止めていなかったが、ガゼルを除く4人の服装はリィンバウムのもので。日本にいたときは学生服でしか会ったことはなかったのだ。改めて4人を見れば、全員が学生服でないことは一目瞭然であった。
 もちろん全員、腰や背中に武器を背負っている。

、どうしたんだ?」
「え、いやいや、なんでもないぞ」

 顔を覗き込むハヤトに向けて両手を突き出し、横に振った。

「何か欲しいもんがあるなら、今行って来いよ」
「いや、今は大丈夫だと思う。護身用の武器もあるし・・・せめて、服を何着か買いたいかな」
「それなら、服屋だね。こっち」

 トウヤを先頭に、6人は歩きはじめた。



「ここだったね」
「あぁ・・・早く行って買ってこいよ。待っててやっから」

 は服屋へ足を踏み入れた。キョロキョロと店内を徘徊し、今着ているものと同じような上着を手に取ると、手早く会計を済ませていた。

「もう、いいのか?」
「あぁ、ハヤトにナツミか。あんまり派手なのは好きじゃないし、今みたいなのが丁度いいんだよ」
「そうなの、もったいないなぁ・・・そうだ、今のうちに買ったやつに着替えちゃえば?結構汚れてるみたいだし、それ」

 ナツミはの上着を指差した。さされた指に従って自分の服装を見れば、確かに汚れている。
 旅を続けていた上に、何もない荒野に召喚させられて、しかも戦ったのだ。汚れてしまうのも無理はない。
 は右手を口元へ移動させしばらく考え込むと、

「どうせなら、風呂に入ってからのほうがいいだろな。汚いのの上から汚いものをかぶせたら、綺麗なのも汚くなっちゃうし」

 出ようか、とは外へと歩を進める。
 取り残された2人は、慌てて彼の後を追ったのだった。







 店を出る際にナツミはなぜか悔しげに顔をしかめていたのだが、先を行くハヤトはもちろん気付くはずもなかったのだった。









第06話でした。
サイジェントの案内話です。
おそらく、オリジナル的な要素が強いかと思います。





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