「ククク・・・」
「何を笑ってやがる!?」
冷たい風の吹く荒野に1人の少年の声が響き渡る。
騎士風の男性から高校生くらいの少女まで、服装の統一のなされていない7人と、色白の男性の率いるごろつき集団が十数人が大きなクレーターの脇で対峙していた。
その中でも目立つのは、ごろつき集団の中にいるまだ幼い一人の少女だった。彼女は、ごろつきには似合わないやわらかな雰囲気を持つ少年に腕をしっかと掴まれたまま、泣きじゃくっていた。
「そっちのみなさんには、はじめましてかな?ボクはカノンっていいます」
一応バノッサさんの義兄弟なんですよ。
カノンと名乗った少年は、言葉を付け加えて微笑んだ。
「フィズ!?どうしてここに・・・」
上半身全裸の男性が突き出されたフィズという名の少女を見て声を漏らす。
「どうしたもこうしたもねェよ。お前らの後ろをつけていたのさ、コイツは」
「「「「!!」」」」
2人ずついる少年少女が、顔色を変えた。
「子供を人質にするとは・・・恥を知れ!」
怒りの表情をあらわにした騎士風の男性が声を荒げるが、バノッサと呼ばれた色白の男性はは唇の端を吊り上げて、笑みを浮かべた。
「なんだ、その態度は?カノンはああ見えて力はめっぽう強いんだ。ちょいと加減を間違えりゃあ・・・クククッ」
そうして欲しくねェのなら、さっさと武器を捨てやがれ!
含み笑いをした表情を一変し、バノッサは押し黙る7人に向けて声を荒げた。
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜
第01話 喚び出された先で
「おらぁっ!」
「ぐあっ!!」
「剣がなきゃ、騎士様もただのオッサンだぜ!」
「・・・くっ!」
髪の短い少年と騎士風の男性が痛みに顔をゆがめる。
バノッサの部下である数人に袋叩きにされているのだ。
「レイド・・・ううっ、ガゼルぅ・・・っ!」
あたしが言うことを聞かなかったせいだ・・・。
溢れる涙を止められず、フィズはカノンに腕を掴まれたまま涙を流していた。
その後ろで、カノンは顔をゆがめている。
気分悪いです・・・
バノッサに向けてそんな言葉を発していた。
「ボク、もうイヤですよ。先に帰りますからね」
「・・・まあいい、好きにしやがれ」
自らの義兄からの許しが出たため、フィズを他の人間に渡したカノンは1人去っていった。
「さて、と。手前ェらには少しばかり聞きたいことがある。手前ェら、ひょっとして召喚師なんじゃねェのか?」
「そんなの関係ない・・・」
「ハヤト」
「っ!?」
声を荒げる少年を前髪を2つに分けた少年がいさめた。不服そうな顔をして、ハヤトと呼ばれた少年が目の前の少年を見つめた。
「トウヤ・・・ナツミ、アヤ・・・」
「ここで事を荒立てたら、フィズがどうなるかわからない。だから・・・」
「あたしだって、アイツを一発ブン殴ってやりたいわよ」
「ですが、ここは我慢してください。ハヤトさん・・・」
トウヤという名の少年は、冷静に事を進めようとハヤトに言葉を放つ。
ナツミという少女も怒りの表情をあらわにしているが、隣のアヤがそれをいさめていたのだった。
3人のもっともな意見にハヤトは何か言いたげに唇をかみ締め、その隣でナツミが口を開いた。
「あたしたちは召喚師じゃない」
「別の世界から来た、ただの人間なんです。私たちは・・・」
「人間だとォ?」
残りの2人の少女がバノッサに向けて答えを言えば、彼は4人をあざ笑うかのように見て、
「人間ってのはな、この世界に生まれたヤツのことを言うんだよ!!手前ェらはな、『はぐれ』なのさ!!」
そう言い放った。
『はぐれ』とは、召喚主が死んでしまったり、召喚師が自ら捨ててしまい元の世界に帰れなくなった召喚獣を指す。
『はぐれ』のほとんどは野生化し、人間を襲うというのは一般に広く知られており、毛嫌いされている。
バノッサはどう見ても人間にしか見えない4人を『はぐれ』と称し、声を上げて笑ったのだ。
「仕えるはずの召喚師に捨てられた、役立たずの『はぐれ』さァ!」
4人の顔色が変わった。
「はぐれ・・・?」
「俺たちは、捨てられたのか・・・?」
「そんな・・・」
「私たちは・・・私たちは・・・」
『捨てられた』という言葉は、彼らの胸を大きくえぐり出す。
元の世界では、ゴミの処理のために使う言葉でしかないそれを、自分たちが言われたのだ。テレビなどで見ていても「ああ、かわいそうだなぁ」で終わるそれと、自分たちが同じ状況になったのだ。
4人とも身体を震わせ、うつむく。
「・・・っ!」
小さな声で、アヤはこの世界にいるはずの幼馴染である彼に呼びかけた。
もちろん、そんな声は彼に届くはずもなく、周りに聞こえたはずもない。
今いる世界が『リィンバウム』だと聞いたときには、驚きよりも嬉しさの方が彼女の思考を占めていた。
何もないのなら、一生会えないかもしれない家族や友達を手放してまでこんな世界になど来はしない。でも、この世界には、今まで手がかりすら得られなかった彼がいるかもしれない。
もしかしたら、彼に会えるかもしれないという期待が、彼女の中に芽生えていた。
しかし、世界は広い。そう簡単には合うことなんてできないし、もしかしたら彼はもうこの世にいないのかもしれない。
”信じろ・・・”
「え?」
聞こえたのは、召喚される寸前に聞こえた声だった。
”自分の力を・・・”
「どこ・・・どこにいるの!?」
”お前の中の力を、解き放つんだ・・・!!”
「「うおおぉぉぉ〜っ!!!」」
「「ああああぁぁぁぁっ!!!」」
「ぎゃあァッ!?」
4人の身体がひかり、轟音を上げながら目の前のバノッサを吹き飛ばした。
ほぼ同時に、それぞれの震えたままの両手を見つめた。
「・・・エドス!」
「レイド・・・おっしゃあっ!お前ら・・・フィズを返せええぇぇ〜っ!!」
好機とばかりに、レイドと呼ばれた騎士風の男性が上半身裸の男性に声をかける。
エドスと呼ばれた男性は果敢にごろつき達の中へ飛び込み、見事にフィズを助け出した。
ぽん、とハヤトの肩を叩く手が1つ。
「ガゼル・・・」
「ずらかるぜ!!」
髪の短い少年、ガゼルが大声で号令をかけ、その場を後にしようとした。
そのときだった。
「うわぁっ!?」
どさぁっ!
「「「「???」」」」
砂煙が舞う中で、4人は振り返った。
その中で1人、アヤは声の正体をいち早く確認し、口元を抑えていた。
「あ・・・ああっ・・・」
「ハヤト、トウヤ、ナツミ、アヤ!!」
「なんだ、何があった!?」
ガゼル、エドスの順で4人を呼ぶ。
「って〜・・・」
砂煙が晴れ、視界がクリアになる。
今までなにもなかったはずだった2つの集団の中心で、彼は打ちつけた腰をさすりながら立ち上がろうとしていた。
「「「「っ!?」」」」