「こんにちはーっ!」








 玄関先で、声をかける。
 幼馴染が行方不明になってしまってもうすぐ一年という月日が経過しようとしている。
 ここは、彼の家。声をかけてからすぐに、男性の低い声が聞こえた。

「おぅ、アヤちゃん。いつも悪いね」
「いえ、私が好きで始めただけですから」

 家の奥から現れたのは、まだ若い男性。
 玄関に立つ私を見て彼は微笑んだ。深い緑色の着物を着込んでいる。
 男性の名前はリクトさん。行方不明の幼馴染 ―――  の父親だ。

 ――― にもかかわらず、なぜだかあまり心配した様子はない。
 彼はすでにの無事を確認しているからだ、と私に話してくれた。
 なんでも、『りぃんばうむ』という世界に彼はいるらしい。

 そして今私こと樋口 綾は、彼がいない間の授業のノートを取っている。
 書きこむ部分がなくなるたびに、こうしてノートを届けにきているのだ。
 おかげで、彼の部屋にはノートが山のように積んである。

「上がっていくかい?」
「ごめんなさい、他にもやることがあるので今日はやめておきます」

 彼はそうか、と言って笑った。

「しっかし、のヤツも幸せ者だよなァ。こんなカワイイ子がこうして毎日自分を心配してくれるんだからなぁ・・・」
「そんな、ヘンなこと言わないでください。恥ずかしいですから・・・」

 彼は声を出して笑っている。私は恥ずかしさのあまり、地面に視線を向けた。
 きっと、今自分は顔を赤くしていることだろう。

 ひとしきり話をして彼の家を出ると、夕日が私と私のまわりを赤く照らした。








「さて、と。帰りましょうか」

 遠回りして帰ろうと意味もなく決め込み、歩き始める。すぐ近くのはずの家に背を向け歩き出す。
 やがて、小さい頃によく遊んだ公園にたどり着いた。

 私は意味もなくふらふらと公園内に入り、吸い寄せられるように緑に塗られたベンチに座る。
 夕日の先に見える街並みを眺めて、息を吐いた。

「一体、いつになったら帰ってくるんでしょうね・・・」














「あれ、樋口さん?」

 低い声が私にかけられた。
 声の方へ首を向けると、そこにはクラスメイトでと仲が良かった深崎 籐矢くんと、後ろに男女が1人ずつ。

「こんにちは、深崎くん。それから・・・」
「ああ、新堂 勇人くんと、橋本 夏美さんだよ」

 覚えてるよね?
 彼は彼らの紹介とともにそう付け加えた。

 その後ろで、2人が笑顔でひらひらと手を振っていた。





 私と深崎くん、それには同じ学校に通っている。
 他校の生徒である2人をなぜ知っているのかといえば・・・





 両者と知り合いだったによって引き合わされたのだ。
 彼が詳しく話してくれることはなかったが・・・まぁ、いろいろあって知り合ったのだそうだ。


「3人そろって、どうしたんですか?」
「いや、これといって深い意味はないんだけど」

 私の疑問には、新堂くんが苦笑いを浮かべて答えてくれた。
 なんでも、たまたまこの公園の入り口で会ったらしい。

「なんかさ、よくわかんないけど・・・ここへ来たかったのよね」

 橋本さんの声に、他の2人も首を縦に振った。

「樋口さんは?」
「私、ですか?・・・私も、同じようなものですね」

 3人の視線に苦笑しながら、私は答える。そのまま視線を街並みに戻した。

 夕日が沈みかけている。
 眼下に見える街並みには、明かりがちらほら灯っているのが見えた。

「・・・キレイだねぇ〜」
「そうですね」

 私たち4人で街並みを眺め、橋本さんの言葉に私はうなずいた。

「あの、さ・・・」
「なんですか?」
のことだけど」

 新堂くんは、そこで言葉を濁す。

 は苗字で呼ばれるのが苦手らしく、初対面の人間には必ず名前で呼んでくれ、と頼んでいる。
 それによって彼を知る人間はみな彼を名前で呼んでいた。







 彼がいなくなった事に関しては、当時はマスコミなどでも『現代の神隠し』という名目でしばらくニュースなどで大きく報道されていた。
 しかし、一年たった今ではそれもなりを潜め、街は普段の喧騒だけとなっている。
 ちなみに、これと同じような現象がアメリカのロサンゼルスでも起きており、一時期日本でも話題となっていたらしい。
 行方不明になっている少年はと同様に未だ発見されていないのだそうだ。






 彼らには『りぃんばうむ』のことは話していない。父親であるリクトさんがしてくれた話は、まるでテレビゲームの舞台のようで。自分自身、どうにも信用できずにいる。
 そんな私がほかの人間に話したところで、笑い飛ばされて終わりだと思っていた。


「まだ・・・みつからないのかい?」
「ええ、手がかりすらなに一つ・・・」
「そっか・・・もう一年経つのにな」


 深崎くんの問いに私が答え、新堂くんが反応した。
 その答えは、彼らの望んだものではなかったのだろう。
 3人は顔を地面に落としてしまっていた。

 警察にも捜索の申請をしており、今は情報待ちとなっている。
 リクトさんが言うには、

「アイツのことだ。うまくやるだろうよ」

 とのこと。まさに、超放任主義者だと私は思う。


「だ、大丈夫ですよ。は、きっと大丈夫です。どこかで元気にしてますよ!」

 私は、無理やり笑みを作って3人を励ます。3人は顔を上げて、笑みを作った。







 そのまま、しばらく4人は言葉を交わすことなく夕方の街並みを眺めていた。























 あたりが暗くなり始めたころ。
 身体に違和感を覚え、いつのまにか自分で自分を抱くように両肘を握りしめている自分がいた。

「ねえ、なんかヘンな感じ・・・しない?」
「橋本さんもかい?」
「俺も・・・」
「みなさんも、感じているんですね」

 座っていたベンチから立ち上がり、私たちは互いに背中合わせになってまわりを見渡す。
 道には車の一台も通らず、エンジン音すらない。

 遊んでいる子どもの姿も。
 街から聞こえるはずの喧騒も。

 まったく耳に入ってこなかった。
 むしろ、公園内には私たち4人のみとなっている。

「一体、なにが・・・っ!?」





   ”助けてくれ・・・”






 突然、頭に声が響き始めた。
 男性のものだろう、比較的低めの声。
 心なしかなんだか苦しそうだという印象を受けた。

「なにっ、なにっ!?」

 橋本さんは冷や汗を流してきょろきょろと首を動かしている。




   ”このままでは・・・滅んでしまう・・・っ”




「つっ!?」

 襲い掛かる頭痛。今までに体験したことのない痛みに、思わずその場に崩れ落ちた。
 他の3人も同じようで、頭を抱えている。




   ”何もかも、消えてしまう・・・っ!”




「なんだよ、これ・・・っ!?」
「変、な・・・声が・・・っ!」
「頭、痛い!!!」

 痛みを振り払うように首を振っても意味をなさず、頭痛はひどくなる一方。
 声も、止まる気配はない。




   ”運命を止めて・・・”




「誰・・・だぁっ!!」
「姿を見せろ!」

 新堂くんと深崎くんが声を荒げる。
 しかし、その場に出てくる者は誰もいない。私たちはただただ、痛みに流されていた。




   ”この世界を・・・助けてくれ!”




 「うわぁっ!?」
 「ぐ・・・」
 「ひゃあっ!」
 「きゃ・・・」

  視界が徐々に白くなっていく。
  抗うこともできず、私はそのまま意識を手放していた―――








     
サモンナイト 〜築かれし未来へ〜

プロローグ ―― 後編 ――










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