「・・・もしや、俺って学習能力ってものがないんじゃなかろうか」
はあ・・・とため息。
いなくなってしまった護衛獣の少女を探すためと、本来の目的であった自分が元の世界に戻る方法を探すために改めて旅を再開したはいいのだが、どこを歩いていたのかも理解できないまま、相も変わらず迷っていた。
首をひねってまわりを見渡せば、一面・・・緑、みどり、ミドリ。
さらにため息をつくのと同時に草花が風にゆられてカサリと音を立てる。
天気は快晴。雲ひとつ見当たらない。
「学習能力以前に・・・俺どこへ行こうと思っていたんだっけ・・・」
草の上にどっかりを座り込み、くしゃくしゃになってしまっている地図を広げた。
とはいえ、自分が今どこにいるのかすらわかっていない状態であるため、その地図
はまったく役立たず。
「ユエルも探さないといけないのになぁ・・・」
地図をしまいつつ本日3度目のため息。
息が吐かれる音がかき消されるように、風が吹いた。
「よっこらせっと」
足に力を入れて立ち上がる。オヤジくさい掛け声とともに荷物を持ち上げた。
もちろん愛用しているサモナイト石の埋め込まれていた刀 ――― ミカゼは腰に携えられている。
「こういうときは・・・これだ!」
意気込んで腰の刀を取り、掲げた。
そっと、平坦な地面の上に先端から置く。
刀は、一点で刀身を支えきれずにパタンと倒れた。
「名づけて、『尋ね人刀』〜!」
・
・・・
・・・・・・
冷たい風が彼を吹き付ける。
「・・・むなしい」
一言つぶやきながら倒れた刀を拾い上げる。
柄の部分が指し示した方向へと足を向けた。
そのときだった。
「あれ?」
身体に違和感。思わず、動かしていた足を止める。
その後、キィン、という甲高い音が耳を刺激しはじめた。
「・・・うわぁっ!?」
慌てて耳をふさぐが、音は弱まるどころかどんどんひどくなっていく。
めまいを起こしてその場に思わずひざをついた。
「くそぉっ!?」
気を紛らわせようと、首をぶんぶん・・・意味なかった。
正気にかえろうと頭を何度も殴りつける・・・さらに痛みが増しただけ。
「一体・・・なんだってんだよ・・・」
そうつぶやいた直後だった。
「げぇっ、光ってる!?」
言葉どおり身体が発光体と化しており、淡く白い光があふれている。
今までに、幾度となく見てきたその光は・・・
「召喚術・・・俺、誰かに喚ばれてるのか?」
徐々に視界が白く、とにかく白くなっていく。
目の前に自分の手のひらを移動させると、すでにその手は透けており、遠くの山が見えていた。
どうやら本当にどこかへ召喚されるみたいだな・・・
そして盛大な耳鳴りの中、聞こえるのは誰かの声。
エコーのかかった、低めの声だ。
”助けて・・・”
さらに、次々に声が混じりだす。
”このままでは、滅んでしまう・・・”
”なにもかも、消えてしまう・・・”
高めの声に続いて、低い声。
”この世界が・・・消えてしまう前に・・・”
最後に、最初のとは違う高い声。
似たような声が頭に響き、顔をしかめる。
同じ内容の言葉を放つ声は、聞き分けられるだけで4つ。
ただの錯覚かもしれないが、どの声もなぜか苦しんでいるように聞こえた。
『『『『この世界を・・・助けて!』』』』
やっと出したようなその声に、笑みを浮かべる。
「ああ、助けるよ・・・だから、頼むから頭痛をとめてくれ」
彼の声は届いたのだろうか。それきり、4つの声は聞こえず耳鳴りだけが残る。
目を閉じ、つぶやく。
「ゴメンな、ユエル。ちょっとの間待っててくれ・・・」
その言葉を最後に、彼――― はその場から一瞬にして姿を消すこととなった。
召喚術の対象外となっていた荷物が、ばさっと地面に転がった。
「っ!?」
「どうしたの、クノン?」
ここは、帝国領内の忘れられた島。
その中でも機界ロレイラルの召喚獣が集まる集落ラトリクス。
中央管制室のモニターを眺めていた看護用機械人形(フラーゼン)・クノンが、ぐぐもった声を上げた。
それに反応して、ラトリクスの護人で機融人(ベイガー)であるアルディラが彼女に声をかけたのだった。
「・・・・・・」
「クノン?」
2度目のアルディラの声に反応して、クノンはゆっくりと彼女へ身体を向けた。
「さまが・・・さまの反応が、消えました」
「・・・はぁ?」
島を出て行く時に渡した通信機。それには発信機が内蔵されており、衛星を介して位置がわかるようになっていた。
・・・とはいえ、ずっと見ていたのでは彼の行動を監視しているようで気分が悪い。
だから今まで見ないでいたのだった。
アルディラは信じられなさそうにモニターを見上げる。
「!?」
彼女の見たモニターのどこにも、発信機を示す赤い光が見あたらない。
クノンの言うとおり、さっぱりと消えてしまったのだった―――
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