「にいちゃん、平気かっ?」
「たりめーだ。こっちはザコばっか潰したが……そっちは?」
京都は関西呪術教会の総本山であるこの屋敷は、混乱に陥っていた。
狙いもわからないまま襲撃され、今に至っているわけだが。
襲ってきたのは、どこぞから召喚されてきた有翼の悪魔たち。
あまりに突然のことだった上に、先日の修学旅行の一件でこの屋敷を守る結界が破られてしまったため、根本から見直しがなされていたのを大きな理由として、すんなりと進入されたのだ。
「詠春は?」
「俺に訊かれても困る。途中までにいちゃんと一緒だったやんか」
そんなリバーの問いに、小太郎はジト目を向ける。
協会の手練たちはいまだに戻っておらず、この場においてまともに動けたのはこの2人くらいのものだった。
「……使えねーな」
「にいちゃんかて同じやろが!!」
そんな掛け合いもそこそこに、互いに襲い掛かる悪魔を斬り伏せ殴り飛ばす。
リバーが額にい浮かんだ汗を拭うと、
「リバー君、小太郎君!」
廊下の角から、羽織と袴に鍔のない刀を構えた男性――近衛詠春と鉢合わせた。
白木の柄に、普通の日本刀と遜色ない刀身。異色なのは、その長さくらいだろうか。
刹那の『夕凪』と同じ野太刀の類だろう。
「……迂闊でした。まさか結界の見直しを図っているところを狙われるとは」
結界の見直しなど本来、協会の本山であるこの場所に手練たちが戻ってきてから行えばよかっただけの話なのだから。
しかし、1人の少年の進入を簡単に許してしまうような結界では本来の役割を果たすことはないかもしれない。
だから、彼女たちが帰った後すぐに見直しを始めたわけだ。
それが仇になってしまったことでばつが悪そうに、詠春は苦笑した。
「こいつらの目的は、なんだ?」
「……我が協会で厳重に封印されていた、1体の悪魔の解放です」
駆けつけたときにはすでに封印は破られ、封の開けられた魔法の小瓶が転がっているだけだった。
この場所に封じていた悪魔は、以前欧州のとある村を壊滅に追いやった、爵位を持つ悪魔だった。
「どこへ向かったかは、わかんのか?」
「はい」
詠春はうなずいた。
なぜなら、その悪魔が滅ぼした村は、自我を持ったばかりのネギが住んでいた村だったのだから。
魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
持ちづらい
「ぼおりんぐ?」
アスカはその意味不明な単語に首をかしげる。
「そうそう。アスナたちが、これからどうかって」
「ええなー。ボーリングやるんも久しぶりやわ」
つい先日、エヴァと茶々丸を相手に激闘を繰り広げたアスカだったが、一晩たった今では、充分に回復していた。
普通ならばありえないような超人的な回復力だが、ひとえに彼のアーティファクトの力が大きい。
彼のアーティファクト『バンショウノツルギ』が有する唯一の癒しの力――水蓮花。
血液の循環を飛躍的に高めることで自己回復力を増進し傷を癒すものだが、回復に時間がかかることもあり、こと戦闘中においてはあまり使い勝手のいい力ではない。
……で、そんな理由で翌日である今日には、普通に動けるようになっていたわけだ。
「アスカはボーリングってしたこと……その顔じゃなさそうだね」
彼の出身は一応、ウェールズの片田舎。
そんな辺鄙なところに、『ボーリング』などという娯楽施設があろうか――いや、ない。反語。
無論ボーリングだけでなく、カラオケやゲームセンター……etcetc――も同様だ。
「ところで、そのぼおりんぐって……なに?」
「行けばわかるって。ささ、行こ行こ!」
まき絵に背中を押されながら、アスカは靴をひっかけつつ外へ出たのだった。
……
で。
場所は変わって、ここはボーリング場。
そこには、すでに3-Aの半数以上が集まっていた。
投げられたボールがピンに突撃し、快音がそこいらじゅうから響いている。
「このボールをあの白いヤツに向かって転がして、倒せばいいんだね?」
「そうそう」
アキラに手ほどきを受けつつ、レーンの前に立つ。
両手をだらりと下げて、自然体で。
ちなみに、彼を連れてきたまき絵はネギのいるレーンで必死になってボールを投じている。
あやかとのどかと古菲と共に。
表情になにやら鬼気迫るものが見受けられるが、ただの遊びなんだから気楽にやればいいのに、なんてツッコミはしないほうがいいだろう。
……特にあやかに。
利き腕である右手に『14』と刻まれたボールを5本の指でわっしと持って、腕を振り上げた。
「あ、持ち方違……」
もちろん、そんな持ち方でボールがちゃんと転がるわけがない。
遠心力でボールが手から離れて、周囲に迷惑を、あるいは自身に被害が及ぶ……はずだったのだが。
ブンッ! ……ガゴンッ! バンッ! パカーン!!
とりあえず、ボールは前に転がった。
狙いが定まるわけもなく、速攻でガーターへ。本来ならばそのまま転がってピンは倒れないはずだったのだが、ガーターへ突っ込んだボールはバウンドし、宙を超低空飛行した挙句、綺麗に並べられた10本のピンの真ん中へ。
本来ならばありえないボールの動きに、その一部始終を見届けたアキラと、同じレーンにいた裕奈、亜子は、ぽかんと大口を開けてしまう。
「わ、全部倒れた」
何も知らないアスカは、ピンが全部倒れたことが嬉しかったのか、笑顔で戻ってくる。
「ってゆーか、あんな持ち方でよく投げられるよね……アスカらしいと言えばらしいけど」
「ガーターで、ボールが弾みよった」
……ホントに15歳かよ、自分。
っていうか、ぜひ一度握力を測らせたい。
そんなことを思ったアキラだった。
「あれ、みんなどうしたの?」
そんなアスカの問いに、
「……アスカの非常識さを再認識したかも」
「ボーリングのボールが弾むて……ありえない。絶対にありえないて」
「と、とりあえず、ボールの持ち方が違うよ」
3人の中で唯一冷静なアキラにカンパイ。
「あ、やっぱり? なんか持ちづらいなぁとは思ってたんだ」
こうやって持ってたから。
なんて言いつつ5本指でわっしとボールを掴みあげて笑うアスカを見て、顔は引きつってしまうのは、仕方ないと思う。
この後、ネギが古菲に告白……もとい中国拳法を教えてくれと頼み込むというエピソードがあったのは、また別の話。