「我ら、『七天書』が守護者、ハーヴェスター……」

 七人の戦士はそれぞれに、それぞれの武器を持って。
 閉じていた目をゆっくり開いて。

「主の世界を示すため、ここに参上した」

 その存在を、大きな戦いを終えた少女たちに、示していた。
 あの敵は、強い。
 アスカは、それを全身で感じ取っていた。
 何しろ彼は、今いるメンバーの中で唯一、エクレールと剣を交えた存在なのだから。



  
魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
  
氷の剣



「あぁっ! あれ、アスカに変なことしたヤツじゃない!」

 明日菜は燃えるような赤い髪の少女を認めると、びしぃっ! と彼女を指差していた。
 彼女は唯一、一般人に近い立場でエクレールの姿を見た人間だった。
 エヴァンジェリンとの戦いで彼女に協力していたから。
 その彼女が、アスカの相手をするようにと頼んでいたから。
 そんな彼女を。

「……ふん」

 エヴァは一瞥し、鼻を鳴らした。
 今の自分は最強なのだと、タカをくくっているのだろう。
 もっとも、その力の使いどころをリバーに思い切り邪魔されたわけだが。

「あれは、人でござるか……?」

 楓の問いも最も、と言えるかもしれない。
 自分と刹那、真名の3人を相手に互角の戦いを見せたアスカが、彼女1人に翻弄されたというのだから。
 しかも今、この場には戦いなれていない者もいれば非戦闘員もいる。
 特にその1人である夕映は、今日初めて魔法の存在を知ったばかり。
 だからかは……わからないが。

「あ……あれは、なんなのですか……?」

 千草を中心に佇む彼らの目を見た途端、震えが止まらなくなっていた。
 吸い込まれるような瞳が。ただいるだけで感情すらないというのに、7対の目がどうしても怖いと、本能が悲鳴をあげている。

「アレが……守護者、なのか……?」
「まとめて来られたら、ちょーっときついアルよ」
「魔力のケタが……以前よりも」

 強い。
 真名は7人のうちの1人と交戦したことがあったから、その力の程度もわかっているはずだった。
 そして古菲や楓も、その7人から醸し出している雰囲気から判断していた。
 しかし、この力の上昇具合といったら。

「彼女たちの主が、近くにいるんだ」

 真名と共闘したとき、アスカと対峙していた男性――ヴィルテスが愚痴っていた。
 『やっぱり、マスターがいないと』と。
 つまり、あの時は近くにマスターがいなかったということになる。
 が、今は違う。

「真ん中のおサルのお姉さん……じゃないの?」

 アスカの腕の中でその身体を預けるネギの声に、アスカは首を横に振った。
 昨夜は、彼らのマスターは近くにいなかった。これはヴィルテスの一言で明らか。
 ということは、今日のうち……ネギたちが親書を詠春に渡していたとき、あるいは召喚された敵と対峙していたときにはこの近くに来ていたということになる。
 つまり、敵の立場に立っていた彼女が主ということは、まずあり得ない話だった。
 とにかく……

「こっちは満身創痍、非戦闘員、怪我人だっていた……マズいんじゃねえの?」

 リバーの一言が、今の状況を如実に物語っていた。


 ……


「ククク……これなら勝てる、まだまだ終わりやあらしまへん」

 千草は確信していた。
 絶対に勝てると。
 自分をはるかに凌ぐ強い魔力の持ち主が、7人も味方になってくれているのだから。
 例え相手に吸血鬼がいようが化け物がいようが、もはや負けはありえないと。

「ふふ、フフフ……アハハハハハっ!!」

 愉快そうに笑っていたのだが、その笑いは味方の一言で驚愕へと変わることになる。



「すまないが、手を貸すことはできそうにない」
「は……」

 笑っていた顔をそのままに、千草はゆっくりとその顔をエクレールへと向ける。

時間切れタイムアップだ。主殿に感付かれてしまった」

 彼女たちは木乃香の魔力を求めて、はるか遠い欧州からここまで来ていたのだ。
 しかも主に内緒できていたとは、これまた驚きだ。

「それはどっ……」
「だから、もう君に手を貸すことは出来ないと、言っているんだ」
「なっ……」

 隣のヴィルテスが、エクレールの言葉を代弁するように言葉を放つ。
 それは、千草の希望を粉々に打ち砕くもので。

「そ、そんなっ! アンタらが力を貸してくれる言うから、こうして喚び出したんやで!?」
「時間切れだと言ったろう。わたしたちをもっと早く喚んでいれば、このような事態にはならなかった」
「ぐ……」

 確かに、スクナの召喚に成功した時点で彼女は忘れていた。
 彼らの存在を。
 スクナが破れることはないという、驕りもあったのかもしれない。
 しかし、エクレールは言った。
 『手を貸そう』と。
 時間制限があったなど……

「そんなん、聞いていない!!」
「だから今、こうして伝えているのだろう」
「なぁっ!?」

 なんて、バカげた話だ。
 横暴にも近いその行為に、千草は激昂していた。
 しかし、それも無理はない。
 頼りにしていたものに、見放されたのだから。

「ウチは、アンタが手を貸してくれるて言うたから召喚したんや! 約束を、無下にする気なんか!?」
「ふむ……」

 彼らは騎士ではない。しかし、騎士道というものはわきまえている。
 だからこそ、エクレールは少し考えるような仕草をして、

「ならば、我らが貴女の退却をサポートしよう」

 スクナはすでに破られ、白髪の少年は行方が知れないし月詠もいない。
 それとは逆に、相手の戦力は巨大すぎる。
 もう撤退せざるを得ない。
 自分の置かれた状況に千草は唇を噛みながら、エクレールの提案にうなずいたのだった。


 ……


「なにを話してるんやろ?」
「うん……」

 亜子の声にうなずく。
 距離が遠くて聞こえないが、千草の焦り顔を見る限り、なんらかのトラブルでも起きたのだろう。
 その後数言の言葉を交わすと、7人と千草はゆっくりと空へ浮かび上がる。
 先ほどのスクナの頭があった辺りまで浮かび上がると、ふいに。

「若きマジシャンたちよ!」

 声が響き渡った。

「今、我らに敵意はない! 追わぬというならば、こちらから危害を加えないことを約束しよう!!」

 見上げた先で、赤い少女がこちらへ聞こえるように声を張り上げているのだ。
 少し幼くもあり、それでいて凛とした声が一同の耳に入り込み、意思を伝える。
 それは遠回りではあるものの、撤退するから見逃せ、と言っていることと対して変わりはなくて。 

「……ククッ!!」

 エヴァは大きく含み笑って見せた。

「敵意はない? こちらから危害は加えない? ……フンッ!」

 緑の双眸が8人を射抜く。
 そこにあるのは侮蔑の眼差しと、明確な敵意だった。

「貴様らには色々と聞かねばならないことがある……ッ!」

 黒いマントをはためかせ、飛ぶ。
 一直線に飛翔し、手に魔力をもたらした。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック……!!」

 彼女の得意な魔法は、氷系。
 敵を拘束するのに、これほど特化した属性は存在しない。
 だからこそ彼らを逃がさないためにも、広範囲に及ぶ魔法を使う。
 先ほど出番を取られたから、という側面があったりなかったりしないでもないが。
 しかし、それを一瞥したエクレールは、ふいと1人の少女へと目を向ける。

闇の福音ダーク・エヴァンジェルか……レイン」
「……っ! わーい、ボクの出番だねっ!」
「いいか、当てる必要はない。威嚇だけに留めておけ」
「はーい!」

 レインという灰色の衣装を着た少女は、嬉々としつつエクレールの前に1人踊り出る。
 エヴァの背格好とさほど変わらないものの、その手には無骨な大鎌。
 しかし、『登校地獄』という呪いから一時的に解放されている彼女に、驚きはない。

「そんなガキに、何ができるッ!!」
「……んもー、失礼しちゃうなぁ」

 エヴァは、呪文を唱え始めた。
 先ほどリバーに放った、広範囲殲滅呪文。
 たまった鬱憤を晴らすにはいい機会だといわんばかりに、高らかに詠唱する。
 しかし、その様子に慌てることなく、レインはエヴァに灰色の双眸を向けていた。
 徐々に強くなっていく光。
 それを見て、そろそろいいかといわんばかりに懐へ手を突っ込んだ。

「敵魔力、増大。詠唱呪文から、西洋氷系最高位、広範囲殲滅呪文『おわるせかい』と断定」

 呟きつつ取り出されたのは、4枚のカードだった。
 それを眼前に投げつけると、レインを囲むようにフワフワと浮かぶ。
 同時にそれぞれが色づき始めていた。
 赤、青、緑、黄色。
 そのうちの青いカードを手に取ると、頭上へと放り投げ大鎌を真横へ構えた。

「ループファクト、行くよ。ブルー・カード……装填Insert読込開始Reading start
『Blue Card Insert and Reading …… Complete』

 レインの言葉に呼応し、大鎌は淡く光り、電子音のような声を発していた。
 言語は英語。それだけのことに関わらず、詠唱を半分終えたエヴァは目を丸める。
 武器がしゃべるなど、聞いたこともなかったから。

魔法、検索Search for magic検索条件はCondition is高位氷系呪文High-rank of Ice magic
『O.K.…………Search Complete』

 大鎌の声を聞いてか、彼女は真横から背後へと大きく振り構えた。
 両手で柄を持ち、上から振り下ろそうとしているのは丸わかり。

其は、やすタナトン・ホス・アタラ……っ!?」

 エヴァの詠唱が管制直前に、彼女の魔法は完成した。
 詠唱もなしに、そして一瞬にして巨大な氷剣を作り出したのだ。
 その光景には、エヴァだけでなく目を丸める。
 剣の切っ先は湖面を凍らせ、周囲を小さな光が舞い踊る。
 驚きのせいか、彼女の詠唱は止まっていた。

「エヴァさん、逃げて!!」

 アスカの声で我に返ると、十数メートル頭上で灰色の少女は笑う。

『Celsius calibur』
「セルシウス・キャリバー!!」

 少女の声と大鎌の声が重なり、エヴァの1メートルほど隣を掠め、誰もいない湖面に突き刺さったのだった。



『なっ……』

 声を上げる前に、この場を退避するべきだった。
 剣の衝撃で天へと跳ね上がった大量の水は、自分たちを押し流そうと頭上から襲い掛かる。
 アスカとリバーは同時に白い大剣と刀を掲げると、押し寄せる水群に対応せんと言葉を起こす。
 しかし。

「……え?」
「おいおい、冗談だろ……?」

 自分たちに襲い掛かろうとしたビッグウェーブは、その先っぽまで瞬く間にまとめて凍りついていた。

「相手に敵意があったとしたら、今の攻撃で死んでたでござるな」
「し、死ぬかと思たアルよ〜……」

 信じられないが、目の前で起こっている。
 先ほど振るった氷の剣が、跳ねた水までを凍らせたのだ。

「あれが本当の力、か……」
「なんだかよくわからねえが、俺はまた……厄介なことに巻き込まれちまったみたいだなぁ……」

 一度二度交戦したアスカから漏れた言葉に、リバーは呆れたようにため息をついたのだった。








 …………








「ご苦労だったな」
「まったく、ハイ・デイライトウオーカーあんなの相手にさせないでよね! もう少しで死ぬとこだったじゃんか! しかもあの魔法、魔力ほとんど持ってかれるんだからね!」
「まぁまぁ、落ち着けって。な?」
「むぅ……」

 エクレールに突っかかるレインをいさめたのは、黒ずくめの青年だった。
 名はバルド。いつの間にやら暴走した彼女のストッパー役になっていた、結構かわいそうな人である。
 両手をぐるぐるとぶん回すレインの両肩を掴んで、諌める。

「あの人、大丈夫かな?」
「問題ないだろう。万一掴まってしまえば、それが彼女の運命だ」

 そう。
 7人と千草は、レインの魔法に釘付けにさせている間にさっさと退散していた。
 彼女たちはそのまま飛びつつ山をも越える。
 千草は湖の端まで行くと陸へと降りてしまった。長時間の飛行が出来ないのだろう。
 湖に出来た即席のオブジェは、背後を見ればまだ小さく見て取れる。

「さあ、我らは主の下へ戻るとしよう……かなり近くまで来られているようだ」
『……了解』

 エクレールを先頭に、7人は一直線に夜の空を飛んでいったのだった。







千草裏切られました。
かわいそうな扱いして本当にごめんなさい。
ここで一戦交えてしまうと、いつまでたっても修学旅行編が終わらないんですよね。
なので、あえて主に感付かれたという理由で離脱させてみました。
レイン、ケタ外れですね。

※ルビの英文、酷く見づらいと思いますので、
文字のサイズを大きくして読んだ方がいいかもしれません。


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