「で、どーすんのよ?」

 そんな明日菜の問いに、返す言葉が見つからない。
 ただでさえ危機的な状況なのだ。
 リバーという青年が白髪の少年を足止めしてくれているから、少しはマシな状況だったりするわけだけど。
 奪還すべき木乃香はスクナの肩の所にいてとてもじゃないが届かないし、友達を残してにげるわけにも行かない。
 手詰まり。
 そんな言葉が、3人の頭をよぎっていた。

「……一つだけ、方法があります」
「え、えぇっ!?」

 沈黙を破ったのは刹那だった。
 彼女が、2人に……守るべき木乃香にさえも隠し通してきた、忌むべき力。
 それを使えば、木乃香を助けることができる。
 ぐぐ、と背中に力を込めた、そのとき。

「おい、後ろに走れ! お嬢ちゃんたち!!」

 突然のリバーの声と、その背後に迫る薄紫の霧を見て、瞠目したのだった。



  
魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
  
木乃香奪還!!



「ちょっ、あれはなに!?」
「石化の霧だ!」

 カモの声と同時に、力を解放しようとしたところでそれを止められて動けなかった刹那と混乱するネギをリバーが抱えていた。
 その必死の形相を見て、迫ってくる霧が危ないものなのだと明日菜は悟った。
 慌てて踵を返し、リバーの先を走る。
 霧の展開は早い。リバーの後ろギリギリまで迫ったところで薄れ出してきたので、なんとか事なきを得ていた。

「あの野郎、俺たちが集まってるのを見てまとめて石化しようとしやがった」

 っていうか、彼の足先が石化しはじめていて、さらに驚いていた。

「あの、足……」
「あぁ、わかってる。あんにゃろ……どうとっちめてやろうか……」

 黒々とした笑みを浮かべ、今まで抜くことのなかった刀の柄に手を添えたのだが。

「みなさんは今すぐ逃げてください。お嬢様は、私が必ず助け出します」

 そう言って、刹那は再び背中に力を込める。
 自分が半分人間でないからこそ存在する、半妖である証。
 それは。

「「!?」」

 刹那の背から現れた。
 一対の翼。その色は純白で、おとぎ話に出てくる天使のようで。

「へえ……」

 その白い翼を眺めて、思わず感嘆の声を上げてしまっていた。
 しかし。

「これが私の正体。奴らと同じ……化け物です」

 なんて刹那は口にしていた。

「こんな姿形をしていますが、私はお嬢様を守りたいだけ……」

 今まで秘密にしてきた理由は、木乃香に見られて嫌われるのが怖かったからなのだとか。
 彼女なりに苦悩した結果なのだろう。
 でも、目の前にしているこの翼が、ぱっと見ただけじゃとても妖怪の翼とは思えない。
 だからこそ、明日菜はネギよりも一足先に我に返って、翼を触り出していた。
 もふもふもふもふ。
 さわさわさわさわ。
 滑るような肌触りに悦に浸っているのが今の状況に対してなんともシュールだが、明日菜は片手を振り上げると、翼出現でシャツがまくれてしまい露出している背中をぶっ叩いた。
 ネギはその音で我に返ったようなものなのだが。

「こんなの背中に生えてくるなんて、かっこいいじゃん」

 そう言って、明日菜は笑った。

「あんたさぁ……このかの幼馴染でその後2年間も陰からずっと見守ってきたんでしょ?」

 その間、あの子のなにを見てたのよ……

 そんな言葉を呟きながら、明日菜は刹那の肩に手を乗せる。

「このかがこのくらいのことで誰かを嫌いになったりすると思う? ……ホント、バカなんだから」
「あ、明日菜さん……」

 その言葉を聞いて、刹那はまるでつき物が取れたかのような晴れ晴れとした笑みを見せる。
 数年間悩みぬいてきた自分のことが、今の一言で全部許せるような気がしていたから。
 そんなやりとりを聞き、すでに膝下まで石化の進んでいる足をそのままに刹那の元へ歩みよると、肩に手を置いた。

「貴方は……」
「リバーだ。それより、あの娘を助けに行くんだろ? あのチビは俺に任せて、行ってこい」

 そう口にすると笑って、近づいてくる白髪の少年へと向き直る。
 浮かんでいる笑みが、どこか嬉しそうに口元を歪ませていた。
 納めなおしていた刀を再び抜き放ち、『世界』へと干渉する。
 彼が本来持っていた力だ。
 共界線という名のラインを通して、膨大な魔力を得ることができるという、特異な力。
 存在する世界が違っていても、なぜか干渉は可能で。
 振り構えた白い刀が咆哮を上げた。
 その光景に瞠目するのは、敵だけではない。

「ほら、早く行け」
「は、はいっ!! ……ネギ先生、このちゃんのために頑張ってくれて、ありがとうございます」

 刹那は飛び立った。
 純白の翼をはためかせ、一直線に木乃香の元へと飛翔する。
 それに気づいた少年は魔力で覆われた手を彼女へと向けるが。

「おっと、させねーぜ?」

 目の前に出現した青年に腕を掴まれ、あさっての方向へと向けられてしまう。
 足の石化が進んでいるというのに、それをまったくと言っていいほどに気にしていない。
 額に汗を浮かべながらも、彼は嬉しそうな笑みを浮かべていた。



 一方、刹那は木乃香の元へ全速力で向かっていた。
 近くで何が起ころうとも、気にしない。明日菜もネギも、奮闘しているだろうと信じているから。

「くっ……」

 千草は目を閉じ、スクナへと指令を送る。
 目の前の敵を打倒せよ、と。
 それに応えるように目を光らせると、4本の腕が動きを見せる。
 拳を作り、風を切って振るわれる豪腕。
 そのすべてが、スクナの指の腹ほどしかない刹那へと向けられていた。

「くそっ!!」

 1つ、2つ、3つ。
 戸惑いなく振りぬかれる拳撃を躱し、スピードを上げる。
 しかし、休む暇なく4つめの拳が彼女へと襲い掛かった。
 上げてしまったスピードと、振るわれる拳。

「避け切れないっ!!」

 スクナの腕は4本。
 木乃香の安否だけを考えていたからか、彼女らしくないミスをしてしまった。
 スピードを緩めたところでもう遅い。
 刹那は目をぎゅっと閉じ、迫る拳の衝撃を待ったのだった。

 ……

「らぁっ!」

 刀を抜いたまま、その柄を握った右手が少年の鳩尾を見舞う。
 しかし、少年も伊達に戦闘慣れしているわけじゃない。
 振るわれた拳を平手で受け止め、乾いた音が鳴り響いた。
 そのまま力は拮抗し、ぶつかり合った手同士が小刻みに震える。
 しかし。

「……君はもうすぐ終わりだね。残念だけど」

 少年は告げた。
 すでに膝上まで、石化が侵食してきていたのだから。
 彼は元来、魔法的な力に対する耐性が著しく低い。
 本来ならすでに身体の半分が石に侵されていても無理はないはずなのだが、現在はラインから供給している魔力でその進行を抑えつけている状態。

「るせーぞ。ガキのクセに生意気な……!?」

 リバーは目を見開いた。
 少年の背が彼の胸元辺りまでだったからこそ、見えたのだが。
 スクナがその豪腕を振るっているところを。
 そのすべてが拳を握り、刹那に襲い掛かっているところを。

「ったく、世話が焼ける……! おいネギ坊主!」
「は、はいっ!」

 背後のネギに声をかける。
 少年を背丈にものをいわせて浮かせると、背後へ向けて投げ飛ばす。

「ソイツの相手してろ!」
「ちょっと、アンタはどーすんのよ!?」
「決まってんだろ!」

 スクナへと向き直り、

「アレを止める!!」

 石化の進む足に鞭打って走り出した。
 ネギの声を聞きながらも止まることなく、刀を構えた。

「天を穿つ……一子相伝の剣……」

 なにかの鍵とも取れるフレーズを呟きながら、刹那と最後の拳の中間狙って……跳躍した。

 ……

 何かが、ぶつかる音がした。
 刹那は閉じていた目をゆっくりと開くと、そこには。

「おい、生きてるか!?」

 どこから来たのかも知らない青年が、スクナの豪腕を防いでいた。
 自分と拳の間に入り込んで刀を地面へと向けたまま、刀の腹と身体全体で。
 表情は見えないが、見ずともわかる。
 苦しいのだと。
 スクナの拳は刀の手前で静止していて、カタカタと振るえていることから力が込められているのだということを理解する。
 彼は、危険を顧みず自分を助けてくれたのだ。

「なぜ……」
「ガタガタぬかしてんじゃねえ!」

 苦しげに、それでも刹那を叱咤する。
 止まるな、早く行けと。
 拳を押し留めている背中が、語っている。
 だから。

「ありがとうございますっ!!」

 刹那はその一言を告げて、再び疾風はしりだす。
 そしてリバーは背後から気配が消えたことを確認して、受け止めていた拳を解放――つまるところ落下していた。
 間一髪のところで頭上を拳が通過していったのだが、何事もなかったのでとりあえずよしとする。
 下は木の橋。
 運がいいのかはわからないが、とりあえず。

「第一解放……」

 落下の衝撃を和らげるために、1つのフレーズを口にした。


 ……


 いきなり少年を押し付けられてしまい、ネギは驚いていた。
 自分や明日菜がこんなにも順応が早いとは。
 そして、

『あと一分半持ちこたえて見せろ。そうすればすべて終わらせてやる』

 聞こえたエヴァンジェリンの声。
 この言葉に、自分は突き動かされた。
 事件を収束させる、一抹の希望が見えたから。
 木乃香も助かって、大鬼神も消えて、元の修学旅行に戻れる。
 そんな希望が。
 そのためには、今がまさに好機だった。
 放り投げられた少年は突然の空中で身動きが取れず、チャンスとばかりに明日菜が狙いを定めてハリセンを一閃。
 アーティファクトの力なのか彼女自身の力なのかはわからないけど、少年を覆っていた障壁は見事に破壊され、自分の所へやってくる。
 自身への魔力供給とともに利き手である右手に拳を作って。

「兄貴、今だっ!」
「あああぁぁぁっ!!!」

 思い切り殴りつけた。
 少年は勢いに押されて、その場に留まってはいるものの首が身体ごとあさっての方向へ向いてしまっていた。
 そして。

「天ヶ崎千草。お嬢様を返してもらうぞ」
「お前はっ!? いつの間に……」

 木乃香の元へとたどり着いた刹那は、木乃香を利用していた女性へと告げる。
 彼女の言葉を最後まで聞かず、刹那は再び疾風となって2人へ近づく。

「くっ、近すぎる! 猿鬼、熊鬼!」

 呼ばれて出てきたのは可愛い顔をした猿と熊。
 共に彼女を守る式神だったのだが、もはや刹那にはそれらは見えていない。
 木乃香と自分の前に立ちはだかる障害と認識されているだけ。

「はあぁぁっ!!」

 勢いを止めることなく夕凪で一閃。
 2つの式神はあっけなく消え去り、刹那は木乃香を奪還。
 一気にスクナから距離をとった。

「お嬢様、お嬢様!! ご無事ですか!?」

 木乃香の口を覆う呪の施された紙を剥がし、問い掛ける。
 うっすらと目を開くと、刹那の必死そうな顔を見て。

「ああ、せっちゃん……へへ、やっぱり」

 虚ろな目のまま。

「また、助けに来てくれたー」

 嬉しそうに、笑った。
 その表情に、刹那は安堵する。
 大事な幼馴染に、大切な友達が、こうして無事でいたことに。
 「あの人の言うとおり、気持ちええだけやったわー」なんていいつつ顔を真っ赤にして恥ずかしがる彼女が、不謹慎であるものの可愛いと思ってしまう。
 恥ずかしそうに顔を手で覆っていた木乃香は、刹那の背中へと目を向ける。
 そこに見えたのは、まるで天使のような純白の羽。

「こっ、これは……っ」
「……キレーなハネ。なんや、天使みたいやな」
「あ……」

 慌てる刹那を見つつ、木乃香は嬉しそうに笑ったのだった。







またしてもサモ夢主が出張ってます。
っていうか、アスカくんの出番が皆無というのは、少々問題じゃないかと……
まぁ、とにかく修学旅行編ももうすぐ終わりますから、それまでの辛抱です(笑)。


←Back   Home   Next→

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送