「ててて……」

 突然落下してきたのは、1人の青年だった。
 打ち付けた腰をさすりながら立ち上がると、きょろきょろと周囲を見渡している。
 背丈はもちろんネギよりも高く、声も低い。
 意識を前に戻して、ネギを視界に入れる。
 その瞳は、『彼』と同じように真紅に染まっていた。

「……でだ少年よ」

 面倒だと言わんばかりにバリバリと頭を掻きながら、ネギに向けて言葉を飛ばす。
 感じたのは敵意ではなく、圧倒的な存在感。
 ……否。存在感ではなく、内包する力が強大すぎるのだろう。
 そんなどこから現れたかすらわからない青年が。

「ここはどこで、今どんな状況なのかを教えてくれれば……」

 状況自体は、なんとなくわかっているのだろう。
 もっともそれは推測であって、確実じゃないからこそ、彼は目の前のネギに説明を求めている。
 じ、と瞳を見つめる。
 敵か味方かわからない彼の真意を探るために。
 そんな視線を感じているはずなのに、表情ひとつ崩すことなく。

「て……」

 言葉にしようとして、止めた。
 視界から一瞬にして青年の姿が消え、背後で鈍い音がしたからだ。
 慌てて後ろを見やると、風の戒めから解放された白髪の少年の拳と青年の手が重なっていた。

 ……いつの間に後ろに移動したのだろうか?

 そんな疑問よりもまず、青年の安否が気になっていたのだが。

「背後から襲うなんて、姑息な手を使うねえ」

 青年はまったく動じていなかった。
 むしろ今まで感じていた存在感が、すべて殺気に変わっていてさらに瞠目する。

「……そんなに死に急ぎてえのか?」

 そんな言葉に、背筋を震え上がらせていた。
 体術だけなら間違いなく明日菜や刹那のはるか上をいくだろう。
 少年はその言葉に目を見開いて、握られた拳を振り払うと距離を取ったのだった。



  
魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
  
謎の青年



「兄貴、兄貴」
「っ!? カモ君、なに?」
「あの人、得体が知れねェがスゴイ実力の持ち主だぜ。味方に引き入れておいて損はねえ!」

 カモは1つの提案をしていた。
 白髪の少年と対峙している青年を味方に引き入れて、この状況を打開しようというのだ。
 今しがた見せた移動術と、少年の攻撃をたやすく受け止めて見せた彼の力と、先刻彼が口にしようとした一言。
 その真意を、ネギは図りかねていた。
 距離をとった少年を見て再び頭を掻き、大きくため息をつく。

「あっちは無口そうだからなぁ……やっぱお前に聞くしかねえんだよな」

 振り返ることなくネギに向けて言葉を放った。
 ここはどこで、今どのような状況なのか。
 ネギは覚悟を決めて、事情を簡単に話すことにした。


 ……


「なるほどねえ……ここは日本の京都で、今お前はあのデカブツとそこの少年を相手にしてると」
「はい」
「で、向こうはかんさいじゅじゅなんとかのお猿で、お前はかんとううんたらの攫われた使者で生徒の少女を助けたいわけか」
「………………………………はい」

 なんか日本語としておかしい部分が多々見受けられるが、今はそこを論じている場合ではない。
 それでいて話のツボを掴んでいるのがなんともスゴイと思う。
 青年はなにか思考を巡らすような仕草をする。
 そして、周囲の状況を見つつ納得できたかのようにぽんと手を叩いた。

「ま、あんなバカでかいヤツ……りょうめんすくなのなんたらを喚んだところで、この日本にとっては害にしかならねーからな」

 とにかく、アレをぶっ潰せばいいわけか。

 …………

 まったくわかっていなかった。
 状況が理解できておらずとも、今からネギがやろうとしていることは彼の言った通りで。
 そうと決まれば話は早い、と言わんばかりに刀を抜き放っていた。

「…………」

 しかし、そこまでかっこよく決めておいて、一向に動きを見せない。
 それはなぜかと問うならば。

「おい少年」
「は、はい?」
「まずは、お前の助けたい少女を奪回してからだ」
「え…………?」
「な、なんでだよ!?」
「お、小動物がしゃべった……」
「論点がちげぇーっ!!」

 彼曰く。

「俺は壊すことしか出来ないからな。まずやることやってから」

 とのこと。
 というわけで木乃香奪回までの間、彼は白髪の少年の相手をすることとなっていた。


「……ところで」
「?」
「お前の名は?」

 共闘するならば、知っておいてもおかしくはない相手の名前。
 青年とネギはこれから手分けてしつつ一緒に戦うというのに、その交換すらできていなかった。
 だからこそ、青年はその一言を口にしていた。

「ネギです。ネギ・スプリングフィールド」
「そうか。俺は…………」

 青年は言葉をそこで止めて、少し間を置く。
 なにか思いついたかのように表情を明るくすると。

「……リバー。そう呼んでくれればいい……………………めんどくせーから」
「わ、わかりました」

 さぞめんどくさそうに、名を告げたのだった。



 ……



「もう少しです、急ぎましょうアスナさん!」
「う、うんっ!!」

 森の中を、刹那と明日菜はひた走っていた。
 獣道をただひたすらに駆け抜けて、我らが担任の元へと急ぐ。
 2人はスクナの姿を見ていない。
 召喚される過程を見ていただけで、ネギの危険を感じてすぐに森へと突入してしまったからだ。
 だからこそ、カモとの念話の果てに目的地までをショートカットしてネギの元にたどり着いたとき。

「ぎゃああぁぁ〜!? なによアレ〜!?」

 明日菜は大鬼神を見て叫び声を上げていた。
 仮契約カードの機能の1つを使って、彼女たちを強制的に喚びだしたのだ。
 これが、カモとの念話の果てに2人が目的地までの距離を短縮できた理由だった。
 術者の魔力を介して、従者を召喚する転移魔法の一種に近いもの。
 その機能を使って、2人を喚び寄せたのだ。

「姐さん、落ち着け! ってか、時間がねえから手短に話すぜ」

 事の顛末を、カモは話し始めたのだった。
 まずは目の前の大鬼神――リョウメンスクナノカミが喚ばれてしまったこと。
 それと同時に、今も白髪の少年と戦っている青年が現れ、味方してくれていること。
 そして、自分たちの力でスクナを相手に木乃香を奪還するということ。
 簡単に言えばこんな感じだ。

 この間にスクナが攻撃してこなかったのが不幸中の幸いと言ってもいいだろう。
 千草が余裕をぶっこきまくっていたから。
 スクナがいれば、誰もかなうヤツなどいはしない。
 先入観が彼女を優越感に浸らせていたのだ。
 そんな千草と木乃香はスクナの右肩のところにいる。

「…………っ」

 常人では幾らジャンプしても届かない高さに、刹那は唇をかみ締めたのだった。






「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト」

 白髪の少年が距離を縮めながら何かを口ずさむ。
 それは日本語ではなく聞きなれないフレーズで、何をしようとしているのかすら青年は理解できなかった。

障壁突破ト・テイコス・ディエルクサストー『石の槍』ドリュ・ペトラス
「っ!?」

 2人の距離がゼロとなる直前。
 せり出してくるのは石の槍だった。
 研ぎ澄まされた槍先は、一直線にリバーと名乗った青年へと向かっていく。
 魔法障壁すら軽々と突破することのできる致死性の高い魔法なのだが。

「ぬぅあっ!!」

 裂帛の気合と共にその身体をひねり、突撃を見事に躱していた。
 顔の目の前を灰色の石槍が通過し、それでも意識を少年へと向けている。
 捕まえようと手を伸ばすが、届かない。
 互いの位置が逆となって、再び距離が生まれる。
 が、次に動いたのはリバーだった。

「スゲーな少年。魔法か、それ?」

 彼からすれば、立場的に魔法とか魔術とか召喚術といったファンタジーは結構身近だったりする。
 距離を詰めながら、嬉しそうに笑う彼。
 その表情の中には、殺気など微塵も存在していなかった。

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル……」

 再び少年は呪文を唱える。
 しかし、二度は同じようにはいかない。

「その力、危険だからなぁ」

 彼は少年の視界から掻き消えて、背後にいた。
 捕まえようと伸ばされる手を振り払いながら、背後へと後退する。
 しかし。

「おいおい、逃げんのかよ?」
「な……っ!?」

 彼はさらに背後にいた。
 二度と詠唱させまいと、リバーは動いているからだ。
 それを可能にしているのが、一瞬にして相手の背後をとることのできる速力である。
 自身の短所を補った結果が、立派な戦闘スタイルとして確立していたのだ。

「なかなかやるようだね」
「……年長者に対する口のきき方がなってねえな」

 少年の言葉にいちゃもんを付けつつも、リバーは移動を止めない。

「なら、こちらにも考えがあるよ」

 少年はそう口にして、今度はリバーに向けて拳を突き出していた。
 魔力の供給によって速く、そして重くなっている拳は彼の口元を捉えている。
 それに対して、リバーは身体を反らすことで交わすと、そのまま地面に手をついて足を浮かせる。
 少年が真上まで来たところで。

「うりゃっ!」

 頭上へ向かって両足を伸ばした。
 揃って伸ばされる両足は勢いよく突き出される槍と酷似していて。
 殺傷力こそないもののつま先は少年の腹部を捕らえ、蹴り飛ばしていた。


小さき王バーシリスケ・ガレオーテ八つ足の蜥蜴メタ・コークトー・ポドーン・カイ邪眼の主よカコイン・オンマトイン

 投げ出された空中で、少年は呪文詠唱を開始する。
 その呪文詠唱に、リバーは目を見開いた。
 一言一言が口にされるごとに、両手に灯った光が強まっていることがわかったから。
 そして、これから起こる現象が自身に危険をもたらすとエマージェンシーを鳴らし始めたから。

「ちっ……!!」

 舌打つ。
 起こる現象がなんであれ、離れることがより安全対処への近道だから。

その光ト・フォース我が手に宿しエメーイ・ケイリ・カティアース災いなる眼差しで射よトーイ・カコーイ・デルグマティ・トクセウサトー

 自身にできる最高の速度をもって、少年から距離を取る。
 二本の指を閉じたピースサインの先をリバーに向けると、指先の一点に光が集中していた。
 指先は間違いなく彼に向かっていた。

『石化の邪眼』カコン・オンマ・ペトローセオース!!」

 そして、放たれる石化効果の付加した光線。
 真っ白な光は木造の橋を横に両断し、水しぶきを上げていた。
 その時、リバーはというと。

「うわあっ!?」

 ネギ、刹那、明日菜の3人組のまん前まで移動してきていた。
 流れていた冷や汗を拭いながら、静かに着地する少年を見やる。
 そして。

「おら、ネギ少年……って、いつのまにやら少女が2人も増えてるが……ま、いいか」
「いいのかよ!!」

 ビシィ! と景気のいいツッコミを入れたのはカモだった。
 普通ならいきなり少女が2人も増えていれば驚くところだと思うのだが。
 彼自身がその手のことに慣れているからこそ、口にできる言葉だった。

「で、イケそうか?」
「いえ、その……」
「あんた一体何者よ?」

 明日菜は一番気になっていたことを声に出していた。
 事の顛末はネギから聞いたものの、いろいろと納得のいかないところがある。
 目の前で起こっていた戦闘に驚きすら感じながら、非常時であるにも関わらず尋ねずにはいられなかった。

「う〜ん、そうだな……強いて言うなら、『巻き込まれたいち召喚獣』ってとこだな」
「召喚獣……」

 聞きなれない言葉だった。
 呟いた刹那でさえも、普段耳にすることのない名称だ。

「とにかく、そっちの事情は大方理解できてるつもりだ。お前らはそのこのかって娘を助けることだけに専念しな」

 コッチは俺が抑えといてやっから。

 リバーはそう口にすると、屈託のない笑みを浮かべたのだった。







サモ夢主大活躍。
なんか名前が変ですね。
なぜ『リバー』かといいますと、英語で裏という意味を持つ『Reverse』の
読み(リバース)のスを抜いたものなのです。
……変なネーミングでゴメンナサイ。


←Back   Home   Next→

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送