広い湖の中央に浮かぶ木造りの舞台のさらに中心。
四方の松明に炎を灯し、今回の事件の首謀者である天ヶ崎千草と、彼女に協力する白髪の少年が佇んでいた。
彼女の表情には笑みが宿り、これから起こるであろう災厄に心躍っているのだろう。
「あっちに見える大岩にはな、危なすぎて今や誰にも召喚できひんゆー巨躯の大鬼がねむっとる」
目の前の巨大な大岩を指差して、千草は笑みを深める。
18年前にサウザンドマスターとその仲間たちが封じた。
彼らが封じねばならないほどに、強力な大鬼なのだ。
しかし。
「そんな大鬼も……お嬢様の力で制御可能や」
目の前に寝そべる木乃香へと目を向けた。
気絶から丁度気づいたのか、見開かれた吸い込まれるような黒い瞳は虚ろ。
口封じのお札を口元に貼り付けられ、しゃべることはできない。
「御無礼をお許しください、お嬢様。何も危険はないし、痛いこともありまへんから」
木乃香に向けて、優しく告げる。
安心させるように笑ってみせると、数歩離れて。
「ほな、始めますえ」
伝説の大鬼召喚の儀式が始まったのだった。
魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
召喚
「見えた!」
ネギは走っていた。
木乃香の元へ行く途中で小太郎と遭遇して余計な時間を食ってしまっていたが、楓の助けを借りてこうして目的地へたどり着いたのだ。
儀式が始まってからすでにかなり時間が経っている。
立ち上る柱はすでにかなり巨大なものとなっていて、何かが起こるのも時間の問題だろう。
「どうするんだ兄貴! ただ無謀に突っ込んでも返り討ちに遭うだけだぜ!」
「大丈夫!」
今、あの少年を出し抜く策を思いついたんだ!
そう答えるネギの表情には、怒りも恐怖もない。
自信に満ちた笑みを浮かべて、杖にまたがった。
実力の高い白髪の少年。
今は千草の側にいる彼さえ抑えれば、木乃香の奪還は可能のはず。
そのために、今も練習中の遅延呪文を使ってみるつもりなのだ。
上手くいくか分からないけど、と付け加えて。
湖の端から飛び立つ。
一気に最大まで加速し、彼の後を水しぶきが飛ぶほどに速度を上げる。
「……彼が、来るよ」
白髪の少年は儀式に夢中の千草に告げる。
表情には焦りが浮かび、頬を冷や汗が伝う。
邪魔されたら、計画が全部泡になって消えてしまう。
だからこそ、
「なんとかせんと……」
狼狽していたのだが、少年は彼を見据え、一枚の札を取り出した。
「ルビカンテ、あの子を止めて」
具現したのは翼を持った魔物だった。
筋肉質な身体に包丁を大きくしたような剣を持ち、少年の言葉にうなずくとその場を飛び立った。
前に見た、刹那に矢を射てた魔物だった。
ネギはカモの言葉を聞きつつ、自身への魔力供給を開始する。
今のままでは足りない、と言わんばかりに飛行速度に供給した魔力を上乗せし、限界まで加速する。
「あああぁぁぁっ……!!」
両者が激突する。
思い切り右拳を突き出したネギは魔物を貫き、元の札へと戻していた。
確かな手応えを感じて閉じていた目を見開き、魔法の始動キーを口ずさむ。
不安定な杖の上に両足を乗せると、立ち上がった。
「吹け、一陣の風。『風花・風塵乱舞』!!」
魔法発動と同時に、湖が爆ぜる。
水しぶきが霧となって周囲を舞い、2人の視界を覆い尽くした。
「契約続行追加3秒」
自身の負担も省みずさらに魔力を上乗せて、霧の中へと突入。
同時に杖から飛び上がった。
これも、あの少年を出し抜くための布石だった。
霧で視界を閉ざして、魔力の残滓だけをその場に残し、自分は彼の背後へまわりこむ。
そうすれば、霧の中から出てくるのは彼の杖だけ。
少年は、それに見事に引っかかってくれていた。
ネギの杖が勢いをなくして床に落ち、少年は自分の背後で拳を構えているネギを確認した。
しかし、応戦しようにも間に合わない。
危機的状況であるにもかかわらず、彼は顔色ひとつ変えることなく。
「だから、やめといた方がいいと言ったのに……」
常に張り巡らせていた魔力障壁だけで防ぎきっていた。
カモの驚きの声が耳に入ってくる。
少年は右腕を手に取ると、掴む手に力を込める。
「明らかな実力差のある相手に、なぜ接近戦を選んだの? サウザンドマスターの息子が……やはり、ただの子供か」
期待ハズレだよ。
ネギに告げる。
サウザンドマスターの息子だからと、期待していたのに。
この場で始末してしまおうと、少年は空いた左手を構えたのだが。
「へへ……」
ネギは笑っていた。
ぶっつけ本番で、失敗の確率が非常にに高かった作戦だった。
即興で作ったからこそ、綻びもあったというのに。
見事にここまで引っかかってくれて、ネギは笑っていたのだ。
少年同様に、空いた左手の平を少年の胸に当てる。
そして、呪文を唱えることなく。
「解放」
魔法の射手サギタ・マギカ ! 戒めの風矢アエール・カプトウーラエ !!
ただ一言口にした。
練習中の遅延呪文ディレイ・スペル 。
練習不足のため長い時間封じておくことができないが、作戦の寸前ならば話は別。
さらに零距離射程からの発動だからこそ、障壁の効果も極端に薄い。
そこを突くために、わざわざ慣れない接近戦に持ち込んだのだ。
杖を呼び戻し、拘束完了。
彼はこれで、しばらくは動けない。
「……なる程。わずかな実戦経験で驚くほどの成長だね」
認識を改めるよ、と口にした少年に、バーカバーカとカモはまくし立てた。
スカしてんじゃねえ! などと口にしながらも、当のネギの意識は先へと向かっている。
彼の動きを封じておくことが目的じゃないから。
戒めの風矢で封じておける時間は数十秒。しかし、目的は木乃香を助けることだからこそ、おそらくその数十秒で事足りる。
「急ごうぜ、兄貴!」
「うんっ!」
助けださんと駆け出すが。
その歩みは、すぐに止まってしまうことになる。
木乃香の姿がなく、千草もおらず、光の柱だけが天に向かって上っているからだった。
そして、具現するのは巨大な輪郭。
「こ、これは……!?」
稀代の大鬼が今、まさに降臨しようとしていた。
…………
「結局、最後まで本気を出さなかったな。コタローとやら。勝った気がせぬでござる」
「いや……言い訳せん。負けは負けや。……強いな姉ちゃん」
小太郎と対峙していた楓だったが、苦戦することなく彼を組み伏せていた。
女性に対しては本気を出さないという彼の信条もあってこのような結果になったともいえるのだが、潔く負けを認めるところが実に清々しい。
そして。
「か、勝ったのですか……?」
木陰から姿を現した夕映が、まず最初に見たものが。
「か、楓さん……アレを!」
「む」
高い密度を誇る光柱から、巨大な何かが現れようとしているのが見えた。
…………
「せ、刹那さん! アレ!!」
アスカの助力で敵の包囲を抜けてきた明日菜と刹那。
ネギの元へと向かう途中で、またしても異形たちと遭遇していた。
追いかけてきたのか、あるいは別のところから応援に来たのかは分からない。
数だけ多くて、先へ進みたくても進めない状況に陥っていた。
そんなときに、明日菜が突如光り輝いた柱を見て目を見開く。
「えっ!?」
それは巨大であり強大な存在だった。
…………
「はぁ、はぁ、はぁ……」
アスカはかなり疲労していた。
劣化しまくりの魔力供給のせいでもあり、供給された魔力でアーティファクトの力を乱用していたからこその疲労だった。
しかしその甲斐あって、敵の数はかなり減ってきている。
真名も古菲も、とにかく目の前の敵を潰さんと己が武器を振るっている。
「アスカ!」
亜子の声が木霊する。
彼女は今動くことが出来ないからこそ、自分が守ってあげなければと思う。
だからこそ、彼女の側へと駆け寄った。
そして、見回すと。
敵に囲まれていた。
マズイな、とは思わない。
大事な友達が、力を貸してくれているから。
囲まれていても、負ける気がしない。
「大地よ炎よ、絡み合え。地炎連携……」
純白の大剣が黄金の光を帯びる。
満ち満ちた魔力は爆ぜ、音を立てる。
それを逆手に持ちかえると、大きく振り上げた。
「あかん、アスカ!」
敵が一斉に襲い掛かってきたことを亜子が伝えてくる。
もちろん、それはわかっていた。
だからこその、この力だ。
「大丈夫だよ……」
安心させるように、告げた。
光の爆ぜる剣を、無心で振り下ろす。
「龍陣剣!!」
切っ先を地面へと突き刺した。
同時に黄金の魔力が展開し、半径数メートルの魔法陣を作り出す。
襲い掛かってきた敵は、陣の中。
「ひっ」
目の前までやってきた敵が、爆音と共に大爆発を起こした魔力に当てられ、消えていった。
何が起こったのかわからず、驚きの声を上げたのはアスカにくっついていた亜子。
魔力が消え去った途端に周囲の敵が木っ端微塵に消え去っていて、助かったと言わんばかりにへなへなと座り込んでしまっていた。
ずぽ、と音を立ててアスカは剣を引き抜く。
腰を抜かした亜子へと顔を向けて、
「大丈夫だったでしょ?」
そう言って、笑った。
「アスカ、和泉!」
聞こえてきたのはあらかたの敵を倒し尽くした真名の声だった。
そちらの方へと顔を向けると、真名は冷や汗を流してアスカの背後を指差している。
それに従って顔を指差した方向へと向けると。
「な、なんやねんアレ――――ッ!?!?」
巨大な鬼が具現していた。
…………
「ふふふ……一足、遅かったようですなぁ」
儀式は終わった。
終わってしまっていた。
せっかく作戦が大成功をおさめて、木乃香を助けることができると思っていたのに。
目の前に現れたのは、圧倒的な存在感を誇る巨大な鬼だった。
「そ、そんな……こんな、こんなのっ!」
「つか、デカッ! オイオイオイオイ、ちょっと待てよ、デカすぎるぜ!」
魔力をほとんど使い切ってしまっている彼には……ていうか万全の状態でも勝てる気がしない。
絶対に無理だと、ネギは感じていた。
二面四手の巨躯の大鬼『リョウメンスクナノカミ』。
千六百年前に打ち倒された、飛騨の大鬼神。
召喚の儀式は、大成功……に、思われた。
「んぎゃ―――――ッ!!!」
ネギの目の前に、1人の青年が落ちてくるまでは。
どこから落ちてきたのかはわからないが、とにかく空から落ちてきたのだ。
白い襟付きシャツに、デニムのズボン。
髪は黒髪で短く切られ、腰には茶褐色のベルトが緩めにクロスしてつけられている。
そして、なによりネギの目を引いたのは。
「カタナ……?」
「てか、なんだよコイツ!? いきなり落ちてきやがったぜ!? おかしいだろ!!」
黒塗りの鞘に納められた、刹那のそれとはすこしデザインの違う『刀』だった。
「ててて……」
ぶつけた腰をさすりながら、立ち上がる。
背丈はもちろんネギよりも高く、声も低い。
なにより強く感じたのは、どこにいても感じることのできるような圧倒的な存在感だった。
ネギと向かい合うように立った彼はネギを見て、周囲を見回して。
「……んだよ、修羅場じゃねーか」
面倒だと言わんばかりにバリバリと頭を掻きながら、そんな一言を口走ったのだった。
はい。かなり昔に宣言した通り、サモ夢主を登場させました。
サモ連載あるいはDuel夢を読んでいらっしゃる方なら、
言動からこれが『裏』夢主であることがわかると思います。
ちなみに、『表』は出す予定はありません。
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