「あわ、わわわ……」
「あれ? 僕なにかヘンなことした……?」
顔を真っ赤にしてぱくぱくと口を開け閉めする亜子を見て、アスカはその行動の意味がわからず首をかしげた。
自分は男だから、紳士的に接したつもりだったのだけど。
「い、いまいいいま……手に……」
亜子からすれば、まるで漫画のような出来事だったのだ。
手の甲にキスをするなど、どこのラブコメだろうかと。
漫画として読んでいても恥ずかしいのに、いざ目の前で自分がされたとなると、それはもうテンパってしまう。
っていうか、すでに自分が何をやっているのかすらわかっていなかった。
「? ……よくわかんないけど、吐き気とかは大丈夫?」
「う……はひゃいっ!!」
顔は赤いままだが、すこぶる元気そうで。
「…………ま、いっか。それじゃ、真名たちを追いかけるよ?」
こくこくこくこく。
必死になってうなずいているのを見て苦笑し、今度は彼女の背中と膝の裏へと手を伸ばして。
「ひゃっ……!?」
横抱きにして抱き上げていた。
自分のアーティファクトである白い大剣はカードに戻してあって、今はポケットの中。
本来なら戦闘前に武器を納めてしまうなど危険なことこの上ないのだが、今は致し方ない。
「ちょっ……」
「さ、行くよ!」
今の彼に出せる最高の速度で、森の中を駆け抜けたのだった。
魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
それぞれの見せ場
「……っ」
両腕に強い衝撃が走る。
相対する敵が自分よりはるかに巨大で、屈強。
隆起する筋肉が、その腕力の強さを物語っている。
胴回りよりも一回り太い腕に、大きな存在感を誇る鋼の棍棒。
「こいつらも、別格か……っ!」
夕凪で受け流しながら、刹那は眉間にしわを寄せた。
雑魚は半分以下になるまで倒し終えて、次に現れたのは今までの敵よりも知性は高く戦闘に特化した烏族や狐女。
そして、目の前で雄叫びを上げる巨大な大鬼。
一緒に戦っていた明日菜は烏族を相手にまったく歯が立っておらず、連撃を浴び岩に叩きつけられていた。
本来は素人のはずの彼女だが、それでも必死になって剣を受け止め、弾き返し、反撃の刻を伺っていたのだが。
咳き込みながらもケガ自体はたいしたこともないようで、ネギの魔力の高さが伺える。
『我らは、今までの連中とはちと出来が違うぞ!』
「やっ……」
ハリセンを持つ右手を掴まれ、明日菜はそのまま持ち上げられる。
武器は右手にあるため攻撃もできず、身動きの取れない状況に陥っていた。
力、技量、経験。
その全てにおいて、彼女は目の前の烏族に劣っていた。
そして。
「!?」
立ち上る、純白の光柱。
夜空の星の輝きすらも消し去ってしまうほどにまばゆく、明るく周囲を照らし出す。
「どうやら、雇い主の千草はんの計画がうまくいってるみたいですな―――」
小柄な身体に、腰まである長い髪を揺らし、左右の手にはそれぞれ小太刀と脇差。
月詠という名の神鳴流を操る少女は、メガネの奥のタレ目を燦然と光らせ、刹那を凝視していた。
「どうアルか?」
「ふむ……炎やそこの光のおかげで照準が定めやすい。刹那たちは……」
ピンチのようだった。
戦力は2人で、そのうちの1人はすでに身動きが取れない。
……これは、報酬に色をつけてもらわねばならないな。
スコープから目を外すことなく不敵な笑みを見せると、木の上から銃口を構える。
目標は……明日菜を掴んでいるカラス男。
「行くぞ、古」
「腕が鳴るアルよ♪」
寸分の狂いなく、真名は手のスナイパーライフルの引き金を引いたのだった。
パスッ……!
「え?」
目の前の烏族の額に、小さな穴が空いた。
次に瞬間には頭を中心に爆発を起こし、烏族はその姿を掻き消していて。
急に自由になった明日菜には何が起きているかさっぱりわかっていなかった。
『術を施された弾丸……何奴!?』
大鬼の棍棒を折り、狐女のトンファーを狙い打つ。
ただのエアガンだと言い張っているのだが、その威力は折り紙つき。
「らしくない……苦戦しているようじゃないか」
さらに数回のマズルフラッシュ。
銃弾は周囲を囲っていた軍勢の一角を打ち抜いていた。
4人の烏族が彼女たちを囲むが、特に焦った様子もなく。
「……フ」
笑みを見せ、地面に置いたままのギターケースから、2丁の拳銃を跳ね上げさせる。
オートマチック型の拳銃は見事に彼女の手に収まり、腰を落としたかと思えば。
『ぬぅっ!』
4体の烏族の頭部に銃弾を命中させていた。
苦し紛れに繰り出した剣を左の銃身で受け流し、さらに一撃。
剣を撃ち砕き、銃口を身体につけてゼロ距離から打ち抜き、その悉くを翻弄し、無力化していた。
「なんで龍宮さんが……ってゆーかなんであんなに強いの――っ!?」
本当に驚く明日菜だが、刹那からすれば仕事仲間だったりする。
もっとも、職業的な違いがあったりはするわけだが。
そして。
「アイヤー。さすが真名アルね〜……しかしワタシ、本物のオバケ見るの初めてアルよ」
無邪気に目を輝かせたのは古菲。
本来なら無関係な一般人の彼女だが、「戦力になる」という理由で真名が連れてきていた。
「古、お前は人間大の弱そうな奴だけ相手をしてくれればいい」
「あ、バカにしてるアルね〜?」
ぷんぷん、という効果音が似合うほどに両手を振り上げ、反論しようとしたのだが。
背後からは敵がわらわらと彼女を狙って襲い掛かっていた。
「中国四千年の技、なめたらアカンアルよ〜〜♪」
なんだか、楽しそうだ。
背後から敵がきていることにハナから気づいていた彼女はくるりと振り返ると、振りかざされた棍棒を左手で弾き飛ばして。
強く右手を握りこむと。
「馬蹄崩拳!!」
繰り出した一撃が、複数体の敵をまとめて吹き飛ばしていた。
「くーふぇまで助けに……しかも結構強いし」
なんだかわかんないけど、助かった〜……
と、大きく息を吐いたのもつかの間。
「明日菜さんっ!!」
彼女に向けて、複数の鬼たちが襲い掛かっていた。
助けにいこうにも刹那も敵の襲撃を受けていて、とても他にかまっていられるほど余裕もない。
襲い来る一撃に、思わず目をぎゅっと閉じてしまっていたのだが。
「ダメだよ、戦闘中に目を瞑っちゃ」
そんな声が聞こえたかと思うと、目の前まで迫ってきていた一撃はいつまでたってもやってこない。
ゆっくりと目を開けると……
「戦場では、常に死と隣り合わせ。神経尖らせておかないとダメだよ、アスナ?」
白い大剣を携えて、明日菜を斬ろうとしていた敵を返り討ちにしたアスカと。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
「亜子ちゃん……?」
なぜか息を切らしてアスカの首にしがみついているいる亜子。
「大丈夫?」
「せ、せやから……ウチ絶叫モノはアカンて……」
森を抜けて、この場に到着するまでにジェットコースター気分を味わってしまい、亜子は激しく疲れた表情をしていた。
「アスカ……アンタたちまで、っていうか亜子ちゃんは部外者でしょーが!?」
「ちゃうねん、アスナ」
「へ?」
荒い息をやっとこさ整えた亜子はアスカの首から手を放すと、難なく着地していた。
下が地面ではなく浅い池だったから、
「つめたっ」
そんな声が思わず上がっていたのだが。
靴の中にまで水が浸透してくるため微妙に表情を歪めたのだが、状況が状況なのでとりあえず妥協して。
「ウチ、アスカのパートナーやもん」
まず、そう口にした。
「な、なんで……」
「それはなぁ……」
「説明は後。とりあえず、アスナと刹那はネギのところへ」
さき、行ってるんでしょ?
立ち上る光柱を見ながら、アスカはそう告げた。
すでにその光はなにかを形作っていて、ゴ○ラでも出てくるんじゃなかろうかと明日菜は1人苦笑する。
距離だけなら結構あるが、今からならきっと彼の助けになると思うから。
「ここは、僕たちにお任せ」
「お任せや♪」
ぐっ、と拳を握りこみ、2人に不敵な笑みを見せたのだった。
「ですが……」
刹那の見やる先には、敵の集団。
明日菜を翻弄し、刹那に苦戦を強いた烏族や大鬼の中を通り抜けて、無事でいられるはずがない。
そう、口にするはずだったのだが。
「大丈夫だって。僕が道を作るから……亜子、いけるね?」
「……………………ま、任せとき!」
答えるまでの間が気になるところだが、どんと胸を叩く亜子を見て表情を引き締めた。
道を作るなら、うってつけの力がある。
でも、自分だけではきっと足りない。
だから、他から魔力を借りて威力を底上げする。
今の自分にならできると思った。
パートナーが近くにいるからこそ、魔力を供給してもらえるから。
「え、えーっと……落ち着いて、集中して……イメージや……」
もう10年近く前のこと。
魔法が使えないことを知らず、必死になって魔法の勉強をしたことがあった。
もっともテキストはネカネのお下がりだし、媒介になる杖だって有りはしない。
それでも、魔法が使えると信じて止まなかった小さなころ。
そのときにテキストにかかれていたことがわからなくて、ネカネに尋ねたことを覚えていたのだ。
「息を吸い込むように、自然に……自分に入ってくるイメージ……」
亜子は目を閉じたまま。
一撃の元に敵を送還する明日菜のハリセンと、退魔の力を宿した神鳴流を己が流派とする刹那。
そして、四大元素を操るアスカの大剣。
敵の集団に対し明日菜と刹那とアスカの3人がそれぞれの武器を以って、彼女を守るように応戦し撃退していった。
「よっしゃ、いくで!」
始動キーもなにもあったもんじゃない、劣化した従者への魔力供給。
亜子はあたりに充満する魔力をわずかに感じながら、聞いていたフレーズを口にしているだけ。
彼女は元々、何も知らないはずの一般人なのだから。
「契約執行……五秒間」
それでも還っていく敵の魔力の残り香をかき集めて、亜子はただ言葉を紡いだ。
すべては、今の状況を打破するために。
「亜子の従者、神楽坂飛鳥!!」
亜子の声を聞いた瞬間。
身震いと共に、大きな魔力がアスカの中へと流れ込んでいった。
強引に開放された木乃香の魔力には劣るものの、それでもなお膨大。
アスカの周囲を光が包み込んだのを確認して、大剣を持った右手を大きく引いた。
それは、明日菜も以前見たことのある構え。
仮にも真祖の吸血鬼であるエヴァンジェリンの魔法障壁を打ち抜くほどの威力を持つ、アーティファクトの力の一部。
「炎よ風よ、絡み合え……炎風連携!!」
刀身を紫光が包み込む。
アスカの周囲を覆っていたすべてがそこへ収束し、バチバチと光が爆ぜる。
「瞬雷!!」
剣を持った右手を突き出す。
爆ぜる光はその刀身から押し出されるように突き出て、1本の巨大な大砲と化していた。
以前はマンホール程度の太さだったものが今回はそれを大きく上回り、切っ先に光球が出現したかと思えば、それは1度3つに分散し、3メートルほどで再び1つに収束して、渦を巻きながら一直線に敵集団をぶち抜いていた。
その光条は敵を吹き飛ばしても衰えることなく飛来して、正面に位置していた光柱に激突し霧散していた。
この柱は、それほどに密度の濃い魔力を持っているのだろう。
「なんか、前よりすごいことになってるわね……」
「ま、まぁええやんか! ほら、ちゃんと道はできたし」
そんな言葉を口走りながら、亜子は前かがみに倒れかかっていた。
慣れない魔力行使や、未完成な術式を用いた結果だ。
そんな彼女をアスカが受け止め、2人に行くようにと促す。
心配そうに見つめる2人にうなずいて見せると。
「すみません! 行きましょう、アスナさん!」
「う、うんっ!」
アスカと亜子の共同作業によって作られた道を駆け、2人は森へと消えていった。
…………
「大丈夫?」
「ちょっと疲れてもうたけど、だいじょぶや」
「よかった……やっぱり、亜子はスゴイ力を持ってる……才能も」
ある。
基礎すらも吹っ飛ばして、無駄が多いものの魔力供給をやってのけたのだから。
もっとも、周囲に木乃香の魔力の残滓があったからこそ、できたようなものなのだけど。
だからこそきっと、この先敵に狙われる。
今だけでも『七天書』の守護者たち。彼らは強大な魔力を欲している。
この混乱に乗じて、ちょっかいを出してくるに違いない。
「……立てる?」
「う〜ん、ちょっとふらふらするかもしれんけど……多分大丈夫や」
肩を支えて、亜子を立たせる。
まだ敵はたくさんいる。彼女を守らなければ。
アスカは彼女を背にして、剣を構えた。
「ここから、動いちゃダメだからね?」
「え、うん……了解や」
幸いなことに、背後に敵はいない。
真名と古菲が相手をしてくれているから。
だから。
自分の前方を守りきれば、何の問題もない!
アスカは気を両腕に纏わせて。
「ええぇぇぃっ!!」
大剣を思い切り振りかぶったのだった。
すいません(土下座)。
亜子に魔法を使わせてしまいました。
木乃香や夕映が苦労しているものを、あっという間にやってのけてしまって。
原作のルールを思いきり破っているような気がしてなりません。
※ルビ使ってみました。
他でも少々使っていますが、IEなら標準装備されているはずですので。
そちらを使ってみてくださいね。
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