「ちょっとちょっと! こんなのアリなの!?」

 明日菜はとにかく焦っていた。
 水面より上にに浮かぶ天ヶ崎千草が木乃香に札のようなものを貼り付けて呟いたかと思ったら、地面からたくさんのバケモノが湧いて出てきたのだから。
 大きいものから小さいものまでその大きさは数多。
 持っている得物も多種多様。
 ただ、唯一その全員に共通していたのが……

「鬼……」
「ヤロー、このか姉さんの魔力で手当たり次第に召喚しやがったな!!」

 頭の上から生えている角だった。
 千草と身動きの取れない木乃香の姿はすでになく、自分の仲間はネギと刹那だけ。

『何や、何や。久々に喚ばれた、思たら……』
『相手はおぼこい坊ちゃん嬢ちゃんかいな』

 低く、太い声。
 雄叫びだけでも人々の恐怖感をあおることができるであろうその存在感。

『悪いな、嬢ちゃんたち。喚ばれたからには、手加減できんのや……恨まんといてな』

 いるだけでも、この中で唯一一般人から魔法の世界に関わって日の浅い明日菜は歯を打ち鳴らし、身体を震わせていた。
 理由は言うまでもなく、今までに感じたこともないような恐怖。
 平和な世界をのほほんと生きていれば、それもやむなしと言ったところなのだが。

「大丈夫です。明日菜さん、落ち着いて!」
「う、うんっ!」

 刹那の励ましによって、何とかその場でアーティファクトであるハリセンを構えていたのだった。

「兄貴、時間が欲しい。障壁を!」
「う、うんっ!」

 ネギは小さく詠唱を始めると、程なくして風の障壁が3人を包み込んだのだった。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
きみをまもる




「……よし」

 ここだね、と本山への鳥居前に立ったのは、5人の人影だった。

「この先で問題ないのだな?」

 ギターケースを背負い、鳥居を見上げる褐色の女性――龍宮真名と。

「ふむ、リーダーの話では、ここに間違いないはずでござるが……」

 チャイナ服に身を包んで、背中で長い髪を結わえている女性――長瀬楓と。

「ん〜、ここに強いヤツがいぱいいるアルか」

 同じくチャイナ服を着込んだ、金髪の少女――古菲と。

「なあなあ。この先で、大変なことになっとるん?」

 未だ一般人でありつい昨日、魔力の存在を確認した少女――和泉亜子と。

                              
アデアット
「うん。でも亜子は、僕にしっかり掴まっててね……来たれ!!」

 カードから自らのアーティファクトを召喚する少女のような少年――神楽坂飛鳥。
 手に持ったカードは淡い光を発し、純白の大剣を形成する。
 長い髪を1つに結わえて、戦闘準備は完了した。

 バンショウノツルギの柄を握った時に感じる違和感は、おそらくパートナーが変わってしまったことが原因だろう。
 しかも、以前よりも強い力を感じる。
 パートナーである亜子の魔力が強い証拠だった。

「わ、アスカすごいアルね」
「あ、あはは……」
「さてそれでは、行くとしようか」
「応、でござるよ」

 コンクリートで覆われた地面を蹴りだし、森の中へ。
 その速度は疾い。

「ひゃあぁ」

 そんな素っ頓狂な声を上げているのはもちろん亜子だが、それを気にかけているヒマはない。
 木々の間を抜け、破壊された休憩所を通り越し、広い並木道を抜けて。
 目指すは、ちょうど今竜巻が上がっているあそこ。

「……♪」

 後ろにしがみついた亜子から、じかに魔力が伝わってくる。
 微弱とはいえ、今までに比べて断然多い。
 これなら、少し無理をしても大丈夫だろうな、と思うのは当然のことだった。

「ぐえっ!?」
「うわわわ、ゴメーン!」

 重力などによって稀にアスカの首が亜子の腕で締め付けられるが、それでも真っ直ぐに目的地へと向かっていた。






「わああっ!!」

 ハリセンを振りかざし、戦場と化した浅い池を明日菜は疾走する。
 水の抵抗などないかのように足を動かし、目の前の異形たちを一撃の下に送還する。
 彼女のハリセンは、ただのハリセンではない。
 正式名称「ハマノツルギ」。
 召喚されてきた魔物を一撃で送還し、魔法を打ち消すことができる大剣。
 つまり、目の前にいる鬼たちはみんな、彼女の手にかかれば一撃で無力化されてしまうのだ。
 本来戦闘は素人な明日菜だが、それを補っているのが彼女の生来の身体能力とネギの魔力供給による影響が大きい。

「うわ、結構いけそうかも……」

 そう考えてしまうのも、無理はない。
 そんな声に激昂したのは、もちろん召喚された鬼たちだった。
 一斉に明日菜に襲い掛かり、彼女を無力化しようとするが。

「神鳴流奥義……」

 彼女の影から現れた野太刀を振るって襲い掛かった2体を斬り伏せて、さらに。
 背後の群れに向けて、

「百烈桜華斬っ!!」

 円を描くように自らの太刀を振るい、旋風と共に敵を斬り倒した。
 しかし、周囲には未だ敵は多く、刹那と明日菜は互いに背中を合わせて息をつく。
 警戒を常に、荒い息を整える2人。
 表情には微笑が宿っていた。

「結構、いいコンビかもね。私たち」

 修学旅行帰ったら、剣道教えてよ♪

 そう言いながら、軽く刹那を見やる。
 苦笑を交えながらも、刹那も軽く了承して見せた。
 彼女自身も、まだまだ未熟。精進が足りておらず人に剣を教えるには至っていないのだが、本格的な実戦でアレだけの大立ち回りをしてみせる明日菜なら、と。


 ……互いに剣を交える日が楽しみです。


 刹那も、そう思わずにはいられなかった。








「そろそろかな……」
「アスカぁ、ちょうゆっくりにできん?」

 はきそう……

 乗り心地最悪。
 必死になってアスカの身体にしがみついていた亜子だったが、そろそろ限界が訪れたらしい。
 顔色も青く、本当にヤバげなのは一目瞭然だった。

「アスカ。お前は和泉と後からゆっくり来るといい」
「もっとも、拙者たちでことは終わってしまうかもしれんでござるが……」

 せっかく駆けつけたのに、ついてみたらもう終わってました。
 それはさすがに悲しすぎる。

「楓、茶化すのはよせ。相手は手練なのだろう? お前たちが来るまでには、まだまだ敵は残っているはずさ。戦力は多いほうがいい」

 楓をいさめて、真名はそうアスカに告げた。
 目的地までもう目の前なのに……でも、しかたない。
 真後ろで亜子に体調を崩されては、たまったものじゃないから。

「じゃあ、後から必ず追いつくよ」
「わかたヨ。2人も気をつけるアルよ?」

 そう口にした古菲に笑みを返し、アスカは走るスピードを緩めたのだった。



「大丈夫?」
「ゴメンな、足引っ張ってもうて」

 亜子を近くの木の幹に下ろして、背中をさする。
 相変わらず彼女の顔は青く、辛そうだ。

「こっちこそ、無理させちゃってゴメンね」

 ずっと、背中に掴まらせたままだったのだから、気持ち悪くなってしまうのも仕方ないとか思うわけだけど。
 アスカは悪くないよ、と亜子は軽く首を振ると、うつむいた。

「ウチな、ずっとみんながうらやましいて思っとったんよ」

 個性的なクラスの中でも、取り得もないし、将来の夢のようなものもない。
 ごくごく普通の一般人で、普通の女子中学生。
 元々、色々とスゴイ人が多い3−Aの中では、自分は埋もれてしまう。

「アスカのことだって、スゴイなーて思っとるんよ?」
「え……」

 図書館島ではほとんど架空の生き物だったドラゴンと対峙し、おぼろげだがエヴァンジェリンと茶々丸のペアと対等に渡り合っている彼の姿。
 そして、誰もいないところで見せた……涙。
 きっと、これがアスカのマイナスなんだと亜子は言う。
 物語の主人公は、そのほとんどがマイナスな何かを背負って生きている。

 両親がいない。
 故郷を追われている。
 事件に巻き込まれた。
 などなど。

 そんな人間は逆境を乗り越えて、強くなる。
 でも、自分はそうではない。

「ウチは今までフツーに生きてきたし、これからもずっと……フツーに生きていくと思う」

 魔法の事だって知ったのはつい最近だし、自分の中に魔力がある事だって今まで知りもしなかった。
 もし図書館島でアスカを追いかけていなければ。
 半ば強引だったとはいえ一緒の部屋になっていなければ。
 どこの部屋なのか気になって、彼を探したりしなければ。

「きっとウチ、ここにはおらへんかったって思う」

 今回、こうして未知の『戦い』という行為に参加したいと思ったのも、偶然が重なった産物。
 一緒に戦いたいと思ったのも、友達が傷ついて欲しくないというものと、今まで脇役だった自分から一歩踏み出してみようとただ漠然に思ったから。
 普通で脇役な自分に、何ができるかはわからないけど。

「ウチもなにかしたいんや。アスカだけに、つらい思いはさせたないんや!」

 アスカが今までにどのような経験をしたかなど、亜子にはわかるわけもない。
 でも……もうあんな涙は見たくないから。

「……ありがとう、亜子。僕、すごい嬉しいよ」

 本当なら、ここまで巻き込みたくなかった。
 できるなら、平和な日常を幸せに暮らして欲しかった。
 ……でも、きっともう手遅れ。
 自分と仮契約を結んでしまったせいで、きっと彼女は危険に晒される。
 だったら……守って見せよう。



「僕は亜子のパートナー。なにがあっても、僕は君を守るよ」



 彼女を傷つけようとする、あらゆるものから。
 それが自分に課された責任であり、自分がなによりも優先していきたいことだから。

 アスカは木の幹に座り込んでいる亜子の前に跪き、おもむろに彼女の手を取ると。




「ひゃわ……っ、あわわわわ……」




 彼女の手の甲に、口付けた。




「あわわわわ――――ッ!?!?」




 未知の体験に、亜子は顔を真っ赤に染めて。
 つい声を上げてしまっていた。








ナイト爆誕。
もはや、この小説は亜子夢に確定です(爆)。
さらに、14巻のネタを少々混ぜてみました。



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