ペトリフィケーション
「兄貴、落ち着けよ! わざわざ石化の魔法を使ってきたということは、堅気に危害を加えるつもりはないってことだ」
「う、うんっ!! でも……」

 ネギは長い廊下を駆け抜けていた。
 親書も渡して、特使としての仕事も終わって。
 やっとこさ先へ進めると思っていた矢先のことだった。
 悲鳴を聞きつけて開いた障子の先に、石像と化してしまった己が教え子たちを目にしてしまったのだ。
 のどかに至っては、カードを取り出したところで石になってしまっている。
 その中に1人の少女の姿がないことなど、知る由もなかった。

「「!!」」

 曲がり角に差し掛かったところで、細身の刃が突きつけられた。
 走る速度に急ブレーキをかけて、杖の先端を目の前のシルエットに突きつける。
 それは。

「刹那さん!!」
「ネギ先生!?」

 木乃香に話があるということで、風呂場にいたはずの刹那だった。
 彼女曰く、ただならぬ気配を感じて飛び出してきたとのこと。
 事の顛末を話そうとしたところで。

「ネ……ネギ君、刹那君……」

 ごとり、と下半身を石にして、苦しげな表情を浮かべていた詠春の姿があった。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
いざ、出陣




「も、申し訳ない……2人とも。本山の結界を過信しすぎていたようです……」
「長さん!!」
「平和な時代が長く続いたせいでしょうか……か、かつてのサウザンドマスターの盟友が、情けない」

 壁に手をついて、詠春はそう口にした。
 侵入してきたのは、白い髪の少年。
 彼は、本来なら破られることのない本山の結界をいとも簡単に潜り抜けた。
 それだけ、優秀な術者なのだろう。格の違う相手だ、と言っても、間違いではないだろう。

「貴方たち2人ではつらいかもしれません。学園長に……連絡を……」

 首上まで石化が進み、動くことすら適わなくなっている。
 すべてが石化するのも時間の問題だった。
 それでも、詠春は話すことをやめない。

「どうか、この……かを……頼み……ま……す」

 その言葉を最後に、詠春は完全に石像となってしまっていた。
 ざあ、と強い風が吹き荒れ、木々を揺らす。

 ……立ち止まってなどいられない。

「行きましょう、先生!!」
「はいっ!!」

 2人は周囲を警戒しながら、いまだに無事だろう木乃香と明日菜の姿を探しすのだった。















 ぱーららぱらららぱらららら――♪

 所変わって、ホテル嵐山。
 班別行動を終えて続々と戻ってくる3−Aのクラスメイトたちを見やりながら、楓は携帯電話を耳に当てていた。

「もしもし……おや、バカリーダー?」

 電話の相手は、本山で1人逃げ延びた夕映だった。
 石化の魔法を唱えられ煙が押し寄せる中で、和美が彼女を煙の届かない隣りの部屋へ押しやったのだ。
 もちろん、その場で座り込んで呆然としていられるほど彼女の頭は悪くない。
 打ち付けた腰をさすりながらも本山を抜け出して、森をひたすら走っていたのだ。
 どうにかしなければ、とは言っても、当てなど見当たらない。
 そもそも現実にはあり得ない現象がつい今、目の前で起こっていたのだから、それを模索しているヒマすらない状態だった。
 でも、和美の転機で今自分はここにいる。
 みんなを助けるためにも何とかしなければ、という気持ちが、彼女に携帯電話を持たせていた。

「ふむふむ……山の中? ほう……」

 楓はつまんだポテトチップを口に放りながら、彼女が何を言いたいのかを理解した。
 目の前にはチャイナ服に身を包んだ古菲と、ギターケースを背負った真名。
 そして、なんだかうなだれているアスカの姿がある。
 彼女たちを視界に入れつつ、

「つまり……助けが必要でござるかな? リーダー」

 そう口にしたのだった。












 ぱちんっ

「ぬむっ」

 放たれた一手に、近衛近右衛門は長く伸ばされたヒゲをなぞった。
 目の前には、1つの碁盤。
 相対するは、金髪の少女。吸血鬼の真祖にして不死の魔法使い。

「ま……」
「待ったはナシだ」

 戦況はこちらの圧倒的不利。
 覆られそうにもない戦況と、容赦のない一言に小さくグチりつつも、コール音の鳴った携帯電話の通話ボタンをプッシュした。

「もしもし、わしじゃが……おお、ネギ君か! ほう、親書を渡したか……いやいや、それはご苦労……何じゃと!?」

 急に顔色が変化した。
 ほっほっほ、とやわらかな笑みを浮かべていた彼の表情が険しいものへと。
 京都は関西呪術協会で起こっている事態を聞き、こうしちゃおれんと視線を泳がせた。
 突然起こった一大事。
 戦力が欲しいというネギの言葉に、

「……ほ!」

 目の前の少女に目をつけた。












「……どーいうことなん?」
「えーと……」

 なんと言ったらいいのだろうか。
 アスカは迷っていた。
 事故ではあったものの、仮契約すら書き換えてしまったため、さすがに無断でというわけにはいかなくなったのだ。
 なので、その相手である亜子を人気のないところまで引っ張って、説明をしようとしたのだが。
 やはり、遠まわしでは無理があった。

「アスカは表情に出すぎやで。何考えてるかくらいウチじゃなくてもわかるで」
「う……」

 彼の真剣な面持ちが、事の重大さを物語っているし。
 何より、自分だけに「出かけてくるから」なんて言うのもおかしいというもの。
 その上、ちょっと身体がだるくなるかもしれないから、などと言われては黙っていられない。
 アスカが出かけるのに、なんで自分に影響がでるのだろうか?
 考えれば自ずとわかることだった。

「戦いに……行くんやね?」
「…………」

 アスカは説得の無意味を悟ったのか、うなずいた。
 彼は亜子の従者。仮契約とはいえ、それは間違えようもない事実で。

「止めたところで……意味はないやろし……」

 ふむ、とあごに手を添えて天井を仰ぐ亜子。
 表情は真剣味を帯びており、事を楽観視しているようには見えなかった。
 先日の図書館島での出来事を見たせいだろうか。

「だったら、ウチも行く!」
「……は?」

 耳を疑った。
 平和な世界にいたのに、自分から危険な地へ飛び込もうなど。
 本来なら馬鹿としか言えない行為だったのだが、彼女の瞳は真っ直ぐにアスカを射抜いている。
 とても、興味本位で言っているようには見えなかった。

「でも……危険だよ? ヘタしたら死ぬかもしれない」
「そんなトコに、アスカも行くんやろ!? ウチはアスカのパートナーやもん。一緒に行かな」
「血とか……」
「そんなん、気合や! 気合でカバーやねん!!」

 本来なら気合の一言で済むような問題ではないのだが、反撃を許さない気迫が、彼女から満ち溢れているようで。

「昨日、1つ願いを聞いてくれるてアスカ言ったやろ。ウチの願いはそれや、それでええ」

 なんてこった。
 あのときの『何でも言うこと聞く権利』を、こんなところで行使しようとは。
 できる限りのことはする、と言っておいたものの、今回のことは一緒に行くことはできても危険が伴う。
 そんなところに、彼女を連れて行きたくはなかったのだが。

「ウチが行きたいんや。どんなに危なくても」
「亜子……」
「アスカと同じものを見て、これからのこと考えていくつもりや」

 亜子の中に、ネギの姉ネカネよりも大きな魔力が眠っている。
 アスカの契約を書き換えたことでそれは実証されているが、なにより彼女が魔法使いの世界というものを未だ軽く見ているふしがある。
 それでも、赤茶色の瞳には強い輝きが宿っていて。

「……わかったよ。そのかわり、僕から離れちゃダメだからね?」
「…………うんっ!!」

 神楽坂アスカ、和泉亜子……参戦決定。



「アスカ、そろそろ出るぞ」
「あ、うん」
「和泉どの……どうしたでござるか?」
「ウチも一緒に行くことになったんや」
「オォ〜、亜子も一緒アルか」
「って、なんでくーちゃんまで?」
「コイツはこう見えて中国拳法の達人でな。戦力になるかと思ったんだ」

 ホテルの入り口でそんな会話をしつつも、先生たちに見つかる前に外へ。
 宿を抜け出すのは修学旅行の醍醐味でもあるわけだが、今回は遊びに行くわけじゃない。
 戦闘経験はおろか、今までずっと平和に暮らしてきた彼女に楓や真名は不安を覚えていたものの、アスカの一言と、仮契約の相手であることを告げたことで、納得せざるを得ない状況になっていた。
 古菲の実力はアスカも知っているので、こちらは安心だと思う。
 問題は。

「大丈夫やって。ケンカとかは嫌いやけど、知らんトコで友達が傷つくのはもっと嫌やから」

 危険な場所に行く、という覚悟も。未知の世界への恐怖も。
 全てを備えてなお、彼女は真剣な視線を楓と真名に向けて見せたのだった。
 古菲、龍宮真名、長瀬楓……参戦決定。











「アスナさんっ!!」

 当初の目的地だった、風呂場で。
 素っ裸で倒れている明日菜を見つけて、刹那とネギは慌てて駆け寄った。
 外傷はないものの、意識はかなり遠いところまで飛んでいるよう。
 助け起こした刹那の顔を見て、うっすらと目を開いていた。

「う……うう、刹那さん……私、もうダメ」
「ハッ……ま、まさかアスナさん……」

 さああ、と刹那の顔色が青くなっていく。
 風呂場で、裸で、何をされたか。
 とくれば。

「えっちなこと、とか」
「されてなーいっ!!」

 びしぃっ、と勢いよく突っ込みを入れていた。




 白い髪の少年と遭遇し、彼は石化の魔法でアスナを石像にしようとしたのだが、なぜか服だけが石になって割れてしまうだけにとどまって。
 結局、水の符術『水妖陣』によって形作られたお湯の手が彼女を掴み、これでもかと言わんばかりにくすぐりまわったのだ。
 ある意味、刹那の言う『えっちなこと』に入るのかもしれないが、そのせいであっけなく木乃香は連れ去られてしまい、今に至っている。

「っ!?」

 初めにその気配に気づいたのは、刹那だった。
 振り返ると、その先には白い髪の少年。
 牽制のために放たれた手を弾いて、少年は右手に拳を作ると。

「かはっ……う、ぐぅ……」

 刹那を吹き飛ばし、まるでピンボールのように床、壁を経由して。
 大きな窓の横の壁に背中を打ち付けて、咳き込んだ。
 詠春が言っていた姿と、酷似している。

 きっと、彼がそうなんだと。
 ネギは確信をもっていた。

「みんなを石にして……刹那さんを殴って……このかさんをさらって、アスナさんにえっちなことまでして……」

 ぐっ、と杖を握りしめる。
 アスナさんも刹那さんも、クラスのみんなも。
 みんなみんな、僕の大事な友達だ。
 それなのに、みんなを苦しめて。

 ……許せない、許せない。

 ……許さない。

「僕は……許さないぞっ!」

 声を荒げて、ネギはそう口にしたのだった。








原作の中に少々のオリジナル入れ。
亜子が堂々参戦です。
もちろん、アスカくんのパートナーとしてですね。



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