「お帰りなさいませ、このかお嬢様――――っ!!」

 緑の多い並木道をゆっくりと歩いていたネギ一行は、ついに関西呪術協会の総本山へと足を踏み入れていたのだが。

「うっひゃー、コレみんなこのかのお屋敷の人?」
「いいんちょ並みのお嬢様だったんだね〜」

 というハルナと和美の言うとおり、彼女―――近衛木乃香の実家でもあった。
 入り口でいきなり巫女服に身を包んだたくさんの女性たちに出迎えられ、敵の本拠地だと身構えていたネギと明日菜はぽかんと大口を開けていた。
 緑の並木道の先の広大なお屋敷。
 春らしく桜さえ舞っていてそれはもう美しい光景で、見ている者を魅了してしまうだろう。
 そのまま一行は屋敷の中に通されたのだが。

「うわ、なんかすごい歓迎だね〜こりゃ」
「これはどーいうことですか?」

 と、本来ならここにいてはいけないはずのハルナや夕映がネギに尋ねていた。
 先の和美も含めて、3人はネギたちと合流すべくシネマ村を後にした刹那と木乃香の後をつけてきていたのだ。
 もっとも、卓越した運動能力を持つ刹那に一般人の彼女たちが追いつけるわけもなく、和美のとっさの機転によって放り込まれたGPS携帯によって衛星を介して追いかけられていたので、つけていたというわけでもないのだが。
 とにかく、さすがといえばさすがだ。

「実は、修学旅行とは別の秘密任務を受けてまして……」
「「秘密任務?」」
「コラコラ。それ言っちゃって大丈夫なの?」

 とまぁ、安全だとわかった上に一般人である3人を心配させるわけにもいかず、テレテレとここへきた理由を口にして明日菜にツッコまれていたわけだけど。

「お待たせしました」

 そんな声が聞こえて、雑談はなりを潜めていた。
 奥にある階段からゆっくりと、優雅に降りてきたのは。

「ようこそ、このかのクラスメイトの皆さん。そして、担任のネギ先生」

 儀礼にでも使うような和服に身を包んだ男性だった。

「し、渋くてステキかも……」
「アンタの趣味はわからんわ―っ!!」



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
始まりへの序章




 さて、USJを後にしていざホテル嵐山へ、と電車の乗換えをしていたアスカたちだが。

「むぐむぐむぐ……」
「そないに慌てて食べんでも」
「なんか、急にお腹すいちゃって」
「あんまり食べると、晩御飯食べられなくなっちゃうよ?」

 それに太っちゃうし。

 そんなまき絵の発言はもっともなのだが、以前から退魔の仕事を請け負ってきたアスカにとっては、まったく問題にならない話だった。
 身体が鈍らないようにと軽いトレーニングはいつもしているし、昨晩だって戦闘を繰り広げたばかりだ。
 このくらいの間食は、まったくと言っていいほど意味をなしてはいなかった。
 元々男だという理由もあって、興味すらない。
 適度に筋肉がついていれば、それでいいのだ。

「おとついは鍋料理だったが、今晩は何をごちそうしてくれるのかな」
「「「鍋?」」」

 この場で知らないのは、亜子と裕奈とまき絵の3人である。
 なぜなら、酒飲んでダウンしていたので。
 2日目はラブラブキッス大作戦の影響であまり食べ物を口にしていなかったのだ。

「なにそれぇっ! いつ、いつ食べたの!?」
「え、いや……おとついの晩だけど……楓とかみんなも呼んで……」
「ウチらも同じ班やん! そのウチらがなんで知らないん?」
「だって……3人ともお酒飲んで寝てたし……」

 まくし立てた裕奈と亜子に言ったのはアキラだった。
 彼女は3−Aの運動部のメンバーの中でも唯一、初日に酒を口にしなかった。
 だからこそ、彼女も一緒に鍋を食したわけで。

「それなら、今晩はアスカに大いに腕をふるってもらおうじゃないか」

 真名だった。
 晩御飯の時間だって決まっているはずなのに、実に勝手な話だけど。

「修学旅行の醍醐味だ。いいじゃないか」







 また、厨房の道具を借りろと?








 …………








 夜。
 広い風呂でネギとカモ、そして木乃香の父――近衛詠春が湯に浸かっていた。
 外とは竹柵で仕切られているだけで、自然の風が舞い込んで敷地内に咲く桜の花びらが実に幻想的な光景を作り出している。
 まだまだ幼いネギとは反対に、詠春の身体には無数の傷が刻まれていて。
 その傷跡は、今まで彼が必死に戦ってきた経緯がありありと示されているようだった。

「この度はウチの者たちが迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」
「いえ……」

 関西呪術協会は、以前から東の関東魔法協会を快く思わない人もいて。
 今回は実際に動いたものが少人数でよかった、と詠春は苦笑して見せた。

「あいにくどこも人手不足で、腕の立つ者は仕事で西日本全域に出払っているのですが……明日の昼には各地から戻りますので」

 後のことは私たちに任せてください。

 詠春は最後に、そう口にした。
 ネギが遭遇したお猿のお姉さん……天ヶ崎千草は、西洋魔術師に対する恨みのようなものを持っていて。
 長である詠春でも詳しいことはわからずじまいだということらしい。

 木乃香を狙う理由は、ネギの父であるサウザンドマスターをも凌ぐ強大な魔力を持っているからだった。
 『近衛』という血脈を代々受け継いだ彼女だからこそ。その力を利用すれば、西を乗っ取り東を討ち果たすこともできると。
 彼女はそう考えて、木乃香誘拐を目論んでいたのだろう。
 詠春はそうなることを防ぐために関東魔法協会のある麻帆良学園へ住まわせて、木乃香自身にも魔法のことを秘密にしてきたのだ。

「あれ……ところで、サウザンドマスターのコトをご存知なんですか?」
「君のお父さんのことですか? フフ、よく存じていますよ。なにせ……」

 お湯の中から右手を出すと、親指を立てる。
 にか、と笑って見せると、

「何しろ私はあのバカ……ナギ・スプリングフィールドとは、腐れ縁の友人でしたからね」
「え……」

 20年前に起こったという大戦に参加し、多大なる活躍を見せ英雄と謳われたサウザンドマスターとその仲間たち。
 彼は、その1人だったのだ。
 これにはネギも驚いて、開いた口がふさがらない。

「知り合いといえば、あとは最近魔法界を賑わせている彼女……ですかね」
「彼女……?」
「ええ。あの顔は、私もよく知っています……」

 詠春は顔だけを移動して虚空を仰ぎ見て、嬉しそうに微笑む。

「白い剣を携え、1人舞うように戦場を駆ける……『舞姫』と噂されている少ね……もとい、少女でしたか」

 そう言って、苦笑する。
 まるで、『舞姫』の存在をよく知っているような口ぶりに、表情。
 ネギはまだ幼いせいか、情報など収集しないしわかるわけもない。っていうか先生業にてんてこまいなわけだ。
 だからこそ、その存在すらこの場で初めて知ったようなものだった。

「本当に……大きくなったものです」

 まるで子供の成長を目の当たりにしたような笑みなのが、どこかネギには引っかかっていたわけだけど。

「あの……」
「ですから、あのシネマ村の一件はどう見ても不可思議なのです! 物理的に!」

 声をかけようとしたところで、そんな大きな声が聞こえてきていた。

「おや……これは大変。ご婦人方が来られたようですね……案内を間違えたかな」

 慌ててお湯から上がると、裏口から脱出しようとネギを促した。
 同様に彼も慌てて詠春の後を追うが……その先には。

「わあっ!!」
「きゃあっ!?」

 どしーん、と。
 なにかと激突していた。
 それは。

「あっっ!?」

 先に入っていた明日菜と刹那だった。
 ネギとぶつかったのは明日菜の方で、ネギが彼女に覆い被さる形で倒れこみ、その右手は彼女の胸を包んでいた。
 さらに……

「朝倉さん、私に何か隠しているでしょう!」
「ゆえっち絡み上戸だね〜〜」
「私は酔ってませ――んっ!!」
「あ……」
「え……?」

 沈黙。
 風呂場の出入り口には5人の少女たち。
 浴槽を挟んだ先では刹那と詠春と、一緒に倒れこんだ明日菜とネギ。
 それを見て……

「キャ―――ッ!!」
「いや〜〜〜んv」
「あわわわ」
「お父様のエッチ―――」
「ハッハッハ」
「何で男女別じゃないんですか―――!?」
「……温泉じゃないんですから」

 大混乱。
 今しがた入ってきたメンバーはその光景に歓声を上げるし、刹那と詠春は苦笑いするしかないし、当事者2人は慌てるだけだし。
 慌てていたのはむしろネギだったわけだけど。






 一方、その頃ホテルでは。

「ねえ、なんか今日のアスナとネギ先生、ヘンだよね」
「そういえば、朝倉たちも目が虚ろで……」

 ぽしょぽしょと話をしていたのはチア3人組だった。
 彼女たちの視線の先にはどこか目が虚ろな明日菜とネギ。
 雰囲気も得てして妙だったが。



 ……



 …



「コラ新入り! あんたが追わんでえーてゆーから放っといたら、総本山にまで入られて手出しできんやんか!」

 親書も渡ってしもたし―――っ!

 きぃーっ、と金切り声でも上げそうな勢いで、お猿のお姉さん―――天ヶ崎千草はまくし立てる。
 その矛先は学生服に近い服を着た白髪の少年に向かっていた。
 怒りの表情を受けていても、その表情に変化はない。

「大丈夫ですよ。僕に……任せてください」

 少年は1人、そう口にしたそのときだった。

「よお、首尾はどーよ。少年?」
「…………」

 1人の青年が、ヒラヒラと手をふっていた。
 今いるのは高い木のてっぺんで、一般人ならまず下から眺めるだけなのだが。
 しかも、ここは関西呪術協会の敷地の目の前だ。
 普通の人間では、まず入ってくることもできはしないはずなのだが。

 長く青の混じったグレーの髪をポニーテールにまとめて、その色とはまた違った灰色のシャツと、デニム地のズボンをはいている。
 前髪は目を隠すくらいに長くて、その隙間から瞳をのぞかせていた。
 白髪の少年は瞳だけを動かして、青年を見やる。
 しかし、すぐにふいと顔を反らした。 

「……あ、無視? 無視すんのか? きっついなー」

 その青年は、少年の態度を気にすることなくからからと笑う。
 しかし、すぐにその軽いつり目を細めると、

「……てめェ、死にてェか?」

 そう口にして、睨みつけた。
 右手をほのかに蒼く光らせて、見せつけるように握ってみせる。
 その光は細長い何かを形作っているようにも見えていたが、少年が目を閉じることで霧散していた。

「ケッ、腰抜けめ……ったく、つまらねェなぁ」

 くるりと少年に背を向けると、後頭部で両腕を組む。
 さぞつまらなさげに吐き捨てるように口にすると、とーん、と枝から軽くジャンプする。
 時間が止まったかのように宙に浮かんでいるが、

「あ、ねーちゃんよ。リーダーさんから言伝だぜ」

 組んでいた腕をポケットに突っ込むと、顔を少しだけ動かし視線だけを千草へと向けた。
 薄い青の瞳を動かして、真っ直ぐに彼女を射抜く。
 その視線に肩をすくませるが、青年はそれを気にすることなくただ淡々と口を動かした。

「『貴女がたに協力しよう。そのときが来たなら我らを喚ぶがいい』……だってよ。あーめんどくせめんどくせめんどくせ」

 ポケットから取り出した薄いなにかを放り投げる。

「ひゃっ!?」

 手に届いたそれを弾いて、その場でお手玉しつつもそれを掴みとる。
 それは、中心に黒い石の埋め込まれた1枚のカードだった。
 石を中心に紋様が描かれており、縁どるように線が引かれている。
 わけのわからない文字がさらにその線に沿って内側に描かれていた。

「それに念じればいーんだとよ……じゃ、俺は帰るぜ」

 それだけ言うと青年は「めんどくせめんどくせめんどくせ」を連発しながら一直線に落下して、森の中に姿を消していた。



「……あいかわらず、ワケのわからん連中どすな」

 そんな千草のつぶやきに、少年は答えない。
 深いブルーの瞳だけを動かして、総本山を見やったのだった。






強引にオリキャラ登場です。
これで7人全員を1度出すことができたわけですね。
そして次回、ようやく修学旅行編も佳境に入ります。


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