少女が1人、結界の真ん前にたたずんでいた。
 ひらひらのふりふりで、どこぞの西洋貴族を思わせる服装。
 終始浮かべている無邪気な笑顔。
 そして、手に持っている巨大な鎌が、奇妙な威圧感を放っていた。

「この中に、いるね」

 巨大な魔力と、『気』のぶつかり合い。
 ちっちゃな魔力がいくつか付属しているが、それは彼女にとってまったく問題としていなかった。
 閉じていた目を開き、目の前に立ちふさがる『立ち入り禁止』の札を見上げる。

「もう、戦い終わってるかな?」

 そう口にするが、誰も答えを返す者はいない。
 この巨大な魔力は、赤の少女が言ってた子。
 反対にぶつかってる『気』は、よく知った彼のものだ。

「漁夫の利に乗っかれればいーんだけどなぁ……」

 彼女が必要としているのは、膨大な魔力だった。
 仕える主を、自由にするために。

「行かなきゃ、だね」



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
人の心を読める本




エウォカーティオ・ウァルキュリアールム・コントゥベルナーリア・グラディアーリア

「『風精召喚・剣を執る戦友』」

 ネギの指先が光を帯び、動かすたびに残像が視界に残る。
 始動キーとともに紡がれる言葉は、精霊を召喚、具現化するためのプロセスだ。

コントラー・プーグネント

「迎え撃て!!」

 詠唱が終了すると同時に、光はネギの身体をかたどり、一直線に目標へと向かっていく。
 手には突撃槍や剣を携えて、目標――小太郎へと飛来する。
 連続して設置されている鳥居の上を渡りながら、小太郎はそんな精霊たちを見やる。
 表情には笑みが浮かび、そんなもの役には立たない、と言わんばかりに襲いくる精霊を蹴散らしていく。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」

 小太郎が精霊たちの相手をしている間に、ネギは次の魔法の詠唱へと突入した。
 それは、手数で押し切る17の雷光。

セプテンデキム・スピリトゥス・アエリアーレス・コエウンテース

「風の精霊17人。集い来たりて……」

 精霊たちを無効化し、一気に間合いを詰めようと疾走する小太郎に杖を持たない左手を向けた。
    サギタ・マギカ・セリエス・フルグラーリス
「『魔法の射手・連弾・雷の17矢』!!」

 さらに飛来する17の雷弾。
 ありったけの魔力を込めた弾丸だ。そう簡単に防がれるほど弱くはない。
 小太郎の腕程度はあるだろう太さの弾丸の飛来に応じようと、彼は懐から数枚の札を取り出す。
 守りの呪が施された札だ。

「うおぉっ!?」

 手に持ったすべての札を消費して、やっと防ぎきった魔法の矢。
 なんちゅー威力や、と目を丸めたのもつかの間、だんだんと威力の増していく第3波が彼を襲う。

ウヌース・フルゴル・コンキデンス・ノクテム・イン・メアー・マヌー・エンス・イニミークム・エダット

「闇夜を切り裂く一条の光、我が手に宿りて、敵を喰らえ!」

 軽く息を切らしながらも詠唱を続ける。
 それは、魔法学校の書庫に忍び込んで会得した、高威力の稲妻だった。

フルグラティオー・アルビカンス

「『白き雷』っ!!」
「うがああっ!」

 高速で飛来した稲妻をモロにうけ、小太郎は鳥居から落下してしまう。
 白煙が漂い、静かになったかのように思われたのだが。

「ちょっと何よ。スゴイじゃない!」
「遠距離からのフェイントを含めた3連発! 対戦士魔法戦闘の基本だぜ!」

 すげーや、兄貴!

 カモの声が木霊し、小太郎を倒すことができたと声を上げる明日菜とカモだったが。

『いえっ、まだですっ!』

 ちびせつなだけは、状況を冷静に見極めていた。
 煙のかすかな動きすらも敏感に感じ取り、小太郎の意識が飛んでおらず、さらに自分たちに向けて襲い掛かろうと影が揺らめいているのを認めていたのだから。

「なかなかやるやないかチビ助! 今のはまともに喰らったらヤバかったわ!」

 とっときの護符がぜんぶオシャカや、と手に持つ札をその場に放りながら地面を駆ける。
 ハリセンを構えて、明日菜がネギの前に出るが、振るわれた一撃を難なく躱すと、

「ネギッ!」

 ネギの腹部に、小太郎の一撃が決まっていた。
 もとより、小太郎は明日菜を攻撃するつもりはなかったのだ。
 主義じゃない、というのもあるが、あとは性格上の問題だ。

「それとな姉ちゃん! 俺は戦士とちゃうで!」

 ゲームちゃうんやし、と口にする。
 戦士や魔法使い、僧侶などと言ったものは、現代日本ではまずありえない。
 ゲームの世界のみのものだ。
 うずくまったネギを前にしてすたん、と着地すると、

「狗神使い、ゆーんや!! 覚えとき!」

 彼の周囲が黒く染まり、狗神と呼ばれる式神のようなものが現れ、明日菜を襲った。
 もちろん、危害を加えることなど一切考えていないので、

「きゃはははは! 何よ、この犬―――っ!!」

 たかられ、なめられていた。
 あまりのくすぐったさに笑いがこみ上げ声を上げてしまうが、今までのシリアスな雰囲気がぶち壊しである。

 明日菜を助け出そうと起き上がるネギだったが、立つ上がることすらも適わず、小太郎に連撃を叩き込まれていた。
 かろうじて残っている魔法障壁がダメージを緩和しているが、このまま殴られる続ければそれももたなくなる。
 『気』の篭もった一撃の威力は、常人のそれをはるかに超越する。
 ヘタすれば大ケガだけじゃすまなくなってしまう。

「そ、そんなっ!」

 殴られ抵抗すらできずにいるネギを見やる明日菜。
 多少の危険は覚悟しないといけないよ、というアスカの言葉は、これを意味していたのかと。
 今更ながらに気づいていた。
 命の危険性すら感じる今の彼の状況。
 応援してあげたい、という感情で動いていた自分を恥じた。
 守るなら、応援するなら……本気でやらねばならなかった。
 戦い方のレクチャーを受けるなり、自分になにができるのかなどを、把握しておいたり。
 バカみたいな体力があってもままならない世界が、目の前にあった。

「護衛のパートナーが戦闘不能なら、西洋魔術師なんてカスみたいなもんや。遠距離攻撃をしのぎ呪文を唱える間を与えなければ怖くもなんともない!」

 前衛をパートナーが守っている間に、特大の魔法をかます。
 いわゆる『魔法使い』と呼ばれるもののほとんどの基本的な戦法だ。
 しかし、パートナーが動けなくなってしまうと、魔法使いが狙われ、戦う術を失うという大きな欠点がある。
 呪文が唱えられなければ、『魔法使い』に勝ち目はないのだ。

「勝ったで! ……とどめ!!」

 最後の一撃を繰り出そうと、小太郎は拳を構える。
 すでにネギは度重なる小太郎の打撃に意識が朦朧としていたが、このときを待っていたと、無理やり意識を引き戻す。
 ぐっ、と拳を握りこみ、感触を確かめる。

 ……うん、いける。

シス・イプセ・パルス・ペル・セクンダム・ディーミディアム

「契約執行0.5秒間……」

 紡がれる言葉は、パートナーである明日菜に魔力を供給するための呪文。
 しかし、その呪文によって小太郎のとどめは、横へ受け流されていた。

ネギウス・スプリングフイエルデース

「ネギ・スプリングフィールド」

 驚愕に包まれ生じた隙を見逃すことなく、

  ゴッ……!!

 殴り飛ばした。
 強引に魔力を自分自身に供給した、強力な一撃。
 小太郎の身体は回転しながら宙を舞い、身動き1つとれず。
 彼が浮かんでいる間に、ネギは魔法の詠唱を始めていた。

ウヌース・フルゴル・コンキデンス・ノクテム・イン・メアー・マヌー・エンス・イニミークム・エダット

「闇夜を切り裂く一条の光、我が手に宿りて、敵を喰らえ」

 魔力を込めた手を頭上に向けると、あわせるように小太郎の背中が手に密着する。
 距離がなくなり、詠唱も終わっている。
 ということは。

フルグラティオー・アルビカンス

「『白き雷』!!」

 ゼロ距離による高位の魔法発動。
 離れた場所を攻撃するよりは、間違いなく威力は高い。
 『無限方処の咒法』のによって閉ざされた世界に、真白い光が具現したのだった。
 雷音が轟き、モロに喰らった小太郎が吹き飛ぶ。
 身体中に痺れを残して、かろうじて程度しか動けない。
 うずくまる彼を見下ろしたネギも頭から血を流しており、苦しそうに息を荒げている。

「どうだ! これが僕の……西洋魔術師の力だ!」

 そんな中で、そう小太郎に告げたのだった。
 喜び勇むのは犬から開放された明日菜とカモ。
 付け焼刃の『魔力パンチ』を確実に当てるためにわざと攻撃を喰らって、決定的なチャンスをうかがっていたのだ。
 誰も取りたいとは思わない行動だ。

 ……痛いし。

 しかし、喜びあったのもつかの間。




「まだや……」

 小太郎から骨を操作するような奇妙な音が響き、髪の毛が徐々に長く、白くなっていく。
 狗族特有の『獣化』。
 人間として形作っていた妖怪が、本来の姿に戻る行動なのだろう。
 手足の爪が鋭く伸び、振るわれた一撃は地面を抉っていた。
 冗談じゃない、と明日菜が口にするのも、わかるというものだ。

シス・イプセ・パルス・ペル・デケム・セクンダス

「契約執行10秒間!!」

 身体に負担のかかる自身への魔力供給を再びかけるネギ。
 彼の身体が光に包まれ、たしかに強化されたのだが。

「いいぜ、ネギ! もっと戦ろう!!」
「!?」

 小太郎は忽然と、消えてしまっていた。
 このままあの地面を抉る一撃を受けてしまったら、間違いなく自分は死ぬ。
 どうにかしなきゃと考えを巡らせるが、



「左です、先生っ!!」



 新たな介入者の声によって違った展開を見せていた。

「あぁっ、のどかさん!?」

 ネギを助けるためにと、戦場へ飛び込んできたのだ、彼女は。
 急いで来たのか息を切らし、膝に片手をついたままアーティファクトの本を覗き込む。

「右です!」

「上!」

「み……右後ろ回し蹴りだそうです〜」

 小太郎の攻撃は、のどかの助言によってすべて躱されていた。
 しかも、ネギが繰り出すカウンターは確実に入っている。

(なんや、あの姉ちゃん……一般人かと思っとったら、俺の攻撃がすべて読まれとる!)

 これが、のどかの持つ本の能力だった。
 人の名前を呼ぶことで、考えていること……表層意識を読み取ることのできるアーティファクト。
 今までネギのことばかりを考えてきたので、

「あのっ、カッ、カカカカモさん。私、大体何が起きてるか理解してます〜。とにかく、ここから出ればいいんですよね?」
「お、おうっ……そうだけどよ」

 その言葉を聞いて、のどかは立ち上がる。
 すぅ〜、と空気を吸い込んで、

「あ、あのぉ〜、小太郎くーん。ココから出るにはぁ〜、どーすればいーんですかぁ〜?」

 小太郎に向けて、そう叫んでいた。
 戦闘中とはいえ、その言葉を聞いていた小太郎は「何を考えてるんだ」といわんばかりにのどかを視界に納める。

 ……と。

 見えるのはのどかの姿と一冊の本。

(……あれはっ!?)

 すでに、遅かった。
 ふと思い浮かばせてしまった結界からの脱出方法が本の1ページにデフォルメされた小太郎が『大公開!!』の見出しと共に表示される。

「こ、この広場から東へ6番目の鳥居の上と左右3箇所の隠された印を壊せばいいそうです……」
「ふ……ふぉぉぉぉっ!!」
「本屋ちゃんスゴイ!!」

 脱出方法を耳にしたネギは杖に跨り、広場の東へ向き直った。
 始動キーを唱えながら数を数えて、3つの魔法の矢を放つ。
 狙ったとおりに印を破壊し、

「のどかさん!」

 そのままのどかを抱えて、光っている空間の亀裂を目指す。
 あれが、結界の出口。つまり……

「脱出――――っ!!」

 結界から脱出したのだった。
 硝子の割れたような音と共に結界から抜け出たところで、未だ追ってくる小太郎を見やった。

『お任せを!』

 ずい、と前に出たのはちびせつなだった。
 高速で印を組み上げると、

『無限方処、返しの呪!!』
「あっ、待てコラ……!」

 小太郎は結界内に閉じ込められてしまっていた。
 気が抜けてしまったのか、小太郎は人型をとりながらもうつ伏せに倒れこむ。
 先刻の魔力パンチと、『白き雷』のダメージが予想以上に大きかったのだ。

「無理して変身してみたはえーけど……」

 負けてたのは俺の方か……と。
 なぜか嬉しそうに笑っていた。
 見つけた。同じくらいの年頃で、自分と同じくらいに戦える人間を。








「へっ、へへ……覚えとれよ、ネギめ……次は、負けへんで――っ!!」









 と、小太郎が叫んだときだった。



「うわ、コタローくん。ずいぶんとこっぴどくやられちゃったねえ」
「?…… なんや、お前か」

 それは、ふりふりのヒラヒラでゴージャス(?)な薄紫の服を纏った少女だった。
 デフォルメされた熊のレリーフをつけた帽子をかぶり、はみ出している髪の毛はグレーでみつあみに結わえてある。
 大きな瞳も同色で、それよりも重苦しい雰囲気を醸し出しているのは、手にもっている巨大な鎌だった。
 濃いグレーで、無骨な大鎌。少女が扱っているとは到底思えない代物だった。

「チグサさんが皮肉ってたよ。『あんなおチビさんも倒せへんのか』ってサ」
「うるせ。俺を笑いに来たんか、レイン?」

 レインという名前の少女は、両手を小太郎に向けて首ごと横に振って否定してみせた。

「ちっ、ちがうよー!! ボクはコタローくんを回収しに来ただけ」
「けっ、こんなんすぐにようなるわ」
「いーからいーから。結界もぶっ壊しちゃうからね」

 大鎌を振り構え、魔力を流した。
 すると、刃の部分が淡いグレーの光を帯びていく。

「切り込むよ、ループファクト」

 名前を呼ぶ。
 それに呼応するかのように光が強まり、

「そぉ〜れぇ〜〜!!」

 大ぶりにその場でフルスイング。
 すると、刃からグレーの魔力が刃と化し、一直線に飛んでいく。
 それはある1つの鳥居で、レインは伸ばし開いていた手のひらを拳に変える。
 すると、飛んでいった魔力刃は3分割され、左右と上の印を撃ち抜いた。

「……印の場所、わかっとったんか?」
「魔法の解析はボクの得意分野だよ」

 忘れちゃった?

 なんて口にしつつ、無邪気な笑みを浮かべた。
 ぶつぶつと言葉を唱えると、浮かび上がるレインと小太郎の身体。

「うおわっ……おぉいっ!?」
「そんなもがかなくてもだいじょぶだって。ボクが操作してるんだから……さ、帰るよん」
「話を聞かんか〜い!!」

 そんな小太郎の叫びが、竹林に響いたのだった。








原作の展開&オリキャラ登場でした。
ある程度の描写はできていると思いますが、中々難しいですよねえ…・・
っていうか、オリキャラの設定画大募集(核爆)。



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