「キターーーーーっ!!!」
「U・S・J! U・S・J!!」

 入場チケットを切った4班の面々。
 目の前に広がる広大な敷地の中で、特に裕奈とまき絵のテンションは最高潮に達していた。
 人の数は多く、ところどころに立てられた塔型スピーカーから陽気な音楽がエンドレスで流されている。

 USJ。
 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの略で、2001年3月31日にオープン。
 最先端の技術を駆使したアトラクションやショーでハリウッド映画を実体験できる巨大なテーマパークだ。

「なんか、スゴイところだね……」

 マップを見る限りでは、アトラクションの数も相当なもの。
 9つのエリアに分かれ、絶えず楽しげな声が聞こえた。

「東京にだって、規模の大きいテーマパークとかあるじゃないか。知らないのか?」
「そ、そうなんだ……」
「ナンジ○タウンとか、ディズ○ーランドとか。知らん?」

 知らないです。
 実際、アスカはネカネに強引に飛行機に乗せられて麻帆良へ来てから、数えるほどしか出かけた事がなかったりする。
 たいていのものは学園都市内で事足りてしまうし、毎日が充実しすぎて考えることすらしていなかったのだ。

「よーし! それじゃココからは自由行動!! お昼に一度ここに集合!」

 よっぽど楽しみだったのだろう。
 裕奈とまき絵は、あっという間に人ごみにまぎれてしまっていた。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
ありがとう



 結局、2人はつかまらずじまい。
 携帯電話を使えば一発なのだが、あのテンションではかけても気づかないだろう。
 だからこそ、あえてかけようとはしなかった。

「とりあえず、一服?」
「まだ入ったばかりだろう」

 一服には早すぎる。
 時間的には一応、昼飯時なのだ。
 そんな時刻であるにもかかわらず遊びに行ってしまった2人は、きっと夕方まで戻ってこないだろう。

「人ごみは苦手だからな。私はここでゆっくりさせてもらうよ」

 せっかくだ。2人でどこか行ってきたらどうだ?

 すとん、と白いベンチに腰掛けた真名は、そうのたまった。
 隣に真名同様座り込んだのはアキラで。

「私も人ごみはちょっと……だから2人で行ってきなよ」

 こっちはこっちで、なんの屈託もなく柔らかな笑みを見せた。
 真名も真名で表情には笑みを貼り付けているが、アキラとは違った違和感がある。
 何を考えているかなど本人にしか分からないので、それを尋ねることはなかったが。
 ……嫌な予感がした。

「それじゃあ……行こうか?」
「そやね。せっかく来たんやから、楽しみたいし」

 そんなことを口にしながら、アスカと亜子は肩を並べて人ごみにまぎれていったのだった。







「よし、私たちも動くぞ大河内」
「……え? 動くってどこへ……」

 すっくと立ち上がった真名。
 アキラは突然のことに戸惑って入るものの、気づけば真名に手を引かれてしまっていた。
 彼女の瞳は爛々と輝き、どことなく迫力がある。

「ちょっ……ちょっと待って龍宮さん! 自分で歩くからっ…うわっ、ぶつかるぶつかる!?」

 ずんずんと、亜子とアスカを追うように歩き出したのだった。






「どこ、行こうか?」
「せやな……なにか乗ろか」

 アスカはこのようなテーマパークなど初めての経験だったので、亜子が彼を連れまわすということになっていた。
 車に乗り込んで、繊細な映像効果による時間旅行を体験したり、映画のシーンに合わせて座席が動いたりクッキーの香りが漂ったりといった特殊効果の付加された臨場感たっぷりのムービーを見たり。
 水上をモーターボートや水上バイクが滑走し、火柱が上がったり水しぶきが飛んだり。
 気づけばアトラクションに夢中になっていた。
 アスカも亜子も表情には笑顔が絶えず、今抱えている問題などを思い出すことなく楽しい時間を過ごしていた。





「う〜ん………」
「なんかさ、いつもと代わり映えしないよね」
「いや、それが普通なんじゃないかな……」

 2人を草陰から覗き見て、裕奈とまき絵は顔をしかめていた。冷静に突っ込んでいるのはもちろんアキラだ。
 今この時間をめいいっぱい楽しもうと、前者の2人はアトラクションを回りまくっていたところで、楽しそうに笑いあうアスカと亜子の姿を発見したのだ。
 アトラクションよりも、あの2人を眺めてたほうが面白いかも、という裕奈の一言で今のような状況になっていた。
 裕奈はアスカが男だと知っているからこその発言で。
 しかも、今の彼の格好は男性のもの。
 なにかあるかも、と期待してしまうのは無理もないかもしれない。

「大丈夫だ。我々の期待していることを、あの2人ならきっとやり遂げてくれるはずだ」
「え? ……たっ、龍宮さん!? なんでここに……ってか、言い切ったよ!? 何かあるって言い切ったよこの人!?」
「大声を出してはいけない。2人に見つかってしまうぞ?」

 いつの間にやら現れた真名の姿に声を上げつつも、本人の注意によって口を閉ざすまき絵。
 彼女の瞳は真っ直ぐに何も知らないアスカと亜子に向けられ、

「ふふっ、すでに準備も万端だ……いつでもいけるぞ」

 その手にはピッカピカのデジカメが握られていた。
 不敵に笑ってみせる真名に、思わず引きつる3人だったが。

「見ろ、動き出した」

 そんな声に、再び視線が向かったのだった。

 ちなみに、4人が合流したのはアスカ・亜子ペアを追いかける故の必然である。


 …………


「う〜ん、楽しかった!」
「これで半分くらい回ったことになるなぁ。この後どうする?」

 そんな亜子の問いに、「おなかすかない?」とアスカは逆に問い返していた。
 昼食を返上して遊びまわっていたのだから、無理もない。
 まき絵と裕奈はあのハイテンション。間違いなくまだ遊びまわっているに違いない。
 真名はあれでちゃっかりしてるから、とっくに昼食を終えて人ごみを抜けてしまっているだろう。

「ほな、ウチらでゴハンすませよか」

 というわけで、立ち寄った軽食店。
 壁がガラス張りなため、中から外を見渡せるようになっていて。アスカと亜子は端の席を陣取ってメニューを眺めていた。
 サンドイッチやトーストなどのパン食が中心の店で、昼時を過ぎているとはいえ客足は途絶えてはいないようで。
 統一された制服を着たウエイター、ウエイトレスが所狭しと動き回っていた。

「ん〜……♪」

 できたてのホットドッグをほおばり、満面の笑みを浮かべたのはアスカだった。
 海の家のラーメンがおいしく感じられるように、テーマパークで食べる軽食というのは、またおいしい。
 一緒に食べる友人がいれば、なおさらだ。

「あ、アスカ。ほっぺたにケチャップついとる」
「え、どこ?」
「もうちょい上……って、ええわ。そのまま待っとき」

 亜子は小さなカバンからティッシュを取り出すと、身を軽く乗り出してアスカの頬に押し当てた。




 …………




「きっ……」

 真名の言うとおりだった。
 彼女の言うとおり、やり遂げてくれた。
 アトラクションより面白いこと。っていうか、当人以外はもはや野次馬だ。

「キタ――――――ッ!!!」

 というわけで、つい声を上げていた。
 目をぐるぐるにして、まき絵と裕奈は互いに向き合うと。

「ほっぺにケチャップ、ついとるよ? あ、そのままでえーよ。ウチが取ったげるv」
「ありがと。僕、やっぱり亜子がいないとダメみたいだよぉ」

 草陰で、ベタなラブコメが展開されていた。
 まるでイスとテーブルがそこあるかのようにまき絵と裕奈が向かい合って座って、裕奈が身を乗り出すようなジェステャーと共にまき絵の口元を拭ってみせる。
 まき絵はその手を取って自分の方へ裕奈を近づけると、ほのかに顔を赤らめて声を上げていた。

「よし、カメラに決定的瞬間を収めたぞ……」
「……龍宮さん。なんだか興奮してるけど、大丈夫?」
「ああ、問題ない」

 アキラは真名の持っているカメラに目を向け、

「っていうか、ずいぶん立派なデジカメだよね」

 たずねた。デジカメのはずなのに、コンパクトな本体がまるで変形でもしたかのように一瞬で肥大化したのだ。
 レンズは前方に飛び出てかなり遠くまで届きそうな勢いで、手ブレ防止機能なんかは標準装備。
 底部分からは小さなキーボードが飛び出て、まるで小型パソコンとでも言えそうな形状だった。

「これか? ハカセに頼んで特注してもらった、ズームも編集も思いのまま! 遠く離れた場所でもくっきり写る多機能デジカメ『キレイに撮れる君EX』だ」
「……なんで、そんなもの持ってるの?」
「趣味だ」
『…………』

 くーるだうん。






 …………







「どしたん? なんか顔がニヤけとるけど」

 遅い昼食を終えて、腹ごなしにと敷地内を徘徊していたのだけど。
 アスカの表情は終始満面に微笑を浮かべていた。
 それは今も同じ事なのだけど、

「楽しいし……嬉しいんだ」

 今まで人とあまり交流を持たず、退魔の仕事だけを請け負ってきた。
 まだ15の自分がまっとうな職に就けるわけでもないし、アルバイトがしたいと店を訪ねまわっても、必要ないからと門前払いされたから。
 元々、自分が住んでいたのはウェールズの山奥だったので、店の数すら少なくて。
 他にどうしようもなかったからこそ、危険と分かっていても依頼された仕事のみを確実にこなして生活してきたのだ。
 ネギはまだ小さいし、ネカネは魔法学校に通っている。
 働けるのは、終日ヒマだったアスカだけだったのだ。
 依頼主は自分よりも高い年齢層の人間ばかりだったせいかはしゃいでしまう事だってあまりに少ない。
 実際、日本の古都・京都の街を眺めたときには感極まってはしゃいでしまったわけだから。
 ……特に大仏。
 インパクトの強いその様相に、気づいたら先日覚えたばかりの携帯電話のカメラ機能をフル回転させていた。
 おかげでメモリには100枚近い大仏の画像データが格納されている。

 カシャカシャうるさいっ! と明日菜に怒鳴られたけど。

「こうやって友達と一緒に遊んだり、旅行したり。今が楽しくて……仕方ないんだ」

 仕事を忘れて、中学生らしく遊んでいられる。
 隣で、一緒に楽しんでくれる友達がいる。
 そして…………

「今まで生きてきた中で……一番幸せだと思う」

 言葉は、まぎれもない本心だった。
 喧騒を耳に入れながら、アスカは雲ひとつない空を見上げる。
 ほのかに赤い頬をそのままに、

「一緒にいてくれて、ありがとう」

 亜子に向けて、そんな言葉を口にしたのだった。
 しばらく硬直し、動けなくなっていたのだが。

「ほ、ほなら、せっかくUSJまで来たんやし、もっともっと遊ばんとな!」

 突然そう口にした亜子は、アスカの手を取ると、

「あっちや! あっち行くで!」
「わわっ、と」

 走り出したのだった。




 …………





『…………』

 草陰で盗み聞きをしていた3人は、真っ直ぐに……本当に幸せそうに笑うアスカをぼーっと見つめていた。
 もっとも、その本人は亜子に引きずられるように人ごみにまぎれてしまったわけだけど。

「なんか、納得いかない」
「え? ……ほほぉ、ヤキモチですかゆーなさん?」
「違うよ。なんか、アスカの友達が亜子だけみたいな感じがして……」

 疎外感というのだろうか。
 日本語的には間違っているのかもしれないが、そんな単語が今はしっくりくる。

「……ふむ、たしかにな」

 4班は2人だけではないというのに。

 カメラを腰の皮製のポシェットに納めて、真名は裕奈に同調するようにうなずいた。

「だったら、みんなで回ればいいんじゃない? せっかくUSJまで来たんだし」
「……そーだね! アキラの言うとーり! そうと決まれば、さっそく追いかけないと!」

 草陰からいち早く飛び出したのは、まき絵だった。
 さらに次々と人が飛び出してきて、通りかかった親子がぽかんと大口を開けて呆気にとられている。


「亜子、アスカ〜! 待ってよぉ〜!!」
「私たちも混ぜて〜!」
「あれ、ゆーなにまき絵? どしたん、こんなところで?」
「なに、簡単なことだ。せっかくの修学旅行。班でまとまって遊ぼうと思ってな」
「真名に、アキラまで……ここ広いのに、よく僕たちの場所わかったね」
「え!? いや……まぁ、いろいろあってね」
「??」


 この後みんなでアトラクションを回って、真名の提案で班全員で記念写真を撮って。
 ホテルに戻ったときには遊び疲れのせいか、あっという間に布団へダイブしてしまっていた。







さらにさらにすいません。
強引にデートイベント発生させちまいました。
いちおう、リクエストに答えた形になりますので、
リク下さった風の旅人さま、感想待ってます。
こんなのやだ! とか、書き直せ! といった要望も承りますので。

また、324600という数字はキリバンではありませんが、メールまでくださったうえに
今回はAboutにしっかり書かなかった私が悪いということで、特別にリク承りました。
今後はこのようなことがあっても、リクエストは承りません。
Aboutをしっかり読んでからリクエストをお願いします。


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