「へー、これが豪華商品かー」
3日目の朝食後。
『ラブラブキッス大作戦!!』の勝者・宮崎のどかに渡されたのは。
「…………カモミールか(怒)」
無数の本に囲まれたのどか本人が描かれた手のひら大のカードだった。
それは、アスカからすればひどく見慣れたもので。
首謀者など自明の理。
額に青筋浮かばせたアスカを見て、隣りの亜子は苦笑した。
ちなみに、カモのことを亜子は知らない。
しかし、今のアスカが少なからず怒っていることは目に見えていた。
「ほい、アンタにも」
「(やっぱり、きちっとおしおきしとけばよかった)……は?」
和美はアスカの元へ駆け寄ってくると、『それ』を差し出した。
手のひら大のそれは、豪華商品というカードとよく似たもので。
しかも、描かれていたのは白い大剣を肩に乗せ、正面から背を向けたアスカ本人の姿だった。
「……………」
「あれ? アスカってソレ、いつも持ってたんやなかったけ?」
「なんだ、和泉ちゃんも知ってたんだ」
そんな会話を交わしながら、カードを持った両手をプルプルと震わせ、
「和美。これマスターカード?」
「ん? あー、他のはカモっちがなんかの魔法でコピーしたらしいけど、それはマスターのはずだよ」
聞いた瞬間。
ごそごそと制服の内ポケットを探り始めた。
さらに、ベストを脱ぎ捨ててシャツのポケット、スカートのポケットを内側から引っ張り出す。
「ない……」
頭のてっぺんから肩・わき腹・腰。
しまいには靴の裏側まで調べるが、そんなトコに目的のものなどありはしない。
「ま、マジですか……」
今までのカードがない。
では、ココにあるのは何?
……
答えは。
「契約が……書き換えられた?」
魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
詳しい事情説明と
「ちょっと、どーすんのよネギ!」
こんなにいっぱいカード作っちゃって!
大部屋近く。
和風な傘の立てられた長椅子に座ったネギに向けて5枚のスカ・カードと1枚の仮契約カードを見せた明日菜が声をあげていた。
左手には鳴滝姉妹・宮崎のどか・佐々木まき絵・古菲・雪広あやかの簡単な絵が描かれたカード5枚。
右手にはのどかの正式な仮契約カード1枚。
昨日の『ラブラブキッス大作戦』の名残……てか結果だったりする。
実は、このホテル嵐山の周辺に、カモが仮契約用の魔法陣を布いていたのだ。
オコジョ妖精の世界では、主が1人と仮契約を果たすごとに5万オコジョ$収入が入るため、全員と仮契約をすれば億万長者。
楽をして儲ける。それがこの大作戦の実態だった。
「まあまあ、姐さん」
「カモミール!!!!」
突然響き渡った声。
それはもちろん、アスカの声だった。
額には青筋が浮かび、視界の中心には背筋を凍らせたカモが映りこんでいた。
あっという間にまん前まで来ると、右手を伸ばしてカモの胴体をがっしと掴んでいた。
「……あああぁぁぁぁっ!?!?」
カモの悲鳴。
そんなことどうでもいいと言わんばかりに眼前へと右手を移動させた。
「なんでこんなことしたのさ!? おかげで……」
昨晩、アスカは彼女と口付けてしまった。
仮契約の方法は、主に体液の交換。つまりキスが一番手っ取り早いのだ。
さらに、彼の場合は以前の契約が途切れて新しいカードが手元にある。
だからこそ、ここにカードがあるということは亜子に魔法使いとしての素質があるということで。
しかも、以前まで契約していたネギの姉ネカネよりも高い魔力を保持しているということで。
「無関係の亜子が巻き込まれるかもしれないじゃんか!」
七天書の守護者たちの襲撃もいつ来るか分からないので、今更ではあるが彼女も危険な目に遭うのは間違いなかった。
「アスカさん……」
刹那の声すらもあっさり無視。
「おっ、アスカのことは予想外だったんだよ! まさかあんな形で……うわゎわゎわゎわゎ」
カモの言葉を最後まで聞かずに、彼の胴を支点に横回転させる。
いわゆる、オコジョ竹とんぼというか、プロペラというか。
超回転に、とにかく苦悶の声をあげた。
「まぁ、亜子のことは僕が守ればいいからいいとして……でも、お仕置きしないと気がすまない」
「あ、相変わらず……たまに黒い子ね」
明日菜は、目の前の光景に遠い目をしつつ、呟いたのだった。
明日菜がコピーカードの使い方を覚えて、出てきたハリセンを眺めると、
「すごい! 手品に使える!!」
なんて目を丸くして。
とりあえずその場は収束したのだが。
「アスカに、色々話してほしいことがあるんだ」
ネギは真剣な表情で、アスカを見やった。
彼が聞きたかった内容は、ついこの間の露天風呂でのことだった。
ネギが魔法使いであることを突き止めた和美が、彼に魔法を使うように仕向けていたときのこと。
いきなり空からアスカが降ってきたのだ。
その拍子に和美の携帯電話を壊してしまったのだが、これは後から亜子と一緒にやってきた本人に素直に謝罪の言葉を口にすることでことなきを得た。
なんでも、
「近いうちに機種変更する予定だったから、気にしないでいいよ」
とのこと。
そのあとで、自分が戦っていた理由を口にしたのだった。
「すいません、私も助けにいければよかったのですが……」
「いいって。何とかなったから」
七天書の守護者たちのこと。
もう何度説明したかわからない。
しかし、今回は色々と変更点もあったので、おさらいも兼ねることができていた。
変更点とは向こうの標的に、暫定ではあるものの亜子が増えたこと。
契約を書き換えるなんて、普通の魔法使いにはできない芸当なのだ。
「そんな……このかさんや亜子さんが……」
「あとは、君もね」
狙っているのは命などではなく『魔力』。
アスカのように1日休めば回復するのだが、根こそぎ奪われるうえに危険は大きい。
できれば、巻き込むことはしたくないのだ。
本来なら、ネギには知られずに事を収めたかった。
ただでさえ関西呪術協会のちょっかいが続いているのだから。
一昨日も、木乃香をさらったおサルのお姉さんを退けてきたばかりだったりする。
「できれば巻き込みたくなかったんだけど、もしかしたら関西呪術協会とツルんでるかもしれないから、これから気をつけてね。特にネギは色々と考え込んじゃうから」
「なーんか、えらく壮大になってきたねえ」
「狙われやしないと思うけど、和美も気をつけてね」
念を押すように、アスカはそう口にしたのだった。
「なぁ、ウチも魔法使いになれるって、ホントなん?」
「いちお、素質はあるみたいだけど、僕としてはできれば関わらないでほしいかな……なんて」
3日目は自由行動日。
班別に行く場所が異なっているので、木乃香の護衛はできそうにない。
刹那がいるから問題はないだろうけど、念のために、と携帯の番号は教えてあった。
ちなみに、彼女は携帯を持っていないらしい。
連絡のしようがないじゃん、というツッコミはスルーしてください。 (by 管理人)
「ほな、修学旅行終わったら教えてもらおかな」
「……話聞いてた?」
亜子は亜子でなにやら思案しているようだが、アスカの知るところではない。
っていうか、関わってほしくないって言ったはずなんだけど。
「早く入りいな。さっさと準備しておかんと」
そう言いながら、班部屋の扉を開けた。
中には誰もいない。
裕奈もまき絵もアキラも真名も、すでに準備を終えてロビーで待っている状態なのだろう。
亜子は入って早々に荷物をごそごそとあさると、
「あ、あったあった」
服を一式、取り出した。
白いシャツに紺のジーパン。さらに反対色である黒のカジュアルシャツ。
女の子が好んで着るような服装ではないことだけは確かだった。
そして、その一式がすべて、
「はいっ」
アスカに渡された。
普通に受け取って、服と亜子の顔を見比べる。
「アスカは男の子なんやから、たまにはちゃんとしたカッコもせな」
実は、旅行前に膨らんでいた荷物。
その中にはこの一式が入っていたのだ。
粋な計らいなのか、微妙ではあるが。
「うわ、なんか久しぶり」
上着を脱ぎつつ、呟く。
目の前に亜子がいるにも関わらず。
元々男なので、着替えを見られたところで対して問題はないのだが。
「う、ウチがいるの…忘れんでほしいんやけどな」
「え? あ、ゴメンゴメン」
謝りつつ、着替えていく。
程なくして着替えは終了したのだが、
「…………」
亜子は顔を赤く染めていた。
「で、前はネギのお姉さんだったパートナーが亜子に移っちゃったわけだけど」
「ぱーとなー……」
ロビーへと向かう途中、そんな話をしていた。
昨日の一件で、仮契約していたネカネとのラインが途切れて、代わりに亜子とつながってしまった、ということで。
戦闘の時には亜子の魔力を借りてアーティファクトを行使しなければならなくなってしまったのだ。
たまに軽い脱力感に襲われるかもしれないことを、先に了解して欲しかった、というのが話の目的だったりする。
のだが。
「ウチと…アスカが……パートナー……」
ぶつぶつとそんなことを口にしながら、ボッ、と顔を赤く染めてみたり。
まったく話にならなかった。
「あーっ、やっと来た……って、誰?」
ホテルの出入り口付近で、アスカと亜子以外の4人が2人の到着を待っていた。
登場したアスカを指差して裕奈は、そんなことを亜子に尋ねていたのだが。
「誰、ってヒドイな……アスカだよ」
告げた。
服のことはまき絵は初めから知っていたので特に何か言ってきたわけではないのだが、隣の亜子を見て含み笑っていた。
4班の自由行動での行き先はUSJ――ユニバーサル・スタジオ・ジャパン。
大阪に位置する大きなテーマパークだ。
…………
京都観光に来たのに自由行動で大阪ってどうだろう?
またしてもすいません。
なんかもー色々とすごいことに。
このあと、修学旅行が終わったところで彼女も魔法使わせます、はい。
もう、行けるトコまで逝ってしまおうと思います。
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