「聞きたいことは1つだけだよ」
大剣を肩にかけたアスカは、2人に向けてそう口にした。
表情には無表情が浮かび、笑みはない。
「魔力を奪って、どうするつもり?」
それは、一度奪われた経験がある彼だからこそ、言えることだった。
身体に腕を突っ込まれて、魔力が抜かれるとともに感じた虚脱感。
他人を犠牲にしてまで、なぜそこまで魔力を集めたがるのか?
それが気になって仕方がなかった。
「ウチらは、主はんの願いをかなえたいだけや」
「シンシア」
ヴィルテスが止めているにも関わらず、シンシアは淡々と言葉を口にした。
「ウチらが今ここにいられるんも、全部主はんのおかげなんよ。だから……」
「やめろ」
「……」
そこから先は言うな、と。
ヴィルテスはシンシアをにらみつけてそう告げた。
「ま、とにかくだ。極東最強の魔力を持ってるヤツがいるって聞いたんで、遠く欧州からはるばる来たってワケさ」
最初は、ネギかと思った。でも、彼はイギリスの人間だ。
となると。
「近衛か」
アスカが考えていたことを、そのまま真名が口にしていた。
彼女は自分が護衛する対象の人間だ。
刹那に大半を任せているとはいえ、これから先に危険が付きまとうのは間違いではないだろう。
関西呪術協会と、彼ら。
彼ら7人の内、何人がこの日本へきているのかは分からないが、朝に見たニュースを見る限りでは目の前の2人だけではなさそう。
気をつけていかないとな。
アスカは、内心で決意を新たにしたのだった。
魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
ラブラブキッス大作戦!?
「あぁ…無駄に疲れた……」
「そうだな」
「真名、妙なことに付き合わせちゃってゴメンね」
「気にするな。……ま、報酬はきっちりといただくがな」
そんな会話をしながら、2人はホテルへ戻ってきていた。
ヴィルテスとシンシアは、
「近いうちに、また会うだろ。ま、そのときはよろしくな」
なんて言って夜の闇に消えてしまった。
頬に傷を負ってしまったことに気づいたのは真名に指摘されてのことだったのだが、すでに血は止まっていたのでそのまま。
無断外出ということで、広域生活指導員の新田先生に見つかる前に戻らないといけなかったので、慌てて戻ってきたのである。
もちろん、戻ったのはちゃんとした出入り口ではなく、自分たちが出て行った部屋の窓。
誰かが入ってきて閉めちゃったのではないかと心配したのだが、それは杞憂に終わっていた。
「アスカと龍宮さん、お風呂……」
扉を開けて入ってきたのはアキラだった。
その後ろには亜子がくっついていたのだが。
彼女が目にしたのは、ぐったりとしているアスカの姿だった。
「ちょっ…どーしたの!?」
「え? あぁ…ちょっと無理しちゃったもんで」
慌てて駆け寄ったアキラに乾いた笑みを浮かべる。
真名はというと、出かける前と同様にお茶をすすっていたわけだけど。
もちろん、出かけた形跡を残してはいない。
「大したことじゃないから、大丈夫だよ。ゴメン」
ふら〜りと立ち上がり、荷物からお菓子を取り出すと、ぽりぽりと食べ始めていた。
そんな光景に一同は呆気にとられていたのだが、
「と、とりあえず…もうすぐゆーなたち戻ってくるはずやから……」
なにやら相談を始めたのだった。
「今日は徹夜の勢いで遊ぶに決まってんじゃん」
ギ、と新田先生に就寝時間だと言われた風呂上りの裕奈は、べ、と舌を出しつつ扉を開けた。
もちろん、一緒にいたまき絵も、和美と仲良くなったネギもそれは同じ事だったわけだけど。
ばふっ
「へぶっ」
入った瞬間に、亜子に枕を投げつけられていた。
「やったね〜〜〜〜?」
というわけで。
4班の班部屋は、枕投げの戦場と化してしまった。
アスカは、それを呆然と見ながらお菓子をかじっていたのだが。
「コラァ、3−A!!」
新田先生の怒号によって鎮静化された。
朝まで班部屋からの外出禁止と、発見次第ロビーで正座というおまけつきで。
しかも、それにアスカまで巻き込まれてしまっていた。
「ブー、つまんなーい。枕投げしたいのに」
「ネギ君とワイ談したかったんだけど……」
「ネギ君と一緒の布団で寝たかったんだけどな〜」
「なんで僕までこんな……」
そんなクラスメイトたちの声をすっぱり切り捨てて、あやかは部屋に戻るようにとけしかけたのだが。
「怒られてやんの……♪」
「朝倉さん……!」
今まで行方の知れなかった和美が、不敵な笑みを貼り付けて壁に寄りかかっていた。
どこに行っていたのか、とかひきょー者! とかってあやかの声が聞こえるが、彼女はそれをあっさり無視。
このまま夜が終わるのはもったいないから、という理由で。
「いっちょ、3−Aでハデにゲームでもして遊ばない?」
そんな提案を持ちかけていた。
各班から2人ずつを選手として選び、先生たちの監視をかいくぐり、旅館内のどこかにいる対象をGET。
武器は両手の枕のみ。
上位入賞者には豪華商品をプレゼント!
万一、新田先生に見つかった場合は他言無用、朝まで正座。死して拾う者無し!
名づけて……
「『くちびる争奪! 修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦v』!!」
大盛り上がりを見せた。
各班ごとに誰を出そうか検討している中で、アスカは1人うなだれていた。
朝からクラスメイト全員分の食事を作らされ、昼間は観光。ついさっきまで戦闘。
疲れはピークだった。
ぶっちゃけた話、早く風呂に入って寝たいのだが、今のままでは風呂に入るくらいがいいところだ。
「亜子…僕、風呂入ってくるよ……」
「え、アスカは参加せえへんの?」
「早いトコ風呂入って疲れを取りたいんだ。今日は色々とあったから……」
乾いた笑いを見せて、部屋のお風呂道具を手にとると、再び取っ手に手をかけた。
「あれ、今からお風呂? 新田先生に見つかっちゃうよ!?」
「佐々木…行かせてやれ。アイツは今日はまぁ……厄日? なんだよ」
「え? あぁ…そーなんだ。じゃあ、見つからないようにね」
そう口にしたまき絵にひらひらと手を振ると、班部屋外へと繰り出したのだった。
…………
……で。
何事もなく露天風呂へ辿り着いたので。
「ふぁ〜、サイコウだぁ〜……」
さばー、と湯船へ飛び込んだのだった。
『修学旅行特別企画! くちびる争奪! 修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦〜〜〜〜っ!!』
11時をもって、主催朝倉和美による一大イベントが始まった。
実況は主催の朝倉和美。トイレの個室にノートパソコンとその他機材を持ち込んで、ホテルの各所に設置したカメラの映す先を覗き込んでいる。
その背後で、彼女とすっかり仲良くなったカモが専用のパソコンで画面を眺めていた。
『では、選手の紹介に入りましょう。まずは1班から……』
というわけで、1班から双子で息ピッタリの鳴滝姉妹。
2班から古菲・長瀬楓のバカレンジャーコンビ。
3班から雪広あやか・長谷川千雨というやる気あるなしの正反対コンビ。
4班から安定感のある明石裕奈・和泉亜子の運動部コンビ。
5班から大穴の綾瀬夕映・宮崎のどかの図書館探検部コンビ。
ホテルの各部屋に設置されているテレビを6分割し、各班のメンバーが映しだされていた。
「キャー、始まった!」
「なかなか本格的じゃん」
1班の班部屋で、部屋の明かりを消したチア3人組。
布団をほっかむって、テレビに釘付けになっていた。
「誰にかけた!?」
「2班−4班の一点買い。まさか亜子が出るとは思わなかったけど」
「やっぱ3班のいいんちょは本命だよ」
学園の食券を賭け金としたトトカルチョの話題で盛り上がっていた。
(うぐぐ、なんで私がこんなことを……)
那波に村上にピエロめ…逃げやがって。
千雨は今この場にいることを後悔していた。
隣りにいるのはネギへの偏愛・執着が周知のいいんちょことあやか。
(つべこべ言わず援護してくださいな! ネギ先生の唇は、私が死守します!!)
(…………)
本気で帰りたくなった。
(1位になったらどうしよアルかね〜!? ネギ坊主とはいえ、ワタシ初キスアルよv)
(ん〜〜〜〜v)
こちらはバカレンジャーコンビ。
頬を綻ばせて妙に嬉しそうにしている古菲とは反対に、楓は何を考えているのかすらわからない。
(よーし、絶対勝つぞ〜!)
(あかんで裕奈。やる気があるんはええけど、空回りしたら新田センセに見つかるで)
やる気充分の裕奈とは反対に、なぜか冷静な亜子。
『ネギとのキス』のためにと、代表選手に立候補したまき絵を押さえ込んで出場したのだ。
確かに、以前授業中に『10歳の男の子をパートナーにって、イヤですよね』とネギに聞かれたことはあった。
急なことであたふたしてしまったのだが、とりあえずフラれたことは口にしている。
でも、今はそんなことはどうでも良かった。
……今部屋にいないアスカのこと。
男だと言うことを知っていて、かつ先日の彼の悲しげな表情。
声だけだったが、正直、聞いていられなかった。
もしかしたら、今もどこかで泣いてるんじゃないかと。
色んな意味で心配していたのだ。
だからこそ、ゲームに参加して彼を探そうと思っていたのだけど。
(…あかん。この調子じゃ途中で抜けられへん)
彼女の目的とは真逆にゲームが向かっていることは事実だった。
(あぶぶぶ、お姉ちゃ〜ん。正座イヤです〜〜〜)
(大丈夫だって)
鳴滝姉妹。
その表情は対照的で、風香は自信満々な表情をしているが、逆に史伽は滝のような涙を流している。
新田先生の言っていた『朝まで正座』を真に受けているのだろう。
(ボクらにはかえで姉から教わってる秘密の術があるだろ)
(そのかえで姉と当たったらどーするんですかぁ〜)
前途多難だ。
「ゆ、ゆえ〜〜〜〜」
のどかはビビっていた。
告白したばかりで、大好きなネギとキスできるのも嬉しい。
でも、今の状況ではとても無理がある。
「まったく、ウチのクラスはアホばかりなんですから……せっかくのどかが告白したときに、こんなアホなイベントを……」
両手に枕。
その内側に自室からもってきたハードカバーの本を包み、装備していた。
「ゆえゆえ、いいよ〜。これはゲームなんだし……」
「いーえ、ダメです」
ぎゅぴーん、と夕映は目を光らせた。
ネギは、今まで見た中で最もまともな部類に入る男性だ。
……10歳だけど。
だからこそ、
「絶対勝って、のどかにキスさせてあげます!」
いくですよ!
おー、と、枕を高々と掲げたのだった。
さて、彼女たちの獲物であるネギはというと。
「ううっ……?」
ゾクゾクと感じる違和感。
ネギは立場上教師に当たるので、1人部屋だったのだが。
妙な寒気に襲われていた。
「…………」
すっくと立ち上がり、杖を手にとるネギ。
なにかあるのかもしれない、と言うことで、パトロールに行くことにしたのだ。
「刹那さんにもらった人形を身代わりに使おう」
紙型を左手に、筆を右手に。
なんでも、筆で自分の本名を日本語で書けばいいとのこと。
「あ、まちがえちゃった」
この間違いが後の騒動につながるのだが、それはまた今度。
単行本5巻に突入!
しょっぱなから枕投げ大会!!
さらに亜子の参戦!!
……すいません、亜子スキーなものですから……
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