剣戟が場を支配していた。
 月明かりが周囲を照らし、互いの居場所を示している。
 そんな中で幾度となく眼前で火花が散り、互いの顔を照らし出していた。

「てぇい!」
「おらっ!」

 アスカとヴィルテス。
 ポニーテールの女装男と緑の外套に長身痩躯の男が、それぞれ大剣と短剣の刃を合わせていた。
 身長だけなら、アスカよりも20センチ近く高い。
 本来なら、巨体の敵は攻撃を当てやすいはずなのだが、刃を合わせはじめて早10分。
 未だにかすり傷すら負わせるに至っていなかった。

「っ……。炎よ風よ、絡み合え。炎風連携……」

 あわせた剣を弾いて距離を取ると、剣を持つ右手を引く。
 左手で照準を合わせて撃ち出す、高速の雷撃。
 万象の名を冠する大剣は紫の光に包まれ、バチバチと音を発し始めた。

ケラヴノス
「瞬雷!」

 力を制限されていたとはいえ、吸血鬼の障壁をも打ち抜いた一条の光。
 それは一直線にヴィルテスへと向かい、彼を明るく照らし出していた。

 久しぶりに、照準が狂わなかった。
 いつもなら間違いなく、対象の横を突っ切るか、明後日の方向に撃ち出されるか。
 それなのに、今回は寸分の狂いもなく彼を襲った。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
脅迫未遂 in 露天風呂




「コイツは……っ」

 速い上に、威力もそこそこ。
 一瞬にして距離を詰める紫の光を、ヴィルテスは冷や汗を流しつつも笑みを浮かべていた。

 ……属性は雷。さらにこの威力なら、ヘタな魔法障壁は撃ち抜かれる。

 分析もそこそこに、背中の弓を手にとった。

 疾いが……対抗できないことはない!!

 矢を番えずに、弦を引き絞る。
 目の前の雷撃に焦点を合わせて、自身の魔力を注ぎ込んだ。

「…集え…」

 魔力が収束し、一本の矢をかたどる。
 次第に太く長くなり、

「貫け、『ストームレイヴ』……」

 つぶやきと共に、放った。
 魔力の矢は雷撃の正面に突き刺さり、その進行を止めていた。
 互いの魔力は拮抗し、轟音と共に暴風が吹き荒れる。
 まわりに一般人がいないのが唯一の救いだろう。

 砂や枯れ葉を巻き込み、2つの力は相殺されたか、と思われた。
 力が消えたのを確認すると大剣を握りなおし、その後の攻撃に備えたのだが。

「え…?」

 宙に浮かんでいるのは碧の光。
 それがいくつも浮かんでいて、それらすべてが丸く細長い円柱のような形をしていた。


「穿て」


 弓を引き絞ったまま、口にしたその言葉。
 それがキーとなっていたのか、碧の光はアスカに襲い掛かった。

 敵の攻撃を相殺し、さらに前方位からの魔力矢による攻撃。
 2段構えの攻撃は予想外だった。



「うわたたたっ!?!?」

 しかし、アスカはこれを巧みに躱す。
 持ち前の身軽さをもって、さらに大剣で打ち払う。
 重量感のある大剣だが、気で向上させている筋力にものをいわせているのだ。

「ぐ…っ」

 1つ1つが、まるで巨大なハンマーで殴りつけられたような衝撃。
 衝撃に表情を歪めたところで、1つの魔力矢が顔の横を通過していき、一筋の切り傷を作り出していた。


 痺れる両手の中に柄を握り締める感覚だけを感じ、最後の一撃を叩き落す。
 しかし、それで終わりではなかった。



「…………」



 弓に碧の矢を番え、準備万端のヴィルテス。
 勝ちを確信したかのように、にかと笑うと、

「わりぃな、これで……終わりだ!!」

 矢を撃ち出した。
 高速で飛来する矢は、真っ直ぐにアスカの身体に向かって飛来する。
 『扉(ゲート)』を使う時間もなく、盾を出すヒマもない。
 目の前の光の矢をどう処理するか。
 それだけが、今の彼の思考を支配していたのだが。


「えっ…」


 銃撃音。
 まるで狙いを定めたかのように、真名の銃が矢を打ち抜いていた。
 術を施した銃弾と、魔力の塊である矢は互いに爆発を起こし、アスカを襲う。
 しかし、威力が一点に集中していない分、ダメージは小さい。

「……助かった、サンキュー真名!!」

 シンシアと名乗った女性の剣を受けながら、こちらに気を配っている。
 かなり、余裕があるのだろうか。
 そんなことを考えている間もなく、気づけば爆発による余波で身体が浮き上がっていた。







「運のいいヤツだ」

 金の髪を揺らして、ヴィルテスは冷や汗を流したまま嬉しそうに笑った。

 ……マズいのだ。
 先刻の雷撃を止めようと作り出した矢。
 アレで魔力をだいぶ持っていかれていたからだ。
 とどめの矢は小さいものだったので魔力の消費は少ないが、その前が問題だ。

 先手をとり、意表をついて戦うのが彼の戦法。
 弓術の全容がバレないうちに、生命を刈り取るのが狩人(ハンター)の仕事。
 集団戦闘は慣れっこのはずだったのだが。

「まさか、あのコの介入があるとはねぇ」

 仲間の少女の双剣を銃で受けている褐色の少女を見て、苦笑した。

「さて。そいじゃ、追っかけるとしますかね」

 自分の相手は、目的地だったホテルの方向へと飛んでいっている。
 このまま行けば、おそらくホテルに直撃だ。
 ことを荒立てるのは、正直困るので。

「ちょっと…やべえかな」

 地を蹴って宙へ身を躍らせたのだった。







「やば」

 背中の先には、露天風呂。
 しかも、ネギと誰かが入っている。
 このままだと、巻き込むこと受けあいだった。

 扉(ゲート)の魔法を使おう。

 目を閉じて、一言つぶやくだけだったのに。

「へへっ」

 目の前に、ヴィルテスがいた。
 弓に小さ目の矢を番え、弦を引き絞っている。

「よけてみろよ。後ろの一般人に当たっちまうぜ」
「っ!?」

 見抜かれていた。
 それすらも考慮に入れて、この場で弓を番えたのだろう。
 身体をひねり大剣を振りかぶるが、空中で身動きがとりづらい。
 歯噛み、にらみつけるが。

「そらっ!」

 それにひるむことなく、ヴィルテスは矢を放っていた。

「…くっ」

 大剣の腹を矢に向ける。
 身体に当ててはこの後戦えないかもしれないから。
 放たれた矢には小さいが、威力は高い。

「うわぁ―――っ!」

 勢いに押され、一直線に露天風呂へ飛んでいったのだった。





 …………






「ううっ、どうしてこんなことを…」
「フフ、スクープよ。すべては大スクープのため。悪いけど……」

 私の野望のために、協力してもらうよ。

 右手にマイク、左手に携帯電話。
 担任のネギが魔法使いという、超特大のスクープをゲットした和美は、こともあろうに風呂場で彼ににじり寄っていた。
 携帯電話は彼女のホームページに直結しているらしく、送信ボタン1つで魔法使いのことが全世界に報じられることになっているらしい。
 つまり、悪く言えば脅迫の道具だ。

 彼女の野望とは、簡単に言えば大儲けすることだ。
 魔法使いの存在を世界中に知らしめ、独占インタビューが新聞に記載され、雑誌で引っ張りだこ。
 それによって人気の出たネギは彼女のプロデュースによりドラマ化&ノベライズ化。
 さらにはハリウッドにまで進出し、世界的有名人に!
 それによるギャランティ狙いなのだ、彼女は。

 つまりは、決定的な証拠のために魔法を使わせようとしていたわけだが。





「うわぁ――――っ!!」






 それは、1つの飛来物によって水泡となっていた。
 勢いよく突っ込んでくるのは、麻帆良学園の制服を着て、茶色の髪を1つにまとめている、和美からすればクラスメイト。ネギからすれば身内。
 アスカである。ヴィルテスの攻撃により、露天風呂に突っ込んだのだ。
 着地の態勢を取り、風を起こして勢いを緩めたのだが、止まることなくお湯に激突。

 突然の介入に和美は思わず携帯電話を取り落とし、そのままお湯の中にぽちゃん。

「あああぁぁぁぁ――――っ!?」

 ぶちん、と画面が黒くなり、壊れてしまった。
 精密機械はデリケート。お湯に浸かってしまえば一発KOだ。

 頭を抱え、お湯まみれの携帯電話を拾い上げて、すすり泣く。
 アスカはぐわんぐわんする頭を横に振って気付けすると、ぽかんと大口開けているネギに顔を向けた。

「アスカ……どうして」
「話は後! それより『魔法先生』、みんなを守って!」

 頭上に浮かぶ男性を見やり、供給されている魔力を大剣に込める。
 ……ネカネには悪いけど、ちょっと無理しないとダメみたい。
 そんなことを考えつつ、大剣を振り構えた。

「吹けよ…烈風」

 つぶやいた瞬間、風が巻き起こる。
 収束し、形成されるは巨大な刃。

「…ちっ」
「せえぇいっ!!!」

 肥大化した刀身自体は見えているので、ヴィルテスは短剣を慌てて取り出し、大剣を受け止める。
 そのまま力任せに、元いた場所まで飛んでいくように剣を振り切った。
 宙に浮かんだままのヴィルテスは力に耐え切れず、弾き飛ばされてしまう。
 収束させた風を霧散させると、ばしゃりと風呂から飛び出した。

「アスカ!」
「…話は後だよ、ネギ。みんなが来る。バレる前に行くから」

 その場から飛び上がり、屋根に着地。
 さらにそのまま飛び上がると、ヴィルテスを追いかけたのだった。


「………」
「うぅぅ、私の携帯……」
「ちょっとなに、今の泣き声!?」

 ガヤガヤと現れたのはクラスメイトたちだった。
 その後、ネギとの関係でひと騒動起きたのは、また別の話。
 ちなみに、ネギが風呂に入る前に4班のメンバーである裕奈・亜子・まき絵・アキラは、入浴を終えてお土産屋を物色していたりする。






 …………







 アスカが戻ると、真名とシンシアはいまだに攻防を繰り返していた。
 ヴィルテスはその脇で片膝をついていたのだが、シンシアはそれをあまり気にしていない様子。
 むしろ、真名との戦闘を楽しんでいるかのようにも見えた。

「しくったか。やっぱ、マスターがいねえと……」

 風の刃といい、先刻の雷撃といい。
 手の白い剣が恩恵をもたらしているとはいえ、やっかいなことこの上ない。
 しかも、魔力は離れているため微弱だが契約者から流れてきているはず。
 つまり、体力が続く限りいくらでも戦えるのだ。

「まだ、やるの?」

 そう口にして、大剣の切っ先をヴィルテスに向ける。

「………いや、シンシアのヤツも劣勢みたいだし。見逃してくれんなら、な」
「いーよ。僕はみんなが無事ならそれでいいから」
「くくっ…甘いな、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんじゃない。アスカだよ」
「そーだったな。アスカちゃん」

 この際、ちゃん付けなのは置いておく。

「で、君たちはなんで魔力を?」
「……マスターのためさ」
「なんで…そんなことを?」
「…………」

 都合の悪いことは答えない、か。
 当たり前か、などと口にして、左手で頭を掻く。



 そんなとき。
 2つの銃声が響き、双剣がはじかれたのを視界に納めたのだった。








同時進行バトル、アスカvsヴィルテスでした。
ヴィルテスは、クラス的には弓兵に位置します。
某ゲームのシステムを多少借りている部分がありますね。
もちろん、固有○界などありません。


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