互いに双剣と銃を合わせ、真名とシンシアは顔を見合わせていた。
「向こうはハデにやっているようだな」
「ほならウチらも…やりますえ」
「フッ…上等だ」
音もなく互いの刃と銃身が離れていく。
数瞬の間を置いて、互いの足が地面にめり込んだ。
ずしん、という音と共に、互いの武器が衝突を繰り返す。
表情には喜色が浮かび、真名は高速で繰り出される双剣をすべていなしながらも反撃の機会をうかがっていた。
頭上、肩口、袈裟、腹部。
無数の斬撃や打突が休むことなく繰り出され、エアガンとは思えない強度の銃ですべてを受け止め、受け流す。
「ふっ」
突き出された右手を自分の左手で受け流し、身体ごと懐へもぐりこむ。
彼女の左手は懐にある真名の身体で動きを封じられ、間合いを離そうと押し出そうとするが。
「…残念」
右腕の銃口をシンシアの腹部に突きつけ、引き金を引く。
ゼロ距離からの射撃。
マズルフラッシュは隙間から漏れだし、術式の施された弾丸が打ち出された。
同時に距離をあけて両手の銃を彼女に向ける。
ふと横を見やると、無防備のアスカが敵の攻撃に狙い撃ちされようとしているのが見えた。
「…世話の焼ける」
向こうの敵は弓使い。
具現した矢は高速でアスカに向けて飛来する。
真名は右手の銃口を矢に向けて、弾丸を撃ち出した。
魔力矢は真名の弾丸に寸分の狂いなく衝突し、霧散する。
「……助かった、サンキュー真名!!」
そんな声が聞こえて、真名は軽く笑みを見せたのだった。
魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
危険な賭け
ゼロ距離の一撃によって背後に吹っ飛んでいるシンシアは、空中で身動きが取れる状況ではなかったが、身体をひねって難なく着地した。
摩擦による煙を上げながら、腰を落とす。
横に向けていた銃口を再び彼女に向けなおし、数発撃ちだす。
襲い掛かる弾丸をシンシアは自らの双剣で叩き落し、身体を前に傾げて駆け出した。
地面を這っているような、そんな走り。
一直線に真名に向かってくるので、狙いやすいといわんばかりに銃を向けたのだが、マズルフラッシュと同時に彼女は一歩分横に移動していた。
弾丸が見えているのか、と聞かれれば、それは無理だと答えるだろう。
彼女は、真名が引き金を引くと同時に自分の走る位置を変えているのだから。
「…厄介な……っ!」
再び間合いを詰められ、接近戦に持ち込まれる。
薄い水色の双剣を煌かせて、一閃。
「どないしたん、おされ気味やね。ウチはまだまだ余裕あるえ…!?」
左右から同時に刃が飛んでくる。
その速度は速く、一般の人間なら視界に納めることすらできないだろう。
しかし、真名は違った。
「タチの悪い冗談だな」
腰を落としてコレを躱すと、銃口をシンシアの足元に向けた。
低い態勢のままバックステップで距離を取りつつ、引き金を引く。
銃弾は狙いどおりに彼女の足元へ着弾すると、地面にめりこみながら小さな火柱を上げた。
空になったマガジンをその場に落として、常備してある予備のそれと交換。
再び銃口を向けたのだが。
「冴え渡れ……『ブレイブハート』」
シンシアはその場で曲げた足に力を込めて、両の双剣を真名に向けて突き出す。
すると薄水色の双剣が光を帯び、前方…真名の正面に伸び始めた。
「なっ…!?」
思わず目を見開く。
アスカの大剣の3分の1程度しかなかったはずの双剣が、自分の身長よりも遥かに長い長剣には早変わりしたのだから。
今まで両刃だった刀身は片刃に代わり、微妙に反りが入っている。
もはや双剣というよりは、二刀流と考えたほうが良いかもしれない。
「ホントは、こんなトコで使いとうなかったんやけどな。あんさんがいけないんやで?」
朱色の魔力が体から吹き出ている。
……冗談じゃない。なんだ、こいつは?
今まで戦ったことのない、人外の者。
それは、あっという間にその間合いをゼロにしていた。
アスカがホテルの方へと飛ばされていった。
クラスメイトたちに被害が出なければいいのだが、こちらはこちらで必死だった。
「っ……」
繰り出される鋭い斬撃。
前方の至るところから、真名を肉薄していた。
武器自体が大きくなったのに、重さを感じていないどころか攻撃の速度自体が上がっている。
由々しき事態だった。
額に汗を浮かべながら、繰り出される閃光を受け止める。
なにより、それしか出来ない状況に陥っていた。
……どうすればいい?
……なにか、いい手は?
鋭く繰り出される剣戟。
彼女の表情には微笑が貼り付けられている。
銃身力を込めて剣をはじくと、一度離れて考えをまとめる。
彼女は、二刀流の剣士だ。
こちらの銃撃はほとんど防がれて終わりだろう。
しかも、彼女は疾い。
間を空けたところで、あっという間に詰められてしまう。
「くっ……」
再び、間合いが消えた。
数メートルは明らかに離れていたのに、それを一足飛びでゼロにしてしまっている。
長剣へと変化したままの双剣を受けながら、自分の経験をフル動員する。
……よし。
決めた。
どうせ、今までとは勝手が違うんだ。
だったら、賭けてみようじゃないの。
分の悪い賭けだ。
負けたとしても、相手に殺意がないことから死ぬことはないだろう。
……私の勝負強さ、試してみようじゃないか。
軽く笑みを見せる。
繰り出される剣を払い、いなし、受け流していく。
速度は速い。なにより、捌くのが困難だった。
「どないしたん?」
「いや、割に合わない仕事だと思ってな」
「そうですか……ほな、向こうも戻ってきたみたいやし、そろそろ終わりにせえへん?」
「ふむ、そうだな。私もいささか飽きてきたところだ」
「言いますなぁ……」
激しい剣戟の中、互いに軽く笑みを浮かべる。
……とにかくタイミングが大事。
しくじれば、こちらがやられてしまう。
シンシアは逆手に持った双剣を順手に持ち替えた。
……まだ。
押し出すように、剣を突き出す。
……まだだ。
切っ先から察するに、狙いは真名の両肩。
戦えなくしてしまえば、任務をまっとうできると踏んだのだろう。
徐々にその距離が縮まっていく。
1メートル。
80センチ。
50センチ。
10センチ。
……ここ!!
目を見開き、身体を沈ませる。
切っ先を肩口を外れて、軽く斬りながらも顔の両側を通過していった。
しゃがみこみ、両手の銃を剣に突きつけると、
「私の勝ちだな」
引き金を引いた。
シンシアの手から離れ飛んでいく双剣。
魔力を失ったせいか、光は霧散して元の長さに戻っていく。
銃口はもちろん彼女の眼前へ。
得物を持たない彼女に、もはや反撃の要素は存在しなかった。
「ウチの負けやね。さすがやわ、お嬢さん」
「真名……龍宮真名だ。覚えておけ」
アスカも戦闘を終わらせている。
かろうじて勝利を得たようだが、表情には疲れが大きく表れていた。
「報酬は、少し多めに頂かねばならないようだな」
真名はぜえぜえと息を荒げているアスカに顔を向けたまま、そんなことを口にしたのだった。
たつみー隊長vsシンシアでした。
シンシア。彼女は双剣士です。
ちなみに、次の53時間目とは同時進行だったりします。
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