「アスカちゃんっ! こっちのヘルプ頼む!!」
「はいぃっ!」
「アスカちゃんっ!! 今度はこっちよろしく!!」
「はいはいっ!」

 修学旅行2日目。
 アスカは……ホテル嵐山厨房にいた。

 なぜかといえば、鍋パーティの前まで遡るわけで。
 パーティに使った土鍋を借りに行った際、約束を取り付けられたわけで。
 本来なら客に手伝わせるのは言語道断な話なのだけども。

「いーじゃねぇか。明日は料理長含めた料理人のほとんどが食中毒で休みってことになっちまってんだよ」

 かなりハードな状況だったらしいので、二つ返事でOKしてしまっていたわけで。



 …………



「アスカちゃんっ! 麻帆良学園の朝食よろしく!!」
「はぁっ!? あんな大人数の食事、作ったことなんかないよ!!」

 朝もはよから下ごしらえ。
 その後であーんな大人数の朝食を作れと。
 これは土鍋だけでは間違いなくお釣りが来るでしょう。

「だいじょーぶっ!! お前さんの腕を見込んでの頼みだ。バイト料も出すからよっ!」

 頼むぜ! ……な?

 結局、しぶしぶだが麻帆良学園女子中等部全員の朝食を作るハメになっていた。



「うあぁぁん、僕も修学旅行ーっ!」



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
修学旅行予感編



「それでは、麻帆良中の皆さん…いただきます」
『いただきまーすっ!』

 全員揃って、修学旅行ならではの『いただきます』。
 学校単位で修学旅行へ行けば、間違いなく行うだろう儀式っぽい行為だけど。
 それはこの3−Aも同じだった。

「うー、昨日の清水寺の滝から記憶がありませんわ…」
「せっかく旅行の初日の夜だったのにーっ!」

 くやしーっ!!

 酔いつぶれ組筆頭だったあやかや裕奈が、不満げにそう口にしながら朝食をかっ込んでいた。
 サバの味噌煮と、ほうれん草のおひたし。トッピングにたくあんをつけて、さらに典型的日本人の朝ご飯である白飯と味噌汁。
 ウェールズに住んでいたはずのアスカが仲良くなった1人の料理人と共に必死になって作り上げた渾身の作だったりする。
 当の本人はというと……







「あ゛ぁ〜……」







 ぱくぱくとたくあんを口に放り込む亜子の横で、アスカはぐったりとうなだれていた。
 一介の中学生が、プロの料理人たちと一緒になって数十人分の朝食を用意したのだから、無理もない。

「い、今ならきっと……死ねる……」

 プロと中学生の決定的な違い、ここにあり。

「ど、どうしたん?」

 そのだらけっぷりに、亜子は尋ねずにはいられない。
 それは彼女のさらに隣に座っていたまき絵や裕奈も、どこか不思議そうにその光景を眺めていたのだが。
 アスカはうなだれたまま自分の前に置かれた朝食を指差して。

「…これ」
「朝ゴハンやけど……それがどうかしたん?」

 最近、アスカは寮での食事係として居場所を確立しつつあった。
 そんなことから、味噌汁に至っては全部アスカが作ったので、普段からアスカの作った朝食を食している亜子やまき絵なら気づくのではと思っていたのだが。

「……僕が作った」
「…………………………は?」

 ぽろり、と裕奈の箸の先からつまんでいたサバのかけらが湯気を立たせる白飯の上に落ちる。
 交互にアスカの顔と朝食を見比べると、

「……あ、ホントっぽいよ。味噌汁、いつもアスカが作るやつとよく似てるみたい」


 ずず……あ、おいしい♪


 まき絵は1人、アスカの言葉の真偽を確かめるために味噌汁を口にしていた。

 まずは見た目。
 具などは店で用意してあったものを使っているわけだが、一ヶ所だけ普通の味噌汁とは違う部分があったりする。
 ウェールズで長くスプリングフィールド家の食事係を担ってきた彼だからこその、せめてものこだわりだ。
 それは………表面に浮かんでいる緑の物体。
 洋食の、スープものになら必ずといっていいほど乗っかっているもの。

 月桂樹の葉っぱである。

 乗せる意味は特にないのだが、自分をこき使った料理人たちへのささやかな反抗心である。

「ってことは……この料理ぜーんぶアスカが作ったってこと!?」
「料理人さんたちも一緒だったけどね……」

 気だるげにむくりと起き上がると、箸を手にとって白飯を口に放りこんだのだった。





「せっちゃーん♪ 恥ずかしがらんと、一緒に食べよー」
「わ、私は別に――― ……」

 昨夜、木乃香と刹那の間に何かあったようだが、アスカは早々に寝てしまっていたので。
 木乃香が関西呪術協会の女性にさらわれかけたことなど知る由もない。








 瞬く間に朝食は終わり、アスカはロビーで再びぐったりしていた。
 あのあと、今度は後片付けにまで駆り出されたのだから、無理もない。
 学園広域生活指導員の新田先生に見つかりかけてしまうこともあったが、なんとか班別行動の時間には間に合ったのだった。

「なんだかお疲れだにゃー」
「裕奈……?」

 苦笑しつつ近づいてきたのは、アスカを男と知りながらも快く班に迎え入れてくれた4班の班長さん。
 大きなテレビの前に置かれている半円を描いているソファに身体を投げ出していたアスカの隣りに、腰を下ろしていた。
 テレビには朝のニュースが流れていて、薄く化粧をしたアナウンサーの女性がカメラ目線で『本日の事件』を話していた。

「しっかし、アスカは何でもできるよねー」
「……そんなことないよ」
「謙遜謙遜。胸張りなって、いーコトじゃん」

 にか、と笑う。
 そんな彼女を見て顔が綻んだ、そのときだった。

『次のニュースです……』

 アナウンサーの声と共にテレビに映った光景に、目が止まった。
 画面には、一軒の大きな病院に次々と運び込まれる人々の姿だった。

『以前から欧州にて突然昏睡状態になるという事件が多発していると報じてきましたが、昨日未明、新潟県で同様の昏睡によって病院に運び込まれるという事件が起きました』

 画面は変わり、図のようなものが表示される。
 そこには、今回の事件による人々の症状と、それ関するいくつかの私的見解。
 さらに予測された原因がずらりと並べられていた。

 目立った傷はなく、主に夜半過ぎに頻発。
 目覚めた被害者数人が言うには、特定の人物が目の前に現れたかと思うと、その次の瞬間には病院のベッドだったとのこと。

『“特定の人物”という人物は数人であると見て、新潟県警は捜査を続けています……“特定の人物”とは……』

 暗がりだったため見づらかったようだが、そのすべてが若い男女であることだけがわかっているという。



(……なんだか、イヤな予感がするなぁ……)



 画面を見ながら、アスカはそんなことを考えていたのだが。


「アスカぁ〜、出発時間過ぎちゃうよ!!」


 既にソファから身を起こしていた裕奈に急かされて、アスカは少し険しげな表情を掻き消したのだった。






というわけで第49話でした。
中学生に厨房を任せる料理人って…どーでしょう?
それをやってのけた主人公もすごいとは思いますが、朝っぱらから疲れすぎですね。


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