「えっ……と」

 食器や鍋を洗い終えて、アスカはアキラと共に部屋に戻ってきていた。
 乱雑に敷かれた布団には、昼間酔いつぶれたメンバーが気持ちよさそうに寝息を立てている。
 真名は木造の椅子に腰掛け、備え付けられていた緑茶をすすりながら月を眺めていた。
 その光景に互いに顔を見やって、苦笑する。

「おお、おかえり」
「うん」
「どうも……」

 2人の姿を確認して、真名は一言そう告げる。
 部屋は暗く、表情を読み取ることはできない。
 そんな中で一瞬、彼女の瞳が光を帯びたような気がして、なにを警戒しているのかと思わず呆れてしまった。

「僕は、この鍋片付けないと」
「そういえば、この鍋はどこから?」
「簡単だよ。ここの厨房。仲間内で鍋パーティーやりたいって言ったら、料理長さんが快く貸してくれたんだ」

 このホテル『嵐山』の料理長。
 まだまだ働き盛りのおじさんで鍋を貸してくれと頼んだら、料理はできるかと返されて。
 できると答えたら最後、「明日の朝食の手伝いをしてくれたら貸してやる」なんて言われてしまっていたのだ。
 本来ならホテルの土鍋を貸すなんてこと、してはいけないことらしいが、

「なぁに。おまえさんだからこそだ。出血大サービスってヤツだな。ハッハッハ!」

 などと言って豪快に笑っていた。




 ってか、それ以前に自分らの仕事を客に手伝わせるってどーよ?





「とりあえず、僕は明日早いから。今日はこれで寝ちゃっていい?」
「あぁ。みんな爆睡状態だからな。明日までは起きないだろうし」
「もう就寝時間は過ぎちゃってるんだけどね」

 そんな言葉を交わして、アスカは部屋の端に布団を敷くと、もぞもぞともぐりこんだのだった。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
修学旅行和解編



 アスカが就寝したのと同時刻。
 明日菜とネギは、ホテルの玄関に魔除けの札を貼り付けていた刹那をつかまえて話を聞いていた。
 主な内容は敵である関西呪術協会のことと、神鳴流という流派のこと。
 刹那が敵ではないかという疑惑は話の最初で否定されていたため、ネギとカモが謝罪していたのはついさっきのことだ。

 彼女曰く、敵は関西呪術協会の一部勢力である陰陽道の「呪符使い」とその式神であるらしい。

 呪符使いとは古い昔から京都に伝わっている魔法『陰陽道』を基本としており、根本の部分では西洋の魔法使いとさほど違いはない。
 呪文の詠唱中に無防備になることは同じだし、西洋魔術師が従者を持つ代わりに、陰陽師は『善鬼』や『護鬼』を従えている。
 さらに京都神鳴流とは深くつながっており、まれにガードを依頼することもある。

「神鳴流は元々、京を守り魔を討つために組織された掛け値なしの力をもつ戦闘集団です。護衛につかれたら非常に手強い相手であることは間違いありません」
「うわわ…ちょっと何かヤバそうじゃん?」

 つまり、明日菜のつぶやきもあながち間違いではないということで。

「じゃ、じゃあ…神鳴流ってゆーのは、やっぱり敵じゃないですか!」

 ネギが口にしたことも、的を射ていたのだが……

「彼らにとってみれば西を抜け東についた私は言わば“裏切り者”。でも、私の望みはこのかお嬢様をお守りすることです。仕方ありません」

 私は…お嬢様を守れればそれで満足なんです。

 刹那は軽く2人から目を反らしながら、恥ずかしげにそう口にした。
 その言葉にはどことなく憂いが含まれ、ロビーは一時、静寂に包まれる。

「よーし、わかったよ桜咲さん!」

 沈黙を破ったのは明日菜だった。
 ガタンッ! と勢いよく立ち上がると、

「あんたがこのかのこと嫌ってなくてよかった。それがわかれば十分!!」

 明日菜は、気になっていた。
 先刻の「何かウチ、悪いコトしたんかなあ…」と目尻に涙を溜めながら話していた木乃香のことが。

 中学に上がってから、刹那と再会してみたら、以前のように話をしてくれないようになっていた。

 そんな話を聞いた後だったからこそ、余計に。

「友達の友達は友達だからね。私も強力するわよ!!」

 ばん、と刹那の背中を力強く叩いたのだった。
「じゃあ、決まりですね! 3−A防衛隊ガーディアンエンジェルス…結成です!!」

 明日菜は呆れた表情で。
 刹那は恥ずかしそうに。
 ネギは満面の笑顔で。

「関西呪術協会から、クラスのみんなを守りましょう!」

 スポーツで円陣を組んで気合を入れるときのように手を中央におき、ネギがそう口にした。
 つまり、刹那が味方ということは、バスに乗る前から気になっていたアスカも彼自身の言うとおり味方ということで。

(よ〜し、アスナさんに刹那さん、さらにはアスカもいれば百人…いや、千人力だ!)

 あとは親書を渡すことができれば、すべてが丸く収まる。
 嬉しそうに、そんなことを考えつつ。

「早速、僕…外に見回りに行ってきますね!」
「あ、ちょっ…ネギ!」

 2人に背を向けて、外を出て行ってしまっていた。




「いいですよ。私たちは班部屋の見回りにつきましょう」

 ネギを呼び止めようとした明日菜を制し、刹那は彼女を連れて木乃香のいる5班の部屋へと向かったのだった。










「明日菜さんには話しておいた方がいいかもしれませんね」
「…え?」

 部屋へと向かう途中。
 刹那は唐突にそう口にした。
 一般人とはいえ、私情を含んだ自分の仕事に巻き込んでいるのだから。

「ですが、ネギ先生には言わない方がいいと思いますので…内密にしておいてください」

 今の先生では、やることが多すぎて困ってしまうでしょうから。

 元々、そういう決め事だった。
 京都に来る前に、学園長を交えて話をしたことを。
 関西呪術協会以外に確実に来るであろう、脅威のことを。

「私は深くは知らないのですが……」

 『七天書』。
 自分たちに降りかかるであろう、災厄を。



 …………



 ……



 …



「守護者って……なんかすっごいファンタジーよね…」
「神楽坂さんは、アスカさんと共に『赤い少女』に遭遇したそうですね」
「あ……あー」

 エヴァンジェリンとの戦いまで遡る。
 『赤い少女』とはアスカの胸に手を突っ込んでいた、燃えるような赤い髪を持つ少女だ。

 “また、遭うこともあるだろう”

 などと言っていたことを思い出す。

「彼女と、他6人の守護者たちの狙いが…このかお嬢様や、ネギ先生という話なので」
「……なんで?」

 唐突過ぎた。
 刹那自身も話の展開についていけなかったくらいだから、仕方ないと言えば仕方ない。

「なんでも、魔力がどうと言っていましたが…私自身信じられずにいたものですから」
「そ、そう……」

 ということは、詳しい話はアスカから聞かねばならないということで。

「もう、寝てるわよね…」
「私は断ったのですが、鍋パーティーをしているようですけど」
「それは私も知ってる……」

 何しろ、一度部屋を訪れているのだから。

「……明日にしよっか」
「そうですね」

 2人は、目の前の5班の部屋の扉を開けたのだった。




というわけで、このあとで木乃香さらわれ事件が起こるわけですが、ここでは省略。
そして、明日菜にも話してしまいました書の話。
一応、彼女も主人公が魔力取られるところに遭遇した1人ですし、このくらいはしないと。
なんて、そんなことを考えつつ、複線を。


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