「失礼しま〜す」

 学園長室。
 両開きの大きな扉を開けて中に入ると。

「アスカさん……?」
「刹那……」

 すでに学園長の座る机の前に白木の柄の野太刀を背負った少女がたたずんでいた。
 長い髪を頭の右側でまとめたその小柄な少女――桜咲刹那。
 剣を交えた仲で、その時以外にあまり交流がなかったのだが、

「おぉ、アスカ君。よく来てくれたの」
「あ…はぁ……で、用事っていうのは?」

 そんな問いの後に学園長から発された答えは、彼女を大いに驚かせることとなった。



「君に、このかの護衛をお願いしたいんじゃよ」



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
修学旅行出発編



「がっ…学園長! それはアスカさんには関係ないことでしょう!?」
「まぁまぁ。落ち着きなされ」

 アスカが戦えることは刹那も知っていた。
 でも、木乃香を守るのは自分だから、と。
 この場にアスカを呼び、木乃香護衛を頼むことに納得ができなかった。

「一度剣を交えたならわかるじゃろう、アスカ君の力は君の助けになる」
「ですが……」

 学園長が口にした内容は、『木乃香の護衛』だった。
 話に聞けば刹那は木乃香の幼馴染で、以前から彼女を影で守っていたのだとか。
 友達として一緒にいればいいのに、と考えたのはまた別の話だ。

「刹那がメインで動くんでしょ? だったら、僕はそれに手を貸すだけ……友達じゃん、困ってるなら力貸すよ?」
「アスカさん……」

 木乃香も刹那も、大事な友達だ。
 困ってるなら助けたい。

「1人でやることには限界があるよ。だから……」

 ね?

 アスカはにっこりと笑って、刹那にそう告げたのだった。












「それから…例の少女のことじゃが」

 真剣な表情で、学園長はそう口にした。
 『例の少女』とは、赤い少女…アスカの魔力を奪ったエクレールという少女だ。

 「エヴァから話を聞いておる。『七天書』の守護者と交戦したようじゃな」
 「ええ……」

 彼女は、「強大な魔力が必要だ」と言ってアスカの魔力を奪っていった。
 目的は不明。彼が交戦してわかったことは、彼女がかなりの強さを持っているということだけだった。

「『七天書』の守護者とは、『七天書』の主を守る7人の騎士を示しておる。」

 学園長は、率直にそう告げた。

 正式名称『七夜統べる魔法書』。
 魔力を駆り集めてページを増やし、そのページ数に比例して主の力の強さが増す。
 7人の騎士たちはそれぞれ7つのクラスに分かれ、主の盾となり剣となる。
 ページが完成すると、その主は世界を統べる力を手に入れる。
 大戦時にサウザンドマスターの一行がものっすごい強く封印をかけるほど危険な代物だ。

「それの封印が解けてるってことは…」
「そう。巨大な魔力を保有しているこのかやネギ君が狙われやすくなることは間違いないじゃろ」
「なっ……どういうことですか!?」

 1人おいてけぼりをくらっていた刹那は突然の展開に瞠目する。
 護衛の対象である木乃香がいきなり危険だと言われたのだから、無理もないのだが。

「こないだのエヴァンジェリン騒動で赤い少女の介入があっての。その少女が『七天書』という魔法書の守護者で、アスカ君が一度魔力を奪われたんじゃ」
「え……」
「そ。停電の日の次の日、僕休んだでしょ? それが原因なんだけど……彼女、強い魔力を求めてる。だから……」
「このかお嬢様やネギ先生が危険になるかもしれないと?」

 刹那の震える声に、うなずいた。
 でも実際、まだ守護者たちの動向などさっぱりだ。
 主の姿もないし、とにかく謎が多すぎる。

「京都では関西呪術協会とその守護者たちの襲撃があるかもしれん。気をつけるのじゃぞ」







 とりあえず、修学旅行では『必要なら力を貸す』ということでその場は収まった。
 先日の図書館島騒動はただ疲れただけだったのだけど、友達が困っているなら話は別だ。
 できるならぜひとも力を貸したい。
 なにより、『七天書』のことが気がかりだから。

「でも、やっぱり刹那はこのかと関わりがあったんだね」

 以前、楓や真名を交えて戦ったときの話。
 彼女は木乃香のことを『お嬢様』と言っていたから。

「え、ええ……まぁ」

 頬を赤らめて、刹那はばつが悪そうに返事。
 すでに学園長室を後にしていて、赤い夕日が照らす廊下を2人で歩いていた。
 下校時刻はとうに過ぎていて、生徒たちは1人として見当たらない。

「とりあえず、その……関西呪術協会、だっけ。修学旅行中にその組織の邪魔が入るかもしれないんでしょ?」

 何かあったら、いつでも手を貸すから。

 ぐっ、と拳を握って刹那ににかと笑って見せたのだった。



























「……すか! そ……てよぉ!」
「うむぅ……」

 誰かに身体をゆすられる感覚。
 アスカは深い眠りから徐々に覚醒していったのだが。

「アスカぁ! 早く起きないと、送れちゃうよぉーっ!!」

 …………

 むく、と身体を起こす。
 しょぼしょぼした目をこすりながら時計に目を向けると。

「…………」

 長針が12、短針が8。
 午前8時。
 たしか、集合は大宮駅に9時……

「うわっ、うわっ、うわっ!!」

 慌てて床に降り立つと、洗面所へ駆け込む。
 扉を閉めて着替えもなにもかもそこで済ませて、荷物を引っつかんだ。
 ポケットマネーやパクティオーカード、旅行に当たってとりあえず必要そうなものを全部詰め込んだ肩掛けカバンを手に、先に出て行ったまき絵を追いかけた。
 万が一のために、以前ネカネから届いた性別詐称の丸薬も数粒ずつ小さなビンに詰め込んである。
 亜子は保険委員の仕事で先に出たらしい。

「9時に大宮駅……」

 時間的にもギリギリだ。
 アスカは走る速度を上げて、駅へと急いだ。

 初めての学校で、初めての修学旅行。楽しみでしょうがなくて、なかなか眠れなかったのがマズかった。
 目覚まし掛け忘れて寝坊するのも、朝っぱらから必死に走っているのも。

 ……電車に乗ったら、朝ご飯食べて一眠りしようかな。

 なんて、そんなことを考えたりもしていた。








「それでは京都行きの3A 3D 3H 3J 3Sの皆さん、各クラスの班ごとに点呼を取ってからホームに向かいましょう」
「では1班から6班までの班長さん、お願いしまーす!」

 「3−A」と大きく書かれた旗を振りながら、担任のネギが各班の班長に告げる。
 班長は班の人がいるかどうかと点呼を取るが、

「せんせー、まき絵とアスカが……」
「アスカ、まってよぉー!!」
「あぁっ、もうみんな行っちゃいそうだよ! まき絵、急いで!!」

 班長の裕奈がネギに告げようとしたところで、アスカとまき絵は大宮駅は新幹線の乗り場に駆け込んだ。
 すでに2人以外の全員が改札に集合していて、もういつでもホームへ行ける状態で

「ごっ、ごめんなさい! 遅れました!」
「アスカが早く起きないからでしょーっ!?」

 辿り着くや否や、膝に手を当てて荒れた息を整える。

「遅いよーっ!」

 遅い遅いと言われ、全員に平謝りしながらもネギのところへ。
 遅れました、と伝えると、大丈夫ですよと返ってきていた。

 JR新幹線あさま506号――まもなく発車いたします……

 …………

 ホントにギリギリだった。
 全員揃ったところで、3−Aは京都へ向かう電車へと乗り込んだのだった。








本格的に修学旅行編が始まりますね。
七天書の詳しい話と、刹那メイン化の兆し。
最後の方がちょっとおかしいですね。なんていうか、とって加えた感じで。


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