「えーと、皆さん。来週から僕たち3−Aは京都・奈良に修学旅行に行くそーで……!!」

 嬉しそうに、心の底から嬉しそうに。
 ネギは満面の笑顔で教壇に立ってクラスを見回していた。



 実は彼。
 昨日、エヴァンジェリンとの戦いに勝利を納めた彼は、ばったり彼女と出くわしていたのだ。

「こんにちは、エヴァンジェリンさん」
「ふん、気安く挨拶を交わす仲になったつもりはないぞ」

 そんな掛け合いをしつつ、サウザンドマスターであるナギ・スプリングフィールドが生きているかもしれないと言うことをエヴァンジェリンに告げたのがそもそものきっかけ。
 それを聞いた彼女は声をあげて笑いながら、

「京都に行ってみるがいい」

 そんなことを口にしていた。
 曰く、京都のどこかにナギの住んでいた家があるとのこと。
 そんなわけで、



「もー準備は済みましたかー!?」
『は――――いv』

 子供らしいノリと満面の笑みを浮かべていたのだった。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
修学旅行準備編



「……嬉しそうだなぁ」

 机に頬杖をついて、アスカはそんなことを口にしていた。
 少し身体がふらつくものの、一昨日からの体調不良から復活し、登校。
 当事者であるネギをはじめとする数人に「迷惑かけました」と、頭を下げていたのはついさっきのことだった。

「そのようなことより、おとといのことを話してもらおうか」
「え?」

 彼の隣はエヴァンジェリンの席。
 だからこそ、ホームルーム中でも会話ができるのだけど。
 ちなみに、ネギはいつの間にか教室から居なくなっていて、クラスは雑談状態になっている。

「おとといのことと言いますと……あぁ、アレ?」

 アレ、とはもちろんアスカが戦った赤い少女のことである。
 本気で剣を交えてみたから、彼女が人間ではないことはアスカ自身分かっていた。

「貴様ならば聞いているだろう。ヤツの名前や所属、その他諸々」

 確かに聞いた。
 名前も、所属も。
 エヴァンジェリンは関係者だ。聞く権利はあるだろう。
 だから、

「ん。わかった」

 そんな返事をしつつ、自分が聞いた全てを話し始めた。

 名前はエクレール。
 ファミリーネームかファーストネームかは定かではないが、響きからして名前ではないかと推測する。
 そして、彼女が人間ではない、別の魔法的な生命体であること。
 戦闘中に彼女自身から聞いたことだから、間違いはない。

 印象に残ったのは、燃えるような赤い髪だった。
 服装は欧州の騎士をイメージさせる軽い銀甲冑を装備し、手には桜色の長剣。
 剣は片刃。鍔の部分に丸く透明な石が埋め込まれていて、その石が紫に染まると剣全体が同色のもやのようなものに包まれていた。


「……とりあえず、ヤツが人間ではないことはよくわかった。ということは…魔道書か、それに連なる何かが原因のようだな」

 書物の名前や、道具の名前は?

 そんなエヴァンジェリンの言葉を聞き、戦闘時に口にした彼女の言葉が蘇る。

 『七天書』の守護者…ハーヴェスターが一、エクレール。

 おそらく、これが所属になるのだろう。
 『書』というくらいだから、魔道書の類。
 強さからして、かなり高位のものだと判断できる。
 実際のところ、アスカにその手の知識があるわけではないので、

「『七天書』の守護者って…言ってた」
「ふむ…そうか。ということは、厄介事がまた増えたということだな」

 ジジイに報告しておくか。

 そんなことをつぶやいて、エヴァンジェリンはふうとため息をついたのだった。














「さーて、忙しくなってきたぞ。まずは修学旅行の準備をしなくっちゃ!」

 ネギは1人、寮への道を走っていた。
 肩にはもちろんカモを乗せているが、周囲に人はおらず彼が話をしようが何をしようが問題はなかった。

「そういや兄貴。昨日の仮契約パクティオーの時、カードみたいのが出なかったか?」
「えーと、これのこと?」

 ネギが取り出したのは、手のひら大程度の大きさのカードだった。
 中央には明日菜の絵が描かれており、絵の中の彼女の手には黒光りする大剣が描かれている。

「キレイな絵だよねー。契約の精霊が描いているのかな?」

 パクティオーカード。
 アスカも持っている、仮契約の証だ。
 意思次第で本人の武器であるアーティファクトにもなるスグレモノ(?)だ。
 仮契約の方法はいくつかあるのだが、その中でも最も簡単なのが『キス』である。

「契約の証かぁ………………あれ?」
「どうした兄貴?」

 彼の目の先には、カードに描かれた明日菜の姿。

「ねぇ、これって……」

 そして、指差したのは彼女が手にしている鋼色の大剣だった。

「どこか…アスカのアーティファクトと似てない?」
「ん…どれどれ」

 肩のカモにも見えやすいように、カードを移動する。
 まじまじとそのカードを見つめていると、

「ほっ、ほんと……」
「お―――い、ネギ―――!!」

 カモが驚くのを遮るように、木乃香を連れた明日菜がネギを呼び止めていた。
 おかげで叫ぶ気も失せてしまったが、

(確かに、アレはアスカのアーティファクトとよく似てた…ってか、ほとんど同じだったじゃねーか)

 そう。
 形状も、デザインも。
 そのすべてがカードの中の明日菜が持っている剣と酷似していたのだ。
 ただ違うのは、色。
 明日菜の剣が鋼色であることに対して、エヴァンジェリン戦でアスカが振るっていた剣は真っ白。

(なにか、関係でもあるんじゃねーか……?)

 明日菜の肩に飛び移りながら、カモはそんなことを考えていたのだった。













「むー……」

 ネギが明日菜と木乃香と買い物に行ったのと同時刻。
 アスカは1人、カバンと着替えの前でうなっていた。
 カバンは図書館島に持っていったものをそのまま流用し、着替えも一応ある。
 ……全部女物なのが彼の心に深い傷を残していたのだけど。

「むむむ」

 思えば、彼は身1つで麻帆良学園までやってきた。
 さらにそれまで、旅行なんか行ったことがなかったのだ。
 そんなわけで。

「カバンと着替え以外に、何がいるんだろう?」

 何を持っていけばいいのか分からず、うなっていたのであった。
 配られたしおりを見ると、最低限必要なものは書いてあるので用意した。
 必要最低限のものがあればいいのだけど、亜子やまき絵のカバンを見ると間違いなくほかにも何か入っている。
 カバン自体はそれほど大きくない。着替えなどは現地に宅配便で送るという話だから、身に付けておくのはリュックやら肩掛けカバンといったものだけらしい。
 隣に置いてある大きなカバンもそこそこに膨れていて、着替え以外にもなにか入っていることが理解できる。
 それをたずねると、

「へへへ……ヒミツや♪」
「向こうに着けばわかるから」

 なんて2人して無邪気に笑っていた。

「とりあえず、しおりにある分だけカバンに入れておこうかな」

 そんなわけで、床に展開された私物をいそいそとカバンにおさめはじめたのだった。


 そのとき。

 〜♪

「うっ、うわ〜っ!! スゴイっ!!」

 新学期に入ってから購入した白い携帯電話から、初めてコール音が発されていた。
 番号を教えているのは同室の亜子とまき絵、身内兼担任のネギと学園長くらいのものだったので、最初の2人は行動を共にすることが多かったし、ネギや学園長に至っては用事がないと電話などするわけもない。
 そんなことから、まだ買って数日の携帯電話にコールが入ったことと、そしてキレイなメロディが流れたとこに驚いていたのだ。
 おそるおそる手を伸ばし、バイブ機能でぶるぶると震える携帯電話を手にとり、『通話』のマークのついたボタンを押す。

「も、もしもし……」
『おお、アスカ君かね?』

 相手は学園長だった。
 着信を知らせる画面に相手の名前は出ているはずなのだが、ボタンを押すのに必死で目にも入っていなかった。

『悪いんじゃが、今から学園長室に来てくれんかのう。頼みたいことがあるのでな』
「また、なにか厄介ごとじゃないでしょうね?」
『なんじゃ、疑っとるのかね? 大丈夫じゃよ。修学旅行についてじゃ』
「…………」

 にわかに信じがたいが、自分にも関わりのある修学旅行に関することでは、行かねばなるまい。
 そんなことを考えて、

「わかりました」
『それでは、待っておるぞ』

 そんな言葉を交わして、『通話終了』のボタンを押したのだった。








というわけで修学旅行編の始まりです。
準備と、学園長からの電話。
オリジナル設定の『七天書』についても次回。


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