エヴァンジェリン宅までアスカを運び、ソファに寝かせた明日菜は、自分が見た状況を細かにエヴァンジェリンと茶々丸に説明していた。
 彼女自身もネギとの戦闘でかなり疲労していたのだが、放っておいてはどこか後味が悪い。
 それに、アスカに借りを作っておけば後々役に立つだろうなどと、疲れた思考をめぐらせていた。

 明日菜の見たアスカは。

 エヴァンジェリンが湖に落ちていったのとほぼ同時に、アスカの胸元にあの赤い少女が腕を突っ込んでいた。
 突っ込んでいたといっても血は出ておらず、宙に浮かんだ黒い穴に手を入れている感じ。
 そして、助けようと自分が向かっていったときには彼女は穴から手を抜き出していて、その手のひらには紫の小さな光が浮かんでいた。
 手を抜き出されたアスカは、すでに意識がなくて。
 その後彼女は煙のように消えてしまって、今に至る。

 とのこと。

「他には聞いていないのか? 名前とか所属とか」
「…聞いてないわよ。それに、聞いたってわかるわけないでしょーが」

 そう答える明日菜を軽く見下すように息を吐いたエヴァンジェリンは、目の前で明日菜が怒って茶々丸になだめられているのを無視してソファで寝ているアスカを見やる。

「つまり…コイツが目を覚まさねば何もわからない、ということか……」

 自分もネギとの戦闘に夢中だったから、近くで剣を交えていた2人など見ているわけがない。
 つまり、彼女自身も詳しいことは分からないのだ。

「……まぁいい。ともかく、全てはコイツ目覚めてからだ。神楽坂明日菜」

 頭を振って、茶々丸によってなだめられていた明日菜にそう告げたのだった。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
彼の見た夢



「うん……」

 意識が覚醒する。
 むくりと身体を起こせば、そこは。

「ここ……どこさ?」

 見渡す限りの荒野と、聞こえる轟音。
 そこが今、自分のいる麻帆良学園都市であることは早々に理解できていた。
 なぜなら、大きな校舎と図書館島。
 さらにはひときわ高くそびえたつ『世界樹』と呼ばれる大樹が目に入ったから。
 そして、

「……っ!?」

 自分の隣。
 そこには、傷つき倒れている数人のクラスメイトの姿があった。

「せっ……刹那っ!?」

 長い黒髪を横で縛り、麻帆良学園の制服だったものを身に纏っているがところどころが破れていたりすすけていたりとボロボロ。
 彼女から流れる血液が地面に染み込んで、真紅に彩っている。
 さらにその奥には。

「真名…楓…くーちゃん…それに……」

 刹那の奥で動くことのないクラスメイトたちのさらに奥。エヴァンジェリンが何かの魔法を展開しているが、その表情は険しい。
 彼女を背に、すでに満身創痍のネギと明日菜が、正面に浮かんでいる大人1人分程度の大きさの影を見つめていた。
 同様に、アスカも見上げる。

 ……なんだ、アレは?

 見上げた先の黒いもやのような何か。
 澄み切った青空の中なので、その黒さも際立っている。
 その色は、黒を超えた……闇だ。

 黒の中心には、1人の少年がいる。
 顔までは見えないが、体格からアスカはそう確信した。
 彼の腕が、3人に向く。

「アスナさん、エヴァンジェリンさん! 逃げ……」

 ネギの言葉が最後まで紡がれる前に。
 向けられた腕の先から生じた黒の光が彼らを覆い尽くして。

「……っ!?」

 爆発した。
 魔力の収束による即席の爆弾だった。
 規模も大きい。
 ここまで広い範囲を爆発させる彼の魔力は、一体どれだけあるのだろうか。
 爆風に思わず腕で顔を遮り、目を固く閉じる。

 爆風が止んだのはそれから数分後。

「ネギ、アスナっ……エヴァさん!?」

 ゆっくりと、3人の居た場所まで近づいていく。
 ついさっきまで彼の視線の先にいた3人の姿は……

「あっ…あああっ……」

 ――――人とは思えないような、無残な姿になっていた。

「うああっ……」

 ひざまずき、かすかに残る元は杖であった木を握ったままのソレを腕に抱いて……空を見上げた。






































「ああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」







































「うわあぁっ!!」
「ひゃあっ!?」

 跳ね起きた。
 大量の汗が顔を伝い、かけられていた布団に数滴落ちていく。
 目を大きく見開いたアスカの視線は部屋の白い壁紙を凝視し、そこが自分の住んでいる部屋だと確認した。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 カーテンの隙間から漏れる日光に目を細め荒い息を整える。

「まったく、びっくりするやんか。起きるなら起きるって言うとかんと」
「…………」

 薄い青の紙をショートに切りそろえ、麻帆良学園の制服を身につけている少女が1人、ベッドの脇に尻餅をついていた。
 「びっくりしすぎてひっくり返ってしもたわ〜」なんていいながら、少女は腰をさすりながら立ち上がる。

「亜子……」

 少女の名前をつぶやいた。
 聞けば、いつまで経っても目を覚まさない上にうなされていたので、保険委員の自分が残って見ていたのだとか。
 時計を見やれば、始業まであと少し。

「なんか食べるやろ? ウチがなんか作ったるから、ちょっと待っとき」
「…………」

 ひょいひょいと台所に向かおうとする亜子の後姿を眺め、ふるふると首を振る。

「亜子。僕は大丈夫だから、学園行ってよ」
「え?」
「ちょっと夢見が悪かっただけで、身体に異常があるわけじゃないからさ」

 ね?

 汗を伝わせながら、台所の亜子に向かって微笑む。
 作り笑いになっていないか、正直心配だったのだけど。

「……わかった。ほな、ウチ学校行くけど…何かあったら連絡してな」

 少々釈然としない表情をしながら、亜子はしぶしぶ答えを返した。

 自分のせいで、無関係の亜子にまで迷惑はかけられない。
 これは今まで戦ってきたアスカの……ひいては男としての意地だった。
 夢の内容を思い出して、悲しくならないようにとただ笑みを浮かべて。

「………うん、ありがとう」

 ゆっくりと出て行く亜子を見送ったのだった。







 ガチャン、と部屋の扉が閉まる。
 駆けていく音は聞こえないが、外に音はもれるまい。

「くっ……ぅぅ」

 怖かった。
 寂しかった。
 親しい人間が、自分を受け入れてくれた人間が、目の前で動かなくなっていて。
 世界に、自分1人しかいなくなったみたいで。

「怖かった……怖かった…よ……」

 男であるがゆえに、亜子に告げることのできなかった弱い感情。
 見た夢に怖がって流した涙なんか、アスカ自身が嫌いだったから。

 目からは涙がとどまることなく流れ落ち、ぽたん、ぽたんと、布団にしみを作っていった。





「っ……」

 一通り泣いて。
 涙が落ちてシミができてしまった布団をそのままにぐしぐしと袖先で涙を拭って、ベッドを降りる。
 魔力を根こそぎ取られていたせいか、少しふらつきながらも洗面所に辿り着くと、顔を洗った。
 魔力自体は多少なり回復しているから、日常生活に支障はない。
 気合を入れるようにパンパンと頬を叩く。

「大丈夫、大丈夫。僕は…1人じゃない!」

 鏡の前でにかと笑い、高ぶった気持ちを落ち着かせたのだった。

















「…………アスカ」

 閉めた扉に寄りかかった亜子は、中でアスカがすすり泣く声を聞いて思わず声を漏らしていた。

 ……なんだろう。
 彼を今1人にしてしまったら、煙みたいにいなくなってしまいそうで。
 実際はそんなワケありはしないというのに。

「…………いやいや、気のせい気のせい。ガッコ行こう!」

 考えたことを吹き飛ばすように首を左右に振り、たんたんと階段を下りていく。
 エレベータもあるのだけど、今は階段を下りていきたい気分。

 1階までの階段を降りきった亜子は、意気揚々と誰もいない通学路を駆けていったのだった。













はいすいません(土下座)。
色々とツッコミどころ満載だと思います。
っつか、ネギまにこんなシリアスあわねぇし。
一応、『七天書』編の複線のつもりだったのですが、ものっすごいことに……

と、とりあえず…かるくスルーしてやってください。


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