「アスカ―――ッ!!」 衝撃。 赤の少女の一撃はアスカの手にある大剣を弾き飛ばすが、彼女の持つ桜色の長剣はアスカの真横を通り抜けてアスファルトの地面に突き刺さった。 破砕音とともに粉塵が舞い上がり、その内部の様子が確認できない。 突然の出来事に、ネギも明日菜も目を丸めていた。 「くっ……」 アスカは粉塵の中心で大剣を拾い上げる。 目の前にいたはずの赤い少女はすでにおらず、先ほどの一撃が挨拶がわりだったということを理解できた。 それにしても。 「う…」 痺れる。 妙に重たい一撃だった。 体格からして、剣を弾きながら力任せに振り下ろすなんてできることなどないに等しいから。 アスカ自身、今までの経験上そんな強引な手段はとったことがない。 実際、とろうにもそこまでの力量がないのだ。 大剣を拾い、握る右手にはまだ感覚が戻ってきていない。 一度大剣を地面に刺すと、両手を握って開いてを繰り返す。 粉塵が晴れ、ネギや明日菜の姿を確認して、 「アスカ、大丈夫!?」 「…僕は大丈夫。ネギは自分のことだけを考えるんだ」 いいね? 口の端を軽く吊り上げ、自分が無事であることを伝えると、大剣を握り抜き放つ。 そして、その眼光は赤の少女を探し動く。 彼女は、すぐに見つかった。 魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫− 1つの終焉と新たなはじまり 「ふん。遅いぞ、貴様」 「問題はないだろう……私は脇役。『私闘』だと言ったのは貴女だ、ハイ・デイライトウオーカー」 エヴァンジェリンの言葉に動じることなく、赤い少女は表情を変えず言葉を返している。 「な、なによ…あんたたち、知り合いなワケ?」 「知り合いというより、マスターが無償で雇ったと考えていいでしょう。私たちはあちらの方の名前すら知らないのですから」 「は……」 少女はエヴァンジェリンや茶々丸同様に宙に浮き立ち、動かない。 エヴァンジェリン自身、自分と茶々丸では戦力不足だから名前を知らない彼女を雇ったのだ。 ……雇ったというには微妙だが。 これで3対3。数の上なら対等、互角だ。 「これで双方、パートナーも揃ってようやく正当な決闘となったわけだ」 すとん、と地面に降り立ち、余裕の笑みを浮かべてエヴァンジェリンは告げる。 彼女の言うとおり、ネギは杖を持っていないし明日菜も戦闘に関してはまったくの素人。 彼女の余裕も当然といえば当然だった。 しかし。 「…茶々丸。神楽坂明日菜を甘く見るなよ。意外な難敵かもしれん」 まがりなりにも真祖の魔法障壁を、2度に渡って難なくぶち破った人間だ。 ……面白くなってきたじゃないか。 嬉しそうに唇を吊り上げ、 「行くぞ。私が生徒だと忘れ、本気で来るがいい。ネギ・スプリングフィールド」 そう告げた。 「……はい!」 「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!」 「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!!」 呪文と共に動き出したのは茶々丸だった。 ジェット噴射で一気に明日菜との間合いを詰め、左手を突き出していた。 「うひゃっ」 その左手を素人とは思えない動体視力で受け流し、2人して右手を突き出す。 狙いは双方共にそれぞれの額。 中指を親指で引っ掛け、力を込める。 ビシンッ!! 強烈なデコピン。 魔力で強化されたデコピンは、2人の身体をのけぞらせる。 ちなみに、茶々丸の手はデコピンと同時に前方に伸びていた。 いわゆる、ロケットデコピンである。 「あたたたっ」 「…!」 そんな明日菜と茶々丸を見つつ、ネギは練習用に使っていた子供用の杖を伸ばす。 先端に星を模した杖だ。 (大丈夫! 茶々丸さんは多分、アスナさんを傷つけるような事はしない…) 「風の精霊17人。集い来たりて……」 魔力を注ぎ、17の雷を纏った光弾を構成する。 「ハハハ、なんだ! そのカワイイ杖は!? ……喰らえ!!」 魔法の射手・連弾・氷の17矢!! すでに展開された同数の蒼い光が、ネギを襲わんと飛来する。 「魔法の射手・連弾・雷の17矢!!」 それを迎撃するためにも、展開された光弾を発動。 双方がぶつかり合い、爆発を起こした。 「どういうつもり?」 「貴女には…関係のないことだ。そのようなことよりも今は……」 この戦いを、楽しもうではないか!! 長剣を振りかぶり、紫の光が刀身を纏う。 肩口の先から光が吹き上げ、それが膨大な魔力であることを理解するのに時間はかからなかった。 「…………」 眉をひそめるが、こちらも迎撃しなければ。 大剣を両手で握りしめ、正眼に構えた。 刃が空を切り、ヒュ、と風きり音。 「いざ……参る!」 赤の少女は、アスファルトの地面を蹴ったのだった。 「せえっ!!」 肩口を狙って、少女の剣がうなりを上げる。 もちろん、その剣をもらうわけにはいかない。 大剣を移動させて刃を合わせると、その重みに表情をゆがめた。 刃を弾き、今度はアスカが剣を振り下ろす。 踏み込んでさらに力を込める。 剣速は高速。まるで大剣を使わせているとは思えない。 赤の少女は顔色を変えることなく剣を躱す。 「んっ!!」 アスカは剣の勢いをそのままにさらに回転し、今度は遠心力をも加えた一撃を放つ。 一撃、二撃、三撃。 重なる剣閃は止まることなく数を重ね、無数の火花が飛び散る。 演舞のようなステップで剣を振るい高速の剣戟を繰り出すアスカと、しっかりと地に足を踏み込み力強い一撃を繰り出す少女。 力とスピードの違いがあるものの、互いの力は拮抗していた。 「はぁっ!!」 「っ……!!」 渾身の一撃。 ひときわ高い金属音が響き、互いの刃が止まる。 「…もう一回聞くよ……君は、何者?」 互いの刃を合わせながら、アスカは口を開く。 なぜなら、直感が彼の経験が語っていたからだ。 この少女は…人間ではない、何か違った存在だということを。 「わたしの名は…エクレール。『七天書』の守護者…ハーヴェスターが一、エクレールだ……!」 赤の少女は自らの剣に力を込め、力任せに振り切り、距離を取った。 互いに一歩で入ることができるだろう、絶対の間合い。 その距離を保ちながら、2人の剣士は構えを解くことなく対峙する。 「…今回は、ここまでのようだ。向こうの戦闘も終わりが近い。この場は退かせてもらおう」 「なんだって?」 ちらと見やる先で、ネギとエヴァンジェリンは互いに同種の魔法を唱えていた。 「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」 「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」 「来たれ雷精、風の精」 「来たれ氷精、闇の精」 唱えている魔法は。 ネギからすれば、今現在つかうことのできる最高の魔法。 エヴァンジェリンからすればまだまだ余裕とも取れる魔法。 「雷を纏いて吹けよ南洋の嵐!!」 「闇を従え吹けよ常夜の吹雪!!」 驚きを隠し切れず目を丸めるネギを見やり、唇を吊り上げる。 ネギが日本に来る前に必死で覚えた魔法なのに。 それをあっさりとやってしまうところが、真祖の魔法使いというかなんというか。 彼女は100年以上も生きているのだから、そのあたりは仕方ないといえば仕方ないのだけど、今それを言ったところでどうしようもない。 ……今は、僕にできることをするしかない!! 「雷の暴風!!!」 「闇の吹雪!!!」 魔力を帯びた手を突き出し、詠唱が完成する。 互いの手から、白と黒の閃光が走り始めた。 雷の渦巻く風と、吹雪を纏う闇。 双方がぶつかり合い、衝撃が走る。 (くっ…すごい力。だ、ダメだ…打ち負ける……) エヴァンジェリンの力を目の当たりにして、ネギは瞠目する。 自分はただでさえいっぱいいっぱいなのに、自分と同種の魔法で打ち合い、今は分からないが余裕の表情を見せていたのだから。 (でも……) まだ、修行は始まったばかりだ。 『わずかな勇気』が本当の魔法。 それを信じているから。 「僕は……もう逃げない!!」 左手の杖を突き出した。 やはりそれは子供用の練習杖。衝撃に耐え切れず、所狭しとひびが入っている。 「えぇいっ!!」 渾身の力を振り絞って、魔力をさらに強めようとしたのだけど。 「ハックシュンっ!!!」 杖を出したときから、どこか鼻がむず痒かった。 くしゃみが出そうで出ない状況が続いていたのだけど、今になってそれは発現した。 くしゃみと同時に杖の先にあしらわれた星が砕け散り、一瞬、『雷の暴風』の威力が増した。 彼お得意の、くしゃみによる魔法の一時的暴走である。 「な……何!?」 暴走によって闇を突き抜けた雷風は、エヴァンジェリンを襲いかかる。 「ネギーッ!!」 「マスター……!」 強い閃光があたりを支配した。 「やってくれたな…小僧……」 さすがはヤツの息子だ…… どうやら、打ち合いはネギに軍配が上がったようで。 「っ!?////」 エヴァンジェリンは顔を引きつらせながらも一糸纏わぬ姿で宙に浮かんでいた。 アスカは思わず顔をそむけ、エクレールと名乗った少女に目を向けるが。 「あれ?」 すでに彼女の姿は見当たらず。 気配すらも消えていた。 「…! いけない、マスター! 戻って!!」 茶々丸が叫んだ瞬間。 「な、なにっ!?」 学園都市の電力が復旧し、明かりが灯りはじめていた。 徐々にエヴァンジェリンの魔力が収束していく。 停電と同時に肥大化した魔力は、エヴァンジェリンのもの。 つまり、彼女は登校地獄の呪いのほかに電力によってその魔力を制限されていたのだ。 「予定より7分27秒も復旧が早い!!」 マスター!! 魔力を失い、10歳程度の少女になりつつあるエヴァンジェリンを案じた茶々丸は声をあげる。 しかし、伸ばされた手は届かず…… 「きゃんっ!?」 彼女を強い光が襲った。 「ど、どうしたの!?」 「停電の復旧でマスターの封印が復活したのです。魔力がなくなれば、マスターはただの子供」 このままでは湖へ…… 自らのマスターを助け出そうと一直線に駆け出すが、間に合わない。 しかも、彼女は泳げないらしいので湖に落ちてしまえば溺れてしまう。 飛ぶ力を失ったエヴァンジェリンは、重力の法則にしたがって湖にまっさかさまに落ちていく。 「エヴァンジェリンさん!!」 しかし、茶々丸より早く。 ネギが橋を蹴って助けに向かっていた。 「ネギーッ!!」 明日菜が叫んだ、その時。 「うぁ…ぁっ……」 どこからともなく現れた赤の少女にアスカは胸を貫かれていた。 アスカの胸元に黒い穴ができていて、そこに手を突っ込んでいるようにも見受けられる。 つまり、正確には彼は体内に手を突っ込まれているということになるのだ。 それを証拠づけるように、背中から手が出てきていない。 貫かれているなら、背中から手が出ていてもおかしくはないのだから。 「…すまないな。強大な魔力が必要なのだ。『我々』には、な」 「ぅあ……ど、どういう…」 血は出ていない。 明日菜からすれば、それは実に奇怪な光景で。 「え……? あ、あああアスカ!?」 状況を理解できず、目を白黒させていた。 「あ、すな…ぁ……」 苦しげに、アスカは薄目で明日菜の名前を口にする。 アスカは身体に力を入れることができず、立っている足もガクガクと震えていた。 「…はっ! ちょっとあんた! アスカに何やってんのよーっ!?」 状況を理解し、駆け出す。 右手を振りかぶると、 「は〜な〜れ〜な〜さ〜〜い!!………でぇぇぇぃっ!!!」 走る勢いと腕力にものを言わせて、明日菜は拳を振り切った。 しかし少女はアスカの身体から手を抜き取ると明日菜の攻撃を軽々と躱し、手に光を残したまま2人から距離をとった。 剣は持っていない。戦意自体はないようだけど、手には先刻の紫の光。 「アスカ!!」 ふらりと倒れ掛かるアスカを抱きかかえ、名前を呼ぶ。 足に力が入らず片膝をついてしまうが、それに反応するように明日菜もしゃがみこむ。 必死に呼びかけるが、アスカに反応はない。 「案ずるな。その舞姫は気絶しているだけ。いずれ目を覚ますだろう」 「はぁ? あんたこの娘になんかやっといて、そりゃないでしょーが!」 無責任じゃない!! 青と緑の双眸を少女に向け、にらみをきかせる。 しかし、彼女は動じることなく冷ややかな視線を明日菜に送った。 「では、私はこれにて失礼させてもらう…また、遭うこともあるだろう」 「あ、ちょっとぉっ! 待ちなさいよ!!」 赤の少女は目を伏せると、その姿をかき消していた。 「…うそっ」 ……なんで急に居なくなれるんよ。 ……ってか、アスカに何やったのよ。 とりあえず、それは置いておいて…… 「ちょっと、しっかりしなさい! アスカ!?」 「へへ、これでホントに僕の勝ちですよー、ちゃんと授業に出てもらいますから……って、明日菜さん…アスカ!?」 どうしたんですか!? エヴァンジェリンに勝利したという嬉しさを吹き飛ばし、ネギは目を伏せたままのアスカに駆け寄る。 「明日菜さん、一体なにがあったんですか?」 「さっきの赤い女がアスカの胸の…ココのトコにずぼーって」 「えぇっ!?」 アスカの胸元を凝視するネギだが、血も出ていないし穴も空いてない。 明日菜の視線に気づいて、顔を赤く染めつつそっぽを向くが。 「…とりあえず、アスカさんを部屋に運びましょう」 「そ、そうね……」 茶々丸の提案の後、明日菜はアスカを抱えて部屋…事情が事情なのでエヴァンジェリンの部屋に運ぶことになった。 ネギは吸血鬼化してしまった数人を治しに大浴場へ向かったが、 「コイツに何があったのか話してみろ。何かわかるかも知れんぞ、神楽坂明日菜」 「うん……」 明日菜は、自分が見た状況をかいつまんで話し始めたのだった。 オリキャラ退散。 そして、アスカやられました。 まんまリリカルなのはA'sの『蒐集』ですね。 すいません、パクりました(爆)。 (2005.12.10 一部修正) |
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