「失礼します、アスカさん」 互いに距離を取って戦闘態勢に移行し、茶々丸の声が開始のゴングとなった。 宙に浮かぶエヴァンジェリンを背後に、アスカだけを見つめてただ地面を駆ける。 すべてはマスターのため。 ロボットである彼女の思考回路は、常にそれだけが存在していた。 「うわっと!」 茶々丸はアスカを肉薄する。 何も持たない手に拳を握り、地面を跳ぶように駆けた茶々丸はアスカの目の前で腰を落とし、その拳を突き出した。 銃弾のような速度で放たれる拳を自らの持つ真っ白な大剣の腹で防ぐと、茶々丸ごと自らの身体を前方に押し出す。 もちろん、アスカは大事なクラスメイトを斬ったりするつもりはない。 今まで鍛えてきた足で踏ん張り、茶々丸を押し返すと離れた瞬間を狙って、 「魔法の射手・連弾・闇の29矢っ!!」 宙に浮かんだエヴァンジェリンの手から29の黒い光弾が射出されていた。 光弾は数度の方向転換を行いながらも押し出されてたたずんでいる茶々丸を避けるように飛び、一直線にアスカを襲う。 「んっ……」 光弾はアスカを捉え、次々に彼に着弾し煙を上げる。 爆風でその綺麗な金髪が揺れ顔にかかるが、首を軽く動かしてそれを払いのけると煙に包まれた先を強く見つめて、ただこの先の展開を予測していた。 相手は最近ヨーロッパの魔法使いの中で有名になり始めている存在。 エヴァンジェリンからすれば実際に相対するのは初めてなので、その実力は未知数だ。 だからこそ、その眼光は鋭い。 「…………」 煙が晴れる。 「炎よ風よ、絡み合え…」 その先では水色の膜に覆われた無傷のアスカが右手の大剣を手前に引き、その切っ先をエヴァンジェリンに向けて、ぶつぶつと口ずさんでいた。 彼を覆っている膜は以前、茶々丸をネギの魔法の矢から守った盾で。 表面は水面のようにたゆたい、波紋を起こしていた。 「…炎風連携……」 大剣の柄を握り締め、空いている左手は大剣の峰に添えられている。 縛られた長い髪を揺らしながら目を見開くと、大剣は淡い紫の光に覆われ、パリパリと音を立て始めた。 そして。 「瞬雷!!」 声と共に右足を踏み出し大剣を突き出すと、刀身が強く発光。 その切っ先から紫の雷が一直線にエヴァンジェリンへと向かって放たれた。 その速度は速く、小さ目のマンホールほどの太さの雷撃が彼女を襲う。 驚きに目を丸める。 盾を出そうと手を突き出すが、それでも遅い。 「マスターっ!!」 放たれた雷は硝子を割った時のような音と同時にエヴァンジェリンの魔法障壁をぶち破り、顔のすぐ真横を通過してその背後。橋を支えているレンガ造りの塔を貫き、虚空へと消えていった。 塔の上部に風穴が空き、砕かれたレンガが風でぱらりと落ちていく。 「……おしい」 まだ、照準が上手く定まらないなあ。 茶々丸が目の前にいるにも関わらず、アスカはそんなことを口にしたのだった。 魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫− 契約更新と新たな敵 「ちょっ……あの娘、なんであんなコトできるのよ!? ……ってか、アスカも魔法使い!?」 「違うぜ、姐さん。アスカのヤツぁ正確には『従者』なんだ。今のは、持ってるアーティファクトの力だぜ」 アスカの背後…彼が貫いた塔と同じ造りの塔の影で、明日菜は目の前で起こっている光景を覗き見ながら目を白黒させていた。 たったの一発だったが、まるで弾丸のようにすっ飛んでいく紫の閃光。 エヴァンジェリンが放ったはずの魔法の矢に対し…まったくの無傷。 俗に言うファンタジーな光景が、彼女の目の前に広がっていた。 ネギという魔法使いがいたから、滅多なことじゃ驚きはしないと彼女自身思っていたのだけど。 「アスカは、6年前に僕のお姉ちゃんと仮契約したらしいんです」 6年前。 ネギが父親であるナギにであったという、雪の日。 彼の人生の転機でもある瞬間のことだ。 「アスカが仕事に行くとき、いつも1人だったから」 僕もあんな力が使えるなんて、知りませんでした。 ネギも目の端に涙を溜めながら柱の影からアスカを見やり、ひとすじの汗を流していた。 「で、どーすんの?」 「え?」 くしゃりとネギの頭をなでながら、明日菜はそんなことを口にした。 元々、カモに聞いて居ても立っても居られず慌てて飛び出してきたのだ。 何かしなければ、彼女の気がすまない。 「え? じゃないでしょーが。あの問題児をどーにかするんでしょ? 協力するから。いつまでもアスカに戦ってもらうのも忍びないじゃない」 「アスナさん…でも……」 「でももヘチマもないの! 私が来たくて来たんだから、迷惑だなんて思わなくていいんだからね!」 アスカも同じなんだから。 明日菜は軽くウインクしながら、にかと笑ってサムズアップしてみせた。 アスカだって姉であるネカネの頼みとはいえ、ネギを助けたくて今も戦っている。 相手が元600万$の賞金首『闇の福音』であるにもかかわらず、自分のために必死になって戦ってくれているのだ。 「………」 ごし、と涙を拭う。 (一度戦いを挑んだ男がキャンキャン泣き喚くんじゃない!) (お前の親父ならばこの程度の苦境、笑って乗り越えたものだぞ!!) そんなエヴァンジェリンの言葉が頭をよぎる。 ……僕は男だ。 なんとしても、あの人に勝たなきゃ。 勝てなきゃ、この先まともにやっていけるわけがない!! 「お願いします、アスナさん!」 「そーこなくっちゃ、兄貴!!」 では、姐さん! カモはネギの言葉を聞いて嬉しそうに明日菜を促すと、彼女の肩からぴょんと飛び降りてどこからかチョークを取り出す。 素晴らしい速さで魔法陣が書きあがっていた。 「む…まぁ、この場合は仕方ないわよね」 頬を赤く染め、もじもじとたたずむ明日菜だが。 「非常事態だし…ま、相手は10歳だし…う、うん…よし。準備OK」 じゃ、行くからね。 魔法陣は光を帯び始めたとき。 明日菜はネギの頬に手を添えて。 なにも分からないまま、ネギは明日菜にその口をふさがれていた。 もちろん、彼女の口で。 「なっ、ななななにするんですかアスナさん!?」 口が離れたあと、ネギは口元を押さえて顔を真っ赤に染めるが。 「あー、いや。ごめんね。…でも大丈夫。私もしたことないけど、今のはカウントしないから」 「え゛っ…」 だって、あんたガキだし。 そう言って、明日菜は意味もなくサムズアップ。 先刻のそれよりも、どこか気の抜けたものだったが、 「兄貴。こないだみたくおでこにキスじゃ力も中途半端なんだよ」 そう。 彼女にそこまでさせた張本人は、ここにいるオコジョ妖精アルベール・カモミールであった。 彼(?)曰く、 「力が中途半端じゃエヴァンジェリンたちには太刀打ちできないから、俺っちがちゃんとキスしてもらえるように姐さんに頼み込んだんだよ!!」 これでいけるぜ!! とのこと。 魔法陣から放たれた光が強さを増し、塔の柱だけでは遮りきれず光が漏れ出していく。 「契約更新!!」 そんなカモのセリフは、無論アスカまで届いていた。 「……きっ、貴様っ!? どういうつもりだっ!?」 なぜ彼女が怒っているのかというと、アスカの放った雷撃を彼が目標を意図的に変えたものと思い込んでいたからだった。 アスカ自身、特に何か特殊な操作をしたわけではない。 純粋にまだ制御のきかない部分があるため、発射のタイミングで照準がズレてしまったのだ。 「僕はちゃんとエヴァさんを狙って撃ったんだよ。まだしっかり制御ができないんだ……っ!?」 その時。 アスカの背後で、強い光が発される。 光によって生じた自分の影を見ながら、にかと笑ってみせると。 「ここからは、彼らの仕事。エヴァさんたちの足止めは、ここまでだよ」 そう2人に告げた。 光が収まり、ネギと明日菜が姿をあらわす。 ネギは杖を持っていないが、その目には決意が宿っていて。 (うひゃ〜、2人して空飛んでるよ……) 彼の背後でカモを肩に乗せた明日菜が苦笑していた。 「アスカ、ありがとう。僕、絶対勝つよ!!」 「……うん♪ 頑張れ」 声をあげたネギに応え、アスカは彼の頭を撫でて明日菜の背後に回ろうと足を動かす。 大剣をカードに戻そうとしたのだが、 「っ!?」 彼の表情に緊張が走り抜けた。 「次は…わたしのお相手をしてもらおうか、舞姫よ」 空を見上げると。 目の前を赤が支配していた。 深紅の長髪に白銀の鎧。 手には赤というより薄い桜色といった方が正しいだろう細身の長剣。 そして。 「な……っ!?」 アスカと同じ、真っ赤な瞳をアスカに向けていた。 長剣を振り下ろそうと、柄を両手で握りこんでいる姿を確認し、慌てて大剣を突き出した。 避けることはもうできない。だから、受け止めたのだが。 「え……?」 甲高い金属音と共に、衝突した刃同士は火花を生む。 そして、感じる違和感。 目の前にいるのは、自分と同年代くらいの少女だった。 深紅の瞳をアスカに向けていて、表情はほとんどないに等しい。 「君は…ダレ?」 押さえつけようとする長剣を防ぐ大剣に力を込める。 フルフルとその手が震え、頬を汗が伝い落ちた。 めき、というひび割れるような音が響き、 「ぐぅっ………………うあぁっ!?」 『アスカっ!!』 腕にかかる力に耐え切れずアスカは大剣を持つ手を手放し、長剣が地面に突き立ったのだった。 オリキャラ登場。 次回、彼女との戦闘をメインに書きます。 現時点ですでに書きあがっているので、そんな感じになっちまいました。 |
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