「くそ……っ」

 立派な魔法使いマギステル・マギだった父も死んだ。
 その彼を影から支えていた母も悪魔に殺された。
 そして、自分も永遠に苦痛を与える悪魔の呪いをその身に刻まれた。

 日々蝕まれる身体が軋む。
 そのたびに、あのときの光景を思い出してしまう。





 ―――逃げろ!
 ―――お前まで、世界の因果から外れることはないのだ!

 もっと、人々の役に立つ力を手に入れたい。
 そんなささいな願いから、天使との契約するはずだった。
 しかし、儀式に失敗することで強制的に悪魔と契約を交わしてしまい、取り込まれかけた身体を必死に動かして自分を突き放そうとする父の手。
 それはすでに真っ黒で。


 ……それはもう、ヒトの形をしていなかった。


「っ!!」

 嫌な光景を振り払うように首をぶんぶんと振り、負の心を吹き飛ばす。
 ……あんな光景は、二度と体験したくない。

 今この手にあるのは、亡き父の形見のみ。
 茶色いハードカバーの魔法書だ。表面に名前も著者も何も書いていない。
 しかし、よほど大きな力を持っていなければ見ることはできないのか、開こうとすると表裏をつなぐ銀の鎖が邪魔をする。
 いくら腕力にものを言わせても、少しも開かない。
 だから、書の名前すらまったく分からない。

「今……何時だろう?」

 今の時刻は夜だった。
 丸い月は中天を指しかかっており、もうすぐ真夜中であることを告げる。

 そして、今いる場所は。

「やっぱ、不法侵入はマズいよなぁ……」

 とある金持ちの邸宅だった。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
七つの光



 今、この邸宅に人はいない。
 家族全員でなぜかモンゴルへ旅行中だ。
 以前は屋根裏に潜んでいたのだけど、モンゴルの次は中国、ハワイ、アメリカ。
 なぜか日本を飛ばしていたけど、その意味はよくわからない。
 アメリカを経由したら、なんでもそのまま『世界の果て』を見に行くそうだ。



 …………



 地球は丸い。
 『世界の果て』など、ありはしないというのに。



「……バカかよ、俺は」

 そんなことを考えたところで、意味はない。
 しばらくは、ここを自由にできるのだ(それは空き巣という立派な犯罪です)。

「とりあえず、メシだメシ♪(泥棒ですv)」

 冷蔵庫を開き、食べれそうな食材をそのまま食す。
 1人の食事は、まったく味がしなかった。





「………っ」

 情けない。
 自分はこんなことをしないと生きていけないのか。
 今のこんな姿、父が見たらきっと嘆いてしまうだろう。
 …でも。

「…俺には、魔法が使えない」

 魔法使いを父に持っていたのだから、素質は備えているはずなのに。
 なぜか、少しも魔法が使えなかった。

「っ!!」

 書を放り、冷蔵庫の扉を背にして座り込む。
 両の足は床に投げ出し、視線は向かいの窓から見える星空に向かっていた。



 コチ、コチ、コチ、コチ。



 時計の秒針が時を刻む音が、妙に大きく聞こえた。



 カチ。

 ぼーん、ぼーん、ぼーん……



 時計が日付を変わったことを告げる鐘の音が鳴る。



 ぼーん、ぼーん……



 時は夜中の12時。
 だから、鐘の音は12回。



 ぼーん、ぼーん、ぼーん……

 (なな,はち,きゅう……)



 そして。



 ぼーん。

 (じゅうに)



 また、不毛な1日をすごしてしまった。
 悪魔の呪いで、自分は夜しか動けない。
 昼間しか活動しないこの街の人間たちはすでに寝静まっているので、会話すらここ十数日していない。


 ……街のみんなと、なかよくしたい。
 ……明るい陽の光を浴びて、街を闊歩したい。
 ……普通の生活に、戻りたい。


 それは、ささいな願いだった。




「………っ!?」




 書がひかる。
 夜の街全体を照らし出すかのような、キレイな黄色い光だ。
 書は自分を縛っている鎖を引きちぎらんと、今まで閉ざされていたページを開く。
 鎖の拘束は、すぐに開放されていた。

「書が…開いた……?」

 バラバラと勝手にめくれるページは、最後までめくれるとバタンと閉じられる。
 そして再び開いた先には、子供の落書きのような絵が7種、描かれていた。
 ページの初めに数個とそれぞれの絵の下には、見たことのない形の記号の羅列が刻まれている。

「なんだ、文字か……?」

 宙に浮かんだ書を手に取ると、一瞬光を強める。
 しかし、その光はすぐに収まっていた。
 開いたページに目を走らせる。

「……見たことない文字だけど、なんでだろう…読めるぞ?」

 ページの初めから、指でなぞりながらその文字を読んでいく。

「『七天書・起動イニティウム』」

 その言葉を口にした瞬間。
 書は眩い光を放ち、彼の目を覆い尽くしたのだった。


















「くっ……」

 目を細め、光が収まるのを待つ。
 しかし、それほど時間はかかることなく光は収まっていたのだが。

「……………」
「我らは『七天書』。主の剣となり盾となる守護者『ハーヴェスター』なり。主よ、なんなりと命令を……」


 それが、俺――ヘクトと、7人の守護者たちハーヴェスターとの出会いだった。











出しちゃいました、オリキャラたち。
「リリカルなのはA's」の第6話を彷彿させる展開になっちゃいました。
ちなみに、『イニティウム』は『initium』。ラテン語です。
ネットを駆使して頑張って変換したところ、英語では『start』、『出発する、動き出す』という意味らしいです。
違っていたら、ぜひご一報を。
そして、7人の守護者たち(ハーヴェスター)ですが、こちらは『Harvester』。
英語で『収穫者』という意味となっています。


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