「珍しいね、エヴァンジェリンさん」

 英語の授業前。
 アスカは隣の席でふんぞり返っているエヴァンジェリンに向けてそんな言葉を発していた。
 彼女はそれはもう不機嫌そうだったのだが、

「ふん。貴様には関係なかろう。神楽坂飛鳥」
「いやだって。せっかく隣の席になったんだし」
「私を説得しようとしてもムダだぞ。知っているのだろう? 私のことを」

 とりつくしまもないとは、このことだ。
 相手が吸血鬼だからってクラスメイトで隣の席なんだし、少しは仲良くしたいというのがアスカの願望だったので、こうして話し掛けているのだけど。

「もうすぐ、私は全盛期の力を取り戻す。ぼーやの血を吸い尽くしてな」
「む………」

 登校地獄。
 サウザンドマスターであるネギの父ナギ・スプリングフィールドがかけた呪いを解くには、同じスプリングフィールド一族の血液が大量に必要らしい。
 呪詛や結界の類は専門外なので、そこへいきつく根拠すらアスカには理解不能だった。

「今夜だ。止めたいのなら、好きにすればいい……もっとも、貴様なぞに止められるとは思えないがな」

 ぼーやなんぞ、論外中の論外だがな。

 エヴァンジェリンは、そう言ってアスカに向けた挑戦的な笑みを深めたのだった。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
決戦近し



 その日、ネギはエヴァンジェリンが授業に来てくれたということで、嬉しそうにテキストを読み上げていたのだけど。

「…どうだ、茶々丸?」
「予想通りです」

 放課後の校舎内のとある一室。
 エヴァンジェリンとその従者絡繰茶々丸は、一台のパソコンを前にその画面を眺めていた。
 茶々丸の指先からコネクタが飛び出し、パソコンの本体とつながっているが。

「やはりサウザンドマスターのかけた『登校の呪い』のほ他にマスターの魔力を抑え込んでいる『結界』があります」
「ふん、10年以上気づけなかったとはな……」

 エヴァンジェリンの魔力を抑えている『結界』とは、現代の知識をフル動員したもので、大量の電力を消費して学園都市全体に張り巡らされている。
 いわゆる『ハイテク』というやつだ。
 今夜は、学園都市全体の電力系のメンテナンスの日。
 つまり深夜は学園都市じゅうが停電するということで。

「まあいい。おかげで今回の最終作戦を実行できる訳だ……な?」
「そうです」

 停電するということは、学園に張り巡らされた結界も消えてしまうので。

「よし。予定通り今夜、決行するぞ……フフフ。ぼーやの驚く顔が目に浮かぶわ」

 いつの間に屋上へ移動したのかは不明だが、屋上から屋根に飛び移ったエヴァンジェリンは声をあげて笑った。
 逆に、茶々丸の表情にはまったく変化がない。
 それは普通といえば普通なのだが、どこかいつもと違うことを感じ取っていた。

「ん? どうした茶々丸。なにか気になることでもあるのか?」
「いえ…あの…その……申し訳ありません、マスター」

 何も言わず、茶々丸はぺこりと頭を下げていた。
 理由は、『ネギがパートナーと仮契約していることを黙っていた』事。
 本来ならすぐに伝えなければならないことだったのだが、

「なぜ報告しなかったのかは……自分でもわかりません」

 申し訳ありません、と。
 再び頭を下げていた。

「相手は誰だ?」
「…神楽坂明日菜です」
「そうか…しかし、まあよかろう」

 奴にパートナーがいようといまいと関係ないからな。

 何か策を講じているのだろう。
 エヴァンジェリンの余裕の表情に変化はない。

 しかし、そうなるとこちらも戦力を強化しなければなるまい。
 ネギとそのパートナーである神楽坂明日菜。そして、神楽坂飛鳥。
 「今夜だ」と宣言してしまった以上、決行は確定だ。それ以前に、この機を逃せば次はいつになるかわからない。
 相手にあの『白き舞姫』がいる限り、戦力の強化は必要不可欠。

「ふむ…問題はヤツがどう出るか、だな…」
「マスターどうか…いかなる罰も受けます」
「ふむ……いや、その必要はない。今夜お前がいないと私が困る」

 結界は解けても、彼女自身の身体に残る『登校地獄』の呪いが消えたわけではない。
 戦力の強化をしようにも、時間がない。

「どうしたものか……」

 そうつぶやいたときだった。





「では、私を使ってみてはいかがか? ハイ・デイライトウォーカーよ」





 頭上から聞こえる、トーンの高い声。

『!?』

 見上げた先には真紅の長髪をなびかせた、1人の影が音もなくエヴァンジェリンの前に降り立った。
 胸元と両肩両手、両足の膝部分に銀の鎧を装備し、それ以外は紫に近い赤服を身に纏っていて、腰からはスカートのような布が微風になびいている。
 降り立つと同時に、アスカと同様の赤い瞳を彼女に向けた。
 まだ女性とは言いがたい容姿だが―――




 …敵意はない。しかし、どこか得体が知れない。




「……何者だ」

 自然と声が低くなる。
 相手は人間ではない、なにか違うものだと、真祖の吸血鬼の本能がそう語っていた。

「訳あって名は明かせない。しかし、貴女に危害を加えるつもりもない」

 真紅の瞳はまっすぐにエヴァンジェリンを見つめ、自分の言に嘘偽りがないことを証明している。

「マスター」

 心配そうに見上げる茶々丸。
 彼女もロボットでありながら、目の前の女性の危険性を感じ取っているのだろう。

 それは、普通の魔法使いとは比にもならない膨大な魔力を有していたのだから。

「……いいだろう。貴様には『舞姫』の相手をしてもらうことにする」
「…………」

 こくりと、軽くうなずく。

「だが、これは私の戦いだ。ヤツが介入してきたら、貴様が出てくればいい。それ以外に、貴様が何かをする必要はない」

 いいな。

 ギロリと鋭い視線を向ける。
 とても10歳ほどの少女のものとは思えない、強い瞳。
 彼女は元々10歳でその成長を止めてしまったのだから、体格に関しては仕方ないと言えばそこまでなのだが。

「…了解した」

 紅の少女は目を伏せて、了承の意を口にしたのだった。






「くくく……これで駒はそろった。待っていろ、油断したぼーやなど満月を待たずしてケチョンケチョンだ!」

 真祖らしからぬ口調。
 つい先刻の雰囲気とはえらい違いだ。

「今宵こそぼーやの体液を絞り尽くして呪いを解き!! 『闇の福音ダーク・エヴァンジェル』とも恐れられた夜の女王に返り咲いてやるぅ〜〜〜〜っ!」
「マスター、落ち着いてください」



 決戦は、今夜。








本来なら修学旅行編から入れるはずだったオリキャラですが、1人登場させました。
それがどんな人なのかは、設定を見た方しかわかりません(爆)。


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