「茶々丸。ここにいたか」

 エヴァンジェリンは後ろに白衣を着て、黒い髪をみつあみににしてめがねをかけている少女を連れて、茶々丸と合流していた。

 3−A24番葉加瀬聡美。
 学年2位の成績で、麻帆良学園大学部のロボット工学研究会、ジェット推進研究会に所属していて、茶々丸の製作者でもある少女だった。

 麻帆良学園のカフェ。
 茶々丸はコーヒーなどを飲むことはできないが、とりあえず置いてある。
 人間のマネだったり。

「昨日のジジイの話だがな。桜通りの件を感づかれたようだ……釘をさされた」

 桜通りで血を集めていたこと、学園長は気づいていたらしい。
 茶々丸も一緒じゃなかったのは、彼女がエヴァンジェリンの従者だからだろう。

「? ……昨日から様子が少しおかしいな。何かあったのか?」
「…………」

 数秒の沈黙の後、

「いえ。なにもありません」

 そう答えていた。


「2人とも、何の話をしているんですかぁ〜〜〜〜?」
「ハカセには関係ない話だよ」

 聡美は。

「ふ―――ん……? あ、泥が詰まってる。もっと丁寧に動いてね茶々丸」
「申し訳ありませんハカセ」

 茶々丸の定期メンテナンスのために来ていたのだった。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
のんびり



「兄貴、ヤバいよ! アスカが介入してきたせいで茶々丸を逃がしちまったのはとにかくマズイッス!」

 昨日あそこで仕留めておけば、万事解決! だったのによ!

 恨みがましく、体毛のほつれた身体をそれこそダイナミックに動かしながら、ギロリとアスカをにらみつけた。

「あそこで茶々丸さんが壊されちゃったら、それこそエヴァさん怒り狂って襲ってくるけど……いいの?」
「うぐ……」
「そうだよカモ君。そうなっちゃったら、カモ君も僕もろともあっという間にやられちゃうし……それに茶々丸さんは僕の生徒だし……」

 そんな考えが頭をよぎったから、茶々丸に向かっていった魔法をそらそうとしたのだ。
 うまく操作できなかったから、あそこでアスカが介入してくれたのは彼にとって運がよかったと言っても過言ではないらしい。

「甘いッスよ! 兄貴は命を狙われてんでしょう!? 奴ァ生徒の前に敵ッスよ敵!!」
「ちょっとエロオコジョ。そこまで言うことないんじゃない?」

 明日菜はエヴァンジェリンと茶々丸と2年間彼女と同じクラスだったのだ。
 話などはしたことがないようなのだが、本気で命を奪おうとまでしているとは思えないと。
 彼女は率直な意見を口にした。

「まぁ、気持ちはわからないでもないけど。エヴァさんは、アレで600万$の元賞金首みたいだから、どうかなぁ……」
「そう! 女子供は殺ったって記録はねーが、闇の世界でも恐れられている極悪人さ!」

 カモは自分専用のPCを起動させてその画面を表示させると、ばんっ、とキーボードを叩いた。
 それを見て、明日菜は顔色を青くする。
 画面自体はそれほど大きいものではないのだが、まったく見えないわけじゃない。

「なっ、なんでそんなのがウチのクラスにいるのよ!」
「ソイツはわかんねーけどよ……」

 確かに、今いるメンバーではそんなことわかるワケがない。

「とにかく、奴らが今本気で来たらヤバイッス。姐さんや寮内の他のカタギの衆にまで迷惑がかかるかも…」
「えぇっ、マジで!?」
「いや。それはないと思うけど……」

 口をはさもうと2人に声をかけるアスカだが。

「とりあえず、今兄貴が寮にいるのはマズイッスよ」
「うーん、そ、そうね…今日は休みで人も多いし……」
「あのぉ〜…」
「う……」

 今はまだ昼間なので、吸血鬼であるエヴァンジェリンがネギを襲うことはまずないとアスカは考えたのだが。
 しかも彼女は今呪いにかかっているから余計に。

 それを言おうと声をかけたのだけど、見事に無視されていた。
 そして。

「うわあぁ〜〜〜ん!」

 ガララと窓を開けて、上着を羽織って杖を掴んで。
 その窓から飛んで出て行ってしまっていた。

「ネギ(兄貴)――――――ッ!?」

 どんどん小さくなっていくネギを眺め、慌てて玄関へ向かうと。

「あ、あんたがあんなこと言うから!」
「姐さんだって――っ!」

 ぎゃいぎゃいと騒ぎながら、お互いに責任をなすりつけながら出て行ってしまった。

「……聞いてよぉー」

 1人取り残されたアスカは、床に腰を下ろしたまま明日菜とカモが出て行った玄関を眺めていたのだが。

「ただいまー。あー、なんや疲れたわぁ……って、なんでアスカがここにおるん?」
「このか……ども、お邪魔してます。さっきまでアスナたちと話してたんだけど……色々あっておいてかれちゃったんだ」

 あはは、と乾いた笑みを浮かべて、アスカはどこからか戻ってきた木乃香を見つつ頭を掻いたのだった。












「アスナたち帰って来いひんなぁ」
「そ、そうだね……」

 時刻はすでに夕方。
 明日菜とカモ、それにネギは未だ帰ってこない。
 どこまで行ったのか、ネギはどこまで飛んでっちゃったのか、それはよくわからない。
 ヘタしたら、帰ってくるかすら定かじゃない。

 そんな中、アスカは木乃香と一緒にのんきにお茶を飲んでいた。
 湯飲みを両手で包むように持って、ずずず、とお茶をすする。
 ほのかな渋みが、口の中に広がった。

「そや、アスカはごはんどうするん?」
「うーん…部屋に戻って食べると思うけど」
「ほなら、ウチも一緒してええ?」

 明日菜もネギ君もおれへんし、1人じゃ寂しいんよぉ。

 確かに、いつ帰ってくるかすらわからない明日菜とネギを待っていたのでは、それこそいつになるか分からない。
 だったら、みんなで食べたほうがご飯もおいしいというものだから。

「うん。亜子とまき絵もいるけど、きっと大丈夫だよ」

 にっこりと笑って、答えを告げたのだった。













「しかし、珍しいなぁ。明日菜が帰って来ないやなんて」
「そだねぇ。いつもなら、おなかすいたーって声あげてるころだもんね」

 部活から帰ってきた亜子とまき絵は、普段はいないはずの木乃香を交えて口々にそんなことを口にしていた。

「あはは、たまにはこんなこともあるよ」

 例によって、アスカは台所で料理中。
 包丁が野菜を、肉を、果物を軽快に、かつ正確に切り分ける。
 ストトト、と刃はリズムよくまな板に落ちていった。

「〜〜♪」

 鼻歌を歌いつつ、ぽいぽいと切った野菜をなべに放り込んでいた。














「それで、このかはこれからどーするの?」
「え?」

 というわけで、食事である。
 「アスカの料理、ウチ初めてや〜」などと言って、木乃香はアスカの作った料理をおいしく食べてくれているので、作った側としては大満足だ。
 炊き立てのご飯を口に放りこみながら、木乃香はまき絵の問いに対してきょとんとした表情になっていた。

「え? とちゃうやん。アスナが帰ってきーひんゆーことは、このか部屋に1人なんやろ?」
「ああ…せやね。でも、もう戻ってきてるかもしれへんし、一度戻ってみるわ」

 というわけで、木乃香は一度自分の部屋へと戻ったのだけど。

「あかん、まだ帰ってきてへんわ」

 どないしたんやろな〜?

 戻ってくるなり、そんなことを口にしたのだった。








 結局、木乃香は「1人じゃさびしいでしょ?」という3人の好意で、彼女たちの部屋に泊まっていた。
 明日菜たちが帰ってきたのは明け方。
 太陽が顔を出し始めたときだったので、この判断は正しいといえるのだろう。



「あーっ、もぅ! バイトにも遅刻しちゃうじゃない!」
「すっ、すみませーん!」


 ネギは何とか、立ち直ったようだった。








というわけで、普通に置いてかれたアスカ君でした(笑)。
そこで一緒に探さないのは薄情と違うだろうか?
などという考えが浮かんでしまうかもしれませんが、
一応、周囲の状況についていけなかったと解釈してくだされ(土下座)。


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