「ネギ・スプリングフィールドに助言者がついたかもしれん」

 しばらく私のそばを離れるなよ。

 そう茶々丸に告げたエヴァンジェリンは、タカミチに連れられて学園長の元へ行ってしまって。
 人目のある場所を歩くんだぞ、などと言われながらも、彼女は1人土手の上を歩いていた。

 道中、桜の木に引っかかった風船を取ってあげたり、幼稚園児に妙に好かれていたり。
 歩道橋をわたろうと四苦八苦していたおばあさんをおぶってあげたり。
 しまいには、ドブ川の真ん中を流されていた仔猫を自らその川に突入して見事助け出したり。

 彼女は、街の人気者だった。

 そして、そこらじゅう汚れていようが内部にドロなどが入っていようが。
 公園で野良猫たちにエサをあげつつ、それを眺めて笑みを浮かべていた。

『いい人だ』

 これがカモの作戦どおり彼女をつけていた、2人の少年少女の言。





「こんにちは。ネギ先生、神楽坂さん」

 姿をあらわした2人を視界に入れると、後頭部につけられていたネジをはずし、立ち上がった。

「…油断しました。でも、お相手はします」
「茶々丸さん…あの、僕を狙うのはやめてくれませんか?」
「申し訳ありません、ネギ先生。私にとって、マスターの命令は絶対ですので」

 従うことはできません。

 たずねたネギに、茶々丸はそう返していた。
 どのような経緯でエヴァンジェリンの従者になったのかは分からないが、

(ア、アスナさん。さっき言ったとおりに……)
(うまくできるかわかんないわよ)

「……では、茶々丸さん」
「はい」

 ネジを持ってきた袋にポトリと落とすと、ネギと明日菜を見据えたのだった。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
黒き舞姫、降臨


「行きます! 契約執行10秒間!! ネギの従者『神楽坂明日菜』シス・メア・パルス・ペル・デケム・セクンダス  ミニストラ・ネギィ カグラザカアスナ !!!」

 ラス・テル・マ・スキル・マギステル!!

 茶々丸の元へ駆ける明日菜のスピードが上がる。
 仮契約の執行によるネギからの魔力供給が、彼女に超人的な身体能力を与えているのだ。

「神楽坂明日菜さん……いいパートナーを見つけましたね」

 あっという間に茶々丸の元へたどり着いた明日菜は、勢いを止めようと出された茶々丸の左手を払い、己が右手を突き出した。
 手の形は掌底でも、グーでもなく、曲げられた中指を親指で抑え力を込める。

「えいっ!」

 ビンッ!

 茶々丸の額を狙ったデコピン。
 首を後ろへそらすことでそれを紙一重で避けると、空いた右手で明日菜を押し出した。
 戦闘慣れしていない明日菜は、不意をついて出された手に身体ごと押されてどう対処しようかと慌てる。
 そこへ。

光の精霊11柱…集い来たりてウンデキム・スピリトゥス・ルーキス・コエウンテース……敵を射てサギテント・イニミクム!」

 詠唱を唱えるネギの周囲に、光る球体が全部で11個。
 彼の手が虚空を仰ぐたびに、それが生まれてきていた。

「ううっ……」

 詠唱は終了し、いつ発動してもいいようにと光の玉はネギの声を待つ。
 脳裏にカモの言葉が浮かんでは消えて、

魔法の射手サギタ・マギカ 連弾・光の11矢セリエス・ルーキス!!」
「……!!」

 ネギの声と共に、11個の光弾は明日菜との攻防で地面に足をつけたばかりの茶々丸を標的に、襲い掛かる。
 スピードは早く、着地した瞬間にはすでに彼女の目の前で。

「追尾型魔法、至近弾多数…よけきれません。すいませんマスター…もし、私が動かなくなったら、ネコのエサを……」

 自らに迫る魔法を分析しつつ、自分が助からないことを確信する。
 抑揚のない声で、この場にいないマスターへ告げた。

「!?」


(よく考えるんだネギ・スプリングフィールド! 彼女はお前の生徒じゃないか!)


 いくら自分の敵とはいっても、元をたどれば彼女は自分の生徒だ。
 教師が生徒を攻撃するなんて……

「や…やっぱりダメーッ! 戻れっ!!」

 しかし、戻そうと命令をしても、それは急なこと。
 いくらネギが魔力の操作を得意としていても車が急に止まれないように、魔法も急に命令されても対応するまでに時間がかかる。
 だから、放たれた11の光弾の大半はその軌道を大きくそらしたが、残りは少し変わっただけで。

「だっ、ダメだ、止まらないっ!!」

 茶々丸に当たる。
 そう確信して、ネギは目をぎゅっと閉じた。










「!! ……背後より、熱源反応。これは……」

 放たれた魔法を避けきることはできない。
 しかし、自分の後方に感知した熱源を通した人の気配に、茶々丸は目を丸めた。

「んっ!」

 感知したのは後方のはずなのに、姿をあらわしたのは彼女の目の前。
 ネギの放った魔法の矢を、

 パァン、パァンッ!!

 突き出した左手の先から発生した蒼い膜で全て防ぎきっていた。
 茶々丸に向けている右の手には白い大剣。
 長い茶髪をなびかせて、麻帆良学園女子中等部の制服を着ている。
 どこから現われたのかすら分からなかった彼女……いや彼は。

去れアベアット

 魔法の余波の中で大剣をカードに戻すと、

「茶々丸さん、大丈夫?」
「あ……」

 彼――アスカは茶々丸を見てニッコリと笑みを浮かべていて。
 その額には、青筋が浮かんでいた。













「え……っ?」

 ロケット花火が弾けたような音が耳を貫き、自分で放った魔法が茶々丸まで届いていないことにネギは目を丸めていた。
 弾けた魔法の余波がネギと明日菜を襲い、腕で顔を覆った。

 だんだんと、砂煙が消えていく。
 ここまで視界が閉ざされてしまったのは、きっと未知なる介入者のせいだろう。
 ネギは、杖をぎゅっと握ったのだが。

「……ふふーん」
「あぁっ!?」

 ニッコリと笑みを浮かべ仁王立ちしているアスカだった。

「あ、アスカ……こんなトコでなにやって」
「ゴメン、明日菜。ちょっと黙ってて」
「は……」

 満面の笑みを貼り付けて、つかつかとネギに歩み寄る。
 アスカの背後には、どす黒いオーラがかかっていた。

 あぁ、怒ってる。スッゴイ怒ってるよぉ……

 るーるー、とまるで滝のような涙を流し、ネギは戦慄する。

「さて。僕の言いたいこと、分かってるよね?」
「ぇうっ!? ……ふ、ふぁいっ!!」

 ビシッと、直立するネギ。
 彼の表情は、恐怖に満ち溢れていた。
 ってか、背後に黒いもの背負われてたら、誰だって恐怖するってものだ。

「ネギは先生でしょ。生徒に攻撃なんて、まるでどこかの体罰教師みたいじゃないか。いくら相手が敵だからって、もっと他の方法が……って、カモミール!! 逃げようったってムダなんだからね!!」
「ゲゲェッ!?」

 どうせ君が諸悪の根源なんでしょ。

 アスカは、全て分かっていた。
 ネギは純粋だから、切羽詰っててそこへ助言されればそれが正しいと信じ込んでしまう。
 簡単に信じてしまうネギもネギなのだが、

「逃がさないよ、カモミール?」
「あぁっ!?」

 物陰からこっそりと逃げようとしていたカモの正面へ、光の速さで移動し尻尾をむんずと掴み目の前に持ち上げる。
 真っ赤な瞳が大慌てのカモを射抜き、滝汗が流れ始めた。
 そのままくるりと回れ右すると、

「あ、茶々丸さん。お騒がせしてゴメンね。できれば、今回のことは水に流してくれると……」
「…………」

 茶々丸は無言で足底からジェットを噴出してその場を離脱してしまっていた。

「ああっ、飛んで行っちまった! 兄貴、早くおわねぇと……ふぎゃ!?」

 アスカが声をあげるカモの胴体を空いた手の人差し指を立てて、突く。
 そのあとで立て続けに何度も何度もブスブスブスブス。
 そして。

「ギャァァァァァッ!!」

 カモの悲鳴が響き渡った。












「いい? 確かにこないだは2対1で死にそうだったと言っても、同じように1人を相手にして勝つつもりだったなんて……卑怯にもほどがあるよっ!」
「ひゃいっ!!」
「これじゃあ、何のために僕がいるんだか分からないじゃないか……」

 カモで遊びながら、アスカはネギに説教する。
 アスカは元々ネギを見守り、必要があれば手を貸すという任を彼の姉から任されていたので。
 ネギをまっとうな道へ進ませるためにも、こうして説教をすることも大事だと思うからこそ、アスカはネギを前にしていたのだ。

「一度あんな闇討ちみたいなことをしたら、クセになっちゃうんだから。絶対にしない方がいいの」
「ちっ、ちげェよ! 兄貴は純粋すぎるんだっ! ちょっとくらいヒネた部分がねぇと……」
「いいの! カモミールはだまらっしゃい!!」

 一喝。

 みょーん、みょーんとカモの身体を伸ばしたり縮めたり。
 まるでゴムのようだ。

 ちなみに、蚊帳の外になっている明日菜はといえば。

「あぁ、黒いわ……アスカ、怖い子!」

 カタカタと身体を小刻みに震わせながら、ことの次第を傍観していた。




「ネギ」
「は、はいぃっ!!」

 直立不動のまま、ネギは冷や汗を流しつつアスカを見やる。
 しかし、その表情は憂い顔で。

「僕はいつでもヒマだから。……明日菜だけじゃなくてさ。もっと頼ってよ…そのために、僕はここにいるんだから」

 ね?

 いつのまにか。
 カモの周囲以外、黒いオーラは忽然と消えていた。







黒アスカ、降・臨(核爆)!!
本来はネギが自分で魔法の矢をまげて、自分に戻すという展開だったのですが、
あえて彼を介入させました。
そして、カモをいたぶりまくりです。

←Back   Home   Next→
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送