「昼はねむい……」

 授業をサボタージュしたエヴァンジェリンは1人、屋上でうつらうつらと船を漕いでいた。
 今は4月で、穏やかな気候。
 昼寝にはうってつけの環境だったりする。
 ふわ、とあくびをしたそのとき。

 パシィンッ!

「む」

 普段から学園都市全体に張り巡らせている結界を問答無用でぶち破った反応を感知した。
 侵入者をいち早く術者に伝える結界だ。
 ぼ〜っとした表情のままゆらりと立ち上がると、

「何か来たな……結界を越えた者がいる。学園都市内に入り込んだか……」

 調べておくか……と。

 自らにかけられた登校地獄の呪いを軽く恨みつつ、てくてくと屋上を後にしたのだった。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
元600万$



「アスカ」
「あ、アスナ……そういえば、僕に用事だったっけ?」

 昼休み。
 午前中の授業を終えて昼食にしようと席を立ったときだった。

「ここじゃちょっと都合悪いから、一緒に来て」

 アスカは明日菜の後に続いて、教室を出たのだった。






 2人で人通りの少ない階段にくると、かくかくしかじかで事情を聞いた。
 昨夜のことが主だったことになるが。

「なるほど、エヴァンジェリンさんが吸血鬼だったんだね……ってか、アスナさ。ネギが麻帆良に来た理由、知ってたんだね」
「アイツが来たその日に知ったわよ……って、アンタ知ってたの!?」

 たまたま。
 たくさんの本を抱えてふらふらと歩いていた宮崎のどかを魔法を使って助けた瞬間を目にしてしまったのだ。
 そのあとに……まぁいろいろとあったのだが。

「いや、吸血鬼がいるんじゃないかとは思ってたけど、エヴァンジェリンさんがそうだとは……」

 以前から何かあるとは踏んでいた。
 殺気に近い何かが、自分の隣からひしひしと伝わってくるのだから。
 それはもう、生きた心地がしなかったのをそれはそれは鮮明に覚えている。

「それで、アスナはどうしたい?」
「は?」 「だって、エヴァさんの狙いはネギなんでしょ? アスナは、今はまだ魔法使いたちの世界こっちの世界とは関係ない人間だけど……もしこれから先ネギや僕、エヴァさんに関わることになるなら」

 多少の危険は覚悟しないといけないよ。

 真っ赤な瞳を明日菜に向けて、アスカはそう告げる。
 普通の人間たちが暮らす平和な世界とは違う、平和と危険が隣り合わせの世界。
 命を落としかねないような危険がないわけではないが、とにかく危険な世界であることは確かなことなのだ。

「私は、アンタたちのことなんてわからないし、知りたいとも思わないわよ」
「それじゃあ……」

 アスカの声を遮り、明日菜はさらに言葉を続ける。
 蒼と碧の双眸はまっすぐにアスカを射抜き、彼の身をすくませる。

「でも、なんかほっとけない。アイツはアイツなりに頑張ってるんだし」

 ガキは嫌いだけど、と付け加えるように口にした。

「ガキでも、目標に向かって頑張ってるヤツって嫌いじゃないし……どうしても応援してやりたくなるんだよね」

 恥ずかしそうに頭を掻く。
 ネギは、たしかに立派な魔法使いになるために日々頑張っている。
 10歳といえば、まだ遊び盛りのはずなのに、だ。

「そっか」

 止めることはできなさそうだ。
 そう、感じた。

「アスナは、ネギのこと好きなんだね〜」
「ちっ、ちちちち違うわよ! ただアイツがほっとけないだけで……」

 私は高畑先生が好きなのよーっ!!

 茶化すように明日菜に言ってやると、明日菜はそんな一言を叫んで見せた。
 タカミチが好きなんだ……などと考えつつ。

「こほん。話を続けよか。エヴァさんは今そのナ……もといサウザンドマスターにかけられた『登校地獄』の呪いでこの街を出れないんだよね?」
「そうらしいわね。よくわかんないけど」

 吸血鬼は、満月になると持てる魔力が飛躍的に増大する。
 実際にお目にかかったことはないけど、本などを読み耽っていたからそのくらいは知識として持っている。
 ひのふのみ、と数えて満月は過ぎていることがわかると。

「問題は結界の除去か……」

 つぶやいた。

「え?」
「呪いでこの街から出られないってことは、街全体をなんらかの結界が張り巡らせてあると考えた方がいいんだ」

 結界の有無がわかれば、エヴァと従者の茶々丸がいつ動き出すのか検討がつくのだけど。
 魔法で動いているなら自分では確認不可能だし、他のなんらかの力で動いているのだとしても、そんなものを突き止めていたら日が暮れてあっという間に1年2年と経ってしまう。

「もしエヴァさんと茶々丸さんが動くなら、その結界が消えたとき。近いうちになにか特殊なことがあるのなら、動き出すのはそこだと思う」
「う〜ん…そっか」
「なにもなければそれでよし。明日菜は僕たちとは違うんだから、なるべく関わらないようにね」
「なんかイヤな言われ方で腑に落ちないけど……わかったわ」

 その場は結局、それで解散。
 教室に戻ったけど、すでに昼休みは残り数分。
 2人して慌てて昼食をかっ食らったのだった。








 そんなわけで放課後。

「ここは……お風呂……?」

 ネギは何者かに身体を拘束され、風呂場まで連れてこられていた。
 身体を拘束されて、というのは少し違い、実際には長瀬楓と大河内アキラの2人が明日菜と寮の部屋に戻ろうとしていたところを拉致られたのだけど。
 明日菜は明日菜でネギがいなくなったことに気づかず、視線を彼からはずした瞬間にネギはいなくなっていたし。

「ようこそネギ先生ーvv」
「え?……わぁあ!」

 誰もいないはずの風呂場には、水着を着た3−Aの面々が彼を待っていた。
 理由を聞けば。

「ネギ君、なんか元気ないみたいだったからね。みんなでネギ君を元気付ける会を開いてみたよv」

 とのこと。

「あ……みなさん、こんな僕のために……」

 教師なら思わずホロリとしてしまうだろう、この状況。
 自分の生徒たちが、自ら慰めてくれているのだから。
 彼女たちからすれば、慰めるのは彼だからこそ、なのだろうが。

「愛するネギ先生のためなら当然ですわ。ささ、甘酒など……」
「あ、ありがとうございます。いいんちょさん」
「ところで…パートナーの件ですが……頭脳明晰、容姿端麗、財力豊富な私がまさに適任かと……」

 裏を返せば、そういうことなのだ。
 パートナー探しに来ている、と思い込んでいるこの場のほぼ全員は、玉の輿に乗ろうとしているのだ。
 がめついというか、なんというか。

「それー、やっちゃえーv」
「あはは、ネギ君ちっちゃくてかわいーvv」
「そっち捕まえてー」

 すでに逆セクハラである。










「ふう……」

 やっかいなことになってきた。
 アスカは1人、寮の屋上で腰をおろしていた。
 なぜ屋上かといえば、なんとなく空を見上げたかっただけなのだが。
 手には、数枚の紙。
 その中にはとある人物の写真と「DEAD OR ALIVE」の文字と$から始まった数字の羅列。

「まさか、元600万$の賞金首だったなんて……」

 持っている紙は、賞金首のリストだった。
 退魔の仕事や、悪魔などの賞金首の捕獲で生計を立てていたアスカだったので、リストを持っているのは当たり前と言えば当たり前なのだが。
 正直な話、今回ばかりは相手が悪すぎる。
 登校地獄の呪いのせいか、元、とついているのが唯一の救いか。

 その彼女が、こともあろうにネギを狙っているのだ。
 屋根に寝そべって、夕焼けを眺めて。

「…………」

 滝のような冷や汗を流して、カタカタと震え始めた。

 ……まずい。非常にマズイ。

 ネギになにかあっては、僕に災いが降りかかる。
 てか、なにが僕の身に起こるか、わかったもんじゃない。

 とはいっても、自分が介入して、それがネギのためになるだろうか。
 彼は修行にきているのだから、それをバックアップするのが僕の役目じゃなかろうか。

 ……ネカネに殺されるのはイヤだけど。







明日菜とアスカの、久方ぶりなまともな会話です。
内容はまともじゃないですが。
賞金首のリストについては、何も言わないでください。
よろしくお願いします……(土下座)


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