「だるぅ〜……」 「まだカゼしっかり治ってないんやから、ちゃんと寝てなあかんで」 妙にカゼが長引いて、新年度初日の今日はちゃっかり部屋で療養。 始業式のあとに身体測定があったらしいので、ほっと胸をなでおろしたのはついさっきのことだった。 「そういえば、まき絵は?」 「あ、そやそや」 夕食の用意をしていた亜子は作業をしていた手を休めると、ベッドに横になっているアスカへと向き直る。 ベッドの脇まで歩み寄ると、真剣な表情を変えることなくずいとアスカに顔を近づけた。 「ど、どうしたのさ?」 そう尋ねると。 「吸血鬼って、知ってる?」 亜子はそう口にしていたのだった。 魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫− 桜通りの吸血鬼 「吸血鬼?」 「そや」 吸血鬼と言えば生きた人の血液を吸い、ニンニクや十字架に弱くて日光に当たると灰になってしまうという、アレだろうか? 今までにこなしてきた仕事の中では吸血鬼と相対した記憶はない。 うーん、と頭をひねって、 「僕は、見たことないなあ」 そう彼女に告げていた。 ……でも。 「吸血鬼って、実際にいるって聞いたことあるよ」 「うそっ!?」 ウソも何もない。 以前仕事を請け負った際に、依頼主から直接聞いたのだから。 もっとも、ガセネタの可能性は否定できないけど。 ウソじゃない、と首を横に振る。 目の前にいる存在が自分のことがバレてしまっている彼女だからこそ、こんなことを話すのだ。 もちろん、「裕奈以外にはこんなこと言わないでね」と念を押す。 「僕は会ったことないけど、ね」 そう亜子に告げて苦笑すると。 「たっだいまーっ!!」 まき絵が扉を開けたのだった。 帰ってきた彼女を視界に入れて、「お帰り」と口にする。 2人で同じことを口にしたためか、声が重なって聞こえた。 「まき絵、桜通りに倒れてたみたいだけど……大丈夫?」 昨日夜、まき絵は「入浴に行く」と2人に告げたきり、帰ってこなかった。 寝る時間になっても帰ってこないので、今に帰ってくるだろうと先に寝てしまったため、朝起きるまで気が付かなかったのだ。 「うん、もう大丈夫! ごめんね、心配かけて」 両手に拳を軽く握ると、振り上げて肘から曲げて見せた。 よかったと言わんばかりに亜子は立ち上がると、中断していた夕食作りのためにキッチンへ向かう。 「あっ、私も手伝うよ―」 そのときだった。 「っ!?」 アスカは上体を起こしたまま目を見開き、真っ赤な瞳を露にする。 なぜなら、勇んで亜子を追いかけていくまき絵から、かすかにだが魔法らしき力が漂ってきたのだから。 慌ててベッドから這い出て、まき絵の肩を掴む。 「えっ、なに……なにっ!?」 「ちょっと、ゴメンっ!」 そう言って、彼女の首筋を覗き込むと。 「あぁっ!?」 「ちょちょちょちょアスカっ!?」 首筋に、2つの小さな小さな穴。 間隔は3センチ程度で、穴自体は直径数ミリほどの大きさだ。 これは。 (吸血鬼に……血を吸われた?) そんなことを考えつつ、ゆっくりとまき絵から顔を離すと。 「もぉ〜、アスカったらだいた〜ん!」 「ぶふっ!?」 頬を軽く赤らめて、アスカに冗談まじりの掌底を繰り出す。 それは見事にアスカの腹部にクリーンヒットし、思わず吸い込んでいた息を吐きだした。 すでに吸血鬼化が進んでいる。 吸血鬼に血を吸われた人間は、吸血鬼になる。 まき絵も、その一途を辿っていた。 腹部に受けた強い衝撃によろけて、自分の寝ていたベッドへ。 「ちょっ、あれぇっ?? そんなに力入れた覚えはないんだけど……」 「ゴハンできたで―」 大丈夫大丈夫、と力のないままに手をひらひらと振って見せると、全員で食卓についたのだった。 「か、風強いですね―…」 桜通り。 その名前の通り、満開の桜の花びらが舞い散っていく広い道を、宮崎のどかは1人で歩いていた。 いつも一緒で仲良しの綾瀬夕映と早乙女ハルナは、用事があるからと一緒に帰ってきていた明日菜と木乃香と共にどこかへ行ってしまっている。 「こわくない〜♪ こわくないです〜〜……こわくないかも〜…」 ざあ、と涼しげな風が吹き、桜の木の枝を揺らす。 ピンクの花びらが虚空を舞い、飛んでいく。 これだけでも、気の小さい彼女はなぜか妙に恐怖を感じてしまう。 ビクリと背筋を震わせてのどかは立ち止まると。 「ひ……」 1本の街灯のてっぺん。 足場の少ないその場所に、黒いマントを身に纏い先の折れ曲がった三角帽子をかぶり、長い金髪をなびかせた人影が見えた。 昼間の話と同じだ。 それは、身体測定中に話題になっていた、桜通りの吸血鬼の話。 柿崎美砂が妙に臨場感を醸し出しながらそんなことを話していたものだから、思わず震え上がってしまった。 今、のどかが見ている人影も、美砂の言っていた吸血鬼にそっくりで。 「27番宮崎のどか、か……悪いけど、その血を少し分けてもらうよ」 人影はトーンの高い声で呟くと、マントを翻して一直線にのどかの元へ疾風のごとく宙を駆けた。 「キャアアアッ!!」 悲鳴が桜通りにこだまする。 人影とのどかまでの距離が残り1メートル程まで縮まったところで。 「待てーっ!!」 「!?」 まだ幼いが勇ましい声。ネギ・スプリングフィールド。 先日……ってか今日正式に着任したばかりの魔法先生だった。 彼は杖に片足を乗せた状態で、桜通りを高速で低空飛行している。 「ぼ、僕の生徒に何をするんですかーっ!!」 魔法の始動キーを口ずさみながら、ネギは飛ぶ勢いをそのままに右手を振り上げる。 こぼれる魔力がその手を覆い、光を帯びていた。 「風の精霊11人。縛鎖となって敵を捕らえろ!」 ばっ、という効果音が当てはまるかのように杖から飛び降りると、走るようにタタンッ、と両足を地面につけて再び宙に浮かぶ。 「『魔法の射手・戒めの風矢』!!」 右手を正面――人影に向けて突き出すと、11本の風を纏った矢が人影を目標に飛んでいく。 目標を捕らえる拘束の魔法だ。 「もう気づいたか……『氷楯』」 呟いた人影を隠すように氷の盾が展開し、放たれた矢はすべて無効化されて消えていった。 片足で飛んできた勢いを殺しながら、ネギはその光景を見て目を丸める。 最初からわかっていたかのように、 「やっぱり犯人は……」 魔法使い。 彼の放った魔法の矢を、すべて防いでしまったのだ。 考えていたことが確信へ変わり、魔法の衝突により発生した煙が晴れるまでネギは気絶してしまったのどかの上体を抱えつつ、その中にいるだろう人影を凝視した。 「驚いたぞ……凄まじい魔力だな」 「あぁっ、君はウチのクラスの……」 吹き付けた風で黒い帽子が飛ばされ、人影の素顔が露わになる。 長くきめの細かい金髪に蒼い瞳。 ネギと同い年くらいの顔立ちをしているが、犯人は。 「10歳にしてこの力……さすが、奴の息子なだけはある」 「エっ、エヴァンジェリンさんっ!?」 指先から流れる血をなめとりながら、麻帆良学園女子中等部3−A26番――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはネギを見て不適に微笑んだのだった。 第29話。 やっとこさ本格的なエヴァ編に突入しました。 なんか、メインのキャラとのあまり掛け合いがないのがさびしいですね。 |
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