「うぅ……疲れたぁ」

 部屋に戻るなりベッドへとダイブした。
 ボロボロになってしまった服をそのままに、アスカはうつ伏せで枕に顔をうずめる。
 ルームメイトの亜子とまき絵は、まだ部活から帰ってこない。

「風呂……入らなきゃ……」

 今の時間帯なら、誰もいないだろう。
 男としての尊厳すら失いかけるネカネからの贈り物は、どうしても使う気になれず机の上に置いたまま。

 ふらりと立ち上がり、大浴場へと向かう。





 アスカの読みどおり、大浴場には人っ子1人いなかったので何事もなく汗を流して、再びベッドにダイブしたのだった。
 ……乾いていない髪をそのままに。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
部活見学 in 麻帆良



「いいですよー。学園の案内ですね」
「それならボクら散歩部にお任せあれ!」

 散歩部。
 160個存在する麻帆良学園の部活の一つ。主な活動内容は、名前の通りまったりブラブラ散歩をすることである。
 ネギの目の前にいる鳴滝風香と史伽姉妹は、散歩部に所属していた。

「さ、散歩がそんな恐ろしいスポーツだったなんて……」

 『Death Hike』という知る人ぞ知る超ハードなスポーツなのだと風香は案内を頼んだネギにウソをつくと、彼が純粋なせいか見事に信じきり、身体をガクガクブルブルさせている。

 そんな出だしで学園案内が始まったのだった。



「と言うわけで、ココは中等部専用の体育館だよ」

 ボールをつく音や、笛の音。
 そこらじゅうから聞こえる喧騒が、ネギの耳に入ってきていた。
 体育系のクラブは全部で21。
 そんな中、はじめにネギの目に飛び込んできたのは、

「やほー、ネギくーん」
「あ、ゆーなさん。こんにちは」

 ユニフォームに身を包み、バスケットボールを片手に抱えた裕奈だった。
 オレンジを基調とした袖なしの上着の胸元に『MAHORA』の文字がよく目立つ。

「うちで強いのはバレーとドッジボール……だっけ?」
「あと新体操みたいな女っぽいのが強いです」

 ネギは再び体育館を見回してみるが、生憎バレー部もドッジボール部も練習をしていなかった。

「ちなみにバスケは弱いよー」
「ほっとけー!!」

 叫んだ裕奈はバスケ部です。





「あ、そうだ。ネギ君ネギ君」
「は……はいぃぃぃぃ!?」

 ズリズリと引きずられ鳴滝姉妹からいくらか離れると、裕奈はネギの耳元に口を寄せると、

「アスカから聞いたよ。ネギ君、魔法使いなんだってね〜?」
「ぶっ!?」

 爆弾発言に近い一言を聞いて、ネギは吸い込んだ息を噴出した。
 あわあわと両手を上下に振りながら、どう答えるべきかと冷や汗を流す。
 亜子も知ってるよ、などと言ってみれば、それはもう慌てふためいている。

 そんな彼を見て裕奈は苦笑すると、誰にも言う気はないからと彼の肩に手を置いた。

「助かります……バレたら僕、オコジョになっちゃいますから」

 事情は近いうちにお話しますから。

 それを聞いて満足した裕奈は去りぎわに「今度、魔法教えてね〜」などと言いながら、部活へと戻っていったのだった。
 その後、2人の元に戻ったネギは裕奈と話した内容を言うまでもなく追求。答えを返すのに苦労していたり。



「次は屋内プールですよー」
「そういえば、水泳も強いよ。ウチのクラスのアキラがスゴイからね」

 話の流れで、ちょうどプールから上がってきたアキラに手を上げて、声をかける。
 ネギも慌てて頭を下げて挨拶をする。するとその声に気づいてか水泳部のメンバーが集まりだしていた。
 子供先生の噂は、やはり学園じゅうに広まっているらしい。


「食堂棟は、地下から屋上まで全部食べ物屋ですー♪」
「大人として、おごってくれるんだよね。先生?」
「もう、こんな時だけ大人扱いして……」

 とか言いつつ、結局ネギは2人におやつをおごっていたり。
 よく食べるなあ、とか思いつつ。

 おもむろにどこからかクラス名簿を取り出すと、

「♪」

 書き書きと何かを書き込むと名簿を閉じた。

「じゃあ、これでお開きにしましょうか。そろそろ夕方だし……」
「何言ってんの。先生」
「まだ最後に、重要なところがありますよ」

 というわけで、夕日に照らされながら連れてこられたのは、高台から見てもとても目立っていた大きな樹だった。
 枝がいくつも巻きついたように見えるその樹は、

「この樹は学園が建てられる前からずっとあったらしいです」
「みんなは世界樹って呼んでるよ」

 ほら、RPGとかによくあるじゃん。
 もちろん、某会社のドラ○エである。死んだ仲間が生き返るアイテムなのだが。

「?」

 イギリス出身のネギが知るわけないです。

 2人はネギとさほど変わらない小さな身体でよじよじと樹によじ登ると、夕日が差し込む枝に降り立つ。
 並んで夕日を眺めると、

「この樹には、『伝説』があるんですよ」
「片思いの人にここで告白すると、思いが叶うって」

 なんとか上りきったネギに手を貸しながら、風香がそう口にした。
 太い枝で安定を保ちながら、思考をめぐらす。

(恋人か――僕だったら……)

 幼馴染のアーニャ。
 姉のネカネ。
 ルームメイトの木乃香と明日菜。

 明日菜を思い浮かべたところで、彼女ににらまれているような気がして慌てて首を振る。

(そういえば……)

 アスカはどうなんだろう?

 アスカは名目上ではネカネのパートナー。
 パートナーは、大抵は恋人でそのまま結婚しちゃったりするのだ。
 だが、そのようなそぶりをぜんぜん見せていない。
 ウェールズにいたときはむしろ、姉がアスカで遊んでいたようにすら感じられた。

 2人が仮契約をした瞬間は、ネギ自身ほとんど覚えていない。

 6年前の雪の日。悲劇の日でもあったその日に、2人は仮契約をしていたのだから。
 理由はおろか、そうなった経緯すらわからない。
 1つわかっていたのは、ネカネもアスカも倒れてしまった後で、父親であるナギが助けてくれたということだけ。

「そうだっ、せっかくだからさ。今ココで先生に告って、とりあえずちょっとだけ彼氏になってもらうってのはどう!?」
「いーですねそれ。きっと世界樹が叶えてくれるですよー♪」
「え゛っ!?」

 2人はおもむろにネギの両隣にまわると、それぞれの肩に手を置く。

「ちょっ、ちょっ……ダメですってー!」
「えへへ……」
「「せーの!」」

「あう――――っ!?」


 ネギの情けない声が学園都市の響き、消えていったのだった。

















「ゲホゲホゲホッ!?」
「アカンやんか、お風呂に入ってそのまま寝てまうなんて」
「風邪引いて当然だよね……はい、お粥♪」
「うぐぅ……」

 アスカは、見事に風邪を引いていた。
 風呂に入った後の火照った身体のまま布団もかけずに寝たのだから、自業自得なのだけど。


「長引いちゃうようなら、あさってからの学校は休んだほうがいいかもしれないね」



 次の日、ネギ王子説が流れてクラスの生徒ほぼ全員に追い掛け回されたのだが、アスカはやはり風邪が長引いたため部屋で寝ていたのだった。






第28話。
鳴滝姉妹とネギの掛け合いでした。
主人公のアスカくんはド風邪を引きました。
これにより新学期の身体測定を回避ということで。


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