「来たアルね」

 ここは世界樹広場の大階段。
 いつもなら登校の時間なのだが、あいにく今日は春休み。
 長袖の白いシャツを着込み、紺のジーンズ。動きやすい服装で部屋を出てきたのだが、それは正解だったようで。

「……ホントにやるの、くーちゃん?」
「より強いやつと戦いたい。より高みを目指したい。それがワタシの願いアル」

 中華風、中国っぽいその服装で、くーちゃんこと古菲は独特の構えをとった。
 アスカは悪魔や妖魔の類とは戦ったことはあっても、対人戦の経験はほとんどない。
 そのような生き物を召喚していた人間を退治してきただけなのだ。
 だから、このような私闘に近い立会いは初めてだったりする。

 そして、立会人はなし。
 ルームメイトの亜子やまき絵は部活に行ってしまっているし、担任であるネギや彼の保護者と化している明日菜や木乃香もここにはいなかった。

「僕、今みたいな経験ほとんどないんだけど……もしかしたら、満足できないかもしれないよ?」
「それもいいアル。それでも、この立会いは少なからずワタシの、それにアスカの経験になることは確実アルよ」

 構えたまま、古菲はアスカを見つめて不適な笑みを浮かべる。
 両の足に気を送ると、

「いくアル!」

 次の瞬間。

「っ!?」

 一瞬で間合いを詰めて、アスカの目の前へと到達していたのだった。



魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
一騎打ち



 突き出される掌底に目を見開いて、バク転で背後へと飛びのく。
 古菲はさらに飛びのいたアスカのふところへと踏み込んで、

「ハイヤーッ!!」

 勢いをそのままに自らの肘を突き出す。
 それはアスカの胸へと炸裂し、その衝撃で背後へと舞い上がった。
 痛みを感じながらその紅い瞳を動かすと、両手を頭上へ向ける。手のひらを地面へつけると、力を込めて突っぱねた。
 跳ね上がった身体をひねって両足で着地すると、再び間合いを詰める彼女を軽くにらみつける。
 身体をひねって繰り出された肘鉄を避けると、彼女の腕と交差するようにそろえた指をそのままに彼女同様に掌底を突き出す。その目標は彼女の首元。

「それっ!」
「っ!!」

 古菲は身体を反らして突き出された腕が空を切り、両腕を中心に背中を下にしてくるりと回ると回転の勢いを利用して蹴りを放つ。
 狙いは顔。右腕で蹴りを受け止めると、鈍い痛みが走り眉間に少ししわを寄せた。
 すぐさま足を引っ込めて起き上がると、

馬蹄崩拳マーティーボンチュアンっ!!」

 鋭く強く踏み込んで、握りこんだ拳を突き出した。
 両手で拳の先へ重ねると、衝撃を緩和するかのように軽く引く。しかし、衝撃をすべて吸収することはできず。
 勢いに負けて再度背後へ身体を投げ出したのだった。
 背中から地面に落ち、地面をこするようにその勢いを殺していく。
 勢いがなくなると、砂煙を上げて動きを止めたのだった。

「立つアルよアスカ。ワタシの攻撃を緩和したのはわかってるアル」

 ぴくりと身体を動かして、むくりと起き上がると、

「イタタタ……」

 頭を抑えながら、立ち上がる。
 参ったな、といわんばかりに苦笑して見せると、

「僕、ホントは友達とは戦いたくないんだけど……」
「コレはケンカじゃないアルよ。ワタシを友と思ってくれるなら……本気で戦って欲しいアル」

 彼女を思うなら。
 今まで友人の少なかった――もとい、ほぼいないに等しかったアスカにとって、その言葉は重たいもので。

「……わかったよ」

 目を閉じて、何かを決心したかのように見開く。
 紅い瞳は正面の古菲を視界の中心で捉えた。
 一般人の前で本当は使ってはいけない、自分に唯一使える【ゲート】の魔法。
 その魔法は風・空気を媒介とするその魔法は、アスカが我流で築き上げた独自の移動方法だった。
 移動術『陽炎』(ネカネ命名)。
 アスカにとって、本気を出すならそれを使わねば話にならないのだ。

 乱れてしまう髪をふところから取り出した白い布で縛ると、

「それじゃ……行くよ」

 低く呟くと、

「っ!?」

 アスカはその姿をまるで煙のように消してしまっていた。
 古菲はアスカの姿が消えたことに驚き、目を見開く。
 背後に気配を感じると、無意識に拳を突き出していた。

 ぱん、と突き出された腕を左腕でいなし、身体をかがめると空いた右手で掌底を繰り出す。

「が……っ」

 繰り出された手は腹部に衝撃を与え、思わずぐぐもったように息を吐き出す。
 一直線に吹き飛び、古菲は宙を舞う。すぐに身体をひねって地面へ下り立った。
 袖で口元を拭い、再び構える。その構えは独特で。

 古菲はその場でトトン、と足踏むと、

「ほいっ!」

 瞬間的にアスカのふところへ踏み込んだ。

「瞬動術……っ!」

 以前ウェールズに来ていた男性が使っていた移動術。
 自分も必死で会得しようとした技だったのだが。
 強く踏み込んだ先でアスカの胸の下部分に肩を当て、片腕を掴むと、

「てっ!」
「……っ」

 掴んだ腕を引いて投げ飛ばした。
 アスカは側転するように宙を舞うと、着地しようと身体をひねる。
 着地の瞬間を狙っていたのか、古菲はアスカが地面に足をつくと同時に開いた距離を詰める。
 瞬動の勢いをそのままに、右足を踏み込んで右の肘を突き出す。

「っ!?」

 しかし、攻撃の手ごたえはなく煙のように、アスカの身体は消えてしまった。
 次に現れたのは、古菲の背後。少し離れた先だった。


 たたずむ古菲と顔を見合わせ、笑みを浮かべた。

「中国拳法だね」
「そっちは、見たことない……というか、型すらわからないアルよ」
「僕のは我流だからね」
「我流で、その強さ……ハンパじゃないアルね」

 にい、と古菲はその笑みを深め、再び構えを取る。

「さっきのは瞬動術……それに繰り出される技も綺麗」

 ほれぼれしちゃうよv

 それぞれの技は卓越しており、その型も動きもまるで流れるようで。
 彼女と同様に笑みを浮かべながら両手を前に突き出し、そのあとで身体を横へ向けながら左手を引き構えを取ったのだった。

































『はぁ、はぁ、はぁ、は……』

 拳をあわせはじめて数十分。
 小細工なしの技と技の応酬が続き、服の袖先は2人ともぼろぼろになってしまっていた。

 カウンターをその極意とする中国拳法を主に行使する古菲とは逆に、強くなりたいという思いを糧に独自で編み出した戦法を駆使するアスカ。

 2人して大階段を正面に仰向けに寝そべって乱れた息を整えていた。
 身体は双方ともに打撲はあれど外傷はなし。

「くーちゃんは、強いね」
「アスカも強かたアルよ」

 寝そべったままで互いに顔を見合わせると、疲れたようで晴れ晴れとした笑みを浮かべる。

「楓には大きな剣を使ていたと聞いていたアルが……」
「だって、くーちゃん丸腰だったから」

 僕だけ武器を持ってたら不公平じゃない。

 アスカはそう言って、にっこりと微笑んだ。

「近いうちに、また立ち会って欲しいアルよ」
「うん。とりあえず今日はこのままお昼ご飯、食べに行こっか?」
「お、いいアルな。でもワタシ、ちょっと金欠アルよ」



 きょとん、とした表情をアスカは浮かべて、



「大丈夫だよ。僕がおごるから♪」



 楽しそうに笑ったのだった。






第27話。
オリジナル話第2弾でした。くーちゃんとのタイマン話です。
くーちゃん、個人的には結構好きキャラです。


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