「後はお前たちだけだ。おチビちゃんたちを連れて逃げな!」




 ……あかい。

 街を、赤いひかりが覆ってる。
 目の前には、短い髪を後ろで束ねた茶髪の男のひと。左手には木でできた杖をもってる。

 このひとは、だれなんだろう……。


「し、しかし……」
「俺のことはいいから、さっさと行け!!」


 茶髪のひとのすぐとなりに、白い髪の男のひとがいる。
 そのひとは後ろからでもわかるくらい大きくうなずいて、ぼくの方を見た。


「さ、行くぞ、2人とも」
「ちょ、離して!離してよぉっ!!」


 ぼくのとなりにいる女の子は名前のような叫び声を上げてるけど、それはぼくにはわからない。
 白い髪のひとは女の子とぼくを抱え上げて、走り出した。
 茶色の髪のひとが、だんだん遠くになっていく。


「おい、アスカ!」


 遠ざかっていく中でも、ぼくは声を聞いた。
 その声は、茶色の髪のひとの声だ。身体ごとコッチを向いて、ぼくをみてる。
 あ……ぼくをみて笑ってる。


「強くなれ。お前なら、誰よりも強くなれるからよ!」


 ぼく、つよくなったんだよ。いっぱい、とっくんしたんだよ。
 あなたにみとめられるように、って……。

 ひっしに手をのばす。
 それでも、もうあのひとにはとどかない。
 だから……ぼくは叫んだ。

 あのひとの名前を叫ぼうと力を込める。




 ぼくのこえが、どうかあのひとまでとどきますように―――




「  っ!!!」














魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
ばれちゃった
















「う……」

 ゆっくりと目を開く。
 最初に視界に入ってきたのは意識を失う直前に見たのと同じ天井。
 しかし、背中に感じる地面の感覚が違う。

「ヘンな夢見た……」

 ぼやけた視界を目を手でこすることで解消し、上体を起こした。

「あ、アスカ起きたね」
「裕奈……」

 大きなケガとかなくて、よかったよ。

 裕奈はアスカが持ってきていた荷物の前でいかにもヒマなんです、と言わんばかりに座っていた。
 荷物を見ると、チャックが開けられ、中身がのぞいている。ってか、ぐっちゃぐちゃだ。

「ゴメン、勝手に荷物開けちゃったよ。傷の手当てとかしたかったし」
「傷……っ!!」

 左の肩口を見ると、包帯が何重にも巻かれて満足に動かせなくなっている。
 シャツはボロボロだったはずなのに、新品になっているのにもアスカは驚いた。
 目の前の彼女が、自分を着替えさせたのだろう。

「見たよね?」
「………」

 アスカの問いに、裕奈は無言でこくりとうなずいた。
 サー、と顔の血の気が下がっていくのを感じ、青ざめる。
 バレないようにってわざわざ胸の偽装までしたのに、こんなところでバレてしまうとは。

「聞きたいことはいっぱいあるんだけど、それは亜子が戻ってきてからにするね」
「そう言えば、亜子は?」
「今、水を汲みに行ってるよ。……ダメだよ。食料だけじゃなくてちゃんと水も持っていかないと」

 ずいと顔を寄せ、裕奈はそう言って人差し指を立てた。

 運動部だからこそ、水分の重要さを知っているのだろう。
 もしかしたら試合中水分が足りなくて、倒れた人を何度も目にして来たのかもしれない。

 そんなことを考えて、アスカは再び横になったのだった。






「あ、アスカ起きたんやね」

 どこから持ってきたのか、少し小さめのバケツに水をなみなみと汲んできた亜子が戻ってきた。
 「あー、重かった」などと言いつつバケツを置くと、ギリギリまで入っていた水が少しこぼれ出る。そんなことはお構いなしと言わんばかりに、裕奈の隣りに腰を下ろしたのだった。

「それじゃ、色々聞かせてもらっていい?」

 もう、ごまかしのしようもない。
 アスカは、諦めたようにまぶたを伏せて、うなずいたのだった。



「僕に聞く前に、1つお願いをしたいんだ」

 それは、彼らの世界では絶対の決まりごと。
 本当なら証拠隠滅のために口封じのために記憶を消すなどするところなのだが、あいにくアスカは魔法がほとんど使えない。
 だから……

「これから話すことは、絶対に回りに言いふらさないこと」
「もし言っちゃったら……?」
「そのときは、僕にもどうなるかわからない。だから、絶対に口外しないで欲しいんだ」

 どうなるかわからない、とう言葉を聞いたところで、2人の表情が変わっていた。
 もちろん、期待とかではなくなにをされるかわからないという【恐怖】だろう。
 アスカは魔法学校に通っていたワケではないので、バレたらどうなるかを本当に知らないのだ。

 2人がおずおずとうなずくのを確認して「それじゃ、聞きたいことに答えるよ」と言い、2人に笑みを向けたのだった。



「ほないくで。まず、アスカは男の子なのにウソついてまで、なんで麻帆良学園女子中等部に編入したん?」
「ネギ先生のお姉さんに、見守っててくれって頼まれたんだ。彼女、先生のこと溺愛してるから」
「そのお姉さんが来ればよかったんじゃないの?」
「あの人、まだ学校行ってるからね。だからヒマ人だった僕に回ってきたというワケ」

 もともと、女の子みたいな顔してるからね。

 情けない話だけど、と苦笑い。

 ネギの姉は、なんかどこかぶっ飛んでる。
 これが、話を聞いた2人のネカネに対する第1印象だった。

「僕、やっぱりマズいよね。あの学園にいちゃ……」
「まぁ本当ならそうなのかもしれへんけど、ウチらが黙ってればそれで済むワケやし」
「別に、問題ないと思うよ?」

 2人はそう言うと、アスカに向けて笑いかけたのだった。

「それに、ウチはなんとなく気付いてたんよ。アスカのこと」

 だからココまでつけてきたんやし。

 亜子はそう言うと、ばつが悪そうに頭を掻いたのだった。
 2人ともアスカ同様にテスト勉強そっちのけで後をつけてきたのだからここでアスカに怒られても仕方がないのだが。

「僕のことも黙っててもらうわけだし。つけてきたことは水に流すとして……さっきのアレも見たよね?」

 さっきのアレとはもちろんあの巨大な竜と、アスカの持っていた白い大剣のこと。
 ……というか2人をかばうために剣を持って炎の前に飛び出したのだから、見ないわけにはいかなかったのだけれど。
 2人は当然のようにうなずいたのだった。

「その、なんて説明したらいいのやら……」

 なにから話そうか、と頭を掻く。

「ウチから聞いていい?」
「あ、うん」

 今までのアスカを見ていて思ったこと。夢ではないあの竜のこと。
 剣のほかに土を使って攻撃したり、見えない剣で竜を斬ろうとしたり。
 考えればまるで湧き水のように聞きたいことが湧いてくる。
 とりあえず、まず最初に聞きたいこととして。

「アスカは……魔法使いなん?」

 そう尋ねていた。
 ふるふる、とアスカは首を横に振って、

「僕は……魔法使いの従者ミニステル・マギ
「みにすてる?」

 復唱する裕奈を見てうなずくと、

魔法使いの従者ミニステル・マギ。魔法使いと契約を交わした、いわゆる相棒だね。これが、その契約の証だよ」

 そう言って、手に持っていたカードを2人に差し出した。
 魔方陣の上に白い大剣を携え、髪を後ろでアップにしているアスカの絵が描かれている。
 2人はそれを覗き込んで、本当なのかと顔をしかめたのだった。

「あ、信じてないね」
「だってぇ……ねぇ」
「……せやね」

 コレ見せられただけじゃ、よくわかんないよ。

 まったくである。
 確かに、カードくらいなら自分で作ることだってできる。だから、カードを見せられただけではとても信じられないということだ。

 絶対に信じられるような確たる証拠が必要。

 ということだ。

「さっきの大きな剣はどこから出したの?」
「あ。それなら、2人とも信じてくれる証拠になりそう!」
「ほえ?」

 もちろん、2人ともなんのことだかわかっていない。
 貸して、と手を差し出し、カードを受け取った。
 「よいしょっと」という掛け声と同時にゆっくりと立ち上がると2人から少し離れて振り向く。
 人差し指と中指でカードを挟んで持つと、2人にいたずらを楽しむ子供のような無邪気な笑みを向けた。

来れアデアット!」

 掛け声と同時にカードのかわりに白い光がアスカの手に収束し、一振りの大剣を形作っていく。
 柄を握り、未だに光を放つ剣を前へと振りぬくと同時に光は消え、真っ白い大剣が姿を現していた。
 竜との戦闘時と同様に、身長以上はあるだろう大剣を片手でくるくると回して見せる。

「カードが……」
「……さっきの剣になっちゃった」

 普通の人なら今の2人のような反応を示すだろう。
 目をまんまるくして、口をぱくぱく開け閉め。

「これで、信じてくれるかな?」

 こくこくこくこく。

 何度も、しかもすばらしい速さで、2人は首を縦に振ったのだった。


「これは、アーティファクト。従者ミニステル・マギが持つ特殊な道具だね」

 大剣をカードに戻しつつ、さらに話を続けようとアスカは口を開く。

「アスカがその……みにすてる?っていうヤツなら、魔法使いは本当にいるんだね?」
「うん。でも……これ以上深いトコまで入り込むとどうなるかわからないから、話はココまで。ね?」

 亜子も裕奈も、大切な僕の友達だから。危険な目に遭わせたくないんだ。

 アスカはそう言うと、男とは思えないほどに満面の笑みを2人に向けたのだった。





「さて、それじゃあみんなと合流しようか」
「みんなって誰や?」
「どういうこと?」

 急にそんなこと言われても、わかるわけがない。

「人がたくさん、落ちてきたみたい。ほら、昼間にバカレンジャーのみんなが図書館島に行くとか話、してたでしょ?」

 そう。
 アスカと亜子・裕奈が行動を始めたのはこの日の放課後。
 バカレンジャーは暗くなってから、秘密の入り口から図書館島の中へ入り込んだのだ。

 話を聞きながら、もしかしたらどこかで会うんじゃないかと予想だけ立てていたら、案の定だったということだった。

「少なくとも、バカレンジャーのみんなはいると思うから」

 そう言うと、アスカは荷物を肩にかけたのだった。







「そう言えば、預けておいた赤い本は?」
「それなら、荷物の中に入ってるよ」

 私、たしかに入れたもん。

 アスカは荷物の中に手を突っ込むと、中を探索。数秒の後、

「あ、あったあった。2人とも、ありがとう。これ、大切なものだったんだv」

 裕奈の言うとおり、しっかりと荷物の中に紛れ込んでいたのだった。







早くも第20話を突破しました。
図書館島編もなんとか終了できそうな予感です。
よっしゃ、次はエヴァだーっ!!

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