竜が振りかざした鉤爪が振るわれる。
 空気を切り裂く音と身体を切り裂く音が同時に響き、ドサリとアスカは一直線に地面へと落ちた。
 起き上がることもなくうずくまり、身体を震わせていた。

『アスカ!』

 少し離れた茂みから様子を覗き見ていた2人は思わず声をあげていた。
 クラスメイトであり友人であるアスカが視線の先で痛みに耐えているのだから、無理もない。
 出て行ったところで、自分たちに戦う力などあるわけがない。
 助けようにも、助けられない。そんな状況だった。

「このままじゃ、アスカ死んじゃうよ!」
「どうしよう……」

 考えたところで、2人に今の状況を打開できるわけもなく。

「あ、アスカが立っとる!」

 無理だとわかっていても考え込んでしまった裕奈の横で、亜子は立ち上がりよろりと立ち上がったアスカを見て指差した。
 そのとき。

『あれ……?』

 ぽろり、と落ちたそれは。

「あれ、なにか落ちたみたいだけど……?」

 2人は落ちたものは何かと目を細めたのだった。




魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
走れエスケープ2




「やっぱ、相手が悪かったかな……いたた」

 切り裂かれた左肩を手で抑え、大剣を拾い上げた左手を重力に任せてだらりと下げる。
 目の前の竜は大きく開けた口から透明の液体がでろーっ、と垂れ落ちた。

 残念ながら、今の自分では勝ち目がない。

 参っちゃったな、と苦笑いを浮かべたのだった。




「グルルルル……」

 低い唸り声。
 もう待ちきれない、と言わんばかりに目を爛々と光らせる。

 ……仕方ない。

 目的の本はすでに封印済み。亜子と裕奈に渡してあるので、なにかアクシデントでもない限り安全も保証済み。
 だったら、もう相手にする必要もないだろう。

「吹け、烈風……」

 近くの人間でなければ聞き取れないほど小さな声で、唱えるように言葉を紡ぐ。
 竜に向けて刃を突きつけるように右手に大剣を持ち替え、痛みを堪えながら左手をその根元にそえた。
 すると、刀身の輪郭をエメラルドグリーンの光が包み込む。

「我が剣にまといて刃とならん……!」

 次第に大きくなっていく声と同時に、そえていた左手を剣先へ勢いよく移動。
 手のひらが竜へ、その後であさっての方向へ向くと、空気が収束。
 長さのわからない不可視の剣を形作った。

 竜とアスカとの距離は数メートル。

「ここから届きそうだ」

 空いた左手を大剣の柄へと動かして、両手で握り締めると大剣を横に寝かせた。
 ぎゃりり、と見えない剣先が地面をこすり、小さな砂煙を上げる。
 剣先をこすり合わせながら1回転すると、

天楼テンロウ!」

 叫ぶ必要はないのだが、とりあえず叫んでみる。
 野球のバットでフルスイングするようにその場で大剣を振り回した。
 横に斬り払わんと剣は竜の胴を捉えたのだが、相手は硬いうろこに覆われている。さらに、アスカの数十数百倍はあるだろう巨体。
 薙いだところで効果はほとんどない。むしろ、そこで剣の勢いは消えていた。

「もいっちょ……!」

 頭上に剣を振り上げ、重力に逆らうことなく振り下ろす。
 もとより目的はここにあった。普通の剣で斬りつけたところで、効果はたかが知れているから。

 そのまま振り下ろし、剣は地面へ。
 ドスン、と重い荷物を落としたかのような音とともに、纏う風を解放。
 砂が吹き上がり、竜の視界を覆ったのだった。


「よっし!……去れアベアット

 砂煙で自分の姿が隠れているうちに、アスカは剣をカードに戻す。
 手のひら大のカードをポケットに入れようとしたところで、スカートもシャツも焼けてしまってポケットがないことが判明。
 仕方がないので、手に持ってその場を離れることにした。
 目的地は、自分の荷物のある砂地。亜子と裕奈もそこにいるはずだから。

「……っ」

 左肩が痛む。
 爪のとがった部分がかるくかすった程度だったので、致命傷になったわけではないのが救いだった。
 竜を相手に打撲で済んだだけマシというものだ。
 カードを持った右の手で、左の肩をぎゅっと抑えたのだった。
















 一方、バカレンジャー+αはというと。

「いたたたたっ!?」
「死ぬ、死んじゃうーっ!!」
「問題に……っ、作為を感じるです」

 ひょんなことから始まったツイスターゲームに必死になっていた。
 出題される問題は、全部英単語の問題ばかり。出題している目の前の巨大な動く石像(ゴーレム)はフォフォフォと声を発しながら状態を静観していた。


『さて、最後の問題じゃ』


 大きなハンマーを両手に持った動く石像から、声が発せられる。
 最後の問題なのはいいのだが、バカレンジャー全員がツイスターゲームに参加し、5人ともすでにくんずほぐれつの状態。
 問題を解く以前に、答えの部分に手足を置くことができるかが危うくなっていた。
 しかし、動く石像にはそんなこと関係ないのだ。よって……

『DISHの日本語訳は?』

 最後の問題を出題していたのだった。
















「はあ、はぁっ……」

 ひたすら走り、振り返っても竜が見えないくらいまで逃げてきた。もう目的地も目の前なのだが。

「……っ!?」

 アーティファクトの能力を使った反動で体力を大幅に使っていたためか、足をもつれさせてスッ転んでしまっていた。
 まるで野球のヘッドスライディングのように前傾姿勢で前へとび、ベシャリと顔面を打ちつけたかと思うと走っていた勢いがななるまで地面を滑りつづけた。

「いたた」

 勢いはおさまり、うつぶせから仰向けに寝返る。
 大きな植物で覆われた天井が、視界に入ってきていた。

「しばらく、立ち上がれそうにないなぁ……」

 少し寝ようかな。

 まわりに誰もいないのをいいことに、アスカは目をつぶったのだった。




「あ、いたーっ!」

 アスカが意識を飛ばした直後。裕奈と亜子は地面に寝そべっていた彼を見つけて、駆け寄った。
 着ていたはずのブレザーは先ほどの炎で右の袖口の部分しか残っておらず、その下に着ていたのだろう白いシャツは左腕の肩から下の袖は焼け落ち肌が見えてしまっている。
 さらにはスカートも半分くらい焼けてしまっており、黒いスパッツが見え隠れしている。
 満身創痍、という言葉がよく似合うほどにボロボロになっていたのだった。

 そして、極めつけが。

「男の子……だったんやね」

 竜に斬り裂かれたときに破けてしまったシャツの胸の部分。
 擬装用に入れていたパッドも落ちてしまい、もはや弁解の余地はないほどにアスカが男であることを示していた。

 ちょっと背丈が普通より高い以外は顔も、表情も、姿形も女子にしか見えなかったのだが。

「とりあえずさ、なんとかしてアスカをその荷物のトコに連れて行こうよ」
「せやね」

 亜子が顔、裕奈が足へ回り、持ち上げようと両手と両足に手を添える。
 1人の人間の体重を女の子2人で持ち上げるのは大変ではあったのだが、2人とも運動部だけあってか、特に問題もなくアスカの身体は持ち上がったのだった。








第19話。
はいバレました。
次回は事情を聞こうの回になりますね。

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