『アスカぁっ!!』

 アスカの姿が朱色の炎に包まれる。亜子と裕奈が自分を心配する声がこだまし、モノを焼く黒い煙が立ち込めた。
 それはまるで太陽がここで生まれたかのような白い光。上がりつづける黒い煙はその光の中ではっきりと2人の目に映っていた。

「グルル……」

 炎を吐き終えた竜は眼光を鋭く、声を荒げた2人を視界に入れる。
 ぽたぽたと涎を垂れ流しつつ、大きな目玉をぎょろりと動かした。

「あ……」
「ちょっと、亜子。アレ、コッチ見てるんじゃないの?」

 本当なら茂みに隠れて状況を眺めるはずなのだが、目の前で友達が危ない目に遭っていてその身を案じずにはいられない。
 つい、茂みから飛び出してしまった。
 その声のせいで目の前の竜に見つかってしまったのだ。

「に、にに逃げないと……」
「いいいいや、でも……足がすくんで……」

 一般人なら怖がることは間違いない。
 それは2人にもあてはまり、腰を抜かしてしまいその場を動けなくなってしまっていた。

 がぱ、と大きな口を開く。
 その奥で、炎が吐き出されるために渦巻いていた。

「あかん、ウチら死んでまうで!」

 亜子が、裕奈が死を確信し、高熱の炎が吐き出されたそのときだった。

「グアアァァッ!?」

 2人に炎が届くことはなかったのだった。




魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
魔法使い?




「危なかったぁ……大丈夫?」

 もうちょっとで死ぬトコだったよぉ。

 着ていたはずの赤いブレザーは右腕以外全て焼け落ち、その下に着ているワイシャツも左腕がすでになく肩が露出している。頬にはすすがこびりつき、スカートも半分以上焼けてしまっていた。
 無事なのは、すこし黒ずんだ靴下とスニーカーのみ。
 そして一番目立つのは。

 両手に持っている真っ白の大剣だった。

『あっ、アスカぁ!』

 髪の毛を1つに結わえて2人に背中を向けたアスカが大剣を自身の前でくるくると回し、首だけを2人に向けたのだった。















「魔法の本の安置室です」

 ただの学校の敷地内に、こんな空間があることに驚きを隠せない明日菜は、全員が喜ぶ中で1人苦笑いを浮かべていた。

 バカレンジャーと愉快な仲間たち+αは、大学部の人でも立ち入ることのできない領域まで辿り着き、ゲームのRPGのような石造りの部屋へと足を踏み入れていた。
 側面は大量の書物でいっぱいになっており、前方には大きな扉と1つの本が開いて置かれている。
 それを見つけたのはもちろん魔法使いであるネギで。

「あぁっ、あれは!?」

 なぜ、あの本がこんなところに。

 彼が驚くのも当然のことだった。
 極東の地・日本にあのような伝説の書があるなんて、と。
 ネギは思わずつぶやいていた。

「あれは伝説のメルキセデクの書ですよ……信じられない。僕も見るのは初めてです!!」
「ってコトはあの本ホンモノ……?」
『やったーっ!!』

 コレで最下位脱出よーっ!!

 意気込んで、いち早くその本を手にしようとバカレンジャーは走り出した。
 本まで続く階段の手前、橋の部分にさしかかったところで。

『キャー!!』

 バカンッ!と大きな音を立てて、その橋は2つに割れてしまっていた。
 もちろんそれは予告もなく起こったので、バカレンジャーは宙に投げ出されてしまい、そのまま落下してしまったのだった。

 しかしその落下もすぐに終わり、

「いたた……」
「コレって……?」
「ツイスターゲーム?」

 まき絵のつぶやいた通り、バカレンジャーの落ちたそこには、ひらがなが書かれた丸がいくつも描かれていたのだった。


















「てか、なんでこんなトコにいるの2人とも?」
「え、あー、いや。そのぉ……」
「アスカを追ってきたんや」

 大剣で牽制しつつアスカが2人に尋ねると、どもる裕奈のとなりでキッパリと亜子は問いに答えた。
 竜が目の前にいるのに、なんとも度胸が座っている。

「テスト前やのに、勉強もせんとこんなトコまで来て……なんか怪しい思ったんよ」

 まっすぐアスカを見据えて、亜子はそう口にした。
 となりの裕奈も、先ほどとは違う彼女の様子に目をまるめる。
 アスカは諦めたように目を閉じると、首を前に戻して。

「じゃあ、話はアイツを片付けてから、ね」
『え?』
「少しはなれて、待ってて。……そうだ。あとコレ、預かっといてよ。貼ってある紙は絶対にはがしちゃダメだからね?」

 そう言うと、2人の返事も待たずに大剣を低く構えたのだった。




「ええいっ!!」

 立ちふさがる竜に向けて駆け出し、目の前で跳ぶと大剣を横に薙いだ。
 狙いは口元。しかし刀身は竜の口に挟まれ、甲高い音を上げていた。
 長い首を振り回し、勢いをつけ口を広げることで、大剣ごとアスカの身体を投げ飛ばす。
 アスカは腰をひねってひらりと着地すると、大剣の柄に手を当てた。

(やっぱ竜相手に普通の剣は効かないか……)
「母なる大地よ……その力を、ここに!」

 左の手のひらでなぞるように刀身を撫でると、黄の光を帯びる。
 逆手に持ちかえ1回転すると、黄色の軌跡を残しつつ大剣を振り上げた。

土蛟ドコウ!!」

 叫び、白い剣を地面に突き刺す。
 弱い地響きと共に先のとがった地面がせりあがり数本の槍となって、竜を襲った。

「ガァッ!」

 数度羽ばたき風を起こすと、竜は宙へと飛翔する。
 飛び出した土の槍は竜まで届くことはなく、アスカは眉をひそめて剣を抜く。すると、土の槍はぱらぱらと砂になって朽ちていった。

「ずるいなぁ……飛べるなんてさ……」

 おちょぼ口でぶつぶつと呟いてみせる。
 次だと言わんばかりに、大剣を振りかざした。

「それなら……っ!」

 気を練り、剣へと流す。
 次の瞬間。アスカの姿は煙のようにその場から掻き消えていた。

「叩き落してやるっ!!」

 現れたのは竜の頭上。大剣を振り上げた状態で宙へと身を投げ出した。
 竜の頭めがけて、気の詰まった大剣を振り下ろす。

「裂破無限刃!!」

 振り下ろされた剣は竜の頭を捉えて、予告どおり叩き落とした。そのまま地面まで一直線。込めた気を放出し、地面へ着地と同時にクレーターを作り出した。
 神鳴流の剣術をも押さえ込む剣撃に耐え切れず、竜はうめき声を上げたのだった。


















「すご」
「ウチら、夢でも見てるんとちゃうやろか……」

 離れた茂みに身を隠した2人は、目の前に広がる光景に目を丸めていた。
 アスカの持つ剣を地面に突き刺したとたんに出てきた土の槍や、煙のように消えた次の瞬間には竜の頭上に現れたり。しまいには、何倍も身体の大きい竜をただ剣を振り下ろしただけで叩き落している。
 ……とても、現実のこととは思えない。

「いへへへ」

 裕奈は頬を軽くつねり、夢でないことを確認する。
 ……普通にいたい。夢じゃない。

「ああいう人たちって、なんて言うんやったっけ?」
「どういうこと?」

 杖を持ち、様々な超常現象を操る人のこと。
 目の前で必死に戦っている人が持っているのは剣だけど、土を武器にしたり、煙みたいに自分の身体を消したりする。
 とても、信じられないけど。

「魔法……使い?」
「そや、それや!」

 アスカは魔法使いなんや!……とても信じられへんけど。

 亜子はそんなことを口走りながら、亜子は目の前の光景を凝視していた。


















 攻撃を受けまいと竜のまわりを駆け回る。
 地面に叩き落したとはいえ、そんなことで相手がへばってしまうとは思えない。
 それはもちろん当たっていて。竜はその場に立ち上がり、両羽を振るい威嚇していた。 羽だけがあって腕がないところをみると、ワイヴァーンという種類の竜だろうか。

「それぇっ!!」

 大剣を振りかざし、特攻をかけるが。

「グオォッ!!」

 ひと鳴きし、大きく羽を振ると強風を起こした。
 巻き起こる風は強風を超えて、車1台くらいは軽く吹き飛ばせるほどに強い暴風。

「うわっと!?」

 もちろん、アスカは車ほどの体重があるわけもない。風に煽られ、見事に身体が吹き飛んだのだった。
 その身体は風の流れに逆らうこともできず竜の目の前へと投げ出される。
 アスカの赤い目は、羽と一体化している爪を振り上げている竜の姿が映されている。
 避けられそうにないな、と呟いた直後。

「ぐっ……あァ!!」

 羽につい鋭い爪はアスカの身体を斬り裂いたのだった。
 左の肩口から胸元までが斬り裂かれ、地面に身体ごと着地。斬り裂かれはしたものの、反射的に身体をひねったことで致命傷は免れた。
 しかし、着地時に肺が揺さぶられ一時的な呼吸困難に陥っていた。
 「げほ、げほ!!」と大きく咳をしながら腕を突っぱねて身を起こすと、再び大剣を構えを取りながら違和感のあった胸元を見やると、ワイシャツの大部分が切り裂かれ、男だとバレないようにとネカネからもらってつけていた胸パッドがブラごと落ちてしまっていた。
 周囲に知り合いがいればすでに男であることがバレバレだ。

「……亜子たちにバレちゃったかな」

 でも、しょうがない……か。

 アスカはちらりと2人のいる方角を振り向き、苦笑いを浮かべたのだった。






第18話。
ついにバレます。バレてしまいます。
竜との戦闘第2ラウンドをもって、亜子と裕奈に秘密がバレてしまいました。

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