「うわっ」
「うひゃっ」
「わたたっ」

 ズシンズシンズシンズシン。

 まるでネコがネズミを追いかけるがごとく、逃げるアスカを追い詰める竜。
 空気の抵抗をもろに受けてしまうにも関わらず1対の羽を大きく広げて、両の足でアスカを追い立てている。そして、アスカはもちろん逃げる、逃げる、逃げる。
 その激しさにバラける髪を束ねる時間も、懐からカードを取り出す時間すら得ることができずにいたのだった。

「なんで……っ、こんなトコにこんなのがいるんだよ!?」

 叫んだところで答えるものなどいるわけない。
 それでも、アスカは叫ばずにはいられなかった。



「うあああん、がくえんちょーのばかやろーっ!!」




魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
走れエスケープ




 そんなことをアスカが叫んでいた一方。
 すでに日も暮れた図書館島の入り口に数人の人影があった。

「この裏手に、私たち図書館探検部しか知らない秘密の入り口があるです」

 バカブラックこと、綾瀬夕映。

「でも、大丈夫かなー」

 バカピンク、佐々木まき絵。

「なんでも、『とらっぷ』があるらしいと目下の噂でござるが……」

 バカブルー、長瀬楓。

「なんでこんなトコにトラップがあるアルか?」

 バカイエロー、古菲。

「だいじょぶだいじょぶ。アテがあるから」

 ほら出番よ!魔法の力で、私たちを守ってよね!

 となりの少年にすりよって、ささやくバカレッドこと神楽坂明日菜。
 いわゆるバカレンジャーの5人と、シェルパ&地下連絡員として無線機の調整をしている宮崎のどかと早乙女ハルナと額にライトを取り付けた近衛木乃香の図書館探検部の4人。
 そして。

「あの……魔法なら、僕封印しましたよ」

 魔法を封印し普通の人になった+αのネギ・スプリングフィールド。
 9人は靴を履いたまま浅い池に足を踏み入れた。
 むろん、池の水は冷たいので。

「水、冷たい〜」

 そんな声がほぼ全員から漏れていた。

 ギギ……と音を立てて『秘密の入り口』が開いて、石造りの螺旋階段を降りるとそこは。

「うわ〜!本がいっぱい。ホントにスゴイ!!」

 ネギが叫んだとおり、本棚がまるで迷路のように立ち並んでいたのだった。

 図書館探検部とは、2−Aからは近衛木乃香・綾瀬夕映・早乙女ハルナ・宮崎のどかが所属しており、学園と共に建設され、数々の貴重書が集められた図書館島の調査のためにと発足した中高大合同のサークル。内部の全貌がわからなくなるほどに本の数が多くなりすぎたのが理由だとか。

「貴重書狙いの盗掘者を避けるために数々のワナがしかけてありますので、気をつけてくださいです」
「うわわわっ!?」

 夕映の説明もむなしく、本に触れたネギに一本の矢が放たれるが。
 横から伸びた手につかまれ、引き寄せられたネギは矢が通っていくのを間近で感じつつ冷や汗を流した。

「そう言えば、アスカも図書館島にいるんだっけ……」
「何故……?」

 首をかしげる楓にまき絵は首だけを向けて、

「なんでも、仕事があるんだって」

 なんのことだかよくわかんないけど。

 まき絵のそんな答えを聞いて、楓は表情を曇らせていたのだった。




「ところで、あの……みなさんはどうしてこんなトコに?」

 地下3階。
 ここまで来た事情を聞いていなったネギは唐突に、そんなことを尋ねていた。

「あぁ、あんたには教えてなかったわね」

 そう言って、明日菜は現在にいたる経緯をネギに話して聞かせた。
 事の発端は、その日の入浴時でのこと。
 最下位になったクラスは解散、とか小学生からやり直しという噂を耳にして……特に明日菜は慌てふためいていた。
 なんとかしなきゃと考えついた結果として、夕映から1つの提案があったのだ。
 それは……



「えっ、ええ〜〜〜っ!?ここに読むだけで頭が良くなる魔法の本がある!?」
「大方、できのいい参考書だと思うのですが……」

 夕映の付け加えるような言葉を聞きつつネギは先日、明日菜が魔法に頼るなと自分で言っていたことを思い出し彼女に尋ねるが。

「今回は緊急事態だし。カタイこと言わず、許してよ」

 このまま私たちの成績が悪いと大変なことになっちゃうし……

 そんなことを言いながら、お願い、と片手を顔の前へかざして、無邪気な笑みを浮かべる。
 その『大変なこと』をネギは自分の『2−Aを最下位脱出させる』という最終課題のことだと勘違いし、感動に打ちひしがれた。

「ねえ、夕映ちゃん。後どれくらい歩くの?」
「はい」

 夕映は階層のみを記した地図を開き、自分たちが今まで歩いてきたルートを指で追う。
 彼女の左右に明日菜とまき絵が寄り、同様に地図をのぞき見た。

「内緒で部室から持ってきた宝の地図によると、今いるのはココです」

 現在地と目的地を指先でそれぞれトントンと叩いて、

「地下11階まで降りて地下道を進んだ先に目的の本があるようです。時間的に考えると往復でおよそ4時間。現在は夜7時ですから……」
「ちゃんと帰って、一応寝れるんだね」

 よかった、とまき絵は胸をなでおろすように息を吐いた。

「では出発しましょう!」
『おーっ!!』

 意気込み、バカレンジャー+αは再び歩き出したのだった。



「あの、アスナさん」
「何よ?」

 くいくい、とネギはアスナの服の裾を引っ張る。
 明日菜が振り向いた先の彼は、どことなく険しい表情をしていた。

「あの、実は……ここ、かすかに魔法のような力を2つほど感じます」
「え、どういうことよ?」

 そのネギの言葉に、明日菜は魔法の本の存在を確信して、

「みんな、私たちの未来のために頑張るわよ〜〜!」

 そう言って、腕を振り上げたのだった。
 しかし、彼女のとなりのネギはあたふたと両腕を振り回す。

「それもありますが、もう1つ。そういった類のものじゃないと思います」
「へっ?」
「さっき、まき絵さんが言ってましたよね。『アスカが仕事で来てる』って」

 そういえば、言っていた。
 楓と何度か話していたところで、彼女が表情をしかめていたのが明日菜の印象に残っていた。

「ネギ、もしかして……」
「ええ」

 2−Aの中で、唯一ネギが魔法使いであると知っている明日菜だからこそ。

「アスカは以前から、退魔の仕事を請け負って生活していましたから」
「だから、あんなにお金持ってたのね……」

 アスカが、何かと戦っているのかもしれません。

 ネギは明日菜にだけ聞こえるように、そう囁いたのだった。











「うわぁぁんっ!」

 アスカは涙をちょちょぎらせながら、とにかく全力で走っていた。
 その背後には、もちろん巨大な竜の姿がある。距離はそれほどかわっていないが、それでも気持ち近づいてきていた。
 先刻よりさらに状況は悪くなっていた。

「どーしよ……このままじゃジリ貧だよ」

 武器はおろか、暴れる髪すら結べない状況にアスカはとにかく焦っていた。
 さらに相手は自分よりも数倍の大きさを誇る竜。

「うわぁっ、火ィ吐いたぁ!!」

 ……必死である。













 ドシン、ドシンと一定間隔に鳴り轟音とも取れる地鳴りは、音の方角へとひた走る亜子と裕奈の耳にも届いていた。

「あっちや!」
「はぁ、はぁ。亜子、これちょっとマズイんじゃないの?」

 普通に生活していたならば体験しないだろう地響き。
 時折聞こえる咆哮のような声。
 ライオンや象の鳴き声で耳を貫くような大きな声が出せるだろうか。
 すなわち、裕奈はこの先にいる存在に恐怖していたのだった。

「大丈夫やって。物陰でこっそり隠れてれば、見つかりっこないで……あそこや!」

 走り始めて数分。息を切らしながら、結局目的の場所まで辿り着いていた。
 そして、彼女たちが目にした光景は。


『な、なにアレぇ!?』


 彼女たちの目には、まるで本の中の出来事のような光景が映っていた。















「はぁ、はぁ……あー、もぉ!」

 すでにかなりの距離を走った。
 そろそろ体力も限界にきている。
 背後に首だけを回して、涎を垂れ流す竜の顔を視界に入れるとぎりりと歯噛み、眉間にしわを寄せた。

「こうなったら強引にでも……えと、カード……カード……」
『アスカ、あぶないっ!!』
「え?」

 ポケットに手を忍ばせつつ声の方角を見やるとそこには。
 慌てたような表情の亜子と裕奈が茂みから顔を出していた。

「亜子、それにゆう……なっ!?」

 ……油断した。
 朱色の光を感じ、竜のいる方角を見る。
 そこの先にはすでに、吐き出された炎が目の前まで迫ってきていて。

「しま……っ!!」

 朱色に輝く炎が、アスカを包んだのだった。







第17話。
竜との戦い第1ラウンドでした。
……逃げてばっかです。

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