時刻は既に夕刻。 アスカは制服を着込んで、図書館島へと続く橋の入り口にたたずんでいた。 図書館に入るのに、学園の生徒が制服以外の服を着ているのはそこそこに目立つだろう。 だから、アスカは購買にて汚れてもいいように制服を買って、部屋に置いてきていた。 空は夕焼けの朱に染まり、普通の生徒ならば部活を終えて帰宅する頃合。しかし、図書館島では試験勉強のためにと勤勉な生徒が数人残っているだろう。 「さて、と。忘れ物はないかな?」 万一のための医療道具一式。 2日ぶんの食料。 そして、パクティオーカード。 一番忘れてはいけないのは、目的の本の封印に必要な紋の描かれた紙。 こんな紙切れで封印できるのかと首を傾げるが、他でもない学園長がコレを自分に託したのだ。まさかウソということはないだろう。 「よし、大丈夫」 目的の本は、島の地下。『地底図書室』と呼ばれる空間だ。 学園長曰く、 「直通のエレベーターがあるから、それを使いなされ」 とのことなので、地図に示されたエレベーターの場所までとにかく移動を開始した。 と、そんなアスカの背後を。 「……怪しさ大爆発や」 アスカの背が小さくなったのを確認して、2つの人影が茂みから身体を出す。 1人はショートボブの髪に、やはり学園の制服。 もう1人は黒い髪を片方で結んでいる。もちろん服装は制服である。 前者が和泉亜子、後者が明石裕奈。 運動部に属する2人の女子学生だった。……片方はマネージャーだけど。 「『謎の転入生、テスト前に1人図書館島へ!』……って、別に普通じゃないかにゃー」 「何言ってるん、テスト勉強するに救急セットとか食料とかいらんやろ?」 そりゃあ、そうだけど……と裕奈はうなずいてみせる。 すると、亜子の表情が一瞬で喜々としたものに変わった。 「せやろ、だから怪しさ大爆発やねん」 「アスカは学園長に頼まれてココに来てるんでしょ。だったら邪魔するのはマズいって」 「でも、気になっちゃうやろ?」 テストは帰ってからでなんとかなるって! 笑ってそんなことを言ってはいるが、昼間の授業でネギが言っていたことが思い出される。 ……『大変なこと』ってなんだろう? 話は、数時間前に遡る――― 魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫− 過去最大の大仕事 「じ、実はうちのクラスが最下位脱出できないと大変なことになるので〜〜」 みなさん、頑張って勉強していきましょ。 それは突然の提案だった。 ホームルームの時間、ネギの唐突な発言が原因で2−Aは大勉強会をしていた。 桜子の提案で『野球拳を取り入れた勉強』をすることになったのだが、これにより見事に脱がされたのがバカレンジャーの5人。そんな彼女らを見て、ネギはとにかく慌てふためきまくっていた。 「な、何やってるんですか――っ!?」 「何ってホラ、答えられなかった人が脱いでいくんだよ」 野球拳だもん――― 回想終了。 結局、最後まで『大変なこと』の正体はわからずじまいだった。 あとでクラス解散とか、小学生からやり直しなどといった噂が流れていたが、そればかりはどうしても避けなくてはいけない。 そんなことを考えつつも、裕奈は亜子に連れられて地底図書室直通のエレベーターを探し出し、それに乗ってしまっていた。 「げっ、もう戻れない!!」 「観念しいや、ゆーな?」 ……気付くの遅すぎだし。 「うわぁ、広い空間だなぁ」 背負ってきたリュックを砂地に下ろして、アスカは両手を広げてくるくると回ってみる。 そこはとても地下とは思えないほどに広く、明るい。 溜まっている水は澄み切っていて底まで見えているし、奥のほうにはなぜか建物もある。 「……っとと。仕事仕事っと」 リュックから封印用の紙を取り出したところで、とあることに気が付いた。 「あ、本どこにあるのか聞き忘れちゃった」 困ったなぁ…… などといいつつも、本当に困っているのかと疑ってしまうような楽観的な表情を浮かべていた。 「多分、探せば見つかる……よね?」 地底図書館は広い。 その中から一冊の本を探すのだ。それは、まるで砂漠の中から米粒を見つけ出すような作業となってしまうだろう。 周囲を見回してみると、なんと水の中に浸かってしまっている本棚すら見て取れる。 「……あとで学園長に追加報酬を要求しよっと」 『仕事は最後までやりぬく』がモットーのアスカにとって、今回の仕事は過去最大級の大仕事となったのだった。 「ん?」 探し始めて十数分。アスカはふと違和感を感じ取って、本棚に本を戻した。探していた建物から飛び出して、リュックの置いてある場所まで走る。 草木を掻き分けてようやくリュックの元まで辿り着くと、 「あ!?」 封印の紋が描かれた紙が、淡く発光していた。 リュックの上でふわふわと浮遊し、アスカが辿り着いたとたんにどこかへ向けて消えていく。 アスカは状況の整理のために、その場でしばらくぼーっとしていた。 「あぁっ、追いかけなきゃ!!」 我に返ると、万一のためにとパクティオーカードだけスカートのポケットに入れ、慌てて追いかけたのだった。 「あれは、もしかして!?」 そのまさか。 なんと飛んでいったその紙は、目的の本を探し出して自らカバーの上に乗っかったのだ。 不思議紙だと思われがちだが、やはり魔法による作用なのだ。 開く部分を挟んで巻かれるようにぴったりと取り付くと、紙は光を失っていく。 同じようにふわふわ浮かんでいた赤い本はぽとりと地面に落ちたのだった。 「うわっ、助かったー。もし見つからなかったらどーしようかと思ったよ〜〜」 こうなるならなるって事前に言っておいてくれないと! 落ちた赤い本を拾い上げながら、ここにいないであろう現在はすでに就寝中の学園長に向けて抗議の言葉を叫んでみる。 もちろん、返答が来ることはない。 こちらは寝ないで本探ししてたっていうのに。 ……なんだか腹立ってきた。 「もーいい。ヤケ食いしてやるーっ!!」 がー、と両手を振り上げたアスカを、1つの影が覆い隠す。 強風が吹き荒れ、砂が舞い上がっていくのがアスカの目に飛び込んできていた。もちろん、それを確認して砂が目に入らぬように即まぶたを閉じたのだが。 そしてどすん、という何かが落ちたような音と、地響き。 風がやんだのを確認して、うっすらと目を開けると。 「…………」 そこには。 「グルルルル………」 ぽたぽたと涎をたらす、巨大な口が見えた。 さらに、少し離れてみると。 それは、幻想種とよばれるものの1つ。二枚の羽で空を飛び、口から炎を吐く。 ……そう。 「竜ーっ!?!?」 御伽噺などによく登場する竜が、目の前にいるのだ。 叫び声は遠く、ちょうどエレベーターから降りた2人にももちろん届いていて。 「うわ、なんや綺麗な場所やね」 「ねぇ。なんか声が聞こえるけど……?」 先ほどアスカがやったように、両手を広げてくるくると回ってみせる亜子に向けて、裕奈は声をかけた。 流れる水の音でほとんど聞こえないが、耳を済ませば確かに聞き取ることはできる。 それは聞きなれた、まだ麻帆良に来て数日しかたっていないはずのクラスメイトの声で。 「……アスカや!」 「行こう、亜子!!」 2人は砂地に下り立つと、全速力で声の方向へと走ったのだった。 第16話です。 やっとこさ図書館島編に突入です。 そして、オリジナルの話が入ります。ぶっちゃけ竜との戦いです。 |
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