「トライアングルアタックだって……ぷっ」



 中等部組はくすくすと小さく笑う。
 なぜかと言えば、敵である高等部チームがとったフォーメーションのネーミングがツボに入ったのだろう。
 限りなく小さな声であるものの、彼女たちが笑っているのが見えないわけではない。
 額に青筋浮かべていた。

「ネギ先生!」

 ずい、とあやかは前に出ると、

「私が受けて立ちますわ!」

 さあ、来なさいおばサマ方!!

 そんなことをいいつつも、数秒後には例の『トライアングルアタック』の餌食。
 とぼとぼと外野へ歩いていってしまっていた。
 三角形(トライアングル)の意味すらわからぬまま。

 勢いに乗ってさらに2人がトライアン(以下略)の餌食になってしまい、11対10。

「あっという間にハンデ分追いつかれてもうた……」
「このままじゃ負けちゃうよー」

 高等部チームは勝ちを確信してか、バレーボールの要領でトスを上げる。

「これで終わりよ、あんたたち!」

 英子はボールを追いかけるように飛び上がると、ちょうど太陽の影になって全員の目がくらむ。

「必殺 ―― 太陽拳!!」




魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
ドッジボール後半戦




 太陽を背にしてバレーのスパイクのようにボールをたたき出す。
 腕の力に落下スピードがプラスされ、ボールは明日菜へ一直線。
 視界が遮られた明日菜はボールの直撃を受けたのだった。

「ア、アスナ――っ」
「アスナさんっ」

 叫んだまき絵とネギは、勢いあまりに倒れ込むアスナの名前を叫ぶ。
 ポーンと宙へ舞い上がったボールはそのまま高等部のコートへ入っていくと、

「もう一撃!」

 同じようにスパイク。
 動くヒマすら与えず、明日菜へ向けてボールを打ち出した。

「なっ、2度も当てるなんて」
「ひきょーものー!!」

 亜子の声に表情をひきつらせるが、

「どんな汚い手を使ってでも勝つ。それが【黒百合】のポリシーなのよっ!」

 そう叫んだのだった。



「アスナ、大丈夫?」
「だいじょぶだいじょぶ。かすりキズだよ」

 アスカは座り込んだままの明日菜を助け起こして、安否を尋ねる。
 まぁ、所詮はスポーツなので大きなケガはないのだが。
 よく見れば腕からは少し血がにじんでいる。
 亜子に見せないほうがいいな、とか思いつつ、

「あの人たち、いくらなんでもひどすぎるよね」
「大ケガじゃないだけマシよ。って、あんのネギ坊主はっ……!」
「え?」

 見えないように手を虚空にかざして、その先が光っている。
 魔法を使おうとしているらしく、すでに風が発生し始めていた。
 ……のだが。

「コラ、ネギ坊主!」

 明日菜は軽く彼の頭を叩いて魔法をやめさせたのだった。

「スポーツでズルして勝っても嬉しくないでしょ。正々堂々いきなさいよ……」

 男の子でしょ!

 そう言って明日菜はネギに背を向けた。

「ゴメン。アスカ、みんな、後は頼んだー」

 苦笑いを浮かべ、外野へと歩いていく。
 全員がすでに負け確定を予想したのか「もーダメだー」とか「アスナがいなかったらオシマイだ」とか。
 そんな中で、

「みなさん、諦めちゃダメですよっ。後ろ向いてたら狙われるってアスナさんも言ったじゃないですか。前を向けばボールも取れるかもしれません!」

 頑張りましょう、とネギが全員に激を飛ばしたのだった。

「そーだね。負けちゃったらネギ君あいつらにとられちゃうんだもんね」
「このままなめられたままじゃ終われないよ!」

「……そこで、僕にいい考えがあるんだけど」

 全員がやる気を取り戻したところで、一言。
 アスカはそうみんなに告げたのだった。



 相談もそこそこに、全員がコートの四方八方に散っていく。

「あんたがいなくなれば、勝ちも同然!子供先生は私たちのものよーっ!」

 ボールを投げる。
 もちろん狙いは、さきほど軽々とボールを受け止めて見せたアスカで。

(かかった!)

 真正面で両手を構え、飛んでくるボールを待つ。










「相手が汚い手を使ってくるんなら、コッチだって汚い手を使えばいい。次に狙われるのはきっと、さっきあれだけでしゃばっちゃった僕のはずだから……」

 丸く円陣を組んで相談タイム。
 よく高校生たちが許してるよな、とか考えるのは当然なのだが、勝者の余裕といったところだろう。
 もっとも、その余裕が何時まで続くかはわからないが。

「僕が絶対にボールを受け止める。投げ返すから、そしたら裕奈……」

 よくこんなこと考えつくなと、自分でもそう思う。
 こういうのを【悪知恵】というのだろうが、考え付くだけでも以前の自分とはえらい違いだ。

「今度はボールを空中に飛ばして、まき絵が……」

 アスカの周りで全員が納得したかのようにうなずく。
 どうせ向こうだって汚い手ばかりを使ってきているのだ。
 コッチだって同じようにしたところで文句は言わないだろう。

「亜子のところにもしボールが飛んできたら……」

 「卑怯だ」と言ってきたところで、「貴女たちもやったんだから、文句ないでしょ」と言えばそれですむ。
 全く、問題ナッシングである。

「とにかく、ボールをこっちへ戻すようにすれば……」

 コートに残る全員が、にんまりと表情を緩めたのだった。










 乾いた音を立てて、アスカはボールを抱え込むようにして受け止めた。

「それっ!」

 そのままふりかぶり、思い切り投げ返す。
 高等部チームのそれと負けず劣らずの剛球は、

「しまった!?」

 1人の肩に当たり、うまいこと戻ってくるかのように宙に投げ出された

「むっ……」

 空中のボールを眺めて、裕奈は飛び上がる。
 タイミングよくボールを掴むと、

「ダーンクシュートー!!」

 そのまま投げ落とした。
 ボールはもちろん1人に当たり、また宙を舞う。
 しかし、それは高等部チームのコートへ渡ってしまった。

「ふふふふ……ちょっとはやるようだけど、ここからはそうはいかない……」
「5秒ルール!!」

 ピィ――――ッ!!

 大会にもある正式なルールらしいが、詳しいことなど知っているわけもなく。
 のどかは体育のルールブック片手に、

「5秒以上ボールを投げずに持っていると反則です――」
「ボールをコッチに渡してくださいです」

 笛を吹いた夕映は高校生チームにそう言う。
 公式ではないが、体育のルールブック集なので文句がでるわけもなく。
 ボールはのどかに投げ渡されたのだった。

「アキラさん、お願いします――」
「うん。任せろ」

 スタスタとコート内を歩き、

「っ!」

 投げる。
 高等部のそれとまではいかないものの、しっかり1人をリタイアさせたのだった。

 さらに。

「えい、えい、えい!」

 まき絵は空中のボールを新体操のリボンで絡めとリ、そのまま振り下ろす。
 腕を振るい、3人にボールを当てたのだった。

「ちょっと、それこそ……」
「むむっ……え――い!!」

 リボンから外れ、亜子の前へと辿り着いたボールは、相手コートに向かって見事に蹴り飛ばされ1人を撃沈。
 反則だが、事実上相手の1人に当たった以上有効だ。

「ルールブックとか言っといて……」
「「チャイナダブルアターック!!」」

 もはやルールなんぞどうでもいいのだ。









 結局。

『勝ったーっ!』

 終了のチャイムとともに、全員がメンバーの数を見ると。

 10対3。

 中等部チームの勝利と相成ったのだった。

「ば、バカな……」
「私たちが負けるなんて……」

 ぐったりと地面に座り込む英子・ビビ・しぃの3人。
 最後までコートに残っていた3人だったのだが。

(元はと言えば、あの女が……)

 そんな結論に至って視界に納めたのは明日菜と喜びを分かち合うアスカの姿。
 アスカは男だが、彼女たちがそれを知ってるわけもなく。

(このままでは、済まさないわよ!!)
「まだ、ロスタイムよ!」

 1人トスを上げて、アスカに向けてスパイクを放つ。
 それに1人気付いたのはネギで。

「アスカ、危ないっ!!」

 普段の登校時のように風の魔法で脚力を強化し、数メートルの距離を詰めると。

「え……ぅわっ!?」

 多少背中を押しつつ、ネギはそのボールを受け止めたのだった。


 ……そして。



「こんなことしちゃ……ダメでしょ――っ!!」
「!?」



 風の魔法も切れぬまま、ネギはボールを押し返すように放つ。
 英子に返ったボールは風を纏い、

「なっ、なななっ……」

 轟音とともに受け止めた手を弾きつつ、ボールは空の彼方へ飛んでいく。
 ボールを受け止めた彼女たちは。

「「キャー、何よコレー!?」」

 下着姿でうずくまっていた。

「!?」

 一瞬で顔を真っ赤にして、アスカは目を背ける。
 一応女として学園に通っているのだから、見ていてもだれもとがめはしないのだが。

「・・・・・・」

 「ネギ君、今の何!?」とか「魔球アルか?」などとネギに詰め寄る中、亜子だけが赤い顔を背けたアスカを見ていたのだった。







第15話。
14話に続き都合の良すぎです。
ひねりもありません。
原作どおりの展開にしてみました。

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