「忙しいところ申し訳ないのぉ、アスカくん」 ネギくんは、しっかりやっておるのかの? 部屋に入るや否や、学園長はそうアスカに言った。 彼は「用事があるから」とタカミチに言われて、学園長室を訪れていたのだが。 別に大丈夫ですよ。 学校に初めて通う自分から見てでよければ、ネギは先生らしくなっていると思いますよ。 それぞれの言葉に対してそう受け答えした上で、 「それで、用件ってなんですか?」 学園長に向けて、そんな問いを発していた。 「もう時間も時間ですから、手短にお願いしたいのですけど……」 「うむうむ。わかっておるよ」 長いあごひげをなでながら、ふぉっふぉと笑うと、 「実はのぉ、お前さんに頼みたいことがあるんじゃよ」 魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫− 仕事の依頼 用件を聞いて、アスカは昇降口への道をただ歩いていた。 すこしうつむくように地面に軽く視線を送り、夕日の差す窓へと顔を向ける。 そして、思考を数分前へ走らせたのだった。 ・ ・・ ・・・ 「頼みたいこと?」 「うむ、図書館島を知っているかね?」 図書館島。 麻帆良学園都市内にある湖に浮かぶ大きな図書館で、世界有数の蔵書数を誇る図書館なのだと以前聞いたことがあった。 「えっと、そこがどうかしたのですか?」 そう尋ねれば、学園長は一度口篭もってから再び口を開くと、 「実はのう、あの島の地下に地底図書室と言われる場所があるんじゃが、最近の調査でそこに危険な書物が存在することがわかったんじゃよ」 その書物とは『召魔の書』と呼ばれる赤いハードカバーの本らしく、本を手に取った者の魔力または生命力を強制的に吸い取ることで異世界から悪魔などを召喚してしまうのだという。 「それを封印してココまで持ち帰って欲しいんじゃ」 「ふ、封印っ!?」 僕、そんなのしたことないですよ!? アスカが慌てるのも無理はない。 彼自身、請け負う仕事は退魔の仕事ばかり。 すべて倒せばよかったからこそ、自らのアーティファクトである大剣を振るってきたのだ。 封印などしたことするどころか、見たことすらない。 「なに、簡単なことじゃよ」 フォッフォと笑うと学園長は机から1枚の紙を取り出し、アスカに手渡した。 仮契約カードくらいの長方形の紙で、なにやら紋章のようなものが書いてある。 「これは……?」 「封印を施す紋を描いたものじゃよ。それを本の表紙に貼れば、それで封印は完了じゃ」 この紙をただ貼ればいいだけ。 封印というからには、もっと大掛かりなものだと思っていたアスカは、拍子抜けしたかのように安堵の息を吐き出した。 受け取った紙をカバンに入れながら、 「わかりました。その依頼、お受けします」 そう言って笑ったのだった。 ・・・ ・・ ・ 「しかし、仕事の期日が土日2日間なんて……」 明後日の土曜、日曜は学園は休み。 だからこそアスカに依頼したのだろう。 タカミチとかじゃダメなんですかと尋ねれば、彼は出張で今はいないという答えが返ってきていたのは、また別の話。 月曜には期末テストが控えているというのに、なぜか勉強もせずに仕事をしなければならなくなったのだ。 「まぁ、テストは仕事の報酬として免除になったから良かったものの……」 クラスのみんなにはどう説明するんだろう? そんな疑問が湧くが、それも尋ねてみれば。 「テストは一緒に受けてもらうからの」 と、そんなことを言っていた。 学校に入って初めてのテスト。 テストというのは、その日までに教わったことに対する理解の度合いを図るものだと聞いていたので、ぜひともいい成績を残してみたかったのだが。 「とにかく明日は勉強して、仕事を早いうちに終わらせてからまた徹夜で勉強って形にしようかな」 そう決めて、アスカは小走りで昇降口を目指したのだった。 「あ、お帰りーっ」 「た、ただいま……」 まき絵の出迎えで、アスカは部屋へと戻ってきた。 電車に乗って寮まで戻ると外はすでに暗くなっていて、亜子もまき絵も帰ってきていたのだ。 「あぁ、疲れたぁ……」 ふらふらと部屋を徘徊し、急ごしらえで備え付けられたベッドへとダイブ。 枕に顔をうずめた。 「なんや、ずいぶん疲れとるみたいやな」 「うん、この学園に来たときからこっち、身体を休めるヒマがなくて。こっちに来るときもその日のうちに飛行機に乗せられて、着いたと思ったら今度は電車で数十分……」 「それじゃゴハンいっぱい食べてお風呂入って、疲れはしっかりとらないとね」 この間のお礼、と言わんばかりにまき絵は亜子をたきつけてキッチンへ入っていくと、料理の数々を持ってテーブルに並べた。 アスカもベッドからのそりと身を起こすと、すでに料理の並べられたテーブルに座り込む。 「うわ、すごいね!」 「今日は私たちでゴハン作ったんだよ」 「こないだはアスカに作ってもろたやろ?」 そのお礼や。 亜子はニッコリ笑うと、白飯を口に放り込んだのだった。 「あぁ……作ってもらったものを食べるなんて久しぶりだよぉ。2人とも、ありがとう!」 並べられた料理を手当たり次第に口へ運び、味わうように咀嚼する。 涙を流さんばかりに話すアスカを見て、2人は苦笑。 「喜んでもらえて嬉しいわぁ」 亜子はそう口にしたのだった。 「あ、そうそう。僕この土日……正確には金曜の放課後からだけど、ちょっと留守するから」 食事の後、片付けもそこそこにアスカは2人にそう告げる。 麻帆良の学生ならばここで疑問を抱くことになるだろう。 それは亜子とまき絵も同様だった。 「土日って……テスト前やよ?」 「そうなんだけど、学園長にどうしてもって頼まれたことがあって……」 勉強も行った先でやる予定だけど……。 そう言ったところで「できるかわからないけど」と内心で呟いてみる。 「どこに行くとか、聞いてもいい?」 「え!?……あ、うん。この学校、大きな図書館あるでしょ」 まき絵の問いに一瞬口篭もり、考えること数秒。 あたりざわりのない部分のみを言うことにし、目的地だけを告げた。 「あ、図書館島だね」 「うん」 うなずく。 麻帆良学園都市最大の図書館だはいえ、アスカは勉強をしに行くわけではない。 むしろ、多少だが命の危険性があるのだ。 さすがに、そんなコト言えないが。 「そんなん、他の日にすればええやんなぁ。わざわざテスト前にやらんでも……」 「断ることもできたんだけど、いろいろとお世話になってるから。そのお礼も兼ねて、ね」 なにせ男である自分をを女子校に通わせてもらってるんだから。 まさに学園長様々なのです。 本人がいいと言っているのなら、自分たちが口出ししても無意味。 そう判断してか、 「ようわからんけど気ぃつけてな」 「勉強、ちゃんとしないとダメだよ?」 「それはまき絵にも言えることでしょ」 「うぐぅ・・・」 図星を突かれてまき絵は口篭もる。 「あーテストやだー!!」などと叫んでみたり、「早く修学旅行にならないかなーっ!」と一ヵ月後に控える修学旅行へと思いを馳せるまき絵。 そんな話をして、その日は就寝と相成ったのだった。 第11話でした。 亜子とまき絵が料理できることを、実は7巻を読んでて知りました。 彼女達が料理している光景、その前にはありましたか? |
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