「というわけで……」

 放課後。
 人もまばらな教室で、4番綾瀬夕映は呟いた。

 教壇にいるネギと、彼の前に立つ夕映を含んだ少女が5人。

 彼女たちがなぜ放課後だというのに教室に残っているかとか、なぜ残るのがこの5人なのかといったことに対する理由として。
 それは夕映のこの一言で片付いたのだった。

「2−Aのバカレンジャーがそろったわけですが」
「誰がバカレンジャーよっ!」

 否定するように叫んだ神楽坂明日菜と、自分を含めた5人をバカ5人衆(レンジャー)と例えた夕映と。
 意味もなく腕をそれぞれ左右になびかせた長瀬楓と12番古菲に1人体操服姿の佐々木まき絵で計5人。

 彼女たちは、先日行った英語の小テストがあまりにも悪かった5人衆なのだった。

「えーと。じゃあこれから、10点満点の小テストをしますので」

 6点以上取れるまで帰っちゃダメですよ。

 1人嫌がる明日菜をタカミチの名前を出すことで無理やり納得させつつ5人をそれぞれ離れた席に座らせたネギは、そう言って問題用紙を配ったのだった。

「もしわからないところがあったら、ボクかアスカさんに聞いてくださいね」
「ど、どうも〜……」

 もじもじとした様子でアスカは片手を軽く挙げたのだった。




魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
先生代理と頼みごと




「しかし、アスカも意外とヒマ人なのね〜」
「うん。部活とかをやってるわけもないし、部屋に戻ったところでやることないし」

 夕映を待っていた14番早乙女ハルナに声をかけられたアスカは、苦笑いを浮かべていた。
 彼女と27番の宮崎のどかの2人は、夕映を含めて図書館探検部というつながりらしく、クラスの中でも飛びぬけて仲がいいことは転入して間もないアスカにも少なからずわかっていた。

「ヒマだからこそ、英語だけはできる僕がネギ先生に手伝いを頼まれたんだけど」
「アスカさんはぁ……そのぉ……ネギ先生と……同じところから来たんですよね……?」

 転入時にすでに同じ国から来て、さらに知り合いだと言ってしまっていたため、のどかの問いに否定することもなく。
 アスカは「英語ができるのも、そのおかげなんだけどね」と、うなずきながら苦笑いを浮かべた。

 「先生のことが気になる?」と尋ねてみれば、彼女は顔を赤らめてうつむいてしまったのだった。

「お〜い、アスカ殿。ちょっとよいでござるか〜?」
「あ、呼ばれたから。僕行くね」

 2人から離れ、楓の席へ向かったのだった。















「できましたです……」
「え、もうですか!?」

 一番乗りでネギに答案を渡した夕映はすました表情を変えずに口をつぐむ。
 受け取ったネギが答案に目を通すと、

「―― うん、4番綾瀬夕映さん……9点!合格です!!」

 その声にハルナとのどかはそろって声をあげた。
 帰り支度をして、扉を開ける。
 ハルナとのどかは振り向いてアスカに向けて手を振ると、アスカもニッコリ笑って小さく手を振ったのだった。

 アスカは楓にいくつか助言をした後、古菲とまき絵にも同じようにいくつか助言をしていた。




「できたアルよー」
「できました〜、ネギ君v」

 明日菜以外の3人も答案を持って教壇へ。
 そろって受け取って、紙面を見ると。


「………」


 赤ペンを持ち、採点すると。

 楓 − 3点。
 古菲 − 4点。
 まき絵 − 3点。

 残念。もう一度。

「あれ、アスナさんは?」
「う……」

 フクザツな表情の明日菜だが、何も言わずに答案を突き出す。


 ・


 ・・


 ・・・


 2点。





 明日菜の後ろでアスカも苦笑い。

「じゃ、じゃあポイントだけ教えますね!」

 黒板へ向き直り、答えとその解説を板書していく。
 説明もそこそこに、先ほどとは違う問題を配ったのだった。

 やはり、ここで唸り声を上げるのは明日菜で。

(うう〜っ、今までだったら高畑先生と……)

 これが明日菜の心の声である。





「先生、できたアルー」
「できたでござるよ」
「あ、はい!ええと、アスカさん。2人のこと、お願いします」
「はいは〜い」

 明日菜につきっきりのネギの代わりに2人から答案を受け取り、見ていく。
 つつつ、と指で紙面をなでつつ、赤ペンを右手に持った。

 まる、まる、まる、まる。

 白い紙の上を赤いペン先が走る。

 結果。

「うん、古菲さんと楓。オッケーです!」
「アスカ、他人行儀はやめるネ。古菲でいいアルよ」

 古菲の忠告にうなずきつつ、答案を持って立ち上がる。

「あ、そうアル。アスカ」
「え?」

 つつつ、とアスカに擦り寄る古菲に顔を引きつらせる。
 近寄った彼女はアスカの耳元へ口を向けると、

「カエデやマナと戦ったって聞いたアル。今度はワタシともぜひ手合わせして欲しいヨ」
「えっ?」

 放たれた場違いなセリフに思わずアスカは目を丸めた。
 まさか勉学の場で手合わせして欲しいという頼みを請け負うとは。
 それでもアスカはしばらくうなり恨めしそうに楓を視線を向けると、彼女はばつが悪そうに頭を掻いた。
 肩を落とし楓と同様に頭を掻くと、

「……うん、わかったよ」

 了解の意を示し、うなずいたのだった。






「はい先生♪」

 なぜか嬉しそうに、まき絵はネギに答案を渡していた。

「うーん……16番佐々木まき絵さん、6点!」

 ギリギリ合格です!

 そう言ったネギの頭にまき絵は手を置くと、

「バカでゴメンね〜、ネギ君v」

 またしてもなぜか嬉しそうにそう言って彼の頭を撫でていた。



 まき絵は部活があるからと急いで教室を出て行ったことにより、残りは明日菜1人。
 再び突き出された解答は……

 1点。

「だ、大丈夫ですよ。コツさえわかっちゃえば8点くらいすぐですから」

 ボクだって、日本語3週間でマスターしましたし……

 今の状況でその発言は、百歩譲ったところでもよろしいとはいえないよ、ネギ……
 内心でそんなことを呟きつつ、アスカはゆっくりと明日菜に歩みよったのだった。

「アスナ」
「……なによ、アスカも私に言いたいことがあるわけ?」

 自暴自棄になり、多少どころかかなり不機嫌な明日菜を見て、アスカは苦笑する。

「そんなに不貞腐れないで。ネギ先生も言ってるけど、コツさえわかれば英語はぱっとわかっちゃうんだから」

 僕だって、これでも英語でしゃべれるようになるまで3年以上かかったんだよ。

 そんな言葉に、明日菜は興味なさげに「へぇ」とただ声を発しただけだった。

「とりあえず、まずは1日1つでもいいから単語をキッチリ覚えていくこと。コレが大事だよ」

 ニッコリと笑みを浮かべると、アスカはそう言って明日菜の机から身体を離したのだった。



 しかし。



 やはり単語を覚えるなど今の状況じゃ無理な話。
 すでに日も沈みかけた夕暮れになっても、明日菜の点は上がる兆しすら見せなかった。


「……もう、いいわよ。私バカなんだし」
「あぁっ、アスナさん。あきらめないで!!」


 机に突っ伏して、あさっての方角を眺める明日菜の元へネギが駆け寄ろうとしたそのときだった。


「お〜い。調子はどうだい、ネギ君。……って、アスカ君もいたんだね」
「こんにちは、タカミチ先生」

 ニッコリ笑って挨拶を交わす。
 タカミチは教室内を見て、

「おっ、やっぱり例によってアスナ君か ―― あまりネギ先生を困らせちゃダメだぞ?」

 廊下側の窓から顔を見せて、半分呆れているかのように微笑んだ。
 ガタンッ、と明日菜は勢いよく立ち上がると、

「たっ、高畑先生……いえっ、あのっ……コレはぁ……」

 必死に弁解しようと両腕を振り回す。
 しかし、そんな明日菜の言葉もタカミチには届くことなく。
 頑張ってね、の言葉を残して廊下を歩いていってしまった。

「っ……」
「あ、アスナ……?」

 ガクリと肩を落とし、身体を振るわせる明日菜に駆けより、アスカは声をかけるが。



「うわあぁぁーーーんっ!!!」



 それより早く、彼女は英語の教科書やノートを持ったまま教室から走り去ってしまっていた。

「待って、アスナさん!」

 慌ててネギも外に出るが、すでに彼女は米粒のように小さくなっていて。

「うわっ、速っ!?」

 そのまま杖にまたがり、アスカには目もくれず飛び去ってしまった。
 ぽつん、とアスカは1人残され、



「僕、どうすればいいの?」



 と、そんなことを呟いていた。
















「あぁ、よかった。アスカ君」
「あれ、タカミチ?」

 たたずんでいたアスカに声をかけたのは、先ほど歩き去っていってしまっていたはずのタカミチで。
 まだいてくれてよかったよ、と安心したように表情を緩めた。

「アスナ君は大丈夫かい?」
「ネギが今追っかけていったから、たぶん大丈夫だと思うよ。それで……」

 僕に何か用事?

 そう彼に尋ねてみれば。

「うん、実は今さっき思い出してね。アスカ君」

 学園長がお呼びだよ、と。

 彼はそう言って、苦笑いを浮かべたのだった。






第10話バカレンジャー登場。
主人公も臨時教師として駆り出されました。
英語だけですが。

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