「……っ!!」

 大剣を振るい、湧き出る黒い影を斬り伏せていく。
 その数はすでに50を超えた。
 無限に出てくる敵をぐるりと流し見て、アスカは汗を拭っていた。

「まだかな……」

 つぶやく。
 紅い目を動かし、襲いかかる黒の集団を見定める。
 身を翻し、振り下ろされる爪を舞うように背後へ避わすと、足を踏み出して剣を振るう。

 数体の異形たちは、動きを止めて地面に伏していった。
 それと同時に、ボフン、と音を立てて消えていく。

 それを横目で見つつ周囲の警戒を常に、深く息を吐きだす。

 敵は、未だその数を減らすことはなかった。




魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
なんとかなった




 ネギは杖にまたがり、空中を疾走していた。
 なにかがある、という考えに至り、その『なにか』を探しているのだ。
 眼下では、白い剣を振りかざし戦場を舞うアスカの姿が見える。

「早く見つけないとっ!」

 交戦している場所を中心に、目を凝らしたのだった。

 そのとき。

「……っ!」

 気付くのが遅かった。
 異形の中には空を飛べる存在もいたらしく、全速力でつっこんできていたのだ。

「わわわっ!?」


 ドンッ!!


「わわぁ〜〜っ!!」

 杖を手放し、ネギは宙へと投げ出される。
 しかし、彼は痛みに表情を歪めつつも目を閉じて意識を集中。

杖よメア・ウィルガっ!」

 叫ぶ。
 杖はかざしたネギの手に納まり、パシン、と乾いた音を立てた。
 すでに、地面は目の前。

「っ……ラス・テル・マ・スキル・マギステル ―――」

 迫る地面を前に、紡がれるのは呪文の詠唱。
 それは先ほども使用した竜巻の魔法。
 竜巻を起こすことで、つきすぎた落下速度を緩和しようとしているのである。

「――― 吹け、一陣の風フレット・ウネ・ウェンテ

 どこからともなく、渦巻くように風が生まれる。

「『風花・風塵乱舞フランス・サルタティオ・プルウェレア』!!」

 下から吹き付けられる強い風によって彼の思惑通り、自身の身体が速度を緩め、停止した。

「あ、あぶなかっ」

 しかし。

「たぁぁぁ〜〜〜っ……!!」

 発動した魔法が強すぎたため、彼の身体は逆に空へと吹き飛ばされてしまっていた。
 くるくると回転しながら木のてっぺんまで上昇し、一瞬停止。
 向きを変えると、落下を始めた。



「あぶぶぶっ!?」



 重力に逆らえず落ちていくネギの身体に、公園の木の枝によってその進行を阻まれ、枝が折れていくのと比例して落下速度は緩まる。
 地面に到達した頃には、子供が木登りをしたときの高さから落ちたくらいの衝撃になっていた。
 それでも、10歳の子供には十分危険なのだが。

 どさりという音と共に、ネギは地面と仲良しになったのだった。


「けほっ、けほっ、いたたた……」

 頭をさすりながらゆっくりと立ちあがると、身体に異常がないかを調べ、ないことがわかると大きく息を吐く。

「アスカも頑張ってるんだ。僕も早く原因を探すぞ……って、あれ?」

 ネギが止めた視線の先。
 ケガの功名とでも言うべきか、見るからに怪しい絵の描かれた岩を発見したのだった。
















「つっかれたぁ〜〜」

 大剣の切っ先を地面に刺し、アスカはつぶやいた。
 彼を囲んでいた異形たちは全員、なんとか倒すことができていた。
 倒された端からボフンボフンと煙を上げて消えるのには正直困ったが。
 それに、まだ出てくるはずなのだから、油断はできない。

 それにもかかわらず地面にべったりと足をつけて、流れる大量の汗をぽたぽたと地面へ滑り落とす。
 それだけに大剣の秘めた力は、アスカの気力を消費していた。
 威力は申し分ないのだが、効果範囲が狭く燃費が悪いのが彼の武器の弱点でもあるのだ。

「帰ったら即お風呂かなぁ……」

 その前にこの服装に対して亜子とまき絵が問い詰めてくるのをなんとかしなければならないのだが、今の彼の思考にはまったく残っていない。
 出かけた時の服装は学園の制服だったのだが、今になって他の服にすればよかったと激しく後悔。
 裾などがほつれていたり、ということはなかったのだが、舞い上がる土や砂埃で見るも無残な状態になっていたのであった。

 制服は1着のみ。

「帰ったらすぐに洗わないと……」

 これから起きるだろう騒動を予見し、大きくため息をついたのだった。
















「これかな?」

 ネギはさくさくと地面を歩き、目的の岩へと近づくと手を触れることなくしゃがみこむ。
 口元に手を当てると、描かれている絵にも見えるソレを眺めた。
 そのまま数秒。
 ひそめていた眉を戻すと、うなずく。

「うん、間違いないかな。かすかに魔法の力を感じるし」

 立ち上がり、くるりと踵を返すと、数メートルほど距離を空けた。
 右足を前に、杖を左手に。
 右手を胸元へ、杖を脇へ移動させると、目を閉じた。

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル ―――」

 魔法発動の始動キーを紡ぎ始める。

光の精霊11柱!集い来たりて敵を射てウンデキム・スピリトゥス・ルーキス・コエウンテース・サギテント・イニミクム!!」

 敵もおらず、詠唱は問題なく終了した。
 目を見開くと、右手を眼前へかざす。

魔法の矢サギタ・マギカっ!!」

 魔力により作られた光る11個の弾丸は、目標である岩に向けて一直線に飛んでいく。
 着弾と同時。
 割れるような音と共に岩はこなごな。
 無数に散った破片は宙を舞ったのだった。





















「アスカーーーっ!!」

 駆けてくるネギを見やり、まず彼の頭上に目がついた。
 いい感じに膨れている。

 そんなことお構いなしに、ネギはアスカの前でブレーキをかけると、

「原因、見つけて壊したから。もう大丈夫だよ」

 満面の笑みを浮かべ、ブイサイン。
 ……やはり、頭上の膨れが気になった。
 す、と手を伸ばし、

「うぇっ!?」

 触れた。
 その瞬間、ネギは慌てて後ずさると頭に触れた。

「いたいから、いたいからっ」

 わたわたと両手を振り、弁解をするようにネギは言う。
 なにも悪いことなどしてないというのに、である。

 彼曰く、ことの原因は岩にあった絵のようなものだったようで。
 その絵については、彼が調べて知らせてくれるのだとか。

 ちなみに、頭上のコブは岩を破壊したときに破片がぶつかってできたのだそうだ。
 大丈夫かと心配するアスカにネギは

「治癒呪文で治しておくから」

 と笑顔で答えていた。










 帰ったその夜。




「あーっ、アスカなんでそんなんなっとるん!?」
「うわあ、ぼろぼろぉ」
「え、いやっ、これはその……」

 亜子とまき絵に詰め寄られ、やはりあたふたと冷や汗を流していた。



 一方、ネギはと言えば。

「ただいま戻りましたぁ〜……」
「あ、おかえり。遅かったのね……ってなによその格好ーっ!!」
「なんやボロボロやな。アスカと何してきたん?」
「いや、その……いろいろとありまして」
「ちょっと、アンタ何その頭。コブできてるじゃない!」
「ネギ君はやんちゃやな〜」

 こちらでも同じように詰め寄られていたのだった。






「「誰か、助けて〜!!」」






 二人の叫びが寮内に響き渡ったのだった。








第09話でした。
ネギ中心でお送りしました、初戦闘解決編です。
魔法の部分、詠唱の部分がうまくできているか不安です。

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