「あれ、アスカ。荷物それだけなの?」 ここは麻帆良学園学生寮の一部屋。 亜子の半ば強引な説得により、アスカは2人の部屋で生活をすることになっていた。 現在は荷物の移転作業。 着の身着のままウェールズを出ていたアスカに荷物などあるわけもなく。 ほぼ手ぶらに近い形で2人の部屋を訪れていたのだった。 「強引に来させられたから。荷物まとめる時間、なかったんだよね」 苦笑いを浮かべながら、少ない荷物を床へ。 音もなく置かれたそれは、1日2日生活するための服や道具だけなのだった。 魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫− お買い物 「買い物いこうよ!」 「さすがに、この荷物の少なさはおかしいで」 買いもんや! まき絵に同調するように、亜子は片手を振り上げる。 ちょうどいいのか悪いのか、明日の授業は休みだった。 麻帆良に来てから、まだ2日。 その割にずいぶんと1日が濃いような気がしていたが、目の前の2人はそんなこと気にするはずもなく。 「明日は休みだから、みんなにも声かけてみるとええんとちゃう?」 「そうだね。みんなでお出かけにしよー!」 満面の笑みを顔に貼り付けていたのだった。 アスカも楽しみでしょ?などと2人して尋ねるものだから、うなずかないわけにもいかず、 「え、あ……うん」 うなずいてしまった。 「メインは、アスカの服と日用品やで〜v」 お金ある? 仕事の関係上、資金に問題はない。 買う物もなく貯金ばかりしていたためか、有り余っているのだ。 ちなみに仕事とは、ウェールズでネカネとともに請け負っていた退魔の仕事である。 彼女は元々インドアであるため、たいていはアスカ1人でこなしていたのだが。 お金はあるとそう言ってしまったが最後、いつのまにか原宿まで行くことになってしまっていたのだった。 ざわざわ ざわざわ 「うわぁーっ!!」 麻帆良学園の制服を着たアスカは目の前の人の群れに目を輝かせていた。 ウェールズには人ごみができるほど人口がいたわけでもなく、のどかな毎日を送ってきたせいか。 すぐ前が見えないくらいの大人数に囲まれたことなどなかったのだ。 現在、アスカを筆頭として明日菜、木乃香、ネギ。さらに、まほらチアリーディングの3人に大河内アキラを除いた運動部4人組という大所帯になっていた。 ちなみに、アキラも誘ったのだが水泳部の練習で来れないと亜子が連絡をもらっている。 「ちょっと、アスカ。はぐれちゃうから一緒にいて!」 「でも、僕も気持ちわかります。ウェールズは人少なかったですから」 ひょいひょいと進んでいくアスカの首根っこを掴んだ明日菜の横で、ネギは彼女をなだめるように言った。 今のアスカほどはしゃいでいるわけではないが、ネギも初めての原宿に驚いていたところだった。 もしアスカが先に声を上げてなければ、代わりに彼がはしゃぎ回っていたかもしれない。 「よ〜し。それじゃあまずは、アスカの服探し行くよ〜!!」 桜子に続き、一行は服屋めぐりを敢行したのだった。 めぐること、十数件。 一応、主役であるアスカはすでに着せ替え人形と化していた。 もちろん、男であることがばれるわけにはいかないので、試着室を完全に締め切って中を覗かれないように細心の注意を払ったのだが。 渡されるのはもちろん女性服ばかり。 しかも私服とはかけ離れた、妙なものばかりを渡してくるものだから、たまったものではない。 コレで何着目の試着だろうかと考えながら、息を吐きつつ腕を袖に通す。 すでに女性服に対する抵抗すらなくなっていた。 慣れとは時に恐ろしいものである。 「次はね〜……あ、これこれ!」 「ねぇ、みんなもしかしてさ。僕で遊んでない?」 「もぉ、何言ってんの。そんな訳ないじゃない」 服はね、着てみるのが一番なのよ! 美砂は両手に拳を握って力説。 「アスカは元がいいから、何着ても似合うわね〜」 「ホントホント。世の中不公平だよねぇ。だいたいさぁ……うんぬん」 「………」 円に至っては、アスカの服装を見て目を輝かせ、裕奈は世の中にあふれた不満を意味もなく言い並べていた。 元がいい、と言われても、男のアスカにはそれは嬉しいどころかむしろショッキングな発言で。 試着質内でガックリと肩を落としていたが、誰も気付くはずもない。 「でも、なんで急に服買いに来たん?」 「アスカがね、持ってきた荷物の中に服が少ししかなかったから、歓迎ついでに買いにきたんだよ」 「え、少しって……どういうことなんですか!?」 ネギは慌ててアスカに尋ねる。 彼は、しっかり準備をして来たものだと思い込んでいたのであるから当然抱く疑問であった。 原因である女性の性格を考えれば、その問いに答えを導き出すのは容易なことなのだが。 ネギの耳元に顔を近づけると、 「承諾と同時に飛行機に乗せられたから」 小さな声でそう答えていた。 とりあえずはお金が多少なりあっただけよしとするべきなのだ。 幸いにも使わずに銀行に預けてある分がとにかくたくさんある。 使わずに取っておいて良かったと、心底そう感じていた。 「ご、ごめんね……」 ネギはアスカの声よりもさらに小さなこえで、そう呟いたのだった。 結局、買ったのは黒いアームウォーマー付き袖なしの薄手のセーターや青い長袖のシャツとジーンズを2本。 この服は男としてはどうかと思うが、今の自分は女子学生なのだから仕方がない。 「絶対似合うから」とスカートや露出の高い服も渡されたのだが、やんわりと断っていた。 理由はもちろん、男だとバレないための保険である。 「このあとどーするの?」 「カラオケ、行こーっ!!」 「え、あたし無理だよ。お金ないもん」 「ごめん、私もパス」 桜子の提案は、お金がないという理由の元であっさりと却下されていた。 「僕、おなかすいちゃったんだけど……」 『それじゃ、行こっか』 「ちょっ、なにそれーっ」 「まぁまぁ、桜子さん」 扱いの差にぶーたれる桜子を尻目に、裕奈はアスカの背中を押していく。 愚痴るように声をあげる彼女をネギは「今日の主役はアスカさんですから」となだめていた。 レストランへと足を踏み入れると、さすが原宿。 昼時でもあるせいか、人でごった返していた。 こちらの人数はアスカを含めて10人という大所帯。 一斉に食べ始めることができないのは確実だった。 「これじゃあ、ゆっくり食べられないわね」 「時間も時間やし、仕方ないんとちゃう?」 ため息を吐く明日菜の隣で、木乃香が笑みを崩さず言う。 なんでそんなに笑ってられるのよ、と明日菜は木乃香に向けてさらに問い掛けていた。 「だって楽しいんやも〜んv」 彼女に返ってきたのは、そんな答えだった。 「まぁ、時間がないワケやないんやし、ゆっくり待ってればええやろ」 そんな亜子の提案から1時間。 やっと全員で食事を始めることができていた。 あまりに騒がしかったことから、他の客の注目の的になっていたのだが、そんなことは誰1人として気にする人はいなかった。 「会計は、僕にまかせて」 今日のお礼に、おごるから。 食後に、アスカはそう述べていた。 この言葉に驚くのはネギ以外の人間で。 「あ、アンタ……そんなにお金、あるの?」 「うん。今まで使い道がなくて、ずっと貯めこんであったんだv」 これは事実。 そのお金をどこで得たのかを、誰も尋ねることはなく。 全員、開いた口がふさがらず声が発されることもなかったのだった。 「っ!?」 アスカは目を細めた。 「どうしたの、怖い顔して?」 食後のティータイムへしゃれこんでいる中で、尋ねたのは隣に座っていたまき絵だった。 顔を覗き込む彼女に、アスカは表情を笑顔に変えて「なんでもないよ」と答えていた。 そのままネギへ目を向ければ、彼は自分を見ていて。 真剣な眼差しがアスカを射抜いていた。 なぜ目を細めたのか。 ネギもアスカも、微弱な魔力を感じ取っていたからである。 アスカはまだ麻帆良に来て3日なのだが、それまでに感じたものとは違う魔力。 この街で何かをしようとしているのではないか。 2人ともそんなことを考えていた。 場所は、ここ原宿からそれほど離れていない。 「ネギ先生」 「………」 互いにうなずき、席を立った。 「ネギ君、アスカ?」 「すいません、みなさん」 「亜子。悪いんだけど、会計お願いできるかな。サイフは渡すから。みんなは、先に帰っててくれると嬉しいな」 「え……うん、了解や」 見上げた彼女たちに微笑むと、 「今日はありがとう。これから、よろしくね」 そう言って、店を出たのだった。 2人の行動に、唖然としているのは残ったメンバーで。 亜子はアスカのサイフを手にパクパクと口を開け閉めしていた。 「ちょっとちょっと、なにあの雰囲気!?(美砂)」 「アスカって、もしかしてネギ君と……(桜子)」 「でも、そんなんとはちょっと違う感じやったえ(木乃香)」 「でもでも、ただならぬ雰囲気だったよね(裕奈)」 「えーっ、そんなぁ……(まき絵)」 「そういえばあの子とネギ君、前からの知り合いだって言ってたっけ(円)」 「うわあ、禁断の関係やね(亜子)」 数分で我に返り、机から身を乗り出して語らい始めた。 そんな中、ネギが魔法使いであることを唯一知っていた明日菜だけはその会話に加わらず、複雑な表情で店の出口を見つめていたのだった。 「とりあえず、会計済ませて帰ろうよ。アスカも言ってたし」 「亜子、そういえばアスカからサイフ預かってたよね?」 「うん、預かっとるよ」 明日菜と裕奈の問いに亜子はそう返してシンプルなサイフを開くと、 『な、ナニコレーっ!!』 サイフの中には福沢諭吉をがぎゅうぎゅう詰めに入っていたのだった。 第07話でした。 お買い物イベントでした。主人公、やはり押しに弱いです。 そして、金持ちです。 主人公の買った服についてはノーコメントでお願いします。 |
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