転入2日目。 早起きをしたアスカはすでに寮を出て、徒歩にて学園へと向かっていた。 現在は朝7時半。 昨日も同じ時間だったのだが、余裕の登校である。 「ふぁ……」 昨夜は日付が変わるまで起きていたためか、迫り来る眠気にあくびを1つ。 ……しようとした。 「ンだぁ、文句あんのかぁっ!?」 「……っ!?」 どすの入った低い声が響き、思わず耳をふさぐ。 声の源は前方100メートルほど先からのもので、迫って来ていたはずの眠気がきれいさっぱり吹っ飛んでしまっていた。 よく100メートルも先から、よくもまあここまで声が届くものだと感心しつつ、前方を見て目を細める。 その先では、黒い制服、いわゆる学ランを来た男子生徒が数人集まって、さらに中等部の制服を着た数人の女子生徒へにらみをきかせていたところだった。 しかも、絡まれている女子生徒たちには見覚えがあったのだ。 その中でも、2人はすでに顔見知りだったりしている。 あれが、いわゆる『不良』っていう人たちなのかな? 視線の先で繰り広げられている光景を眺め、そんなことを考えていた。 その思考は不良の中から、女子生徒の1人の腕を掴み上げられたことで停止。 さすがにそのまま素通り、というのは彼の性格からしてよろしくないし、モラルとしてもどうかと思う。 しかも、すでに暴力に発展しているからどうなるかわかったものじゃない。 助けないと、と意気込み、カバンの帯を肩にかけると駆け出したのだった。 魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫− 絡み絡まれて 「なんとか言ってみろよ」 「…………」 私こと大河内アキラは困っていた。 部活の朝練習のために寮を出てきたら、こんなことになっていたのだ。 生まれてこの方、絡まれたことなどなかったため、どうしていいのかわからなかったのである。 ただ1つわかることは、自分が目の前の男の人に少なからず恐怖している、ということだけだった。 「アキラぁ〜っ!」 背後では一緒に登校していた友人である明石裕奈、和泉亜子、佐々木まき絵の3人が涙目で私を見ていた。 助けてくれればいいものを、とは思ったものの、腕っぷしで女子が男子に勝てるわけがないのは事実であるから、そう口にするのは無駄というもの。 でも、この場を何とか切り抜けなければ、学園にすらたどり着けない。 どうしたものかと、思案していたところだった、そのとき。 「僕のクラスメイトから手を離してくれませんか?」 「あァ?」 アキラの手を掴んでいる人とは違う人が、声の主を見やる。 というか、私たちも含めて全員の目がその方向へと向いていた。 そこにいたのは、昨日転入してきたばかりのクラスメイト。 茶色の髪を風になびかせつつカバンを抱えて、不良たちを見据えている。 その姿は昨日、自己紹介だけで顔を真っ赤にしていた人間と同一人物だとはとてもじゃないが思えなかった。 「「アスカっ!?」」 亜子とまき絵が声を重ねてその名を呼ぶ。 「無抵抗の女の子に危害を加えて、なにが面白いんですか?」 『……ンだとォっ!?』 彼女の声に、不良たちは声をそろえてにらみつけた。 しかし、いくつもの視線が突き刺さりながらも、本人は昨日のおどおどとした雰囲気を微塵にも感じさせず、顔色すらまったく変えていない。 「このアマぁっ!」 「あぶないっ!」 一緒にいた裕奈が叫ぶ。 始めに彼女を見やった不良が声をあげながら猛然とつっこみ、拳を振るう。 ……否、振るおうとした。 「あ、先生っ!」 『……っ!?』 一斉に、その場の全員が顔がアスカさんと同様の方向を向く。 しかし、その先には先生はおろか人の姿すらまったくなくて。 「ぐあっ!?」 「え……!?」 次の瞬間には、私は彼女の腕の中に収まっていたのだった。 「大丈夫?」 「え……あ、うん。ありがと……」 アスカはアキラを下ろすと、掴まれていた腕に目を動かす。 「あ〜、赤くなっちゃってるね」 後で保健室に行ったほうがいいね。 アスカはニッコリと笑うと、腕から手を離した。 アスカは先生が見えたフリをして、その方角へ視線が集中したところでアキラの元まで駆け抜け、掴んでいた腕に手刀を落とすことで一気にアキラを横抱きにしたのである。 腕を抑えてうずくまっていた不良は額に青筋を浮かべると、 「お前ら、あの女をヤッちまえ!!」 どうやら彼は不良のリーダーだったらしい。 一斉に、不良たちがターゲットを変えてアスカに襲い掛かった。 迎撃をしようと、目を細めたそのとき。 「アンタたち私の友達になにやってんのよーっ!!」 どごぉっ! 『げぷるとぶらぁっ!!』 全速力で走ってきたツインテールの少女の飛び蹴りが炸裂。 身体をくの字に折り曲げて、不良たちは吹っ飛んでいったのだった。 そして、その後ろからは黒髪の少女。 「アスナ、このか!」 その名前を呼んだのはまき絵だった。 心強い味方の登場に目をぐるぐるさせつつも、涙をちょちょぎらせていたのだった。 「アンタたち、平気?」 「うん、アスカがあの人たちをひきつけてくれてたから……」 亜子の声に、明日菜はアスカへと視線を向けると、互いにビシと握られた拳から親指を立て、うなずいた。 「アスナ、アスカ〜。ほらほら、みんなも急がんと遅刻してまうえ?」 木乃香は自分の腕時計を見せて指差す。 アスカも同様に自分のそれに目をやれば、すでに始業の10分前。 いつの間にそんなに時間、経っちゃったの!? 夢中になっていると時間の経過など早いものである。 このとき、アスカは時間の大切さというものを再認識させられていた。 木乃香がみなの背中を押し、その場を移動させる。 「おい、待て……」 「あなた方も、遅刻してしまいますよ?」 アスカはすごむリーダーに腕時計を見せる。 すると瞬く間に顔色を変え、全員に声をかけて一目散にその場から消えた。 あまりの行動の早さに、アスカは思わずほうけてしまったのだが。 「アスカ〜。早くせんと、ほんまに遅刻やで〜」 木乃香の声で、我を取り戻したのだった。 「ホンマに朝は助かったわ〜。ありがとうな、アスカ」 「ホントだよ〜、おかげでアキラも大事にならずに済んだしね」 アスナもこのかもありがとう、と亜子は裕奈と教室に入るや否や声をかけていた。 あの後、校舎へ続く大きな道を駆け抜け、ギリギリで教室へ滑り込んでいた。 2人が来なければ、遅刻は確定していたかもしれない。 転入2日目から遅刻は、さすがにマズイだろうと思っていたこともあり、明日菜と木乃香には大感謝である。 ちなみに4人は結局、それぞれの部活の朝練には参加せず、直接教室にきていた。 「別にいいよ。当然のことをしただけだし」 むしろ、僕なんか何もしてないし。 頬を赤らめて、アスカは頭を掻いた。 「そないに謙遜せんでもええよ。アキラを助けたんはアスカに変わりないんやし」 亜子は嬉しそうに笑みをこぼす。 アスカはとにかく顔を真っ赤にして、うつむいたのだった。 「は〜い、みなさーん。HR始めますよー」 ネギが入ってきたところで、会話が打ち切られる。 また後でな、と言葉を交わしたところで、自分の席へと戻っていったのだった。 ちなみに、腕を掴まれていたアキラは念のためにと保健室に行っており、戻ってきたのは1限目が始まって数分後のことだった。 「お願いしますっ!」 あっという間に昼休み。 アスカは昨日の話のとおり、亜子とまき絵と共に学園長室を訪れていた。 「そう言われてものぅ……」 「ええやないですか、同じ部屋になってマズイことでもあるんですか?」 亜子にすごまれ、学園長は困ったようにあごひげを撫でる。 「アスカくんはどうしたいのかね?」 「え、えぇと……そのぉ」 つんつんと、両手の人差し指を突付きながら、誰とも目を合わせないように視線をそらす。 もともと、ネギになにかあったときのために駆けつけやすい場所として、あの部屋を借りたのだ。 それに、女の子の中に男というのも、人道的にマズイだろう。 ……男のハズが男に見えないのでなんともいえないが。 「僕は、その……断った「あかん、アスカはウチとまき絵の部屋に住むんよ!!」んですけど、この有様で」 亜子の中では、すでにアスカが一緒に住むことは確定事項らしい。 1人蚊帳の外だったまき絵は、友人にして同居人である亜子の勢いに目を丸めていた。 ふむ、と学園長は3人を見やる。 「君は、それでいいのかね?」 「え、私?」 突然話を振られたまき絵はどぎまぎとした行動を見せるが、すぐに彼に向き直ると、 「はい、それでいいですよ」 「え゛……」 「だってさ。あんな亜子見ちゃったら、もうどうしようもないよ。それに……」 勢いよくまき絵に顔を向けるアスカに、彼女は亜子に聞こえないような小さな声で、そう口にしていた。 「私、アスカともっと仲良くなりたいしv」 「……」 人当たりのよさそうな無邪気な笑みを浮かべて、まき絵は言った。 アスカは、その場でピシィッ、と固まる。 あぁ、仕事が…… 僕の仕事が…… もしかしたら……滅殺? 僕、もしかしてネカネに殺される? 「しかたないのぉ……」 「あぁっ」 最後の砦、学園長も結局承諾をしてしまっていた。 ……覚悟、決めるしかないみたい。 アスカは、物事を前向きに考えることにした。 大丈夫。がんばれば何とかなる、と。 そんなこんなで結局、両者の同意の元でアスカは晴れて亜子とまき絵の部屋で暮らすことと相成ったのだった。 第06話でした。 主人公、2人と同居決定です。 なぜこの2人かといえば、管理人の独断と偏見によるものです。 全国の亜子&まき絵ファンの皆様、申し訳ありませんっ! |
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