「その、どこで作ったの。この傷?」

 まき絵の提案によりアスカは亜子を横抱き、いわゆる『お姫様だっこ』をしたまま2人の部屋へと足を踏み入れていた。
 中はさっぱりとしており、小奇麗に片付けられている。
 そして、現在はまき絵に手をとられて二の腕の治療を終え、足の治療に入っていた。
 包帯の扱いになれていないのか何度も何度も巻きなおしていたが、一生懸命になっている彼女を見て笑みをこぼしていた。
 冒頭の問いによりその表情は一瞬にして焦りに変わったのだが。

「え、そのぉ……えと、そう!」

 人差し指を立てて、引きつった笑みを浮かべながら、

「道に迷っちゃって。気付いたらいつのまにか森の中で……」

 と。そんな答えを返していた。




「あ、あれ……ウチ……」
「あ、起きた起きた」
「急に倒れたからビックリしたよ、和泉さん」

 ベッドに横たわっていた亜子が頭を抑えつつ起き上がる。
 彼女は保健委員のはずなのに血が苦手なのだと、アスカはまき絵に聞かされていた。
 彼女が倒れた原因が自分にあるのだ。
 なぜ寮に来るまで放っておいてしまったのだろう、とアスカは後悔していたのはつい数分前のことである。

「なっ、なんでアスカさんがここにおるん!?」
「なんでって、倒れた亜子を連れてきてくれたんだよ」

 こうやってお姫様だっこで。

 まき絵が横抱きのジェスチャーをすると、亜子は顔を赤く染めてしまっていた。




魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫−
一緒でええやん!




「その、ゴメンな。いきなり倒れたりして……」
「そんな、元々は僕が悪かったんだし……」

 互いに頭を下げ合う亜子とアスカ。
 まき絵は1人、2人の間で指をくわえていた。

「初めて会ったときはすっごいカワイイ子だなぁ〜、って思ってたけど、結構アスナに似てるトコあるよね」
「え、なんで?」

 聞き返したのは関西弁特有の右上がりな口調で話す亜子。
 だってぇ、と話を振ったまき絵はちらりと亜子を見て、口元に手を当てるとホホホと笑う。

「倒れた亜子に颯爽と近づいたと思ったら軽々抱き上げちゃうしぃ〜。抱き上げたと思ったら、涼しい顔してたったか歩いて行っちゃうしぃ……」
「えぇっ!?」
「さ、佐々木さん……」

 何気に力持ちだよね〜、と。

 記憶にない出来事とはいえ、抱き上げられた本人である亜子はそれこそ顔を真っ赤に染め上げる。
 彼女までとはいかないものの、頬を軽く赤くしたアスカは額に手を当てると呆れたように首を左右に振った。

「あのね、和泉さん……」

 説明を入れて誤解を解こうと言葉を発したそのときのこと。



 ぐぅぅぅ。

 ……………。




「「……ぷっ」」

 同時に噴き出すのは2人。
 そして、その中心で顔を真っ赤にしてうつむくのは1人。

「お、おなかすいた……」
「「あはははははははっ!!」」

 隣の部屋まで聞こえんばかりの笑い声を上げたのだった。


















「……おいしいっ!」

 目の前に置かれた料理を口に、亜子とまき絵は頬に片手を添えて舌鼓を打っていた。
 料理を作ったのは、もちろんアスカである。

「アスカさんって、料理上手なんだね〜っ!!」

 口いっぱいにご飯を詰め込んで、まき絵は言った。
 なぜアスカが料理を作ったのかと言えば、それは簡単なことである。

 すでに夜も遅く、食堂が開いているはずはない。
 ならば自分で作るしかない、ということですばらしく遅い夕食と相成ったのだが。
 アスカの捜索で疲労しまくりだらけている2人を見て、戦闘明けで2人よりも疲れているはずのアスカにその役が回ってきたのだ。

「ウェールズでは、料理は僕の役目だったから」
「いつからなん?」

 亜子の問いに5年以上だと答えれば、2人は声をそろえてスゴイスゴイと連呼していた。
 アスカも箸を持って、とにかく空腹を訴えていた胃へとご飯を運ぶ。
 満足のいく味わいに、にっこりと微笑んだのだった。

「むぐむぐ……ところで、2人とも僕に何か用事があったんじゃないんですか?」
「あ、うん。アスカさんも寮なんやろ?どの部屋かな、と思ってな。そしたら、どこ探してもおらんやんか」

 晩ゴハンも食べずに探してもうたわ。
 亜子はそう答えると、味噌汁をすする。
 そして咀嚼すると、目を細めて息を吐いた。

「一応……641号室って言われて、カギも預かってるけど」
「確か、その部屋って……広めの部屋なのに誰もいなかったよね」

 まき絵の声に、アスカはうなずく。
 焼き魚をつつき、口へと放り込む。薄い塩味が口内を侵食していき、アスカは同時にご飯を口へと運んだ。

「じゃあ、一人暮らしってコト!?」
「うん」
「……ダメ!」

 だんっ、と箸と椀ごと机を叩いた亜子は、紅い目を丸めたアスカを凝視していた。
 彼女の行動にあっけにとられていたまき絵も、箸の先を口に含んだまま硬直。
 茶色の目は少々潤んでおり眉尻がつりあがっていることから、強気に出てきていることが如実に理解できていた。

「そんなんダメや。1人じゃ寂しいやんか!」

 ずい、と机からアスカへ向けて身を乗り出す。

「そや。ウチらと一緒の部屋で住めばええやん!!」
「えぇっ!?」
「………」

 ものすごい勢いだ。
 一緒に住めばいい、と気付けば、彼女の表情は嬉々としたものに変化していた。

「うん、決めたで!」

 同室であるまき絵は亜子の勢いに圧倒されてか、動かない。
 亜子は茶色の目を輝かせて、立ち上がる。両手に拳を握り、ガッツポーズ。
 座ったままのアスカに顔を向け、身体をかがめる。

「明日、学園長のトコ行こ!……な、まき絵もそれでええやろ?」
「え、あ……うん……」

 強引というかなんというか。
 まき絵もあっけにとられてうなずく以外に彼女の行動はなかった。
 「ウチはやるで〜!!」と声をあげて意気込む亜子をアスカには止めることはできなかったのだった。





「佐々木さぁん……」
「アスカさん……ご愁傷様」


 アスカはがっくりとその場で肩を落としたのだった。















「ほな、今日は仕方ないか。また明日なっ!!」

 今日は帰るよと言えば、亜子は泊まっていけと言う。
 そんな彼女をまき絵を2人で説得し、なんとか納得してもらうことができたのはそれから1時間後のことだった。

「……ごめんね」
「え?」

 亜子が部屋へと戻っていったのを確認して、まき絵はおずおずとアスカに声をかけていた。
 理由は簡単。
 先ほどまでの亜子のことであった。

「なんだかもー、ワケわかんないよ。あんな亜子、初めて見たからあっけにとられちゃって……」

 軽く頬を赤く染めて、苦笑いを浮かべつつまき絵は頭を掻いていた。

「大丈夫だよ。転入初日でこんなに受け入れてもらえて……うれしいんだ。僕」
「それなら、いいんだけど……」

 ニッコリ笑うと、まき絵に背を向ける。

「そうだ。僕のことは、呼び捨てで呼んで欲しいな。亜子さんにもそう言っておいてくれると嬉しい」

 元々、くん付けやさん付けで呼ばれることが苦手であったため、去り際にそう口にしていた。
 転入初日であるから、さん付けで呼ばれることは仕方のないことなのだが。
 アスカはそれをよしとしていなかったのである。

「うん。それじゃ、私のことも呼び捨てで呼んで欲しいな」

 亜子にも言っておくね、とまき絵は一言。
 ありがとう、と口にしたアスカは、振り返って小さく手を振った。

「それじゃ、また明日ね」
「うんっ!!」







 アスカは手にカギを持ったまま直接部屋へと戻ったのだった。
 この時の時刻、午前0時。


 風呂入ってすぐに寝よう、と心に決めたアスカだった。






第05話でした。
やっと、1日目が終了しました。
そして、亜子の性格ちょっとおかしいです。
全国の亜子ファンの皆様、申し訳ありません。
そして、まき絵が大人に見える……

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