「っ!?」 「どうかなさいましたか、マスター?」 ここは中等部の校舎屋上。 放課後の睡眠タイムと興じていた金髪碧眼の少女は、目を見開くと勢いよく立ち上がった。 エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル。 『闇の福音』・『不死の魔法使い』・『ドールマスター』・『麻帆良学園女子中等部2年A組26番』といった異名を持つ、真祖の吸血鬼である。 中でも麻帆良学園女子中等部2年A組26番という異名だけは、異名じゃない上に最初の3つに比べると激しくトーンが落ちるのだが。 「なんだ、この力は……?」 彼女が飛び起きた理由は、夢などの類ではない。 急激に増大しつづけるなんらかの力を感知したからであった。 魔力のようで魔力ではない、そんな力だ。 彼女は登校地獄の呪いがかかっているせいもあるのだが、不本意ながらこの学園の警備員を任されている。 学園都市全体に侵入者用の結界を張り巡らせているから、これほどまでの力を保有する者の進入に気付かないワケがないのだが。 「向こうだな……茶々丸、行くぞっ!!」 「了解しました、マスター」 エヴァンジェリンをマスターと呼ぶ少女は、麻帆良学園女子中等部2年A組10番・絡繰茶々丸。 大学部はロボット工学研究会で開発されたゼンマイ式のロボットで、エヴァンジェリンの従者である。 2人は屋上から校舎内へ繋がる出口を走り抜け、次の瞬間には校舎を飛び出していたのだった。 魔法先生ネギま! −白きつるぎもつ舞姫− 友達! 「魔法使いの従者<ミニステル・マギ>、神楽坂アスカ……参ります」 「……仕方ないな」 片手でくるくると自在に大剣の振り回し、アスカはその刃を3人へ向けた。 ふう、と息を吐いた真名は、諦めたかのように両手で持つ銃の安全装置を解除する。 楓も自らを数人に分身。それぞれに違った武器を手に持っている。 そして、冷や汗を頬に伝わせながら、刹那は夕凪を抜いた。 沈黙。 刹那は地面を蹴ると最大まで一気に加速し、アスカまでの間合いを詰めると夕凪を閃かせる。 「神鳴流……斬岩剣っ!!」 振り下ろされた夕凪はアスカを捉えるが、彼はそれを大剣を突き出すことで止める。 しかし、夕凪のは勢いは止まらず大剣を弾き返した。 (いける……っ!) 確信めいた表情を見せ、夕凪を横に凪いだそのとき。 「刹那……ッ!!」 「っ!?」 ふと横を見やれば、迫ってくるのは白い刃。 アスカは斬岩剣の勢いを逆に利用し、回転力を加えた返し技を放ったのだ。 すでに刃は目の前。 斬られる。 彼女はそう確信して、負けるかと言わんばかりに夕凪を眼前へ移動させようと手を動かす。 しかしそれも間に合わず、刃はすでに刹那を捉えていた。 ダァンッ!! 現実では物事はそう簡単にはうまくいかないもの。 刹那に迫る白き刃は真名の放った銃弾で弾かれ、彼女の頭1つ分上を通過していったのだ。 チャンスとばかりに刹那は夕凪を横に凪ぐが、アスカの姿がぶれ、その場にはもういないことを彼女に示したのだった。 「どこへ消えたっ!?」 叫ぶと同時。 ふわりと陽炎のように現れたアスカの位置は真名の背後。 彼女を斬り伏せようと大剣を振りかざすが、それにいち早く気付いたのは隣に立つ楓だった。 瞬時にアスカの懐へ飛び込むと鳩尾を狙って掌底を繰り出すが、アスカの姿は出てきたときと同様に煙のごとく消え失せていた。 次に現れたのは刹那の正面。 身体をかがませ、右足を大きく踏み込んで伸び上がるように剣を天へ向けて一閃。 腕の力と跳んだときの力を抑えきれず、刹那は背後、2人の元へと飛ばされた。 飛んでいくその身体を追いかけるようにアスカは地を駆ける。 進行を防ごうと乱射された銃弾を銃口の向きから到達地点を予測することで大剣をもって叩き落し、人体急所を確実に狙い投擲されるくないや手裏剣をも同様に無効化して。 白き剣を携えた、一見少女にしか見えない少年は戦場を舞うように駆け抜ける。 3人との距離はすでに10メートルを切り、その気になれば瞬時に斬りこめる距離となっていた。 空中でくるりと回転し、足から地面に降り立った刹那は態勢を低く構え、迫るアスカへと突進。 夕凪を構えた。 「神鳴流、奥義ッ!!」 「っ!?」 勢いにブレーキをかけたアスカに向け、刀を突き出す。 「百烈桜華斬ッ!!!」 斬り刻もうと迫り来る全方位からの刃に、アスカは目を細める。 神鳴流という流派の存在をアスカは知らない。 しかし、襲いかかる刃の群れに対する対処の方法とその後の行動を瞬時に構築し、実行に移していた。 いくら手にもつ剣が羽のように軽かろうが、受けきることは到底不可能。間合いも詰めすぎて、後退による回避も今からでは間に合わない。 そうなれば、やるべきことは1つ。 ……迎え撃とう。 一撃目を弾き、アスカは刹那に背中を向けて腰を落とした。 「……閃華蒼旋刃(センカソウセンジン)っ!」 無数の蒼き剣風を纏う刃が、生き物のように閃く刃を迎え撃つ。 ぶつかり合う空間内で、赤い火花が幾度となく散っていく。 我流に近いアスカの剣技だが、神鳴流と対等以上に刃を合わせつづけていた。 「ちっ……秘剣、百花繚乱っ!」 手数で押し切られた刹那は、そのまま次なる剣技を繰り出す。 互いに弾かれ距離が生まれると、アスカは高く飛び上がった。 自分の身長ほどもある大剣を振りかざして。 「撃つ……っ!!」 「甲河中忍、長瀬楓……参るっ!」 剣を身体の前でとどめているだけで無防備のアスカに向けて真名は銃を構え、弾を撃ちだす。 繰り出される前に仕掛けようと、分身した楓はその手に様々な武器を持ちいっせいにアスカの元へと跳んだ。 撃ちこまれる銃弾に対して、自らの剣を最小限に動かすことで軌道を反らすが、頭数の多い楓の攻撃を捌ききれず眉をひそめた。 「このままじゃ、数で押し切られちゃうかな」 力を、使おうか? 目の前の人間たちを打ち倒すために。 そこまで考えて、アスカは首を横に振った。 ……否。 使えば、彼女らは自分に近づくこともできず地に伏してしまうだろうが、これは彼女たちからしてみれば言わば【試験】。 自分が彼女たちの敵か味方かを判別するためのものだ。 敵でないことを証明できればそれでいい。 だからこそ。 これから繰り出す攻撃を最後に、あえて敗北することを決めた。 真下から迫るのは、多数のピンク色の花弁を伴う衝撃の波。 アスカはそれだけに狙いを定め、 「……ここまで、かな」 おちゃらけたように呟き、剣の柄を握り締める。 「裂破無限刃(レッパムゲンジン)っ!!」 飛び交う銃弾やくない・手裏剣により二の腕や足が切れるのを無視して、アスカはその手に持つ白き大剣を振り下ろす。 振り下ろされた刃は衝撃波を切り裂きながら地面へと突き刺さり、砂煙を起こす。 その中でアスカは自らの武器をカードへと戻したのだった。 「空気が、変わった……」 砂煙の舞う中で、銃のスコープから目を放した真名はそう呟いた。 つい数秒前まで漂っていた殺伐とした雰囲気が砂煙の発生した瞬間に消えうせたのだ。 「あのぉ……」 「ん?」 煙から真名の前に姿を現したのは、腕と足から血を流した赤い目の少女。 疲れた表情で、 「もう、やめましょうよぉ……」 僕、晩ゴハンも作らないといけませんし…… 発されたその言葉を聞いた途端、真名は声をあげて笑い出していたのだった。 「ほう……」 麻帆良学園上空に、彼女はいた。 箒も杖も持たず空中にとどまっている彼女は、長い金髪を風になびかせてその光景を静観していた。 その隣には緑の髪の少女が、ドドドド、と足の裏から何かを噴射させている。 ドン、と地面がえぐれて砂煙が立ち込める森を視界にとどめ、金髪の少女は目を細めた。 「マスター。あそこにいるのは……」 「あぁ、わかってるよ。やはりヤツが『舞姫』だったのか」 金髪の少女の名はエヴァンジェリン。 学園の警備員を兼ねている彼女が見たのは、今朝方に転校の挨拶をしていた少女と数人のクラスメイト。 感じた力の原因はかの少女にあったらしいことで、彼女は口に出したその考えに確信を裏付ける。 近年、ヨーロッパに現れた白き舞姫。 戦場に出たら最後、陽炎のように残像を残しながら戦場を舞い、たちまちのうちに敵を殲滅させるという強大な力の持ち主。 その名の由来は携えた白い剣にあるのだと、流れてくる風の噂で聞いていた。 さらに、殲滅するのは誤召喚され人間に害を成す異形の生き物や人間のみ。 巻き込まれただけの無関係の人間には傷1つ付けることは無いのだという噂も聞いていた。 彼がその領域に達するまで、血のにじむ努力を重ねた結果でもあるのだが。 ちなみに、舞『姫』という二つ名だが、その正体が男だということを知る人間は一部の者以外には誰もいない。 もちろん、エヴァンジェリンも茶々丸も知っているわけがないのだ。 「何の目的でここへ来たのかは知らんが、厄介な相手になりそうだな。だが……使いようによっては役に立つかもしれん。近いうちに実力を見定めておくのも悪くないか。……とりあえず帰るぞ、茶々丸」 「了解しました、マスター」 エヴァンジェリンとその従者は、踵を返すように背後へ向き直ると、自身の身体を前進させたのだった。 「むぅ。そんなに笑わなくてもいいじゃないですかぁ〜」 「いや、すまなかったな」 あれだけの戦闘をやっておいて、「疲れたからやめませんか?」はないだろう。 頬を膨らませるアスカに、抑えていた真名は再び笑い声を上げた。 「おい。楓、刹那!」 もういいだろう、と一声かければ、2人は互いに顔を見合わせてから武器を納めた。 「貴女は何者なんですか?」 「何者と言われても、『人間です』と答えるしかないわけですが……」 刹那の問いにアスカは答えを述べるが、目の前の3人を同時に相手をしておいて『人間です』では、説得力のかけらもない。 「強いて言うなら、西洋魔術師の従者なわけですが」 「ということは、先ほどの剣は……」 「はい。楓さんの考えてる通り、従者専用のアーティファクトになります」 手のひら大のカードを取り出し楓に手渡すと、本人の身長以上はある白い大剣を携えたアスカの絵を凝視した。 この手のアイテムを見るのは初めてなのだろう。 「ほぉ〜、ほぉ〜……」とうなりながらカードを眺めていた。 「それで、アスカさんはなぜ麻帆良学園に?」 「さっきも言いましたが、僕の仕事はネギ先生を見守ることです」 彼のお姉さん頼まれまして、とアスカは顔を赤に軽く染めるとうつむいた。 さらに、そのお姉さんが自分と仮契約を交わしたパートナーだと説明を加える。 「見守る、とは……妙な役回りだな」 護衛や補佐というならまだしも、アスカの役割は『見守る』こと。 話を聞けば、中途半端だと誰もが思うだろう。 「見守るとは言っても、やることは護衛と変わらないと思いますよ。ネギ君のお姉さん、彼のこと溺愛してますから」 彼に何かあったら僕……殺されちゃいますよ。 あっけらかんとした笑みを見せるが、端から聞けば恐ろしいことこの上ない。 当たり前のように話すアスカを見て、3人は同情の色を見せていたのだった。 「ところで、今朝のアレは作っていたのか?」 今朝のアレ、とは、自己紹介時に見せたおどおどし、顔を真っ赤にしていたことを指すのだが。 「別に作ってないですよ。ただ、たくさんの人の前に出ることが苦手……っていうか、慣れてないんです」 情けない話ですけど、とアスカは肩をすくめたのだった。 「わざわざ送ってもらっちゃって、ありがとう」 「気にすることはありません。元々は私たちからけしかけたことですし」 「刹那殿の言うとおりでござる。アスカ殿が気にすることではござらんよ」 寮にたどり着いたころには青空は姿を消して、暗闇へと変化していた。 時刻を見ると、夕食の時間などとうに過ぎてしまっており、部屋の明かりが消えている部屋も多い。 「今度、ゴハンを食べに来てよ。僕たちはもう『友達』でしょ?」 いつのまにか、アスカの口調から敬語が消えていることに3人が気付いたのは、この瞬間だった。 「あいあいv。今度、ごちそうになるでござるよ」 「それでは私もご相伴に預からせてもらいますね」 「戦っただけで『友達』とは、キミはどこか抜けているな」 「いいのいいの。これは僕の性分だから。………それじゃ、また明日!!」 3人も寮住まいであるにもかかわらず、アスカは1人寮内へと消えていった。 止める言葉をかける間もなく走っていってしまったため、その場で固まること数十秒。 「なんだか、不思議な人ですね」 「まぁ、悪い気はしないでござるが」 「だが、あれでもまだ本気は出していないだろう」 真名の呟きに2人は表情を変えることはない。 気付いていたのだろう。 アスカが本気で戦っていない、ということに。 もっとも、それは彼女たちの推測であってアスカの真意とは限らない。 「彼女にとって、さっきの戦いはまさに『試験』そのものだったということかもしれないな……まぁいい。私たちも入るぞ、2人とも」 アスカを追いかけるように、3人は寮へと駆けていったのだった。 「つ、疲れたぁ〜……」 指定された部屋の場所を地図で確かめて、その階へとあがったアスカは、身体を前かがみに傾けつつ部屋への道を歩いていた。 今までが休みばかりであったためか、ウェールズからの強行軍による疲れも蓄積しているのか。 とにかく身体中が重く、引きずるように歩いていた。 「あーっ、いたぁ〜っ!」 「たしか……和泉さんと、佐々木さん?」 廊下の向こうから駆けてくるのは、アスカの言葉どおりクラスメイトの和泉亜子と、佐々木まき絵の2人だった。 アスカの元へたどり着くと、2人はにっこりと笑った。 「もう名前覚えてくれたんやね」 うれしいわぁ、と亜子は一言。 「ずっと探してたのにどうしたの、って……血出てるよ、血っ!!」 「えぇっ!?…ち、血ぃ〜……」 まき絵が二の腕と足の傷に気付き指差すと、人間の血液が大の苦手な亜子は目を回して倒れてしまった。 ”またなにか、起こりそうかも……?” そんなことを考えつつも、アスカは倒れた亜子を横に抱き上げたのだった。 第04話でした。 サモシリーズとは違い、技名ありでいこうと思います。 大目に見てやってください。 次回は、戦闘の後の一騒動。 |
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